今日はハミがうちに来る。 俺は特に何も心配していないが……フィルの様子がおかしい。 フィルはなんだかぼーっと中空を見てる。「なんか曇ってる?今日は洗濯物を外に干せないね」 ……思いっきり晴れてるよ……大丈夫かな?「フィル、どうしたんだ?普段よりずーっとぼーっとしてなんかキレがない」「えー?俺は変わらないよ?」「「変わらない」という発言をする時点でちょっといつもと違うんだよ。どうしたんだ?母上に相談しようか?」「うわー!!それは勘弁してくれ。勘弁してください!」 うーん、母上は強いなぁ。「わかった。言わないよ。あ、ハミが来るけど一緒にレーカも来ると思う。二人で交流するといいんじゃない?ただし!婚約もしないで手を出したりしない事!」「シェイクの方が奥手じゃんかー」「コラ、ほっぺた膨らませてもダメだ。もうお前だって可愛いって年じゃないんだからなっ!」 とはいえ、ほっぺたを膨らましたフィルは可愛い。やっぱ可愛い弟だよなぁ。ハミがうちに来るようになって久しい。近所(と言っても、実際には離れてるけど……)の貴族様は『あの家の子は遂に人間を拾うようになったのか』と噂をしているようだ。俺は思う。失礼な(?)俺はフィルも拾った。フィルは立派な人間だ!「ごきげんよう。伯爵様」「あ、面倒だからシェイクでいいよ。俺もハミって呼ぶし」「では、シェイク様と……」 うーむ、身分の壁というものは分厚いようだ。「立派なお庭。特に土が素晴らしい!……あっ、こんな話は伯爵様に言う話ではないですね」「いや、面白い話だしー。あと、俺はまだ家ついでないから‘伯爵様’じゃないよ。次期だけど。……で、シェイクと呼んでって言ってるのに」「あ、申し訳ありません。ここ、いろんな動物がいて楽しいですね。庭にリスが……」「ふえっ?あぁ、戻って来たのか?以前に俺が拾ったんだけど、番見つけて帰ってきた?ここは療養所であって、‘家’ではないんだけど……」「家族と思ってもいいんじゃないですか?」「そうか?そうなのか?……なんか嬉しいな」********** シェイクが楽しそうだ。リスが戻ってきて嬉しいのか。俺も家族みたいだし。家族だろ?むしろ。 俺は嫉妬してるのか? こんな草葉の陰からのぞき見して。
「任せて!農家の娘でいい子がいるのよ!」「なぁ、その子の家、婿取りしたかったりするんじゃないか?」レーカは目を逸らす。図星か。わかりやすいな。素直と言えば、素直だ。「この国で伯爵家に来てくれるのか?平民が伯爵家ってきついんじゃないか?まぁうちは社交界にほぼ行かないけど?大方、悪口言われるから、行かなくなった。くだらないだろ?」「そうね、お茶会とかでしょ?他の話はないの?って感じよね。今の政治の話とか?」「政治の話ができる女性ってそんないないだろ?レーカが稀有な存在なんだよ」「えー?新しい産業技術の話は?」「それはまともにできる男性もなかなかいない」「何ができるの?」 全くだ。「そうだな。ほぼ女性が集まれば誰がマウントを取るか?とか?男性は如何に優秀な女性と親しくなるか?を社交でやってるな。実に生産性がない!いや、子供はできるかもしれないが、非嫡子だな」「シェイクー、そんな素直に言わなくても……。レーカの提案の女性に会ってみては?」「うーん、そうだなぁ。他にいないなら。というかいないんだろ?」 俺はレーカ提案の令嬢(農家の平民を令嬢と呼ぶのか?)との見合いに臨んだ。 顔を合わせてすぐにレーカはフィルと「あとは若い者に任せて……」とどっかに行った。二人の方がどう考えても俺よりも若いだろ!! 「俺の名前はシェイク。一応伯爵だけど、俺が次から次へと動物を拾ってきて我が家は貴族の間で‘どうぶつの森’って呼ばれてる。そんなわけで、社交界で動物臭いとか言われるから、最低限王家主催とかのパーティー以外は出席しない」「えーと、私はレーカに紹介されたハミって言います。完全に農家の娘です。動物臭くないですか?」「え?全然?動物臭いって何?俺にはパーティーに出た時のご令嬢達の香水臭さの方が気持ち悪い」「どんな動物がいるの?」「うーん、どんなの拾ったかなぁ?リスはこないだ元気になってうちから森に帰ったし……」「まぁ、庭に木があるの?」「あぁ、拾ったリスが快適に過ごせるようになぁ。でもリスがいなくなっちゃった。全体は把握してない。拾ったくせに世話は全部使用人任せでいつもそのことを母上に怒られる」「ふふふっ、ぜひ庭を見てみたいわ」「興味があればどうぞ」**********「フィル、話が盛りあがってるみたいよ」「でも、色恋沙汰じゃないね」
「コノレイジョウ、ヒロッタ」「フィル……シェイクの真似してもダメよ。ってその令嬢……隣国の王家の子ね」「えっ……何でわかったの?言ってないのに」「あぁ、私はこのシェイクの母親やってるのよー。この子、何でもって動物ね?拾ってくるから、その事情とかわかるようになっちゃったのよー」「私は拾った動物と同じレベル……」「まぁ、そうだな」「コラ、シェイク!」母上に怒られた。「あぁ、このレーカは俺よりもフィルの方が気に入っている」「だってー正直、フィルの方が頭がいいじゃない?」図星だけど、心が痛い……。「俺は……シェイクが婚約した後じゃないと、婚約したくない」公じゃないけど、王家同士の結婚になるんだけどなぁ。「そうだ!私の友人をシェイクに紹介しましょうか?そうしないと私はフィルと結婚できないみたいだし。貴方も、適齢期でしょうし」‘適齢期’は結構前から言われてる。「俺の査定は厳しいぞ。見た目もそうだが、心根だな。ここの動物がダメとかいうのはお断りだ。動物も愛せないようじゃNG」「それは厳しいですね。見た目とかはパスできそうですけど、ここの動物はどうかな?そもそも令嬢ってのは動物に触れあうことがないですからね。最高で馬車の馬でしょうか?」「だろ?俺が提示した条件を備えた令嬢ならOK」ふっ、かなり無理があるだろう。どうだ、参ったか。俺はこの家をフィルに継がせるのがひそかな目標だ。「レーカの紹介ってことは隣国の令嬢か?」「私は王族から平民まで幅広く友人がいるわ!」 自慢げだが、俺に拾われた時点で何か問題があるのだろう。王族の中で問題か?面倒だな。「で、レーカの問題って何だ?レーカは非嫡子とか?」「失礼ね!嫡子よ!王位継承権だって持ってるんだから」 俺は怒られた。しかも、母上に睨まれた。母上曰く、「シェイクはストレートでデリカシーがない」だ。「「で、シェイクに合う友人は思い浮かぶ?」」
んがっ、落ちてるー。令嬢が。そこら辺に。「あのー。名のある令嬢とお見受けするのですが」だって、いい服着てるし。盗賊とかに会わなくて良かったね。「ね?隣国に行けば会えたでしょ?」「フィル!今はそういう問題じゃないだろ?」令嬢はパクパク口を開くのみだ。「あ、もしかして言葉が発せられない?筆談で。大丈夫、僕らは3か国はマスターしてるから」「なんだー。こっちの言葉も大丈夫なんだ、安心」俺は、令嬢が無事で安心だが。この令嬢……奔放といえば良いが、口悪くないか?「俺らは隣国から来た。俺の母上に尻を叩かれるような形で。ちょっと稼いで来いと」「うーん、今の為替レートでそれはナイわね」この令嬢、頭が切れるようだ。「こっちから出稼ぎに行くのはわかるけど、そっちからってのはナイナイ」令嬢が嘲笑を浮かべて、顔を扇ぐような仕草をするし。「おい、フィルはわかってたのか?」「えー、だから令嬢との出会いって言ったんだよー」俺だけか……「あ、そういえば。俺はシェイク。隣国で伯爵家の嫡男をしてる」「それって職業?」痛いところをつくなぁ。「で、こっちがフィル。俺の弟みたいなもんだ」「弟の方が頭がいいみたいね。で、私も伯爵家の者よ」……令嬢だろ?訳ありか?「えーと、名前は?」「私の名前……うーん、レーカとでも呼んでちょうだい」(この令嬢、多分王家の令嬢だろうけどシェノクには黙っておこう)
「そうだ!シェイク。幼馴染の子は?」「そんな子はいません!」 俺はバッサリと切った。うーん……「いっそのことフィルがうちを継げばよくね?」 いい加減面倒になった。――跡継ぎ問題があるのか……「シェイク、頑張れー!どこかに運命的な子がいるはずだから…多分」おいおい、言葉の最後の方が小さいけどいいんだろうか?「運命の子ねぇ……いっそのこと平民の子でもいいかな……」「シェイク!平民は最後の手段にして!まずは他国をあたりましょう?」 貴族主義と言うのか?どうでもいいが、なんか俺にアタリがひどい。そのうち他国ででも自分の伴侶を拾うだろう、うん。そんな中、丁度他国で仕事が舞い降りた。「シェイク、隣国でちょーっとばかし稼いできて」by母上母上の言う事には逆らえない。なんせ後が怖いからな。「さて、フィルいっちょ隣国に行って、ちょっと稼いできますか!」と、俺はやる気をみせたのにさ……。「『ちょっと』ってどのくらい?微妙なニュアンスだよね?ひとっ走り嫁探しに行ってこいって事かもしれないし……?」……ありうる。なんせあの母上だ。「拾ってほしそうな令嬢に出会えば、拾うだけ」「シェイクならそうだよね、いい令嬢に出会えるといいねー」俺は地味にフィルの縁談も考えているんだが?令嬢ってそこらへんに落ちてるのか?否だろう?
「ところで、シェイク様。そろそろ身をかためて跡継ぎのことを考えるべきでは?」「前も言ったがなぁ、俺にはそんな話はツメの先ほどもないんだよ!」「陛下からは何も言われないの?」「しがない伯爵家だからなぁ。これが公爵とかだったら陛下も動くだろうけど――――」「シェイク!縁談話です!陛下よりのお話です。」「はぁ、面倒だなぁ。一応会うけど、釣書にはなんて?」「動物大好き。趣味・乗馬」……うちには動物のイメージしかないのかよ?「姿絵とかないんですか?」「あぁん、ダメダメ。そんなの盛るに決まってるじゃない!「もっと小顔にしろ」とか「もっと美人にしろ」とか何とでもなるからあてになんないわ」「「そういうもんなんですか」」「そういうもんよ」俺もフィルも母さんの迫力に押されてしまった。見合いの日、とうとうやってきた。ずっと来なければよかったのに―――「初めましてシェイク・ハノーバーと申します」「ゴメンなさいねぇ。不愛想な息子で」悪かったな。「こちら、フロガキ侯爵家次女でフローラ様でございます」うん、完全に名前負けだね。姿絵見なくてよかった。「えーっと、ご趣味は乗馬ということでしたが?愛馬とかいるんですか?」馬がかわいそうだな。重量負けしそうだ。「小さい頃より一緒に育った‘アーユ’と言う名の牝馬でございます」「馬だけが好きなの?」「……っそういうわけでは!動物全般好きです」「うちに馬はいないんだよねぇ」「えっ!?」うちを何だと思っているんだ?後日、断りの手紙が来た。母さんにしこたま怒られた。「フィルー。お見合いに来た子さぁ、完全に名前負けしてるんだよ?そして、重量がありそうで、趣味・乗馬って馬がかわいそうって思ったもん」「お見合い中にそんなことを考えてたんですか?というか、陛下が持ってきた縁談ですよ?断られたって評判がたっては、ハノーバー家の評判が悪くなります」「これより悪くなるのか?」「なかなか言いますね」「血縁で跡継ぎでもいいし、なんだったらフィル!お前が跡継げよ~!」「投げやりにならないでください!」