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第8話

Penulis: 夜風のナミダ
大輝は、心を病んでしまった。

それは深刻な心の病だった。

幻覚を見るようになったのだ。

彼は誰もいないのに話しかけたり、食事のときには向かいの空のお皿に、おかずを取り分けたりしていた。

「杏、今日の魚は新鮮だよ。食べてごらん。

もっと食べなよ。最近、痩せすぎだから」

心配した友達が、無理やり大輝を心療内科に連れていった。

しかし、彼は治療を拒んだ。

医師は言った。

「丸山さん、乗り越えなくてはいけません。忘れるというのは、自分を守るための働きでもあるんですよ」

大輝は椅子に座ったまま、暗く狂気に満ちた目で医師を睨んだ。

「どうして、乗り越えなくちゃいけないんですか?

杏を忘れてしまったら、それこそが本当に彼女を殺すことになります。

俺は一生、杏への罪悪感の中で生きていきます。それが、彼女への贖罪なんです」

夜になって、いつものように、夢を見た。

夢の中は、結婚式の日だった。純白のウェディングドレスを着た杏が、目を細めてにっこりと笑っている。

彼女は言った。

「大輝、健やかなるときも、病めるときも、ずっと一緒だよ」

場面は一転し、霊安室の冷たい亡骸へと
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    2年後。X市、聖山朝霧。標高6000メートル。大輝は分厚い防寒着を着ていた。息も苦しく、一歩踏み出すたびにナイフの先を歩くような激痛が走る。それでも、彼は足を止めなかった。首には、一本のペンダントをつけている。ペンダントは精巧な小瓶で、中には杏の遺灰がほんの少しだけ納められていた。大輝は、いっそう無口になった。その冷たい雰囲気は、まるでこの世の全てを超越してしまったかのようだった。彼は、杏が大事にしていた「潔癖症」を、徹底的に貫いていたのだ。身の回りから女性社員を一人残らず遠ざけ、家の使用人さえも口数の少ない年配の男性に代えてしまった。「杏がとても大事にしていた体」だからと、大輝は誰にも触れさせなかった。ついに、山頂にたどり着いた。薄い空気に、くらくらとめまいがする。大輝は手袋を外し、ペンダントを取り出すと、祈るようにそっと唇に押し当てた。「杏。ここなら、天国にも少し近いだろう。お前にも、見えるかい?ここの雪は真っ白で、まるであの日、お前がウェディングドレスを着ていた時のようだ」山を降りた後、大輝は私の名前で、がん治療の基金を立ち上げた。この2年で、彼は治療費に困る数千人もの患者を救った。患者たちが元気になって退院し、家族と抱き合う姿を見るたび、大輝はいつも遠くから、ただ静かにその光景を見つめていた。そして時々、指にはめられたままの結婚指輪に、そっと触れるのだった。友人たちは、彼を心配して声をかける。「大輝、もう2年だ。そろそろ前を向けよ。誰かいい人を見つけたらどうだ?杏さんだって、お前が一生ひとりでいることなんて望んでないさ」大輝は、薬指にはめたままの指輪に目を落とし、やさしく微笑んだ。「杏は、ただ少し遠くに出かけているだけなんだ。彼女は気が強くて、やきもち焼きで、それに潔癖症なんだ。俺が他の誰かを家に入れたら、杏は帰ってきたときに怒るだろうから。だから俺は、この家をちゃんと守ってないといけない。いつか彼女が道に迷って帰ってきたとき、ちゃんとたどり着けるようにね」……40年後。大輝は、老人になっていた。重い病を患った彼は、陽の光が満ちる病室で、静かに横たわっていた。ベッドサイドのテーブルには、あの古いスマホと、テープで貼り合わせた

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