一通の手紙から始まる、溺愛シンデレラストーリー! 魔を祓う力を持つ者が権力と地位を得る時代。 ボロ家の養女、フェリシアは伯母に虐げられながらも下級料理番としてお屋敷で働き、貧乏な地獄の日々を送っていた。 そんなある日、フェリシアの家に一通の婚約の手紙が届く。 お相手は現皇帝に仕え、軍の中で絶対的権力を持つ軍師長、エルバート・ブラン。 フェリシアは逆らえず、エルバートの花嫁になることを受け入れ、ブラン家に嫁ぐことに。 そんな彼女を待っていたのは、絶世の冷酷な美青年で――!? 異世界で地獄の日々を送ってきた貧乏無能少女の運命が変わり始める。
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「この度はご婚約の手紙をありがとうございます」
大広間で頭を下げ跪いたまま、続けて、フェリシア・フローレンスにございます、と名乗ろうとした。
けれど、名乗らせてはもらえず。
「こちらを見ろ」
命じられ、フェリシアは頭を上げる。
しかし、ショートベールのせいで、椅子に座っているのが分かる程度で、薄らとしか、婚約の相手の顔が見れない。
「顔を出せ」
言われた通り、ショートベールを恐る恐る上げて後ろにめくる。
婚約の相手は、
魔除けの耳飾りにネックレスに、
軍服を着た月のように美しい銀の長髪の、絶世の冷酷な美青年だった。
「晩飯を作れ」
「そして」
「これからは私の事をご主人さまと呼べ」
「かしこまりました」
フェリシアは、ただただ一礼をする。
一通の婚約の手紙が届いた先に待っていたのは、
愛のない主従関係の婚約。
けれど、尽そう。
例え、一生、幸せは訪れないのだとしても。
* * *
パリーンッ!
ブローチが嫌な音を立てて割れる。
手狭な居間に座るフェリシアは編み紐により両手を後ろで縛られ抵抗できず、
伯母にブローチを床に勢いよくぶつけて割られるのをただ目の前で見つめることしか出来なかった。
フェリシアは床の割れて欠けた鮮やかなブルーのブローチを見て涙を流す。
(両親の形見であるブローチ、守れなかった)
「あなたみたいな出来損ないを外に出すだけで恥ずかしいっていうのに」
「こんな収入しか稼げないだなんて!」
「申し訳ありません」
激怒する伯母にフェリシアは頭を下げ、謝ることしか出来なかった。
此処(ここ)、異世界に存在するアルカディア皇国では魔を祓う力を持つ者が権力と地位を得て、国を魔から守っている。
そして、最高地位の皇帝の座は前皇帝が魔に殺されて亡くなったため、現皇帝が若い年齢で継いでおり、
アルカディア皇国に勤めが決まった者は命の危険に晒される時があるものの将来安泰。人々の憧れの皇国である。
そんな皇国とは無縁の、小さな古びたボロ家に住むフェリシアは、今年で18歳。
両親を3歳の時に魔に殺されて亡くし、父には身寄りがなかった為、母の姉にあたる伯母、ローゼ・フローレンスに引き取られ、2人で暮らしている。
だが、伯母はロクでもない男と遊び歩き、働かない為、下級料理番としてお屋敷に雇われたフェリシアの収入だけが頼りで、貧乏な暮らしとなっている。
それゆえ、フェリシアにとって働く時間だけが唯一許された外に出られる時間であった。
しかしその収入は伯母に全て奪われ、奴隷として扱われ、傷が絶えない暮らしをしていた。
結局、ここ一ヵ月の収入も取られてしまった。
ブローチを割られたのは、収入が少ない自分のせい。
(わたしはこんな調子でずっとローゼ伯母さまの奴隷なんだわ)
月に想いをのせ、時は過ぎていき、8日が経った頃。エルバートは髪を一つにくくり、特別なテント近くの太い木にくくりつけた自分の高貴な馬を撫で、偵察に行かせたアベルをディアムと共に待っていた。エルバートのテントはクランドール閣下と同じ頑丈で質の良い生地が使われている。自分は馬に騎乗し、雪が少し積もる木々の道を軍を連れて駆け抜け、森の奥の湖付近まで辿り着き、テントを張り、現在、待機の身であるが、戦況次第でいつここを発つことになってもおかしくはない。「エルバート」アベルが名を呼び、戻って来た。「アベル、戦況はどうだ?」エルバートは問いかける。「今、第3部隊、第4部隊がそれぞれの場で無数の魔を浄化している」「クランドール司令長官の策通り、このまま順調に全て浄化しきれば恐らく本命の魔が姿を現すはずだ」「そうか」(もうじき、第2部隊の私も第1部隊のクランドール閣下と共にここを発つことになるか)(ルークス皇帝からの情報だと、本命の魔が姿を現す時に神隠しに合うという)(このまま、誰も神隠しに合わなければ良いが)「それから先程、兵に渡されたが、お前宛だ」エルバートはアベルから手紙を手渡される。フェリシアのことだから、遠慮して返事は来ないと思っていたが、まさかくるとは。カイとシルヴィオが幸いなことに見張りに出ており、冷やかしを受けずに済んだことに安堵しつつ、エルバートは封を開け、手紙を取り出し、読む。ご主人さまがご無事で良かったです。私も毎晩、ご主人さまのご無事を祈り、月を眺めます。そんな短い返事だった。エルバートは、ふう、と息を吐く。やはり、自分のことは書かないか。この森はブラン公爵邸のある場所と比べ、常に寒く、特に今朝は一段と冷えて寒いが、フェリシアは大丈夫だろうか。* * *
そしてフェリシアとクォーツは準備を整え、玄関でリリーシャとラズールに見送られ、ベルトを肩にかけ、弓矢を背負ったクォーツと共にブラン公爵邸を出て、森の中へと入って行く。歩みを進める度、クォーツの三つ編みと共に紐の丸く透明な宝石がいくつも煌き、かすかに揺れ動く。「クォーツさん、あの、庭師でお忙しいのに護衛に付いて下さり、ありがとうございます」「いえ、エルバート様に頼まれておりますので」やがて、森を抜け、道に出ると、緩い坂になっていた。クォーツが言うにはこの先に教会があるらしく、坂で危ないと、自分を気遣って手を差し出してくれた。けれど、自分で上がらないとだめだと断り、クォーツと並んだ状態で緩い坂を上がり始める。教会に近づくにつれて気持ちが浄化されていくかのよう。「フェリシア様、ここが教会でございます」クォーツが門の短い階段前でそう言った。教会は全体的に白く、雪のようで、ボロ家の近くにあった教会よりも大きく、美しさも息を呑むくらい程までに美しく、身が竦(すく)む。「フェリシア様、大丈夫かい?」(クォーツさんに護衛だけでも迷惑を掛けているのに、心配までさせている。しっかりしなくては)「大丈夫です」「では参りましょう」クォーツと共に短い階段を上がり、門を抜け、扉前に着き、クォーツが扉を開ける。中も白くて広く、また身が竦みそうになるも、足を踏み入れると、クォーツも中に入る。すると高貴な司祭が近づいて来て、クォーツが事情を説明し、毎日教会で祈る許可を得たフェリシアは司祭が神にその皆を告げた後、教会の祭壇の前まで歩いていき、跪く。そして両指を絡め、両目を閉じ、神に祈る。(どうか、ご主人さまの命をお守りください)* * *こうして、フェリシアはエルバートの無事を教会で祈り続け、2週間が経った頃
* * *――――ご主人さま、行ってらっしゃいませ。――――あぁ、行ってくる。(初冬の日、ご主人さまは出立なされました)その日の夜のこと。フェリシアは廊下で、ご主人、と言いかけ、口ごもる。いけない。(ご主人様がいないのに、寝る前にこの場所でよく話していたせいで、呼びそうになってしまった)(最近はおやすみの挨拶もして……)そんな廊下での些細なエルバートとの日常を思い出し、フェリシアは急に寂しさが込み上げ、自分の部屋まで駆けて行く。そして扉を閉め、床に座り込む。大粒の涙があふれ出て、止まらない。寂しく、誰かを想い、泣いたのは両親が亡くなったと分かった時以来。「戻ってきたご主人さまと……幸せになりたい……」そう、口に出した自分に驚く。エルバートに向ける好きの感情は分かっていたけれど、それだけでなく、(わたし、ご主人さまの花嫁になって、幸せになりたいのだわ)今までも十分、幸せな生活を送らせてもらってきた。正式な花嫁候補にもなれたのに、自分はなんて欲深いのだろう。けれどもう、想いを止められそうにない。(わたし、ご主人さまに無事に戻ってきて欲しい)だから、自分には、なんの力もないけれど、幸いここへ訪れる初日にミサの為のショートベールは被り持ってきた。その為、教会に行くことは出来る。フェリシアは大粒の涙を右手で拭う。(明日から教会に毎日通い、ご主人さまの無事を祈ろう。想いはきっと届くはず)* * *そう強く決意し、翌日の朝。「あの、リリーシャさん、近くに教会はありますでしょうか?」ブラン公爵邸の台所でリリーシャに尋ねる。「はい、歩いて行ける距離にあります」「なら、今日から教
「ご主人さま、これを」扉の外側でフェリシアは紙に包んだ特別なパンをエルバートに差し出す。「焼いてくれたのか?」「は、はい。リリーシャさんに教わって……」「感謝する」エルバートはパンを受け取り、鞄の中に入れる。するとリリーシャ、クォーツ、ラズールも見送りに外に出て来た。「この家とフェリシアを頼む」エルバートがリリーシャ達に命ずると、かしこまりました、とリリーシャ達は答える。「では、行く」エルバートは背を向けて歩き出す。分かっている、このまま見送るべきだと。けれど、体が自然と動いた。「ご主人さまっ!」フェリシアが叫び、エルバートは振り返る。すると、フェリシアは胸に飛び込み、エルバートは抱き締める。肌寒さが消え、身も心も温かくなった。フェリシアはエルバートから離れ、笑う。「ご主人さま、行ってらっしゃいませ」「あぁ、行ってくる」エルバートはそう言い、高貴な馬に乗り、旅立って行った。(どうか、ご無事に帰ってきて)* * *しばらくして、高貴な馬でエルバートは宮殿前に到着すると、兵にその馬を引き渡し、宮殿前の広場へ向かい、階段を上がって壇上に立ち、出陣式に出席する。そして静寂に包まれる中、ルークス皇帝が16列に並ぶ全4部隊に向けてお言葉を述べ、続いて白き龍のような美のかたまりの容姿をした青年がお言葉を全軍に述べる。このお方はゼイン・ヴェルト。自分より3歳年下で、ルークス皇帝と血の繋がりはないが次期皇帝だと噂されている皇子だ。ゼインは述べ終わると、エルバート達を見る。「クランドール司令長官、 エルバート軍師長 、必ず、成果を挙げよ」「はっ」エルバートはクランドールと共に答え、クランドール、そしてエルバートも全軍に
* * *それからしばらくして、湖に辿り着いた。湖の清澄な水面には美しい花が浮かんでおり、綺麗な蝶が飛び交う神秘的な場所で、白い小鳥や鹿が水を飲みに来ていた。言葉に出ないくらいに美しく心奪われ、少しの間、一緒に湖を眺めた後、緑の絨毯のような地面に並んで座る。すると白兎が近寄ってくる。「あ、かわいい……あの、ご主人さま、撫でても大丈夫でしょうか?」「あぁ」エルバートの許可をもらい、白兎を撫でてみる。白兎は本で見たことはあった。けれど、実際に見たのも、撫でたのも初めて。ふわふわでとても触り心地が良い。「ご主人さまもどうぞ」フェリシアはそう言い、ハッとする。(ご主人さまが撫でる訳ないのに……)「も、申し訳ありません、出過ぎたことを……」「気にするな」エルバートはそう言って白兎を撫で、微笑む。その顔を見た瞬間、自然と手が伸び、エルバートの頭を撫でる。するとエルバートは驚き、フェリシアも固まる。(わたし、今、何を)ふとエルバートの耳を見ると、赤く染まっていることに気づき、フェリシアもまた自分の頬に熱さを感じた。「遅くなったが昼飯にするか」「は、はい……」フェリシアがバスケットに入ったベーグルサンドを手に取り、どうぞ、とエルバートに渡そうとする。するとそこへ美しい鳥が飛んできて、ベーグルサンドをくわえ、翼を広げ飛んで行く。「あっ」フェリシアが短く声を上げると、エルバートは冷ややかな気配を美しい鳥へ飛ばす。(ご主人さま、とても怒ってらっしゃる…………)その後も静かに怒りながら、ベーグルサンドを一緒に食べ、地面に寝転がり、手が重なる。(ご主
「フェリシア?」呼びかけられ、ハッと我に返り、後ずさると、壊れた鮮やかなブルーのブローチがドレスのポケットから床に落ちる。「あっ」短く声を上げ、エルバートがそのブローチを拾う。「これは両親の形見のブローチか?」「は、はい……懐かしくなり、久しぶりに持ち歩いておりました」「出会って間もない頃、お前から壊れたと聞いていたが、この壊れ方。ローゼに割られでもしたか?」(まさか、今になってバレるだなんて……)フェリシアが頷くとエルバートは息を吐く。「そうか、ではしばらくこれは預かる。良いな?」(ご主人さま、怒ってる? ずっと黙っていたせいかしら……)「か、かしこまりました……」「それからフェリシア、出立する前にお前と出掛けたい」「え?」フェリシアは短く声を出して固まる。「私と出掛けたくないか」「と、とんでもありません! その、驚いてしまって……」「ご主人さまが宜しければ、わたしもお出掛けしたいです」エルバートはふっ、と笑い、頭をぽんっと優しく叩く。「では、出掛けよう」* * *そして、出立の一週間前の午後。エルバートがようやく半日お休みをもらうことができ、フェリシアはお洒落をし、一緒にお出掛けすることになった。けれど、ディアムが横で手綱を持ち支えているエルバートの高貴な馬の前で固まる。いつもお勤めの際にお乗りになられるエルバートの馬を間近で見るのは初めて。なんてご立派な馬。(馬で一緒に行くことは事前に聞いていて、こっそり、クォーツさんと練習はしていたけれど……)不安で仕方ない。それに緊張で手汗がすごい。「フェリシア、馬に乗るのは今日が初めてだったな。乗るのが怖いか?
* * *記憶を取り戻してから一週間が経つ朝。フェリシアは髪を一つにくくり、高貴な軍服姿をしたエルバートと居間で会う。けれど、記憶を取り戻してから、エルバートの正式な花嫁候補になったという自覚が強くなり、目を上手く合わせられない。「今日は挨拶してくれないのか」(…! ご主人さまがわたしの挨拶を待っている!?)フェリシアは目をなんとか合わせ、挨拶をする。「ご主人さま、おはようございます」「あぁ、フェリシア、おはよう」エルバートは手をフェリシアの頬に当て、優しく微笑む。(こんなの、まるで、新婚さんのようだわ)* * *その後、しばらくして、エルバートは高貴な馬で宮殿入りし、皇帝の間へと向かう。今日はルークス皇帝にお呼び出しされているというのに、(フェリシアが目をあまり合わせてくれないものだから、今朝はやり過ぎてしまった……気を引き締めなければ)皇帝の間の扉が門番により開かれ、髪を一つにくくり、高貴な軍服姿のエルバートは中に入る。すると、王座の階段の前に何者かが立っていた。床に敷かれた長いレッドカーペットの上を歩いて行くと、王座の階段の前に立つ高貴な軍服を着た者の姿が鮮明となった。この気高き壮年の男はクランドール・ホープ。自分より3歳年上の先輩にあたる軍師長で、自分とは違う軍を束ねており、司令長官を任された際には特に頭が切れ、とても頼りになる存在だ。「エルバート、久しいな。姿を見ない間に正式な花嫁候補まで作るとは成長したな」まさか、ルークス皇帝が玉座から見ておられる前でそう言われるとは。恥ずかしい。「クランドール閣下には敵いませんが、お褒め頂き、光栄にございます」「ふたりが再会でき、何よりだ。ではこれより本題に入る」ルークス皇帝にそう命じられ、エルバート達は並んで跪き、見据える。「帝都郊外の神隠しに合うと恐れられた森にて前皇帝の命を
* * *こうして、翌日からエルバートが早く帰ることはなく、ブラン公爵邸に帰って来てから気づけば、一ヵ月になり、その日の夜は何故か眠れず、フェリシアは居間のソファーに一人で座ったまま、ふぅ、と息を吐く。すると、エルバートに自分の名を呼ばれ、ハッとする。いつの間に居間に入って来たのだろう?足音さえ、気付かなかった。(大丈夫だと言ったくせに、こんな姿を見せては元も子もないわ)「あ、どうなされたのですか? もしかして眠れませんか?」「いや、私は家の見回りをしていただけだ」(家の見回り……魔が入ってわたしが襲われないように?)勤務でお疲れなのに、そこまで気を遣わせていただなんて。「あの、今、お飲み物を……」「必要ない。それより、支度をしろ。今から出掛ける」出掛けるって、こんな夜遅くに?(もしかして、自分に嫌気がさして、捨てられ……いいえ、きっと大丈夫)「かしこまりました」そう了承し、支度が完了すると、ディアムが御者を務める馬車に乗り、お互いに無言のまましばらくの時が流れ、辿り着いたのは、広がる海に白く美しき花が咲き誇る場所だった。(エルバートさまにお姫様抱っこされ来たけれど、とても綺麗な場所…………)もしかしたら、ここはディアムから聞いていた……。「お前を特別な場所へ連れて来たのは2度目だな」「1度目はお前と帝都の街に行った帰りにここへ連れて来た」(あぁ、やはり、記憶を失くす前のわたしと来た特別な場所だったのね…………)「そう、なのですね」「――だが、この木の前に連れて来たのは初めてだ」エルバートはそう言い、たくさんの蕾を付けた大きな一本の木の前でフェリシアを下ろす。(エルバートさまは、記憶を失くす前のわたしも、今のわたしさえも大事にして下さっている)「もうじき、深夜だな。見ていろ」フェリシアはエルバートと共に大
* * *エルバートは執務室の椅子に座りながら、ハッとする。なんだ? このただならぬ気配は。医務室か?エルバートは執務室から飛び出し、ディアムと共に医務室へと駆け付ける。「何があった?」エルバートは見張りの兵に問う。「エルバート様! 医師が寝室までルークス皇帝のご様子を見に出られ、見張りを続けていたところ、医務室内で邪気が発生し、扉が開かず、只今、入室出来ない状況でございます!」「そうか、退いていろ」エルバートは扉に右手を当て、祓いの力を使い、くくった長髪が靡くと、扉を勢いよく開ける。すると床に倒れるフェリシアの姿が両目に映った。「フェリシア!!」エルバートは叫ぶと同時に駆けていき、フェリシアを抱き起こす。魔はいないようだが、魔に弾き飛ばされ触れた箇所から邪気が溢れ、体全体を邪気のようなものに包まれているようだ。エルバートはフェリシアを抱き起こしたまま祓いの力を使う。するとフェリシアの頭痛は治まり、楽になったようだった。(……? 何かを持っている?)エルバートは両目を見開く。「これは私が帝都で渡したブレスレット……」恐らく、中庭の時にネックレスを失くしたのと同じくブレスレットを失くし、探す為にベットから一人で下りたのだろう。エルバートは切なげな顔をする。「もう私のことを思い出そうと頑張らなくていい」エルバートはフェリシアの左腕にブレスレットを付けて持ち上げ、ベットまで運び、寝かす。それから椅子に座るとフェリシアが、か弱き声で発した。「…………花が、見たい」その言葉で、エルバートは希望を感じた。(もしかしたら、私の記憶はフェリシアの心の奥底に残っているのかもしれない)そして、もう一度、あの咲く花を彼女と共に見れたなら。「――あぁ
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