LOGIN桐谷蓮(きりたに れん)と結婚して五年目、彼がホテルで囲っていた女性の存在が暴露され、世間に知れ渡った。 あの女性に「不倫相手」のレッテルを貼られるのを防ぐため、蓮は離婚届を持ち込んだ。「桜井(さくらい)先生には昔世話になったんだ。先生は亡くなる前に、栞里(しおり)のことを頼むと言い残された。今、こんなことが明るみに出て、放っておくわけにはいかない」 ここ数年、桜井栞里(さくらい しおり)は常に蓮にとって最優先だった。 一周目の人生でこの言葉を聞いた時、私は取り乱して大騒ぎし、どうしても離婚したくなかった。 重度のうつ病を患うまで...... 蓮は栞里の「なんか病気には見えないね」という一言を鵜呑みにし、私が仮病を使って気を引こうとしているだけだと決めつけた。そして、私が浮気したかのように画策し、直接離婚訴訟を起こしたのだ。 その時になってようやく、私は結局、彼が口にする恩師への恩義の前では、私の存在など無力なのだと悟り、絶望して自ら命を絶った。 再び目を開けると。 私はためらうことなく、離婚届に署名した。
View More一夜にして、世論は二つに割れたが、どちらも私には関係のないことだった。ある者は、栞里が父親の恩義を盾に私と蓮の結婚を壊し、他人の関係を破綻させたと非難した。またある者は、蓮の愛情は偽りだった、もし単純に恩義に報いるつもりなら、金やコネで十分だったはずだ、と。わざわざ自分の妻をいじめ、挙句の果てには妻を絶望させて離婚に追い込む必要があったのか、と。桐谷蓮の名が傷ついた。グループの株価は不安定になった。それから間もなく、私は、栞里が自作自演で人を雇って蓮とのホテル密会写真を撮らせ、さらに業者を買収して自らを不倫相手と罵らせていたという決定的な証拠を偶然手に入れ、それを世間に暴露した。SNSは大炎上した。蓮もてんてこ舞いで、栞里を海外に送ろうと考えていたが、この話題を目にした後、危うく道端で栞里を絞め殺しそうになった。蓮は栞里を問い詰めた。「なぜこんなことをした?」栞里は最初、感情に訴えようとした。しかし、息ができなくなるほど絞め上げられた時、突然狂ったように笑い出し、あっけらかんと認めた。「桐谷夫人になりたかっただけよ。ハルカさんを蓮さんと離婚させたかっただけ」「蓮さん、もし本当にハルカさんを愛していたなら、私には付け入る隙なんてなかったわ!」蓮は怒りのあまり血を吐き、その場で気を失った。その様子は通行人に動画で撮影され、ネット上で急速に拡散された。桐谷グループの株価は下落の一途をたどり、蓮は意識を取り戻した後も精神が不安定になり、社長の座から引きずり下ろされた。一方、栞里は。今や悪評まみれとなり、海外へ逃亡せざるを得なくなった。だが、不幸なことに。空港へ向かう途中で交通事故に遭い、即死した。結婚式当日。渚は私に盛大な結婚式を挙げてくれた。街中が花で彩られ、夜通し花火が打ち上げられる、誰もが羨むほどの盛大な結婚式だった。ある招待客が、私が渚と結婚したのは前世で徳を積んだおかげだと冗談を言った時、渚は冷笑した後、その人を直接式場から追い出した。そして、誓いの言葉の後、堂々とこう宣言した。「僕は浅野家の婿養子です」「この生涯、浅野家の一員として生き、浅野家の一員として死にます」渚は私の心の中に自分が全てではないかもしれないと知っていた。それでも、私への優しさは変わ
一周目の人生の終わりには、もう蓮を愛しているのか、それとも執着心なのか、自分でも分からなくなっていた。しばらくして、私は皮肉っぽく言った。「蓮、私が求めていたものは、もう本当に些細なことだったのに。それでもあなたは、私のことなんて気にもかけてくれなかった」「私も両親に大切に育てられた宝物なのよ。どうしてあなたに、こんな風に踏みにじられなきゃいけないの?」「だから、もう終わりにしましょう」言い終わると、私は視線を外し、身を翻して去ろうとした時、蓮が慌てて私の腕を掴んだ。すらりとした体は危うくよろめき倒れそうになり、青白い薄い唇が開閉し、言葉を発することができなかった。「駄目だ」「こんな風に終わりになんてできない」「ハルカ、君は俺の妻だ。俺を見捨てないでくれ......」語尾が震えていた。私はフッと笑い、腕を引き抜いた。「私たちはもう離婚したのよ、蓮」「離婚届に署名させたのも、記者会見に出て釈明しろと脅したのも、役所までついてきて離婚届を出させたのも、全部あなたでしょう」「これらは全て、あなたがしたことよ。認めないわけにはいかないでしょう?」「俺は......」蓮は言葉を失った。私が立ち去ろうとすると、彼はまた追いすがろうとした。私は彼の背後を顎で軽く示した。「桐谷さん、実はお似合いよ、あなたと栞里さん」蓮の顔から瞬時に血の気が引いた。蓮が香港に着いたのは、明け方だった。アシスタントがハルカのスケジュールを調べ上げた後、蓮は一刻も休むことなく会いに来たのだ。だが、ウェディングドレス姿のハルカが渚と楽しそうに笑い合っているのを見た時、蓮は次第に足を止め、ただ呆然とクスノキの下に立ち尽くして、その光景を見つめていた。いつからか、ハルカがあんなに楽しそうに笑うのを、あまり見かけなくなったような気がした。顔を合わせれば、栞里のことで喧嘩になり、次第に、彼はあまり家に帰らなくなり、会社に泊まるか、源英たちと朝まで飲み明かすようになった。だから、その瞬間。蓮ははっきりと悟ったのだ......役所でのあの日、ハルカが言った言葉は心からの想いだったのだと。彼女はもう、彼を必要としていない。しかし、彼は彼女なしではいられない。ウェディングドレス店の中で二人がどれだけ時間を過ごし
結局、私は軽く笑顔で渚に頷いた。ただ、蓮が港城に来ることは思いもよらなかった。渚とウェディングドレスとタキシードの試着を終えて出てきたところ、向かいのクスノキの下に立っている蓮が見えた。シンプルな白いシャツ姿で、髪は乱れ、顔色はやや青白く、目には全く光がなかった。視線は私と渚が握り合っている手にしばし留まった後、逸らされた。蓮は無理やりに笑顔を作り、私に向かって言った。「ハルカ、迎えに来たよ。家に帰ろう」「来年の初めまで待たずに、今すぐ帰って再婚しよう。いいだろう?」言い終わると、蓮は私たちの方へ何歩か近づいてきた。渚はとっさに私の前に立ちはだかろうとしたが、私はそれを制した。私は彼の少し歪んだネクタイを直しながら、優しい声で言った。「渚は先に車で待っていて」「すぐに戻るから。お母様が今夜、渚の好物を作ってくれたの。後で一緒に帰りましょう」渚は少し目を伏せながらも、まっすぐ私を見つめ、口角をわずかに上げて、「わかった」と応えた。最後に蓮を淡々と一瞥した後、駐車場の方へと歩き去った。その時、道端には私と蓮だけが残された。蓮が思わずこちらに近づこうとしたので、私は何気ないふりで数歩後ずさり、優しい声で言った。「桐谷さん、私たち、少し距離を保った方がいいわ。さもないと、パパラッチに撮られてしまうかもしれないから」「SNSでまた、私がわざと元夫に付きまとっているなんて噂が流れてしまうわ」いつだって、世間は女性に対して特に厳しいものだ。栞里とのことだって、いい例だ。最初から最後まで判断を誤っていたのは蓮なのに、最終的には私がうつわが足りないということになった。「ハルカ、俺は......」蓮は顔が暗くなり苦々しくて、笑みがまったく目元まで届かなかった。「SNSの件は、もうアシスタントに処理させた。すまない、辛い思いをさせて」「君がそんなに苦しんでいたなんて、知らなかったんだ。知らなかった......」「蓮、あなたは知っていたはずよ」私は蓮を見つめ、淡々とした口調で言った。もし蓮が、世間の非難が人を苦しめ、うつ病にさせることを知らなかったなら、私と離婚してまで栞里を助けようとはしなかっただろう。一周目の人生で、私は複数のホストとの浮気をでっち上げられ、蓮との離婚を宣告された後、
ハルカは笑顔で答えた。「もう愛していません」たった一言が、蓮を妙に息苦しくさせた。蓮はこの場面を何度も繰り返し再生し、ハルカの目の奥に何かを探し出そうとした。結局、何も見つからなかった。苛立ち紛れに、ハルカとのチャット画面を開いた。しかし開いてみると、最後のやり取りは、彼が彼女に九時に役所で離婚届を出すよう念を押し、彼女が「わかった」と一言返信した、ただそれだけの内容だった。それ以降、何もなかった。ハルカは以前、いつも彼にべったりで、どんな些細なことでもすぐに共有してきた。彼もそれを見ればすぐに返事をしていた。彼は履歴を遡ってみた。履歴を遡ると、後半はほとんどがハルカの独り言だった。たまに彼が時間を割いて「わかった」とか「了解」と返す程度。グループの仕事は非常に忙しかった。桜井先生が亡くなってから鬱病を患った栞里は、何度も自殺騒ぎを起こしていた。彼には、とても全てに気を配る余裕などなかったのだ。突然、源英からメッセージが飛び込んできた。【ハルカさんが能村渚と結婚するそうだ】蓮は勢いよく立ち上がり、うっかり隣のイーゼルを倒してしまった。あの山水画が床にはらりと落ち、彼は慌ててそれを拾い上げようとした時。一枚の診断書が画板の下敷きになっていた。彼は一瞬固まり、全ての内容を読み終えた時、指先が微かに震えた。【患者は深刻な情緒不安定、反復する自殺念慮、重度の睡眠障害を認め、中程度のうつ病傾向と診断される】末尾の日付は、彼がハルカに形だけの離婚を切り出した、あの日だった。「蓮さん、どうしたの?」物音を聞きつけた栞里が、寝室から慌ててアトリエに駆け込んできた。栞里は蓮の手の中にある診断書を見ると、かすかに計算高い表情を見せた。「この診断書、見てもいいかしら?」栞里は小声で尋ねた。蓮は何も言わず、ただ胸が鈍く痛むのを感じていた。栞里はそのまま診断書を受け取り、数ページめくった後、わざとほっとしたように息をつき、蓮の肩を叩いて慰めた。「蓮さん、心配しないで」「蓮さん、忘れたの?私もうつ病患者よ。発作が起きた時がどんな様子か、蓮さんは見たことがあるでしょう」「あの日、ハルカさんに会ったけど、すごく元気そうで、全然病気には見えなかったわ」「ハルカさんは、きっと怒りすぎて、