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第3話

Author: 十枝コハク
亡くなった姉の「新たな門出」を祝うため、両親は盛大な進学祝いの席を設けることにした。

そして私は、佳子の代わりとしてそこに出席することになった。

母はこの日のために、姉が生前好んで着ていたものと似た服をわざわざ用意していた。

20年も前に流行ったデザイン。当然、今ではすっかり時代遅れだ。

しかも、母が古着屋や親戚からかき集めてきた中古品ばかり。

襟元がよれているものもあれば、袖口から糸がほつれているものもある。

どの服にも、染みついたような古い匂いが残っていた。

子供の頃は、そんな服を無理やり学校に着ていかされるたび、陰でクラスメイトに笑われた。

けれど今は、もう何とも思わない。

言われるがまま、黙って袖を通した。

私の姿を見た瞬間、母の目に涙が浮かんだ。

分かっている。

母は今も、私を見ているんじゃない。

私を通して、佳子を見ているのだ。

その愛情に満ちた眼差しが、本当の私に向けられたことなど一度もない。

「当日はあんまりニコニコしないで。でも、ちゃんと愛想よくするのよ。

佳子は叔父さんと叔母さんに特に懐いてたんだから、二人とはちゃんと話してね」

母は一つひとつ、念を押すように言い聞かせてくる。

まるで私が少しでも失敗すれば、佳子ではないことがばれてしまうとでも思っているかのように。

そうなれば、みんなが見ている20年前の夢から覚めてしまう。

でも母は知らない。

18年間も佳子を演じ続けてきた私にとって、その仕草も、話し方も、振る舞いも、とうの昔に身体へ染みついている。

今ではきっと、本人以上に「小林佳子」がどんな人間だったのかを知っている。

……

進学祝いの当日。

集まった親戚たちは、私を見るたび懐かしそうに目を細めた。

「愛佳ちゃん、本当に佳子ちゃんそっくりね……」

「もう20年か。早いなあ。あの頃の佳子も、こんな服を着て俺たちを迎えてくれたっけ」

「そうそう。頭の回転が速くて、口も達者で。挨拶だって次から次へと出てきてね」

誰もが私を見ながら、佳子の思い出を語っていた。

昔からずっとそうだった。

親戚と会うたびに――

「愛佳ちゃんも赤が好きなのね。佳子ちゃんと同じ」

「髪型まで佳子ちゃんそっくり」

「じっとしていられないところも一緒ね。佳子ちゃんも、暇さえあれば外へ遊びに行ってたもの」

そう言われ続けてきた。

幼い頃の私は、そのたびに心の中で必死に否定していた。

違う。

私は、お姉ちゃんとは全然違う。

赤なんて好きじゃない。

長い髪だって好きじゃない。

外へ遊びに行くより、家で静かに本を読んだり、絵を描いたりしていたい。

それが、本当の私だった。

……少なくとも、昔はそう思っていた。

けれど歳を重ね、佳子として生きる時間が長くなるにつれて、自分でも分からなくなっていった。

私は本当は、何色が好きだったんだろう。

時間があれば、何をしたかったんだろう。

どんな料理が好きだった?

もし最初から佳子がいなかったら。

もし私が、両親にとって最初の娘だったなら――

私は、いったいどんな名前をもらっていたんだろう。

「愛ちゃん!」

突然、背後から若い男の人の声がした。

驚いて振り返る。

そこにいたのは、叔母の息子――私より3歳年上の従兄、佐藤蓮(さとう れん)だった。

この場にいる親戚の中で、唯一、生前の佳子を知らない人。

そして唯一、昔から「愛ちゃん」と呼んでくれる人だった。

蓮兄ちゃんは3年前、県外の大学へ進学した。

それ以来、一度も会っていない。

「久しぶり、愛ちゃん」

昔と変わらない笑顔で、蓮兄ちゃんは私の頭をくしゃっと撫でた。

そして、一つの箱を差し出す。

「これ、進学祝い」

私は呆然としながら受け取り、箱を開けた。

中に入っていたのは――

きちんと揃えられた、高価そうな画材一式だった。

蓮兄ちゃんは少し照れくさそうに頭をかいた。

「小さい頃、絵を描くのが好きだっただろ?今も使うか分からないけどさ」

「……」

続いて、もう一つ紙袋を差し出してくる。

「こっちは母さんから。

大学生になるんだからって、若い子に似合いそうな服を選んだんだってさ。

気に入ってくれるといいんだけど」

私はゆっくりと紙袋の中を覗いた。

淡い水色のワンピース。そして、真っ白な半袖のシャツ。

どちらも、ごく普通の服だった。

古くもない。

佳子が好きだった服でもない。

18歳の私が着るために選ばれた服。

ただ、それだけだった。

なのに――

視界が一瞬で滲んだ。

顔にはまだ、「佳子」の笑顔が貼りついている。

こんなとき、小林愛佳なら何て言うんだろう。

どんな顔をするんだろう。

必死に思い出そうとした。

けれど――

何一つ、思い出せなかった。

そうか。

私は別に、入学式の前日まで待って溺れ死ぬ必要なんてなかったんだ。

本当の小林愛佳は――

とっくの昔に、死んでいた。

今ここにいる私は、ただの出来損ないの「小林佳子」にすぎない。

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