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あの朝別れて、遠く離れた彼方へ

あの朝別れて、遠く離れた彼方へ

By:  終雪Completed
Language: Japanese
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共通テストの自己採点結果が出たあの日、私、古谷未来(ふるや みらい)は彼氏の三浦修平(みうら しゅうへい)と、卒業記念旅行の帰りの新幹線に揺られていた。 もちろん、血の繋がらない姉の浅見千佳(あさみ ちか)も一緒だった。 千佳は昔から窓側の席を譲らない。修平は当然のようにその隣に腰を下ろす。 気づけばこの旅の間、一人取り残されているのはいつも私だった。 「僕とちぃちゃん、志望学部のことちょっと話したいんだけど。みぃちゃんはまだ自己採点、微妙な感じでしょ?隣でドラマでも観てて」 車窓の景色が流れていくあいだ、ふたりの笑い声だけが響いて、私の入る隙間はどこにもなかった。 これが、修平が3年前から約束していた卒業記念旅行の「現実」だった。 午前10時、予告されていた通り、各予備校から解答速報が出そろった。 千佳が声を弾ませて修平に抱きつく。 「やったぁー、この判定なら、西京大のどの学部でも狙えるよ!」 修平も笑って答える。 「グループチャット見てよ。親たちがもうお祝いメッセージのラッシュだから」 私はふたりの後ろの席で、それを黙って聞いていた。ふいに、スマホから両親の弾んだ声が聞こえてきた。 「ちぃちゃんも修平も、こんなに取れるなんて!ほんと自慢の子たちよ」 続けて、修平の両親の声も混じった。 うつむいたままスマホを開くと、グループチャットにはやはり招待されていなかった。私を気にかける声は、どこにもなかった。 もういい。あのふたりはもう、これからの人生を選び終えたんだから。 私も、私だけの未来へ、迷わずに進めばいい。

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Chapter 1

第1話

共通テストの自己採点結果が出たあの日、私、古谷未来(ふるや みらい)は彼氏の三浦修平(みうら しゅうへい)と、卒業記念旅行の帰りの新幹線に揺られていた。

もちろん、血の繋がらない姉の浅見千佳(あさみ ちか)も一緒だった。

千佳は昔から窓側の席を譲らない。修平は当然のようにその隣に腰を下ろす。

気づけばこの旅の間、一人取り残されているのはいつも私だった。

「僕とちぃちゃん、志望学部のことちょっと話したいんだけど。みぃちゃんはまだ自己採点、微妙な感じでしょ?隣でドラマでも観てて」

車窓の景色が流れていくあいだ、ふたりの笑い声だけが響いて、私の入る隙間はどこにもなかった。

これが、修平が3年前から約束していた卒業記念旅行の「現実」だった。

午前10時、予告されていた通り、各予備校から解答速報が出そろった。

千佳が声を弾ませて修平に抱きつく。

「やったぁー、この判定なら、西京大のどの学部でも狙えるよ!」

修平も笑って答える。

「グループチャット見てよ。親たちがもうお祝いメッセージのラッシュだから」

私はふたりの後ろの席で、それを黙って聞いていた。ふいに、スマホから両親の弾んだ声が聞こえてきた。

「ちぃちゃんも修平も、こんなに取れるなんて!ほんと自慢の子たちよ」

続けて、修平の両親の声も混じった。

うつむいたままスマホを開くと、グループチャットにはやはり招待されていなかった。私を気にかける声は、どこにもなかった。

もういい。あのふたりはもう、これからの人生を選び終えたんだから。

私も、私だけの未来へ、迷わずに進めばいい。

……

しばらく経つと、修平はようやく私の存在を思い出したようだった。

彼は売店で買ってきたスイカジュースの蓋を開け、気を利かせたつもりなのか、千佳の前にそっと置いた。

それから、私にはミネラルウォーターを一本差し出した。

「何が飲みたいかわからなかったから、水にしといた」

千佳がスイカジュースを好きだということは覚えているのに、彼女である私が何を飲みたいかは知らない。

鼻の奥がツンと熱くなった。

思いがけない好成績に沸き上がっていた喜びも、あっという間にどこかへ消えていった。

私は受け取らず、リュックから自分で買ったスイカジュースを取り出した。

差し出されたままだった修平の手が、宙で止まる。彼の顔に、はっきりと不快の色が浮かんだ。

「卒業記念旅行に行きたいって言い出したのは、みぃちゃんじゃなかったっけ?正直わからないよ。ここ数日、なんでずっと機嫌が悪いんだ?」

3年前、私と同じ高校に通わせるために、彼は高校を卒業したらふたりで夏海市に旅行しようと約束してくれた。

だから私は3年間、一緒に海を見て、原付を走らせて朝日を見に行く日を心待ちにしていた。

それが今は、私がわがままを言って、無理やり付き合わされた旅行ということになっている。

さらに、出発前になって初めて、修平が千佳を連れてくることを知った。

海辺に着いた初日、修平は私が手作りした旅のしおりを受け取った。すると千佳が近づいてきて、困り顔で言った。

「行きたい場所、多すぎない?この靴、ちょっと合わなくて……」

それを聞いた修平は、予定していたスケジュールをすべて取り消した。何日も徹夜して作った私のしおりは、あっさりゴミ箱に放り込まれた。

「みぃちゃん、遊びに来たんだからもっと気楽にいこうよ。そんなに几帳面にならなくていいだろ」

そうして私たちは、夏海市の有名な観光地、残波岬へ向かった。

千佳が頬を赤らめて私に尋ねる。

「ねえみぃちゃん、私、修平と一緒に撮ってもいい?一人だとポーズ決めるの、恥ずかしくて」

私が答えるより先に、修平にチェキを手渡された。

「僕のことは気にしなくていいから。ちぃちゃんを可愛く撮ってあげて」

私は自嘲気味に笑った。断る気力さえ失せていた。

海辺でSNSに交際を報告するためのツーショットを撮ろうと、私はしばらく写真の練習までしていた。

それなのに今、残波岬のファインダーの中で切り取られているのは、彼氏と、彼氏の隣にいる別の女の子だった。

千佳の動きが、私の思考を現実に引き戻した。彼女はすばやくペットボトルの水を受け取ると、甘えるように修平の肩を小突いた。

「修平、みぃちゃんはきっと試験の出来が悪くて、それで落ち込んでるんだよ。彼氏なんだから、もう少し気遣ってあげなよ。ほら、謝って!」

千佳はいつもこうやって、人の気持ちを汲むのが上手だった。

高校に上がって彼女が家に来てから、私たちふたりは事あるごとに比較されるようになった。

彼女は人懐っこく、愛想が良くて誰からも好かれる。その隣で私は、気の利かない厄介者扱いされるようになった。

両親はかつて、いつも親しげに「みぃちゃん」と呼んでくれて、私のことを可愛がってくれた。

けれど千佳が来てからというもの、耳にタコができるほど聞かされる言葉は、これに変わった。

「みぃちゃんも、ちぃちゃんを少しは見習ったら」

一緒に育った幼馴染の修平でさえ、例外ではなかった。

彼は立ち上がると、気まずそうに頭をかいた。

「ごめん、ちぃちゃん。浮かれすぎてて、配慮が足りなかった」

確かに謝ってはいた。でもその言葉は、千佳に向けられたものだった。

一瞬、彼が何に対して謝っているのか、私にはわからなくなった。

千佳が私の席のそばに歩み寄り、しゃがみ込んだ。

「みぃちゃん、あんな言い方気にしないで。最悪、浪人すればいいよ。西京大で待ってるから」

すかさず修平も同調する。

「そうだな。お前、基礎は少し弱いけど、もう一年やればきっと西京大を狙えるよ。そのときは、ちぃちゃんとふたりでちゃんと教えてあげるから」

私は何も返さず、うつむいたままスマホの画面をなぞっていた。

今回の共通テストでは思いがけないほどの好成績を収め、西京大はA判定、それもかなり上位だった。

この点数なら、同じ受験科目で出願できる学部の中から、好きなところを選べる。

けれど今はもう、彼らと同じ大学に進みたいとは思えない。

こんな「引き立て役」は、もう終わりにしよう。

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第1話
共通テストの自己採点結果が出たあの日、私、古谷未来(ふるや みらい)は彼氏の三浦修平(みうら しゅうへい)と、卒業記念旅行の帰りの新幹線に揺られていた。 もちろん、血の繋がらない姉の浅見千佳(あさみ ちか)も一緒だった。 千佳は昔から窓側の席を譲らない。修平は当然のようにその隣に腰を下ろす。 気づけばこの旅の間、一人取り残されているのはいつも私だった。 「僕とちぃちゃん、志望学部のことちょっと話したいんだけど。みぃちゃんはまだ自己採点、微妙な感じでしょ?隣でドラマでも観てて」 車窓の景色が流れていくあいだ、ふたりの笑い声だけが響いて、私の入る隙間はどこにもなかった。 これが、修平が3年前から約束していた卒業記念旅行の「現実」だった。 午前10時、予告されていた通り、各予備校から解答速報が出そろった。 千佳が声を弾ませて修平に抱きつく。 「やったぁー、この判定なら、西京大のどの学部でも狙えるよ!」 修平も笑って答える。 「グループチャット見てよ。親たちがもうお祝いメッセージのラッシュだから」 私はふたりの後ろの席で、それを黙って聞いていた。ふいに、スマホから両親の弾んだ声が聞こえてきた。 「ちぃちゃんも修平も、こんなに取れるなんて!ほんと自慢の子たちよ」 続けて、修平の両親の声も混じった。 うつむいたままスマホを開くと、グループチャットにはやはり招待されていなかった。私を気にかける声は、どこにもなかった。 もういい。あのふたりはもう、これからの人生を選び終えたんだから。 私も、私だけの未来へ、迷わずに進めばいい。……しばらく経つと、修平はようやく私の存在を思い出したようだった。彼は売店で買ってきたスイカジュースの蓋を開け、気を利かせたつもりなのか、千佳の前にそっと置いた。それから、私にはミネラルウォーターを一本差し出した。「何が飲みたいかわからなかったから、水にしといた」千佳がスイカジュースを好きだということは覚えているのに、彼女である私が何を飲みたいかは知らない。鼻の奥がツンと熱くなった。思いがけない好成績に沸き上がっていた喜びも、あっという間にどこかへ消えていった。私は受け取らず、リュックから自分で買ったスイカジュースを取り出した。差し出されたままだった修平
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第2話
新幹線から降りると、修平が千佳のスーツケースを押して先を歩いていた。私は後ろからついていく。改札階へ向かうエレベーター前には、人が何人も並んでいた。私が先にエレベーターに足を踏み入れた瞬間、「満員」のブザーが鳴り響いた。千佳はまだ外に立ったままだった。修平は私をスーツケースごと外へ押し出し、代わりに千佳をエレベーターの中へ引き入れた。「みぃちゃん、スーツケースが大きいから場所を取っちゃうんだよね。次のに乗ってきて!改札で待ってるから!」反論する間もなく、扉は閉まった。ホームに取り残された私の前を、新幹線が風を巻き上げて通り過ぎていく。その風は頬に冷たく当たり、そのまま心の奥まで冷えていくようだった。改札口にたどり着いたとき、ふたりの姿はどこにも見当たらなかった。迎えに来てくれるはずだった両親の姿もない。夏の空模様は変わりやすい。折しも雨が降り出し、みるみるうちに激しさを増していく。傘を持っていなかった私は、軒下に避難して両親に電話をかけた。30分近くかけ続けて、ようやく繋がった。父・古谷淳(ふるや あつし)が驚いた声を上げた。「まだ乗ってなかったのか?いやあ悪い、バタバタしてて、もう車に乗っているものとばかり思っていたよ」母の古谷紗由理(ふるや さゆり)が横から文句を言いながら、電話を奪い取った。「もう、お父さんったら本当にそそっかしいんだから!まあいいわ、私たちもうすぐ家に着くところだから、タクシーで帰ってきなさい」土砂降りの雨を見つめていると、視界がだんだんぼやけていった。車には、両親と千佳、修平の4人が乗っていた。それなのに、私がいないことに誰一人として気づかなかったのだ。いつの頃からか、私はこの家の中で、少しずつ透明な存在になっていた。駅は郊外にあり、タクシーがなかなか捕まらない。すっかり日が暮れてから、ようやく客を降ろしたばかりのタクシーを止めることができた。運転手は私がずぶ濡れなのを見て、グローブボックスからタオルを取り出して渡してくれた。「お嬢さん、これで拭きな。風邪をひくといけないからね。この駅、タクシーが本当に捕まりにくいだろ。家の人に迎えを頼まなかったのかい?」目の奥がまた熱くなった。私はただ、力なく首を横に振った。迎えには来ていたのだ。ただ、その対象が私では
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第3話
翌日、担任に呼ばれ、進路指導室へと向かった。私が提出した志望校調査票を指さしながら、先生は深いため息をついた。「未来、こんなに良い判定が出ているのに、どうして西京大を書かなかったんだ。香江大は確かに一流だが、ここからは遠く離れているんだぞ。もう一度、よく考え直してみなさい」皮肉なことに、自己採点結果が出てから今までで、私の進路を気にかけてくれたのは担任だけだった。「先生、もう決めましたので。ご意見、ありがとうございました」香江市は、この街から遠く離れている。それは、私にとってちょうどいい選択にほかならない。……それから1ヶ月あまりが過ぎ、卒業式の日を迎えた。朝早く、階下の物音で目が覚めた。ぼんやりした頭のまま、体を起こして下を覗く。修平がすでに制服に着替え、リビングに座っていた。私に気づくと、手を振ってくる。「あれ、今日卒業式だろ?まだ支度してないのか?」高熱でぼうっとしていた私は、クラスのグループチャットすら見ていなかった。私が答えるより早く、千佳が部屋から出てきた。彼女の手には、卒業式後のパーティーで着るため、私が半年も前からこつこつ手作りしていたワンピースが抱えられていた。ウサギとキツネの刺繍をあしらった、修平のジャケットとお揃いのデザイン。たった2着の衣装を仕上げるために、私は何度針で指を刺したか分からない。千佳はワンピースを胸に抱き、落ち着かない様子で布地を強く握りしめていた。「これ、すごく気に入ってて……おばさんも似合うって言ってくれて。でも、みぃちゃんが嫌なら、今すぐ返すから」口では返すと言いながら、手はますます強くワンピースを握りしめていた。修平が慌てて駆け寄り、千佳を庇うように立った。「みぃちゃん、お前は服なんていっぱい持ってるだろ。ちぃちゃんはこの一着がいいって言ってるだけなのに、なんで返させようとするんだよ」物音を聞きつけた母も出てきた。「もういい加減、そんなに細かいこと言わないの。ちぃちゃんに着ていいって言ったのは私よ。たかが服一着のことじゃない。あなたは別のを着ればいいでしょ」喉の奥に、割れたガラスの破片を押し込まれたような鋭い痛みが走った。「……私は返せなんて、一言も言ってない」けれど、その言い分に耳を貸す人は誰もいなかった。私が慌てて支度を終えたとき
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第4話
卒業式が終わり、みんなが会場を後にしていく。千佳に言われて、ようやく両親と修平は私の存在を思い出した。「みぃちゃん、またどこかふらふらしてたの?」私は何も言わず、黙って車に乗り込み、自ら一番後ろの座席に座った。誰も気にする様子はなく、車に乗るなり進学先や学部の話で盛り上がっていた。「ちぃちゃん、修平と一緒に西京大に行けるなら、あの子がついててくれるし、私たちも安心よ」千佳は頬を染めてこくりと頷いた。入学後にどの分野を重点的に学ぶかで両親は意見が割れ、ひとしきり言い合いになった。結局、千佳自身の意思を尊重することで落ち着いた。「ちぃちゃんは賢くてしっかりしてるから、みぃちゃんと違って、私たちが口出しする必要なんてないもの」私はずっと黙っていた。家に着く直前になって、ようやく一番後ろに座る私の存在に気づいた。母が聞いてくる。「ねえみぃちゃん、あなたはどうするつもり?」答える前に、修平が先に口を開いた。「みぃちゃんは今回うまくいかなかったので、もう一年、受験勉強をすることになりました。大丈夫です。僕とちぃちゃんが先に西京大の様子を見てきて、来年みぃちゃんが追いついてくるのを待ちますから」両親は顔を見合わせ、ため息をついた。「はぁー、みぃちゃんもちぃちゃんの半分でも手がかからない子だったらよかったのに」私は瞬きをした。涙がスマホの画面にぽたりと落ちた。画面に表示された判定結果が、やけに眩しく目に刺さった。誰ひとり、私に直接尋ねようとはしなかった。ただ修平の一言だけで、私が失敗して浪人すると決めつけられた。香江大に進学すると決めてから、私は小さい頃から両親にもらったアクセサリーを、ひとつずつ売り払い始めていた。修平が毎年誕生日や記念日にくれたプレゼントも、すべて含めて。それまで貯めていたお年玉と合わせると、まとまった額になった。これで学費と、最初の数ヶ月の生活費は十分に賄えるはずだった。整理も荷造りも終え、私は香江大の合格通知書をきちんとしまい、スーツケースを閉じていた。スーツケースを引いて部屋を出たとき、家の中には誰もいなかった。修平から電話がかかってきた。「未来、浪人予備校、僕が代わりに見ておいたよ。今日の合格祝いのパーティーが終わったら、一緒に申し込みに行
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第5話
がしゃん、と音を立ててスマホが床に落ちた。母はその場に立ち尽くしたまま固まった。その様子に驚いた父がスマホを拾い上げ、信じられない様子でもう一度尋ねた。「花田先生、何か勘違いされてるんじゃないですか?千佳だってかなり良い判定だったんですよ。未来がそれを上回るなんて、あり得ないでしょう」横から口を挟んだ父の言葉に、花田先生はますます訳が分からなくなった。娘の成績をこれまで把握していなかったことも理解しがたい。まして、好成績を知ったときの反応が、喜びではなく、真っ先に疑うことだとは思いもしなかった。「未来さんのお父様、間違いではありません。未来さんは今回、本当に素晴らしい結果を出しました」花田先生は、はっきりと言い切った。「西京大もA判定でしたが、本人は香江大を受験し、すでに合格しています。それも校内で最上位の成績でした」父は全身から力が抜け、そのまま椅子に崩れ落ちた。電話を切ったあと、花田先生から、学校が把握している進路状況と、未来とのメッセージのやり取りのスクリーンショットが送られてきた。パーティーもたけなわになったころ、叔父が両親に向かって、「せっかくだから、ちぃちゃんを育てたお二人からも一言」と声をかけた。皆の視線がふたりに集まる。けれど、その瞬間、ふたりの顔からさっと血の気が引いた。全員に見つめられるなか、ふたりはどうにか笑顔を作った。泣き顔よりもぎこちない、痛々しい笑みだった。ひととおり挨拶が終わると、親戚たちが両親のもとへ集まり、話し始めた。叔母が母に尋ねる。「あら、みぃちゃんは?見かけないけど。あの子、賑やかなことが大好きだったじゃない」母の口元がひきつり、言葉が出てこなかった。そうだ、未来は昔から、賑やかなことが大好きな子だった。いつからだろう、あの子が口数少なくなって、何も話してくれなくなったのは。以前は、月例テストで1点上がっただけでも、甘えてご褒美をねだってきたのに。今回、こんなに良い結果を出したというのに、あの子は一言も口にしなかった。母の喉に、何かが刺さったまま抜けなかった。飲み込むことも、吐き出すこともできなかった。伯父も近づいてくると、入学祝いののし袋を父に差し出した。「これは、みぃちゃんへの入学祝いだ。さっきから姿が見えないけど、あとで渡
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第6話
修平は一瞬息を呑み、慌てて前に出るとスマホを受け取った。画面に表示された判定結果と、香江大への合格を示す内容を何度も見つめる。それから自分のスマホを取り出し、見比べる。母を見上げたまま、唇は震えるのに、一言も反論の言葉が出てこなかった。なぜなら、私が本当に好成績を収め、香江大に合格していたのは事実で、彼自身が確かに「浪人する」と口にしたのも事実だったから。「おばさん……」母は手を振って彼の言葉を遮ると、そのまま踵を返して歩き出した。道すがら、何度も私に電話をかけ続けた。修平も会場の隅にしゃがみ込み、私に大量のメッセージを送ってきた。私は飛行機の中で、そのどれにも気づかなかった。家に着くと、母は待ちきれない様子でドアを開けた。家の中で私の名前を大声で呼んだが、どれだけ声を張り上げても、答える者は誰もいなかった。すぐ後を追って帰ってきた父と顔を見合わせ、ふたりは何かに気づいたように階段を駆け上がった。部屋は一見、いつもと変わらないように見えた。ただ、ゴミ箱の中には写真の束と、切り刻まれたチェキが捨てられていた。母はゴミ箱のそばにしゃがみ込み、1枚1枚拾い上げた。物心ついてから撮ってきた家族写真。幼稚園の頃から修平と撮ってきたツーショットも、すべて私の手で切り刻まれていた。思い出も、情も、この破片と同じように、私はすべてゴミ箱に捨てていった。父がクローゼットを開けると、私が大切にしていたプレゼントの数々が消えていた。通帳や印鑑、身分証も、一緒になくなっていた。母は床に崩れ落ち、狂ったように父を叩いた。「あなたのせいよ!あなたが千佳を無理やり引き取ろうって言ったせいで、みぃちゃんを失ったのよ」ドアが開き、千佳と修平が戸口に立っていた。母は気まずそうに顔を背けた。修平は千佳を背にかばうように立つ。「おばさん、みぃちゃんって昔から、自分のことを何でも話すような子じゃなかったでしょう。今回だって、成績のことを僕たちに何も言わなかったんです。知らなかったのは仕方ないじゃないですか。それを全部、僕たちのせいにされても困ります。それにみぃちゃん、前から急にどこかへ出かけること、よくあったでしょう?僕は、みんなが少し心配しすぎてるだけだと思います。今回も、どこかへ遊びに行ってるだけですよ」
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第7話
飛行機を降りて、スマホの電源を入れた瞬間だった。まるでスマホが壊れたかのように、百件近い通知が一気に画面を埋め尽くした。数え切れないほどの着信履歴が並んでいた。母からのメッセージ。【みぃちゃん、あなたって子はどうしてそんなに我が儘なの?】【香江大に行くって、どうして私たちに黙ってたの?】【いったいどこに行ったの?いつになったらお母さんを安心させてくれるの?】修平からも大量のメッセージが届いていた。【みぃちゃん、西京大でもA判定だったんだって?どうして黙ってたんだよ!】【もう意地を張るのはやめて、おばさんをこれ以上心配させないで、早く帰ってきて】【香江大に行くなんて本気なのか?一度帰ってきて、ちゃんと話し合おう】冷ややかに画面を一瞥すると、迷うことなく全員をブロックし、メッセージもすべて削除した。空港の自動扉を抜けると、香江の熱を帯びた湿った風が正面から吹きつけてきた。胸の奥に、生まれ変わったような解放感と、確かな勇気が湧き上がってくる。私は、私だけの未来へ向かって一歩を踏み出した。空港を出てすぐ、ナビアプリで大学から指定された集合場所までの道を調べていたところ、ふいに中年の女性に肩を叩かれた。振り返ると、物腰が柔らかく、どこか知的な雰囲気をまとった女性が立っていた。彼女はスマホを掲げ、じっと私の顔と見比べてから、ぱっと手を叩いて笑った。「間違いない、あなたね」土地勘もなく、しかもひとりきり。自然と警戒心が湧き上がった。「どなたですか?私に何かご用ですか?」疑いの目で数歩後ずさり、スーツケースを強く握って逃げようと身構える。彼女は慌てて身分証を取り出そうとしながら、私を引き止めようとスーツケースの持ち手に手を伸ばした。そのただならぬ勢いがかえって私を怯えさせ、私は荷物すらその場に放り出して駆け出してしまった。貴重品の入った手荷物だけを抱え、呆然としたまま香江大のキャンパスにたどり着いた。道中もずっと、荷物を失くしたらどれほどの痛手になるだろうかと頭を抱えていた。多少の持ち合わせがあるとはいえ、今後の学費と生活費だけでも決して小さな出費ではない。早く奨学金や学内の仕事を見つけなければ。そんな焦りを抱えながら歩いていると、学部の教員や先輩たちが新入生を案内するために立っ
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第8話
手にしていた記念品が、からり、と音を立てて冷たい床に落ちた。血の気が引くのを感じながら何度も後ずさり、背後の段差につまずいて、その場に深く尻もちをついた。両親が慌てて駆け寄り、助け起こそうと手を伸ばしてきた瞬間、封印しかけていた息苦しい記憶が、心臓を直接握りつぶすような鋭い痛みとともに、一気に脳裏へあふれ出た。「触らないでっ!」両親の手が、不自然に宙で止まった。その目に、かつて見せたことのない苦く沈んだ色が浮かぶ。「みぃちゃん……どうしたの、お母さんよ」止めどなく涙が頬を伝い落ちる。喉を詰まらせ、しゃくり上げながら、私は心の底に溜まり続けた言葉を絞り出した。これまでずっと見過ごされ、空気のように当たり前に扱われてきた、絶望の瞬間のひとつひとつを。「違うよ……私の心の中では、あなたたちはもうとっくに、親なんかじゃない!私には、他人の好みばかり覚えている母親なんていらない!私がどれだけ頑張っても一度も認めてくれなくて、いつも私を他人以下に扱う母親なんて、もういらないの!」私は、隣で気まずそうに黙り込み、涙を浮かべる父へ憎しみの視線を向けた。「私には、いつも私を平気で置き去りにする父親なんていらない。あなたたちにはもう、自慢の千佳がいるじゃない。なのになんで、私がやっと手に入れた静かな新しい生活まで、かき乱しに来るの!」母が取り乱したように前に出て、私の肩を抱きしめようとした。「違うの、そうじゃないの、みぃちゃん!」「ちぃちゃんは両親を早くに失った可哀想な子なのよ。あの子が健気に頑張っているのを見て、私たち、胸が痛くて仕方なくて。だからせめて、あの子には少しでも多く温もりを与えてあげたくて」母は持参した紙袋から、一着のワンピースを取り出し、震える手で私に押しつけようとする。私は差し出されたワンピースを拒み、ただ冷ややかに一歩下がった。「いらない。千佳の卒業記念写真の撮影には意気揚々と付き添って、実の娘である私の撮影を完全に忘れていたあの日から、そんなもの、もう二度と必要なくなっていたの」父が顔色を変えて前に出ると、私の腕を強くつかんだ。「みぃちゃん!どうしてそんなに心が狭いんだ!たかが卒業記念写真の撮影に付き添ってやれなかったからって、そこまで親を恨み続けるのか?これまでこれだけ金を出して勉強させ
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第9話
修平は、学部棟の入り口に立っていた。ずいぶんと憔悴しきった、哀れな姿だった。私を見つけた瞬間、その落ちくぼんだ目に異様な光が差した。「みぃちゃん!何度もお前を探しに来たんだぞ。やっと会えた!」その声には、昔と変わらない、甘えるような、どこか拗ねた響きが残っていた。彼が手を伸ばそうとしたので、私は何歩も後ずさった。「修平、いったい何のつもり?もう十分すぎるほど分かったでしょ」私は長い間、確かに彼への想いを抱いていた。これまで一度だって、彼にきつい言葉をぶつけたことなどなかった。そんな私の冷ややかな拒絶に、彼はまるで自分が傷つけられた被害者であるかのように、その場で固まった。「い……今、なんて言ったの?僕がこの数ヶ月間、どれだけお前を想って苦しんでいたか、分かってる?西京大でずっとお前が戻ってくるのを待っていたのに、なんで連絡もなしに、こんな遠くの香江大なんて選んだんだよ!」私は手首の時計に冷ややかに目をやった。もうすぐ午後の講義が始まる時間だった。これ以上彼の感傷に付き合う気力もなく、ただ事実だけを率直に告げた。「あなたと千佳の顔を、二度と見たくなかったからよ。目に入るだけで不愉快だったの。これでお望みの答えになった?」言い終えると、彼の脇をすり抜けて校舎へ向かおうとした。その瞬間、彼が突然背後から手を伸ばし、私を抱きしめてきた。「頼むからやめてくれ!僕とちぃちゃんの間には本当に何もないんだ!勝手に誤解して僕を捨てないでくれ、頼むから!」その不快な腕を振りほどけず、私は思い切り鋭い悲鳴を上げた。すぐに異変に気づいた周囲の学生たちが、四方八方から集まってきた。みんなで修平を引き離し、口々にこの無礼な男を非難し始めた。誰かがすかさずスマホを構え、彼の取り乱した姿を撮影し始める。「女子学生に対する迷惑行為だ。ネットに動画を上げてやろうか!」「いい大人が、嫌がる女の子相手に何やってるんだ。今すぐ離れないと痛い目を見るぞ!」「もうキャンパスの警備員を呼んだからな。そこで大人しくしてろ!」修平は激しく取り乱しながら、カメラのレンズを手で隠しつつ弁解した。やがて駆けつけた警備員が、彼の両腕をしっかりと取り押さえる。「違うんです、誤解なんです!僕は彼女の彼氏なんです!恋人同士の痴話喧嘩で、迷惑行為
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