LOGIN幼なじみを亡くした高橋涼太(たかはし りょうた)は、十年もの間私を恨んできた。 私たちの結婚式の翌日、彼は部隊の上層部に申請を出して、最北の地へと赴任した。 十年の歳月。数え切れないほどの手紙を送り、あらゆる努力を重ねてきた私がもらったのは、いつも同じ一言—— 「本当に悔いているなら、いっそ死んでくれ」 それなのに、私が拉致された時、彼はたった一人でアジトに乗り込んで私を救い出した。そのために数発の銃弾を受けた。 死の間際、最後の力を振り絞って、彼は私の手を激しく振り払った。 「この人生で……一番後悔しているのは……お前と結婚したことだ…… もし来世があるなら、頼む……もう俺に関わらないでくれ……」 葬儀の場で、涼太のお母さんは号泣した。 「涼太……無理やり結婚させて、母さんが悪かった……」 憎しみに満ちた目で、涼太のお父さんは私を睨みつけた。 「桜もお前のせいで死んだのによ!この疫病神め、お前が死ねばよかったんだ!」 私たちの結婚を強く応援してくれた連隊長までもが、首を振ってため息を漏らした。 「恋人たちを引き裂いてしまったのがこの私だった。高橋隊長に……申し訳ない!」 誰もが涼太のことを惜しんでいる。 もちろん、私も。 医療支援隊から除名された私は、その夜、農薬を飲んでこの命を自ら絶った。 が—— 再び目を開けた時、結婚式の前夜に、私は戻っていた。 今度こそ、彼ら全員の望みを叶えよう。
View More私は静かに、口を開いた。「彼とは結婚していないし、何の関係もありません。私を捕まえても何の役にも立ちませんよ」「へっ、意外と生意気だね!」男の一人が、口の端だけで冷たく笑った。「俺たちにも情報屋がいるんだよ。あの高橋が一番愛してるのはお前だってな。今日はじっくり見せてもらうぜ。高橋隊長が女のために、どこまでできるのかをな!」まるで前世の悪夢が、そのまま戻ってきたかのようだ。必死にもがいたものの、どうにもならなかった。残されたのは、覚悟を固めることだけだ。——たとえ自ら命を絶つことになっても、もう二度と彼に恩を負うつもりはない。しかし——真っ先に駆けつけたのは、涼太ではなく、健太だ。男たちが罵声を上げている隙に、彼は背後からそっと飛び出してきた。三人は激しくぶつかり合った。劣勢に追い込まれたのを察したのか、男の一人が突然ナイフを抜き、私に向かって襲いかかってきた。「死ぬなら道連れだ!」刃が閃き、瞬く間に目前へと迫ってきた。絶望のあまり、私は静かに目を閉じた。——予想していた痛みは訪れなかった。目を開けると、私の前に立ちはだかっていたのは、涼太の姿。刃がその背中に深々と突き刺さっている。そして彼の口元から、血が絶え間なくこぼれ続けている。「み、美咲……俺はずっと……ずっと後悔してる……もし……お前を大切にしていたら……俺たちは……添い遂げられたのかな……」私の頬に触れようと伸ばしたその手が、途中で力を失い、だらりと落ちた。「本当に……すまない……もしまた来世があるなら……頼む……俺を待っていてくれ……もう二度と、二度とお前を……」最後の言葉を残したまま、彼は息を引き取った。なんとも言えない気持ちで、私はただ黙っていた。生まれ変わったというのに、結局また私の腕の中で死んでしまった。暗がりに隠れていた桜がようやく飛び出してきた。涼太の体を私から乱暴に引きはがし、声を上げて泣き崩れた。「どうしてそいつのために死ぬのよ!?涼太!この馬鹿!嘘つき!」桜は、心の底から泣いているようだ。——結局、彼女もただ、恋に盲目になった哀れな女にすぎなかったのだろう。その愛の形は、世間の枠から外れていたけれど。そう思った矢先に——突然顔を上げた桜
顔を上げた彼の目には、期待の色が満ちていた。しかし、私はゆっくりと首を振った。「私の人生を踏みにじったあなたに、何をもって償えると思うんですか?」私の言葉に、涼太の心はぽっきりと折れてしまったようだった。「すまなかった……本当に、すまなかった……」彼を無視して、私はそのまま病室を出た。それからの日々、私はわざと涼太を避けて過ごしてきた。私のところによく顔を出す健太がそれに気づき、つい尋ねてきた。「あの怪我人と、どういう関係なんだ?」 私は軽く首を振った。「もう終わったことです。触れたくありません」唇を結んだ健太は咳払いをして、話題を変えた。「こんなに長く一緒にいて、実は俺……ずっと前から君のことが好きだったんだ。だから、その……」緊張している健太と違って、私はまったく驚かなかった。この世界では、理由もなく人に優しくする者など存在しない。ここに来てから二年間、健太はずっと、何かと私に気を配ってくれていた。彼の気持ちは、もうとっくに気づいていた。ただ、前世でも今世でも、私は恋に傷ついてばかりだ。——新しい恋に踏み出す力なんて、もう残っていないから。私のためらいを察したのか、健太は慌てて手を振った。「困らせるつもりはないんだ。君を好きなのは、俺の勝手だから、何も気にしなくていい。先のことなんて誰にも分からない。この話で、俺たちの関係まで壊したくはないんだ。ゆっくりでいい……考えてくれれば、それで十分だよ」健太はやはり、こんなにも思いやりのある人だ。私は微笑んで頷いた。「はい。ゆっくりと、考えてみますね」……日々は静かに過ぎていった。涼太の傷もほぼ全快した。ようやく彼から解放されると思った矢先、ある思いもよらない人物が訪ねてきた。——桜だった。「あんた、まだ死んでなかったの!?」歯ぎしりしながら、桜は私を見つめた。私は鼻で笑った。「どうしたのですか?私が生きてて、そんなに残念ですか?」「なんで……なんでいつまでもしつこく生き残ってるの?」恨みに満ちた目で、彼女は睨みつけた。「この二年間、涼太さんがやっと私を受け入れてくれたのに……あんた、なんでまた舞い戻ってくるのよ!?」その憎しみに取り乱した姿からは、かつての誇りなど微塵も感じられ
「よかった、美咲……お前、生きてて……」私はわずかに眉をひそめた。「放してください、涼太さん。傷口が開いています!」しかし、どれだけ力を入れても、手を引き抜くことができない。少しいら立ちを覚えて、私は声を荒らげた。「放してって言ってるでしょ!」涼太は呆然として、ようやく私の手を放した。「どうしてこんなところにいるんだ?」手首を動かしながら、私は話題を変えた。「俺は……犯罪集団の掃討作戦に来たんだ。しかし、罠に嵌められて……お前が死んだと思ってから、ずっと、お前のために何かしなきゃって……前世のような事故を二度と起こさせないために、だから俺は……」その言葉を聞いて、私はすぐに理解した。彼も生まれ変わったのだと。私の表情を見つめながら、彼は恐る恐る口を開いた。「美咲、お前も……生まれ変わったのか?」私は無表情のまま、淡々と彼の包帯を交換した。「大きな動きは控えてください。傷口を濡らさないようにしてください。そして、食事は控えめにし、消化の良いものを中心にしてください……」私の言葉を聞きながら、涼太の瞳の中の光が、少しずつ薄れていった。立ち去ろうとした時、私は突然、彼に呼び止められた。「俺に……何も言うことはないのか?」足を止めた私は、しばらくしてから、ようやく静かに口を開いた。「私に、何を言ってほしいんですか?」涼太の目に、一瞬苦しげな色が走った。「……無事に生きてるのに、どうして……どうして俺を探しに来なかったんだ?お前がいなかったこの数年、俺がどんな思いで過ごしてきたか……分かるのか?もしこの事故でお前に会えなかったら、一生、姿を隠したままでいるつもりだったのか?!前世の俺は悪かった。それは認める。でも、あれはもう前世の話だろう?どうしてまだ、俺を一人に置いていくんだ?」彼はまくし立てるように言葉をぶつけてきた。しかし私は、彼が話し終えるまで何の表情も浮かべなかった。彼がようやく黙った瞬間——私は深く、息を整えた。「終わりましたか?では、私から言わせてもらいましょうか。前世のあなたは、私の十年の人生を無駄にしました。愛していたのは事実ですが、その気持ちはもう終わっています。今世のあなたもまた、何度だって彼女を選んだ。私を傷つけること
かつて両親が健在だった頃、私によく言ってくれた——いつか医者になり、誰かの命を救う人になってほしい、と。今も、その目標に向かっていると言えるだろう。確かな基礎力と、二度の人生で鍛えられた精神力があったからこそ、私は診療所に入ることができた。目を開けるたびに、患者を診察し、調剤の方法を研究し、治療の道を探る——ただそれだけの日々が続いていた。単調ではあったが、不思議なほど充実していた。しかしここは交通手段がほとんどなく、外へ出るにも簡単ではなかった。それでも時には、村人の家まで往診に行かなければならなかった。ある日、診察が長引いてしまい、帰る時にはもう薄暗くなっていた。周囲の空気も、どこかひやりと不気味に冷えていた。最初は、この辺りの寒暖差が大きいだけだと考えていた。しかし——暗闇の中、星屑のように揺らめく緑の光。それがゆっくりとこちらへ迫っているのに気づいた瞬間、私は思わず息をのんだ。オオカミだ!いつの間にか、オオカミの群れに囲まれていた!絶望に呑まれそうになった瞬間、松明の光が暗闇を切り裂いた。それは——健太だった。私の前に立ちはだかった彼は、腰の短刀を抜き放つと、たった一人でオオカミたちに立ち向かった。飢えに狂った群れが一斉に襲いかかってくる。そして健太は短刀を鋭く振り抜き、迫るオオカミを次々と倒していく。その代償も決して小さくはない。全身に無数の傷を負った彼は、足の肉まで噛み裂かれている。アルファを一撃で仕留めたあと、残りの群れはようやく引き下がっていった。幸運にも洞窟を見つけた私たちは、そこで身を寄せ合い、夜明けを待つことにした。骨が覗くほどの彼の傷痕を目にしたとたん、涙は勝手に頬を伝って落ちていった。この男、初めて慌てた表情を見せた。慌てて手を伸ばし、ごつごつした指先で私の涙をそっと拭った。「大丈夫、痛くなんてない。だから泣くなよ。君が俺の故郷を支えてくれたんだ。だからこそ……今度は俺が君を守る」目の前でおろおろしている不器用な青年を見て、私は思わず笑い出した。この日をきっかけに、私が往診へ向かう時には、決まって健太がついてくれるようになった。生活はこのまま穏やかに続くと思っていた。そう思っていたのに。ある日、一人の負傷者が診療所に運ばれてきた。
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