悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました

悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました

last updateDernière mise à jour : 2025-03-03
Par:  結城 芙由奈Complété
Langue: Japanese
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20歳の子爵家令嬢オリビアは母親の死と引き換えに生まれてきた。そのため父からは疎まれ、実の兄から憎まれている。義母からは無視され、異母妹からは馬鹿にされる日々。頼みの綱である婚約者も冷たい態度を取り、異母妹と惹かれ合っている。オリビアは少しでも受け入れてもらえるように媚を売っていたそんなある日悪女として名高い侯爵令嬢とふとしたことで知りあう。交流を深めていくうちに侯爵令嬢から諭され、自分の置かれた環境に疑問を抱くようになる。そこでオリビアは媚びるのをやめることにした。すると徐々に周囲の環境が変化しはじめ――

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Chapitre 1

1話 オリビア・フォードの憂鬱

 20歳の子爵家令嬢――オリビア・フォード。

背中まで届くダークブロンドの髪に、グレイの瞳の彼女は貴族令嬢でありながら地味で目立たない存在だった――

――7時半

いつものようにオリビアはダイニングルームに向って歩いていた。途中、何人かの使用人たちにすれ違うも、誰一人彼女に挨拶をする者はいない。

使用人たちは彼女をチラリと一瞥するか、これみよがしにヒソヒソと囁き嫌がらせをする者たちばかりだった。

「いつ見ても辛気臭い姿ね」

突如、オリビアの耳にあからさまな侮蔑の言葉が聞こえてきた。思わず声の聞こえた方向に視線を移せば、義妹のお気に入りの2人のメイドがこちらをじっと見つめている。

「あー忙しい、忙しい」

「仕事に行きましょう」

目が合うと2人のメイドは視線をそらし、そのまま通り過ぎて行った。

「ふん、この屋敷の厄介者のくせに」

一人のメイドがすれ違いざまに聞えよがしに言い放った。

「!」

その言葉に足が止まりメイド達を振り返ると、楽しげに会話をしながら歩き去っていく様子が見えた。

「はぁ……」

小さくため息をつくと、再びオリビアはダイニングルームへ向った――

 ダイニングルームに到着すると、既にテーブルには家族全員が揃い、楽しげに会話をしながら食事をしていた。

「そうか、それでは騎士入団試験に合格したということだな?」

父親が長男のミハエルと会話をしている。

「はい。大学卒業後は王宮の騎士団に配属されることが決定となりました」

「そうか、それはすごいな。私も鼻が高い」

「お兄様、素晴らしいですわ」

ミハエルとは腹違いの妹、シャロンが笑顔になる。

そこへ、遅れてきたオリビアが遠慮がちに声をかけた。

「おはようございます……遅くなって申し訳ありません」

しかし彼女の言葉に返事をする者は誰もいないし、椅子を引いてくれる給仕もいない。

テーブルの前には既に食事が並べられており、オリビアは無言で着席した。

食事の席に遅れてくるのには、理由があった。それは彼女だけが家族から疎外されていたからだ。

父親からは疎まれ、3歳年上の兄ミハエルからは憎まれている。義母からは無視され、15歳の異母妹からは馬鹿にされる……そんな家族ばかりが集まる食卓に就きたいはずはなかった。

そこで出来るだけ遅れて現れるようにしていたのである。

オリビアが静かに食事を始めると義母がよく通る声で自慢話を始めた。

「あなた、聞いて下さいな。シャロンは今度クラスの代表でピアノを演奏することになったのよ」

「それはすごいな。さすがは自慢の娘だ」

父親は嬉しそうにシャロンに笑いかけ、見向きもせずオリビアに尋ねた。

「そう言えばオリビア。先週試験結果が発表されただろう? 結果はどうだったのだ?」

「え?」

まさか父親から話しかけてもらえるとは思えず、オリビアは驚いて顔を上げた。その言葉にミハエル、義母、異母妹のシャロンも驚く。

「どうした? 何故答えない? まさか言えないほど酷い結果だったのか?」

鋭い視線をオリビアに向ける。

「い、いえ。そのようなことはありません、お父様。今回は試験を頑張りました。お陰で学年3位になれました」

父親に話しかけられたことが嬉しく、笑顔で答える。

しかし……。

「なるほど3位か。つまり後2人、お前より優秀な人物がいるということだな」

父は冷たい言葉をぶつける。

「3位だから、何だというのだ」

ミハエルはそっけなく言い放つ。

「全く、たかが3位で偉そうにするなんて図々しいこと」

義母は憎しみを込めた目でオリビアを睨み、シャロンは黙って食事を口にしている。

「……申し訳ありません……」

オリビアは弱々しく俯いた。

「ところで、お父様。私、買って頂きたいドレスがあるのですけど」

シャロンが甘えた声を出し、父は目を細める。

「何が欲しいのだ?」

「はい、今度のお茶会で着るドレスなのですけど……」

もう、誰もオリビアを気に留めるものはこの場にいなかった。3人が楽しげに会話しながら食事をしている姿をオリビアは黙って見つめている。

(やっぱり、予想していた通りね……今更だけど)

一刻も早く食事を済ませて、この息苦しい場所からいなくなろう。

オリビアは一人、黙々と食事を進めた――

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1話 オリビア・フォードの憂鬱
 20歳の子爵家令嬢――オリビア・フォード。背中まで届くダークブロンドの髪に、グレイの瞳の彼女は貴族令嬢でありながら地味で目立たない存在だった――――7時半いつものようにオリビアはダイニングルームに向って歩いていた。途中、何人かの使用人たちにすれ違うも、誰一人彼女に挨拶をする者はいない。 使用人たちは彼女をチラリと一瞥するか、これみよがしにヒソヒソと囁き嫌がらせをする者たちばかりだった。「いつ見ても辛気臭い姿ね」突如、オリビアの耳にあからさまな侮蔑の言葉が聞こえてきた。思わず声の聞こえた方向に視線を移せば、義妹のお気に入りの2人のメイドがこちらをじっと見つめている。「あー忙しい、忙しい」 「仕事に行きましょう」目が合うと2人のメイドは視線をそらし、そのまま通り過ぎて行った。「ふん、この屋敷の厄介者のくせに」一人のメイドがすれ違いざまに聞えよがしに言い放った。「!」その言葉に足が止まりメイド達を振り返ると、楽しげに会話をしながら歩き去っていく様子が見えた。「はぁ……」小さくため息をつくと、再びオリビアはダイニングルームへ向った―― ダイニングルームに到着すると、既にテーブルには家族全員が揃い、楽しげに会話をしながら食事をしていた。「そうか、それでは騎士入団試験に合格したということだな?」父親が長男のミハエルと会話をしている。「はい。大学卒業後は王宮の騎士団に配属されることが決定となりました」「そうか、それはすごいな。私も鼻が高い」「お兄様、素晴らしいですわ」ミハエルとは腹違いの妹、シャロンが笑顔になる。 そこへ、遅れてきたオリビアが遠慮がちに声をかけた。「おはようございます……遅くなって申し訳ありません」しかし彼女の言葉に返事をする者は誰もいないし、椅子を引いてくれる給仕もいない。テーブルの前には既に食事が並べられており、オリビアは無言で着席した。 食事の席に遅れてくるのには、理由があった。それは彼女だけが家族から疎外されていたからだ。 父親からは疎まれ、3歳年上の兄ミハエルからは憎まれている。義母からは無視され、15歳の異母妹からは馬鹿にされる……そんな家族ばかりが集まる食卓に就きたいはずはなかった。 そこで出来るだけ遅れて現れるようにしていたのである。オリビアが静かに食事を始めると義母がよく通る声で自慢
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2話 オリビアの現状
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3話 親友
 石畳の町並みを赤い自転車に乗って、颯爽とペダルをこぐオリビア。大学までの道のりは自転車で片道30分。決して近い距離では無かったが、御者の顔色を伺いながら馬車に乗せてもらうよりも余程気が楽だった。何より風を切って自転車をこぐのは気持ちが良い。いつものように正門を自転車で通り抜けると、学生たちの好奇に満ちた視線が向けられる。はじめはその視線が気まずかったが、今ではすっかり慣れてしまっていた。正門の隅の方に自転車を止めると、前方から友人のエレナが手を振って近づいてきた。彼女はオリビアの自転車に興味を持ったことがきっかけで友人になれた一人でもある。「おはよう、今日も自転車で通学してきたのね?」「ええ、だってとても良い天気じゃない。多分、この様子だと雨は降らないはずよ」空を見上げれば、雲一つ無い青空が広がっている。「それじゃ、教室に行きましょう」「ええ、そうね」エレナに誘われ笑顔で返事をすると、2人で校舎へ向って並んで歩き始めた。「あのね、オリビア。私も実はあなたにならって自転車を買ったのよ」「え? そうなの? それは驚きだわ」「これも全てあなたの影響ね。ようやく少しずつ乗れるようになってきたところなの。やっぱりいつまでも、どこかへ行くのに、御者に頼るのっていやだったのよね。少しは自立出来るようにならないと」「……そうね」オリビアは曖昧に返事をした。家族関係が良好なエレナには自分の置かれた境遇をどうしても言えなかったのだ。(家族や使用人たちから冷遇されているので、馬車にも乗りづらくて自転車を使っているなんて絶対エレナには言えないわ。もしそのことを知れば、きっと気を使わせてしまうもの)「そう言えば、来月は秋の学園祭ね。後夜祭はダンスパーティーがあるけれど、パートナーはギスランと参加するのでしょう?」不意に話題を変えてくるエレナ。ギスランは同じ大学に通う同級生であり、親同士が決めたオリビアの婚約者でもあった。「ギスランがパートナーになってくれるかどうかは……まだ分からないわ」オリビアの顔が曇る。「あら? どうしてなの?」「それ……は……」オリビアはそこで言い淀む。なぜならギスランはここ最近、急激に大人っぽくなった異母妹のシャロンに夢中になっていたからだ。オリビアに会いに来たと言っては、シャロンと2人だけでお茶を楽しむような関
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4話 悪女? の登場
「何を怒ってらっしゃるのですか? ディートリッヒ様」侯爵令嬢アデリーナは真っ直ぐにディートリッヒを見つめている。「お前は俺が何故怒っているのか分からないのか!?」ディートリッヒはアデリーナを指さした。「ええ、分かりませんから尋ねているのです。それはさておき……ディートリッヒ様」キッとアデリーナはディートリッヒに鋭い目を向ける。「な、何だ?」「いくらなんでも、人を指差すのはどうかと思いませんか? 礼儀という言葉を、もしやご存じないのでしょうか?」「何っ! おまえ、誰に対してそんな口を叩くんだ! 仮にも俺は……!」「ええ、ディートリッヒ・バスク侯爵。私の婚約者ですわよね? それなのに何故でしょう? 私よりも、そちらの令嬢と親しげに見えるのですが」そして栗毛色の女子学生を見つめた。「こ、怖い! ディートリッヒ様!」女子学生は咄嗟にディートリッヒの背後に隠れた。「大丈夫、俺がついている。サンドラ」サンドラと呼ばれた女子学生を慰めるように髪を撫でると、再びアデリーナを指さすディートリッヒ。「そんな目付きの悪い目で睨みつけるな! サンドラが怖がっているだろう!」「別に睨みつけてなどいませんわ。私は元々このような目つきですから。ですが先ほども申し上げましたが、あまり2人きりで学園内を歩き回られないようにお願いいたします。一応、私とディートリッヒ様は婚約者同士なのですから」「な、何だと……大体、お前と俺は親同士が勝手に決めた婚約者なだけであって、お前のことなんか認めていないからな!」「別に認めていただかなくても、私は一向に構いませんが?」「な、何だって!? 全く本当に可愛げのない女だ。サンドラ、あんな女は放っておこう」「はい、ディートリッヒ様」ディートリッヒはサンドラの肩を抱き寄せると、去っていった。「……全く、呆れた男ね。私達の婚約は覆すことなど出来ないのに」アデリーナは気にする素振りもなく、踵を返し……。「あら?」ことの一部始終を物陰から見ていたオリビアとエレナに鉢合わせしてしまった。「「あ……」」3人の間に気まずい雰囲気が流れる。「あなたたちは……?」怪訝そうに首を傾げるアデリーナ。すると――「た、大変申し訳ございませんでした! 中庭で大きな声が聞こえたので、つい何事かと思って……決して覗き見をしようとしていたわけ
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5話 婚約者ギスラン
 その日の昼休みのこと――オリビアとエレナが大学内に併設されたカフェテリアで食事のお茶を飲んでいるときのことだった。「え? 何て言ったの? オリビア」ココアを飲んでいたエレナが首を傾げる。「だから、アデリーナ様とお近づきになるにはどうしたらいいのかと相談しているのよ」オリビアは紅茶を口にした。「お近づきになるなんて……あの方は4年生で、しかも侯爵令嬢なのよ? 私達みたいな子爵家の者が迂闊に近づけるような方じゃないわ。しかもね……」エレナは辺りをキョロキョロ見渡し、オリビアに顔を近づけてきた。「アデリーナ様って、気が強いことから……一部の女子学生たちから恐れられているの。どうやら悪女って言われているらしいわ」「悪女ですって!」驚きでオリビアの口から大きな声が飛び出す。その言葉に周囲に座っていた学生たちが一斉に2人に注目する。「ちょ、ちょっと! 声が大きいわよ! 周りに聞こえるじゃないの!」エレナが小声で注意した。「ごめんなさい。ちょっと驚いてしまって……でも、何故悪女と呼ばれるのかしら。自分の婚約者が他の女性と一緒にいれば注意するのは当然だと思うけど……」オリビアは婚約者と妹の仲が良いのに、咎めることが出来ない自分と比較する。「そう言えば、オリビア。今朝、ギスランが後夜祭のダンスパートナーになってくれるか分からないと言ってたけど……最近、どうしてしまったの? 以前は大学内で時々一緒に行動していたのに、最近はさっぱりじゃないの。もしかして何かあったの?」「それは……」エレナに今の自分の現状を説明しようか、迷ったそのとき。「あれ? その後ろ姿……もしかして、オリビアじゃないか?」不意に背後から声をかけられた。「え?」振り向くと、婚約者のギスランが友人たちと一緒にいた。「ギスラン!」婚約者から声をかけられたことが嬉しくてオリビアは立ち上がり、笑みを浮かべる。「ちょうど良かった。今度の休みに、またお邪魔しようかと思っていたんだ。都合は大丈夫そう?」「そうだったのね? ええ、勿論大丈夫よ」笑顔のままオリビアは頷き……次の瞬間、凍りつくことになる。「そうか、ではシャロンによろしく伝えておいてくれ」「!」オリビアの肩がビクリと跳ね、エレナの息を呑む気配が伝わってくる。「え、ええ。あなたが来るから家にいるようにってシャロン
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6話 婚約者との関係
――16時本日全ての講義が終わって帰り支度をしているオリビアに、エレナが声をかけてきた。「それじゃ、オリビア。また明日ね」「ええ、また明日」エレナは手を振ると、急ぎ足で去って行った。教室の入口には彼女の婚約者、カールが待っている。「……2人で一緒に帰るのね。デートでもするのかしら?」ポツリとつぶやき、ギスランの顔を思い浮かべた。オリビアとギスランは子供時代から婚約者していたが、一度も一緒に登下校したこともなければ2人きりで出かけたこともない。ただ月に数回、学校が休みの週末にだけ顔合わせという名目でどちらかの屋敷で会うだけだった。その際、特に会話をするわけでもない。同じ空間にいれば良いだけなので、ギスランはいつも持参した本を読み、オリビアを相手にしようとはしない。そこでオリビアは出来るだけ読書の邪魔にならないように、気を使って静かに刺繍をして過ごし……時間になるとギスランは帰って行く。そんな関係がずっと続いていた。本当はもっとギスランと仲良くなりたいと思っていた。しかし、相手がそれを望んでいない以上どうすることも出来なかった。どうせいずれは結婚するのだから、2人の関係もそのうち変わって来るだろうとオリビアは割り切ることにしたのだが……シャロンが15歳になった頃から変化が起こり始めた。気づけばギスランとシャロンが急接近し、オリビアとの距離が遠のいていたのだ。2人はオリビアが気づかない間に親密になり……今では隠すこと無く堂々と一緒に過ごすようになっていた。それが、たとえオリビアの眼の前であろうとも。「……仕方ないわね。シャロンは私と違って、可愛らしくて魅力的だもの……」ポツリとつぶやき、自分のダークブロンドの髪にそっと触れる。シャロンの髪はオリビアと違い、眩しく光り輝くようなプラチナブロンドだった。瞳は深い海のような青い色。容姿だけでは、どれもオリビアには敵わない。ただ、シャロンより秀でていることがあるとすれば頭の良さだけだったろう。オリビアは才女だったが、シャロンはそれほど賢くは無かった。だが、頭の良い女性は男性からは敬遠されがちだった。「婚約解消されるのも時間の問題かもしれないわね……そして代わりにシャロンと……」ため息をつくとオリビアは立ち上がり、教室を後にした――**** オリビアは大学の図書館を訪れていた。家
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7話 憧れの人
(どうしてアデリーナ様がここに……? 今まで一度も図書館で出会ったことがないのに)躊躇っているとアデリーナがオリビアの姿に気付き、声をかけてきた。「本を借りに来た方ですか? どうぞ」「は、はい……」オリビアは呼ばれるままに貸出カウンターに来ると、自分の借りようとしている小説が何だったかを思い出した。(そうだった……! この本は恋愛小説だったわ。アデリーナ様のように知的な女性の前でこんな本を借りるなんて……軽蔑されてしまうかも!)「では、貸出手続きを行うので本を貸していただけますか?」アデリーナは笑顔で話しかけてくる。こんなことなら歴史小説でも借りれば良かったとオリビアは後悔したが、今更引き返すことなど出来ない。「お願いします……」恐る恐る抱えていた本をカウンターに置いた。するとアデリーナは笑顔になる。「まぁ、あなたもこの本を借りるのですか? 私も以前読んだことがあるのですよ。とてもロマンチックな恋愛小説でした。お勧めですよ?」「え? ほ、本当ですか?」まさか借りようとしていた本をアデリーナが読んでいたことを知り、オリビアは嬉しい気持ちになった。けれど、自分のことを全く覚えていない様子に少し寂しい気持ちもある。「ええ、夢中になって頁をめくる手が止まらずに、3日で読み終わってしまいました。では、貸出カードに名前を書いて下さい」「はい。分かりました」オリビアは卓上のペンを手に取ると、名前を書いた。「お願いします」貸出カードに名前を書いて、アデリーナに差し出した。「オリビア・フォードさんですね? 貸出期間は2週間になります。では、どうぞ」アデリーナから本を受け取ったものの、オリビアはまだ話がしたかった。「あ、あのアデリーナ様!」「え? どうして私の名前を?」「私のこと、覚えておりませんか? 今朝、友人と中庭でお会いしたのですけど」その言葉に、アデリーナはじっとオリビアを見つめ……。「あ、思い出したわ! 何処かで会ったような気がしていたけれど、今朝会っていた人だったのね?」「はい、そうです。私のこと思い出していただき、嬉しいです」「今朝はお恥ずかしいところを見せてしまったわね。ただでさえ私はこの赤毛のせいで悪目立ちしているのに。本当にいやになってしまうわ」アデリーナは自分の髪を見つめて、ため息をつく。「あの、アデリー
last updateDernière mise à jour : 2024-12-29
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8話 誘い
 その日から、オリビアは放課後毎日図書館に通うようになった。試験期間中以外は放課後に図書館に来るような学生は滅多にいない為、アデリーナとオリビアの2人きりの空間になっていた。はじめの頃はアデリーナと本について話をするようになっていたが、2人の親交が深まるに連れ、徐々に踏み込んだ話へ変わっていったのだった……。――放課後、帰り支度をしていると隣の席のエレナがオリビアに声をかけてきた。「オリビア、今日一緒に途中まで帰らない? 私、実は自転車で通学してきたのよ」「え? エレナ……もう自転車を乗りこなせるようになったの? 驚いたわ」「フフフ。自転車に乗る練習にはカールに付き合ってもらったわ。彼のおかげね」「そうだったのね? でももう自転車で通学してくるなんてすごいわ」「でしょう? 自転車って気持ちいいわね。風を切ってスイスイ走る爽快感は素敵だわ。だから2人で自転車に乗って帰らない? 途中、どこか喫茶店に寄りましょうよ」それは、とても素敵な誘いだった。けれど……。「ごめんなさい、エレナ。実は今日、約束があるの」今日、アデリーナは図書委員が休みの日だった。そこで、2人で大学構内に設けられたカフェテリアでお茶を飲むことにしていたのだ。「そうだったのね……あ、もしかしてギスランと約束しているの? 良かったじゃない」「いいえ、違うわ。アデリーナ様とよ」「そう、アデリーナ様と……ええっ!? そ、その話本当なの!?」エレナは大げさに驚く。「ええ、本当よ。そんなに驚くことかしら?」「もちろん、驚くことに決まっているでしょう? だって、あのアデリーナ様よ? 侯爵令嬢であり、あの……悪女と名高い」「悪女というのは誤解よ。それはね、婚約者のディートリッヒ様があらぬ噂話を広めているだけに過ぎないのよ。何しろディートリッヒ様は他に想い人の女性がいるから」「それは、そうかもしれないけれど……でも……」「エレナ……」オリビアがじっと見つめると、エレナは頷いた。「分かったわ、他ならぬ親友のオリビアの話だから信じるわ。約束があるなら仕方ないわね、カールと帰ることにするわ」「ごめんなさい、エレナ」「いいのよ、それじゃまた明日ね」「ええ、また明日」エレナは手を振り、教室を出て行った。「私もアデリーナ様との待ち合わせ場所に行かなくちゃ」そしてオリビアも待ち
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9話 何故、我慢しなければならないの?
「ところで、アデリーナ様。もうすぐ学園祭ですけど、後夜祭には参加されるのですか?」オリビアはミルクティーを飲みながら尋ねた。「ええ、今年最後の後夜祭だから参加するわ」「それでは、パートナーはどうされるのですか?」オリビアは自分自身もパートナーのことで悩んでいたのでアデリーナのことが気になったのだ。「一応、婚約者がディートリッヒだから彼がパートナーになる予定なのだけど……恐らく無理かもしれないわ。それに何だか嫌な予感がするし……」「嫌な予感? それって……」「いいえ、何でもないわ。それより、オリビアさんはどうなの? 確か婚約者がいたはずよね?」アデリーナには婚約者がいる話はしていたが、詳しい事情はまだ説明したことは無かった。「は、はい。そのことなのですが……実は……」ついにオリビアは全てを告白することにした。婚約者のギスランは15歳の異母妹に夢中なこと。 父親からは疎まれ、3歳年上の兄ミハエルからは憎まれている。義母からは無視され、15歳の異母妹からは馬鹿にされていること。その為、使用人たちからも無視をされている……それら全てを告白したのだ。アデリーナはその間、一度も口を開くこと無く黙って聞いていたが……やがて話が終わるとミルクティーを一口飲み……。カチャッ!乱暴にティーカップを皿の上に置いた。「ア、アデリーナ様?」今まで一度も見せたことのない態度にオリビアは戸惑う。「……信じられないわ……一体、その話は何なの!? オリビアさんにそんな態度をとるなんて……許せないわ!」アデリーナの声が店内に響き、中にいた数人の学生客たちがギョッとした様子で2人を見つめる。「アデリーナ様。私の為に怒ってくださるのは嬉しいですが、私なら大丈夫ですから」「いいえ、少しも大丈夫じゃないわ。いい? オリビアさん。あなたのお母様が亡くなったのは、あなたのせいではないわ。こういった言い方はあまり良くないかもしれないけれど、そうなる運命だったのよ。それをあなたの家族たちは何て酷いことをするのかしら。こんなにオリビアさんは優秀なのに」憤慨した様子でアデリーナは続ける。「あなたのお兄様は、この学園に入学することすら出来なかったのでしょう? でもオリビアさんは入学し、学年で上位の成績を修めている。もっと誇るべきよ。なのに、何故そんな窮屈な思いをしているの?」
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10話 媚びを売るのは、もうやめます
「アデリーヌ様……私、我慢も媚びを売る必要もないってことでしょうか?」「ええ、当然よ。だって、あなたは家族よりも婚約者よりも優れているのだから。もっと自分に自身を持つのよ」アデリーヌはオリビアの手をしっかり握りしめた。「分かりました、私自分に自身が持てそうです。もう今日から家族にも婚約者にも、そして使用人にも媚びを売るのはやめることにします!」「ええ、そうよ。オリビアさん! 頑張るのよ!」「はい!」そして、2人は店内にいるすべての人々の注目を浴びながら、固く手を握りしめあうのだった――**** 18時を少し過ぎた頃、オリビアは屋敷に帰ってきた。 自分の部屋目指して歩いていると、前方から義母のゾフィーがメイドを連れてこちらに歩いてくるのが見えた。いつものオリビアなら挨拶をする。しかし、義母からは一度たりとも挨拶を返されたことなどない。完全無視をされているのだ。(どうせ挨拶しても無視されるのだもの)媚びを売るのをやめると心に誓ったオリビアはそのままゾフィーに視線を合わせることもなく歩いていき……通り過ぎた途端。「待ちなさい」ゾフィーに背後から声をかけられた。しかし、オリビアはそのまま無視して歩いていると先程よりも大きな声で呼び止められた。「オリビア! お待ちなさい!」そこでオリビアは足を止めて振り返った。「何でしょうか?」「何でしょうかじゃないわ。私に挨拶をしないとはどういうつもり? しかも最初の呼びかけで無視をしたでしょう? 理由を説明しなさい!」険しい視線でゾフィーはオリビアを睨みつけている。そして何故か背後にいるメイドも一緒になってオリビアを睨んでいる。「どうしていつも私を無視する人に挨拶をしなければいけないのですか?」「な、何ですって!?」まさか反論されるとは思わなかったのだろう。ゾフィーの顔が一段と険しくなる。「それに、一度目の呼びかけに返事をしなかったのは名前を呼ばれなかったからです。『お待ちなさい』だけでは誰に呼びかけているのか分かりませんから」オリビアはため息をつきながら大げさに肩を竦めると、ゾフィーはヒステリックに喚いた。「な、なんて生意気な……!とにかく挨拶は基本よ! それぐらい常識でしょう!?」「これは驚きましたね。まさか、お義母様から常識と言う言葉が出てくるとは思いませんでした。今まで一度も私
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