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第三話

Auteur: おまゆた
last update Date de publication: 2025-01-28 18:30:43

「ふぅ、やりきったぁ」

 ルーナと別れたジセルは、すっきりとした顔で屋敷の門をくぐる。すると家の玄関から、何やら焦った様子の両親が勢い良く飛び出してきた。

「「ジセル(ちゃん)っ!」」

「うわぁッ! どうしたの?」

「『どうしたの?』じゃありません! 一体今まで何処に行ってたの! 凄く心配したのよ!」

「……一応、メイド達には伝えてから出たんだけど」

「はぁ……使用人に伝える前に私達に伝えなさい。今日の仕事が一段落してようやくジセルと会えると思ったら、屋敷のどこにもいなくて……朝に一人で出ていったと言う話を聞いてどんなに心配したか」

「そうよ? まだパパもママも……ジセルちゃんが一人で外出するなんて事許せる程強くないの! お願いだから、もしどうしてもお外に出たいのなら……この家の使用人を一人でもいいから連れていって?」

 流石のジセルも知らない女の子とべろちゅーあんなんしている所を誰かに見られる訳にはいかない。そして彼は一つ言い訳を思い付く。

「僕……実は今日、友達ができたんだ! でも、僕はあくまでその子とは対等でいたくて……使用人なんか連れて行ったら、僕がどんな風に接しても多分……意識させちゃうんじゃないかなって」

「「……ジセル(ちゃん)」」

「だからさ、ほら……見習いの……僕と同じくらいの子がいたでしょ? その子を友達として連れていくとかならどうかな?」

「ふむ、だがそれは結局のところ……大人を連れて行かないで子供だけで出かけることになる。危険な事に変わりはないだろう?」

 そう、もはや護衛を雇いたいとまで考えている両親からしたら、ジセルと歳の近い子供を連れて行ったところで、心配する気持ちを消し去る事は出来ない。

 しかし、今ここ求められているモノはお互いの『妥協点』だ──と、そこまで思考したジセルはまだ諦めてなどいなかった。

(一人で出掛けるのは無理でも、複数……俺個人以外の人間を介入させたい二人には、まだ交渉の余地があるッ!)

 そう意気込みながら、その気持ちを隠して交渉を続けるジセル。

「でも、僕は大人を連れていって相手を怖がらせたくない。子供だとしても、使用人……僕以外の人間から話を聞けるなら、僕が相手の子を友達贔屓ともだちびいきして話さない事とかでも聞けるんじゃないかな?」

 安全面の話をしていても恐らく話は平行線だ。それならばと、別の落としどころを探し始めるジセル。

「そうね、でも……」

「──ふむ、分かった。そうしよう」

 それでも頷きそうに無かった母の言葉を遮って、腕を組んで頷きながら彼の言葉に同意する父。力強くジセルを見つめる翡翠色の両眼は、実の息子にもしっかりと受け継がれている。

「え?」

「……あなた?」

「まぁまぁ……もういいじゃないかソフィア。あのジセルがこんなにも難しい言葉を勉強していて、ここまで食い下がるのには……何やら私たちには譲れない思いがあるのだろう」

 そんな父の言葉を聞いた、聞いてしまったジセルは──”譲れない思い”というか”譲れない思いせいよく”なんだけど。と思いながら内心、罪悪感を浮かべ始める。

「ふふ、分かりました。それなら私も、息子の成長を祝って……その程度のお願いくらいは聞いてあげましょう!」

 両手を合わせながらニコニコと目を細めるソフィア。ジセルは視線の先で揺れるブロンドの長髪を憂鬱な気分で見つめていた。

(──あ"あ"胸がッ! っ苦しい!)

 交渉が成立した結果、ニッコニコの両親の横で……罪悪感による苦しみに胸を押さえながら、悟られない様に笑顔を浮かべる事となってしまったジセル。

「話は終わったことだし、お家に入りましょうか!」

「ああ、そう言えばずっと外で話していたんだったな」

(いや、そうだよッ!! なんでこんな長い間ここに縛られないといけないんだ!! 別に中に入ってから話すのでも良かったよな!?)

 ジセルは一瞬、キレて表情を崩しそうになるが──、

(──まぁ、それだけ心配してくれてたってことだよなぁ。今言うと面倒臭いことになりそうだから、また今度にでも二人に感謝を伝えておくか)

 本来であれば今の自分に向けられるモノではない筈の感情、”両親の愛情”が伝わってしまい思わず苦笑する。

 ──そうして三人が仲良く屋敷に入って行くのを見て、話し合いをハラハラとした気持ちで見ていた使用人達はホッと安心して勤務を再開するのであった。

 

***********************

「……ふわぁ〜あ、もう朝か」

 昨日、両親との攻防を終えた後──ジセルは普段通り夕食を取り、普段通り入浴し、普段通り就寝した。

(交渉が成立したのは良いが、そんな直ぐに話が進む訳がない。家に帰ったのは大分遅い時間になってしまったし、見習いの子や家の人達に話を通さなければならないはずだ。それまでは一人で外出する事になっても問題はないだろう? 何故なら、そちらの準備が出来ていないのが悪いのだから!!)

 ──などと、無駄な思考を回しているジセルの横で、先程からせっせと部屋の片付けをしている人物がいるのだが、その事に彼はまだ気付いていない。

「おや、お目覚めになりましたか」

 ──あ〜、ん? えっと〜……ん? 

 と突然の事に状況を飲み込めていないジセルは、まるで壊れかけの機械の様にカクカクと声の聞こえた方向へと首を向ける。

「おはようございます、ジセル様。今日からジセル様と行動を共にさせて頂く、レアと申します。えっと……宜しくお願い致します」

「あ〜なるほどなるほど、なるほどね。……ふむ、一旦タンマだ!」

 ──え、誰? 

 そう言えればまだ希望はあった。しかし、ジセルには理解できてしまう。

 ──もう……どこからどう見ても見習いちゃんなんですけどッ!! 

 その姿は”瑠璃川 眞であった”という前世の記憶を思い出す以前のジセル・エリナスの脳にガッツリと刻まれており、どう頑張っても現実から逃れる事ができなくなっていた。

(あの〜、パパンママン……仕事早過ぎじゃない? もうその辺の手続きとかは済んじゃってるの? そういうの良いって〜。はぁ、最低でも今日だけは大丈夫だと思っていたのにッ!)

 そう内心で落胆しつつも、笑顔を維持したまま一度外した視線をレアの方へと戻すジセル。

「あ〜っと……レアちゃん、ね? うん、今日から宜しく!」

(──まぁ、こんなに可愛いメイドが俺の専属になってくれるって言うんなら、文句は……クッ! 悔しいがもう一ミリも出そうにない! 負けたッ!)

 『可愛いは大正義』──そんな本能を持つタイプの人間である彼は、自身のセンサーが反応する程の容姿を持つこの水色の髪をしたメイドになら、ちょっとやそっと自分の予定が狂わされた所で、もはや何も気にならない。

「……『ちゃん』ですか」

 レアはそう呟くと、何かを思い出したのか少し不快そうに顔を顰める。

「あ、ごめん……ちょっと馴れ馴れしかった? といっても……そうだなぁ。『レア』って呼び捨てにしても余計馴れ馴れしいし、雇い主である俺……僕が『さん』とか『様』とか付ける訳には行かないし」

「いえ、そういう訳ではなくて……僕、こんな格好をさせられてはいますが……一応男でして、差し支えなければ……レア『くん』と呼んで頂いても宜しいでしょうか?」

 ──さて。

 と、直後……本日二回目のタンマを発動するジセル。

(今日はスパンが短いなァ、えっと何があったんだっけ? 少し記憶が曖昧で……あ、ソウダソウダ! この激カワ見習いちゃんは女の子じゃなくて男の子……え?)

 顎をハンマーで殴られたのかと錯覚する程の衝撃を脳に受け、少しだけ記憶が飛ぶ。ゆっくりと情報を咀嚼し、彼はたった今自分が何を言われたのかを理解していく。

「アイェ"エ"ッ!?」

「……ど、どうかされましたか?」

(どうかされましたか? じゃなくて……いや、どうかはしてるんだけどもね? どうかしてるのは俺じゃなくて、この世界だ! 見習いちゃんの容姿は何処からどう見ても女の子なのだが、これは服とか髪型とか顔のパーツがとかそういうレベルじゃない!)

 この家の使用人見習いはどんなに幼くても10歳からでなければ仕事を教わる事ができないと、以前に本来のジセルが母ソフィア専属の使用人に聞いていた。そして、そのジセルが前世の記憶を取り戻す前にレアを見たのは──丁度1年前。つまりレアの年齢は最低でも11歳以上になり、それよりも更に上の可能性もあるという事になる。

「い、いや……なんでもないよ! 分かった、レアくんと呼ぶことにするね」

 そんな人間が、男性的な骨格の片鱗すら見当たらないレベルで女の子なのだ! 良くある『股間にアレが生えてるのを確認しないと確信できない』レベルで女の子なのだッ! 腐っても恋愛ゲー世界に登場するジセルの容姿は、物語のラスボスで極悪難易度の謎エンド用キャラクターであるにも関わらず──睫毛が長く、パーツも整っていて、中性的且つかなり美形と言える様なモノとなっている。そんなジセルでさえ、肩幅等に男性的な骨格が見えるのだが、このレアという少年にはそれらが見当たらない。

(流石異世界……メイク無しでリアル男の娘が存在してしまうとは。まぁ、染めてもいないのに髪の色が青だったり緑だったりしてるみたいだし、魔力の関係かなんかで遺伝子に影響が出たりでもしてるんかな? 知らんけど)

 こちらを見つめる美しい白銀色の眼を視界に捉えながら、ジセルはそんな結論を出して深く考えない事に決めた。

「……あ、ありがとうございますッッ!」

「うおっ、びっくりしたッ!! ナニ!?」

「あっ……す、すみませんっ! ……今までずっと可愛い可愛いって言われ続けて、こんな格好までさせられて……皆僕の事をレアちゃんレアちゃん呼ぶのを止めてくれないのに……ジセル様はちゃんとレアくんって呼んでくれて……嬉しくて」

 ──また何か重い話が飛んできた。

 と、表情を固めるジセル。ルーナの話と比べたらまだ軽い方だが、かなりの期間悩んでいたのだろうという事がその様子から読み取れる。そう感極まるレアに一つ──まぁでも、そうか。と言葉を置いてジセルは続ける。

「う〜ん、じゃあ……これから俺と二人の時は、お互い遠慮なしで行こう」

「……へ?」

「俺はお前の事をレアと呼ぶから、お前は俺の事をジセルと呼べ。あ、敬語とかも要らないぞ? なんたって今日からお前は俺の初めての男友達になるんだからな」

「えっ、えっ、はっ?」

「俺って普段、他の人と話す時は大分仮面被ってるんだよなぁ。 ……何か本当に気の置ける人がいないというか、両親でさえもな?」

「ソ、ソフィア様とリオネル様の前でも……」

「そ、だから俺の素をさらけ出せるような友人が欲しいと思ってたんだよなぁ〜! レアが女の子だったらこうは行かなかったが……──お前が男で良かった!!」

「……っ」

 本心からそう言っているのだという事がジセルのその表情から理解できてしまい、レアの息が詰まる。

(流石に俺とレアの事を知っている人達の前では難しいと思うけど、今みたいにこの部屋に居る時とか……それこそ後で俺達だけで外出した時とか、そういう時は大丈夫だよな?)

「ぐすッ……ひぐッ」

「ふぁッ!?」

 既に先の事を考え始めていたジセル。しかし、これでもかという程に無表情を貫いていたレアが突如号泣するという状況があまりにも予想外過ぎたのか『ふぁッ!』などという奇声が脊髄反射で口から飛び出る。

「うぇええ!? 何で泣いてんの! 俺、何かヤバいこと言っちまった!?」

「……だっでッ! ぼぐっひぐ……男で良かっだなんでッ!」

「あ〜……分かった。分かったから落ち着け!」

「……んぐっ」

 ジセルの言葉で、どうにか泣くのを我慢している様子のレア。

「男なら直ぐ泣くな……っていうのは時代に合わないな。えっと〜……あー、そうなるのは……今まで色々あって、誰にも聞いて貰えなくて、ずっと心にのしかかるモノがあって、相当キツかったんだろう。悪いけど同じ経験をした事がないから共感はしてやれん。だけどな、そういうのはもう終わりだ」 

 レアが必死に堪えていた涙は、驚きからなのか一瞬だけ引っ込む。

「お前が今まで聞いて貰えなかった事は全部俺が聞くし、これからお前が聞いて欲しいと思った事も全部俺が聞いてやるよ。だから、お前も俺が今まで聞いて貰えなかった事とか、これから俺が聞いて欲しいと思った事を聞いてくれ」

「……っ!!」

「いやまぁ、別にそれを聞く事も強制じゃないんだけど……簡潔に言うと、俺はレアと男友達になって色々話したいと思ってる」

 常日頃からエロトークが出来る相手が欲しいと思い続けていたこの男は、前世の記憶を持った状態でこの世界に転生をしてしまい、思った以上に孤独を感じてしまっていた。

(この孤独感も……多分エロトークが出来れば解消される気がするな。……いや、解消される気しかしないッッ!! はやく俺にさせろ! エロトークをッッ!)

「どうだ?」

「……うん! ジセルさ……ジセルからじゃなくても、僕からお願いしたいくらいで……だよ!」

「……ははっ! んじゃあ、改めて宜しくな! レア!」

「ああ、宜しくね! ジセル!」

 ジセルが差し出した手を──目尻に残る涙を片手で拭いながらも、とても嬉しそうな表情で握り締めるレア。

「んじゃ、さっそくだが……今日、この後の段取りを手短に話すから良く聞いてくれよ?」

「えぇ!? 急に……? う、うん……分かったよ!」

「俺は今から……ある女の子とべろちゅーをしに行くので、一緒に着いてきてください! はい分かりましたかよし行こうッすぐ行こうッ!」

「……へ?」

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