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第534話
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社長夫人はずっと離婚を考えていた 第538話
辰也は軽く頷いた。「少し前に到着した」そして彼の視線は玲奈とその横にある天体望遠鏡に向かった。「星を観測しているのか？」「うん」辰也も興味を持った様子で聞いた。「今は何を見ているんだ？よかったら教えてくれない？」玲奈は翔太の方を見て言った。「設備は私のものではなく……」翔太はすでに平常心を取り戻していた。「島村社長が興味を持たれたなら、ご自由にどうぞ」辰也は笑って「ありがとう」と言った。辰也は天体望遠鏡に触れたことはあったが、詳しくはないようだ。覗きながら尋ねた。「この赤い領域は何だろう？」「分子雲だね」玲奈は答えた。「どの銀河の分子雲？」辰也の質問は、どれも初心者向けの簡単なものだったが、玲奈は嫌な顔一つせずに答えた。一方の翔太は冷たい眼差しでそれを見ている。瑛二は智昭と辰也の会社が長墨ソフトと提携していることを知っていて、辰也が礼二と玲奈に挨拶に来たことを特に気にも留めず、単なる社交辞令だと思っている。翔太は、玲奈が今日まで、自分と辰也の両方が彼女を想っていることを知らなかったとわかっている。玲奈が知らないまま、辰也も直接告白するつもりがなければ、翔太は玲奈に辰也の想いを知ってほしくなかった。だからこそ、翔太は意識して辰也への敵意を隠している。しかし、どれだけ隠そうとも、瑛二には察されていた。翔太が辰也を見る目は自分を見る時と同じく、冷たい敵意に満ちているからだ。瑛二は一瞬考え込み、自分が誤解していたかと思ったが、横目で辰也が玲奈を見つめる視線を捉え、確信した。彼は辰也を一瞥し、驚きの色を浮かべた。まさか辰也も玲奈に想いを寄せているとは思わなかった。だがすぐに、瑛二は薄笑いを浮かべた。玲奈があれほど優秀なんだから、何人かの男性に好かれるのは当然のことだ。辰也は玲奈ともっと話していたかったが、いくつか質問をしたところで、スマホが鳴った。仕事の連絡だ。さらにグループチャットでも清司にメンションされ、なぜまだ戻ってこないのかと訊ねられていた。辰也はスマホをしまい、玲奈と礼二たちに向かって言った。「電話をかけ直さないといけないから、また時間がある時に話そう」玲奈と礼二はうなずいた。辰也は踵を返して去っていった。玲奈たちは星を見続ける。しばらくして、凜音が近くに蛍が
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第537話
今夜の退屈さにうんざりしていた清司は、辰也を見かけた途端、ようやく気分が晴れたかのように言った。「やっと来たのか？お前がいないと、つまらなかったぜ」辰也は軽く笑い、清司の肩を叩いた。優里が視線を向けてくるのを見ると、辰也は軽く会釈して、清司の隣に腰を下ろした。結菜は辰也も来ることを知らなかった。以前、辰也にきっぱりと拒絶された光景は、今でも強烈なインパクトを残っている。辰也が到着すると、結菜は一瞥しただけで俯き、もう見ようともしなかった。清司が言った。「これから人狼ゲームをしよう。ちょうど智昭がいないから、存分に楽しめる。いつも智昭が勝っちゃって、俺たちは全然面白くないんだから」辰也はすでに食事を済ませていたが、少し焼肉を食べて、笑いながら清司とグラスを合わせて言った。「そうしよう」他の人たちも食べ始め少し経ったころ、清司たちは早くも人狼ゲームを始めたがっている。ゲーム中、辰也は少し上の空の様子だ。キャンプ場に着いてから、辰也は周りを注意深く見回していたが、玲奈の姿は見当たらなかった。2ゲームを終えた後、次のゲームが始まる頃、辰也はふと動作を止め、笑って清司の肩を叩き、ある方向を指差して言った。「ちょっと挨拶してくる」清司はその方向を見て、礼二のことを指していると知ると、深く考えもせずに頷いた。「ああ、行ってこい」そして、清司は振り返ってゲームを続けた。他の人達は気づかなかったかもしれないが、優里は辰也の上の空な様子をしっかりと見ている。しかし、辰也は優里を完全に無視していて、自分の本心が優里に見透かされていることには、まったく気づいていなかった。そう思うと、辰也が一心不乱に玲奈を探し求めている様子を見て、優里は唇をきつく結んだ。清司は優里が今夜ずっと楽しくなさそうにしていることに気づいたが、智昭がいないせいだと思い、深くは考えなかった。辰也の後ろ姿を見送っていたのは、結菜も同じだ。さっきまで結菜は辰也をまともに見る勇気もなく、辰也が自分に気づきながらも完全に無視していることに気づき、さらに落ち込んでいた。今、辰也が去っていくのを見て、悔しさと悲しみで、ゲームにさえ興味が持てなくなっている。礼二と翔太は飲み物を取りに戻ってきたのだ。辰也を見かけた時、礼二もかなり驚いた。これまでずっと辰也
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第536話
玲奈はふと動きを止めた。翔太は少し笑って言った。「大丈夫、お腹が空いたら、また食べればいい。今食べたくないなら、後で食べたくなったときにまた作り直すから」玲奈が言った。「……うん、わざわざありがとう」「……」三人はしばらく静かになる。その時、凜音と礼二も玲奈の気まずさに気づき、玲奈に近寄って助け舟を出してあげる。凜音が言った。「木場さんがギターを持ってきてるよ。歌を聴きに行こう」玲奈と凜音が去った後、瑛二と翔太は視線を合わせたが、お互いに何も言わず、たき火の傍に戻っていった。優里たちは、先ほど翔太と瑛二が玲奈に話した内容を聞き取れなかった。でもその光景を見て、優里は一瞬呆然とし、何かを悟ったようだったが、すぐに考えすぎかもしれないと思った。清司の友人も瑛二のことを知っている。彼らはさっきまで瑛二を特に気に留めてはいなかった。そもそも縁が薄かったからだ。この光景を見て、誰かが視線を戻しながら言った。「あの女の子は誰？かなりの美人だな。普段女性とほとんど関わらない田淵さんが心を動かすのも無理はないか」結菜はそれを聞いてすぐに不機嫌になって言った。「何をバカなこと言ってるの？田淵さんが彼女を好きなわけないでしょ？」結菜がそう言ったのは、条件の良い瑛二が玲奈を好きになるなんて、その可能性を受け入れられないだけではない。玲奈と礼二はすでにカップルだと思っていたから、また瑛二と何かがあるわけがないでしょ？それに、仮に瑛二が本当に玲奈が好きだとしても、礼二の前で彼女を奪おうとはしないでしょ？もし本当にそんなことをしたら、礼二はとっくに怒っているはずだ。ましてや翔太に至っては、玲奈に対して何か思ってるはずがない。なんといっても、翔太は姉さんの優里が好きなのだから。結菜たちがどう思おうと、玲奈にはわからない。さっき凜音が言った「木場さん」は、礼二の友人でギターが上手な人だ。一行は座って木場の弾き語りを聴いてる。凜音は活発な性格で、自らリクエストをして、木場とデュエットをしたりする。玲奈は歌うのが苦手で、普段もあまり音楽を聴かない方だ。その時、翔太と瑛二が同時に立ち上がり、玲奈の方へ歩いてくる。お互いの動きを見て、二人は一瞬足を止めたが、すぐにまた玲奈の方へ歩き出す。他の人たちもこの光景を目にし
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第535話
玲奈たちの様子は、清司の目にしっかりと捉えられている。ただ、翔太と瑛二が積極的に、玲奈と凜音の世話をするのを見て、それは紳士的な振る舞いだと思って、清司は深く考えなかった。なんにせよ、玲奈たちのグループは八、九人もいるが、女性は玲奈と凜音の二人だけだ。瑛二たちは男性だから、同行の女性の世話をするのは、ごく自然なことだ。清司は視線を戻した途端、優里が戻ってくるのを目に入った。清司は言った。「戻ったのか？ちょうど電話しようかと思っていたんだ。みんなで肉を焼いているから、食べに行かない？」優里は微笑みを浮かべた。「いいよ」優里の言葉が終わらないうちに、結菜たちも戻ってきた。友達と周辺を散策していて、結菜は機嫌がすでに良くなっている。バーベキューの話を聞いて笑みを浮かべた結菜は、何か言おうとした瞬間、ふと見覚えのある人影に気づいた。結菜は一瞬動きを止め、自分の見間違いかと思った。しかしよく見ると、間違いではなかった。「……あれは、玲奈？なんであいつもここにいるの？」玲奈はバーベキューの手伝いをしようとしたが、瑛二たちに断られた。邪魔になりたくないから、玲奈は仕方なく外に出た。日傘の影のせいで、結菜たちは瑛二たちの顔は見られず、玲奈だけが視界に入った。優里は玲奈と礼二もこのキャンプに来ていることを知っている。着いてからしばらくこのキャンプサイトにいたが、わざわざ彼らの姿を探すことはしていない。結菜の今の言葉を聞いて、優里は一瞬動きを止めて、視線を結菜の向けた先に移すと、確かに玲奈と凜音の姿がある。玲奈は何かを感じ取ったように振り返り、優里と視線が合った。優里と結菜だと分かると、玲奈は唇をきゅっと結び、すぐに顔を背ける。凜音も優里たちに気づき、唇を尖らせてから視線を戻し、玲奈に言った。「本当に来てたわね、しつこい」玲奈は黙っていた。一方、結菜は鼻で笑った。「ほんとにしつこい女」結菜の女友達は玲奈のことを知らず、「玲奈って誰なの？」と尋ねた。結菜は家のことを他人に話したくないから、眉をひそめて黙っている。優里は視線を戻すと、結菜に言った。「まず焼き肉を食べよう」「いいよ」そう言い終え、焼き肉を食べようとした時、瑛二を見かけた。優里は一瞬動きを止めたが、反応する間もなく、瑛二が玲奈の
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第534話
凜音は笑いながら、玲奈にウィンクした。「さっき湊さんが言ってたわ。あなたも彼と同じで、今まで翔太があなたに気があるなんて気づかなかったって。今、湊さんはわかったみたいだけど、あなたは？」玲奈は複雑な気持ちで答えた。「私もわかった」でも実は、さっき翔太が飲み物を手渡してくれた時、玲奈はまだ何も考えていなかった。翔太が飲み物を渡してくれた後、瑛二に対する態度と敵意に気づいて、ようやく翔太も自分に好意を持っているかもしれない、と遅ればせながら理解した。凜音は笑った。何かを思い出したように、凜音は思わず聞いた。「彼ら、あなたの事情を知ってるの？」玲奈には凜音が何を指しているかを分かってて言った。「まあ、知ってると思うわ。結婚したことがあって、子供がいて、離婚を考えていることは。瑛二にはわざと話したけど、翔太については……仕事中にこの件に触れたことがあるから、彼も知っているはずよ」翔太は玲奈の事情を知っていて、しかも彼女より何歳か年下だ。だから、翔太の気持ちに気づいた時、玲奈は本当に驚いた。凜音は満足そうに頷いた。「それならいいわ。彼らと接したのは短いけど、何となく本気であなたのことが好きな気がする。真剣に考えてみてもいいんじゃない？」玲奈はストローを噛んで、俯いて何も言わなかった。凜音は、玲奈がまだ完全に智昭との感情から抜けきれていないのに、他の人と新しい関係になるのは、その人に対して不誠実だと感じていることを理解している。何か言おうとした時、瑛二が焼き肉を持って二人の元へやって来た。「焼き上がったよ、味見してみて」玲奈は我に返り、好意を無下にできず、飲み物を置いて焼き肉を受け取った。「ありがとう」そう言って、瑛二の前で軽くフーフーと息を吹きかけ、小さく一口かじった。その間、瑛二は微笑みながら、視線を玲奈の顔から一切そらさずに見つめていた。玲奈はそれに気づき、やや居心地悪そうに顔を逸らした。瑛二の気持ちを無駄にしたくなくて、玲奈は照れくさくても真剣に味わって言った。「とても美味しいの。火加減も完璧」「気に入ってくれたらいいんだけど」そう言ってから、瑛二はまた尋ねた。「塩辛くない？タレの量は多すぎないか？」玲奈は首を振った。「ううん、ちょうどいい」「それならよかった」瑛二は玲奈の居心地悪そうな様子を見取っ
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第533話
玲奈、瑛二と翔太は事前に準備をしていたので、テーブルには様々な高級食材が並んでいる。サラダ、赤ワイン、シャンパン、ケーキ、特製ドリンクなどは既にピクニックバスケットに入れられ、ブランケットの上に整然と並べられている。こっちの雰囲気は非常に良さそうに見える。準備が整った後、瑛二はわざわざ持ってきたステーキ、ラムチョップ、各種のシーフードを見ながら玲奈に尋ねた。「辛いものは食べられる？このラムチョップは昨夜友人に頼んで空輸してもらった特別なものだ。以前食べたことがあるが、品質はとても良い——」瑛二の話が終わらないうちに、翔太が近づいてきて、玲奈に一杯のドリンクを差し出し、瑛二の話を遮った。「これは特別に作らせたドリンクだ。すごくおいしいから、飲んでみないか？」ドリンクが目の前に差し出されたから、玲奈は仕方なく受け取り、「ありがとう」と言った。先ほど瑛二が話しかけてきたのも無視できず、そう言った後、再び瑛二の方に向き直って付け加えた。「辛いものは食べられる。食べられないものも特にないわ」瑛二は笑って言った。「わかった」そう言うと、玲奈は礼儀正しくそのドリンクを一口飲んだ。確かに美味しく、しかもお気に入りのブルーベリー味だ。ブルーベリーの処理も良くて、口当たりがよく、本当に目を見張るものだ。「とても美味しい。気に入ったわ。ありがとう」翔太は玲奈の側で数ヶ月働いていただけあって、玲奈の好みをよりわかっている。これは玲奈の好みに合わせて、特別に新しく作られたドリンクだ。玲奈が気に入ったと聞いて、翔太の笑みが深まった。「気に入ってくれて良かった。他にもラズベリー味などいくつか種類を作らせたから、後で味見してみないか？」「いいわ」そう言って見上げていると、ふと凜音が自分に向かってウインクしているのが見える。「……」玲奈は言葉を失った。凜音は俯いて笑いをこらえながら、礼二に小声で言った。「どうやら、今夜は来て正解だったわ」目の前のこの光景は、凜音にとって流星群よりも面白いかも。そう言った後、礼二が返事もせずに、眉をひそめている様子を見て尋ねた。「どうしたの？」礼二は玲奈と瑛二、そして翔太の三人をじっと見つめ、少し混乱していた。「ということは、翔太も玲奈にその意が——」「知らないの？」「知らない」礼二は先ほ
