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Never His Bride

Never His Bride

By:  Violet GravesCompleted
Language: English
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For the ninth time, my best friend was left at the altar. And for the ninth time, my fiance was dragged in to play the part of her pretend groom. I was holding two cups of coffee. Before I could knock on the dressing room's door, I heard my best friend purring at someone. "You're the best, Anton. You knew this was an act, but you played along anyway." My breath caught. Through the half-open door, I stole a glance inside. My fiance, who had always been cold and unreadable, was looking at my best friend as if she were the most precious thing in his world. "Getting left at the altar must've traumatized you. If I don't help you get over it, Emilia's going to be worried even if she marries me." My best friend tugged lightly at the hem of his shirt. "But this is going to affect your relationship with her." "Not like it's the first time. She's still with me. We're still a couple." My fiance took out a diamond ring and held it against my best friend's finger. "We've been together for ten years. She has no other choice, anyway." The summer heat was scorching, yet part of me felt frozen solid. Slowly, I took my phone out and dialed a certain number. "Hey, I'd like to show you what I look like in that wedding gown."

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Chapter 1

Chapter 1 Tired

寝室の枕元。そこには長年、私たちの結婚写真が飾られていた。

だがその日、夫はそれを研究室の先輩が描いたという油絵に掛け替えた。

その瞬間、私の心の中でぷつりと、何かが切れた。

晴彦の前に離婚届を突きつけたとき、彼は氷のように冷たい瞳で私を見上げ、吐き捨てた。

「たかが絵を一枚掛け替えたくらいで、何を言っている。離婚だと?正気か。あれほど可愛がっている息子の親権まで放棄するつもりか」

私は静かに頷いた。

もういい。すべて手放してしまおう。

手塩にかけて育ててきた息子もまた、父親と同じ穴の狢だったのだ。

彼らの心の一等地に居座っているのは、私ではなく、別の女なのだから。

……

上原晴彦(うえはら はるひこ)はテーブルの向かいに座り、能面のような顔で離婚届に目を滑らせている。

真面目に読む気などないのだろう。ざっと一通り眺めただけで、すぐに放り出した。

「絵を変えた程度で離婚とはな。頭を冷やせよ。俺はお前のヒステリーに付き合ってる暇はないんだ。それに、大事な息子はどうする。置いていくのか?」

私はふと、視線の先に目をやった。

そこには、とっくに就寝時間を過ぎているにもかかわらず、ソファでテレビに夢中になっている息子の上原薫(うえはら かおる)の姿があった。

私は告げた。

「いらないわ」

晴彦は何の躊躇なくペンをさらさらとペンを動かし、サインを済ませた。

その目は、私がまたいつもの癇癪を起こしているだけだとでも言いたげに、冷めきっていた。

今日の午後のことだ。

私はいつものようにキッチンに立ち、夕食を用意した。メニューは肉じゃが。あの二人の大好物だ。

壁の時計が時を刻む音を聞きながら待ち続けたが、玄関が開く気配はない。

晴彦に電話をかけても、たった二コールで通話が切れた。着信拒否だ。

時計の針が十時を回った頃、ようやく二人が帰宅した。

父子は、厳重に梱包された絵画を、まるで壊れ物を扱うかのように慎重に運び込んでくる。

私が三度も温め直された料理には目もくれず、二人は打ち合わせたかのように食卓を通り過ぎ、足早に寝室へと消えていく。

寝室のドア越しに、晴彦が枕元の結婚写真に手をかけ、取り外そうとしているのが見えた。

「どうして、急に外すの?」

私の問いかけにも、晴彦の手は止まらない。

「絵を変える。ただそれだけのことが、そんなに気に入らないのか」

薫がその隣に立ち、小さな体で精一杯背伸びをして、新しい絵を手渡そうとしている。

その横顔は目を細め、嬉しさで綻んでいた。

「パパ、また雅子さんと一緒にハンバーガー食べに行けるよね?」

晴彦は慌てて薫の口を塞ぎ、気まずそうに私を睨んだ。

「……黙っていたのは、お前に変な誤解をされたくなかったからだ」

武藤雅子(むとう まさこ)。晴彦の研究室の先輩であり、かつての私の先輩でもある女性だ。

最近の異動で彼と同じ職場になったとは聞いていたが。

私は視線を落とし、すっかり冷え切ってしまった食卓の料理を見つめた。

「……次からは、薫をファストフードには連れて行かないで。あの子、胃が弱いんだから」

「ああ」

晴彦は素っ気なく答えると、薫から絵を受け取り、満足げに枕元へ飾った。

位置を微調整し、スマホで写真を撮る。その顔には笑みが浮かんでいる。

「パパ、雅子さんって、すごいんだね!絵も描けるんだ」

薫は憧憬の眼差しで、壁に掛けられた西洋画風の油絵を見上げている。雅子の作品だという、その絵を。

晴彦はにこやかな表情を崩さず、スマホの画面を何度もタップしている。

薫は待ちきれないといった様子でベッドに這い上がると、小さな顔を突き出して晴彦のスマホを覗き込んだ。

「パパ、何話してるの?僕も雅子さんとお話したい!」

晴彦がサインを終えたのを見届け、私はその夜のうちに家を出る決心をした。

だが、八年近く暮らした部屋を見渡すと、何から手をつければいいのか分からず、途方に暮れる。

「今日はもう遅い。明日でもいいだろう」

晴彦が私を見ている。

私は首を横に振った。

「いいえ、今日行く」

必要最低限の荷物だけをまとめた。結婚指輪は元の場所に戻し、それ以外は何一つ持たない。

スーツケースを引き、玄関で靴を履いていると、薫が近寄ってきた。

何も言わず、どこか怯えたような瞳で私を見つめている。

六年間、この手のひらで慈しみ育ててきた小さな命。

胸の奥が、勝手にきしんで痛んだ。

私はしゃがみ込み、彼に告げた。

「パパと離婚することになったの。これからはパパの言うことをよく聞くのよ。お菓子ばかり食べては駄目。それから、魚介類のアレルギーがあるから、絶対に食べちゃ駄目よ」

だが薫は視線を泳がせ、私の言葉などまったく気にしていない様子で口を開いた。

「ふうん。でもパパ言ってたもん。どうせママはすぐ帰ってくるって。だってママ、ここには友達もいないし、僕とパパしかいないんだから」

そして、彼はつま先立ちになると、私の耳元に顔を寄せ、悪魔のように囁いた。

「ママ、もう帰ってこなくていいよ。僕、ママのこと嫌いなんだ。雅子さんの方がずっと好き。ママがいなくなったら、雅子さんが僕のママになってくれるんだから」

薫の言葉が、心に残っていた最後の拠り所を、無慈悲に削り取っていった。

「子供は嘘をつかない」という。だからこそ、彼らは遠回しな言い方などせず、残酷な本音をそのまま刃として突き立てる。

小さい頃から大切に、大切に育ててきた息子は、ただの一度だって、私を好きではなかった。

私はもう何も言わなかった。

ただ静かにスーツケースを引き、夜の街へと踏み出した。

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