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第62話

last update Dernière mise à jour: 2025-05-10 20:19:50

「良かったです。 Ign:s が空気ギスギス集団じゃなくて」

「いや、どんな集団だよ」

 ヨシノさんのツッコミに、ミヤビさんが笑う。

「俺たちは仲良しだよ。もちろん皇羽ともね」

「え! 玲央さんと皇羽さんの事、ご存じなんですか?」

「もちろんだよ。皆の協力があっての〝交代制〟だからね」

 ニコリと笑うミヤビさんに、ちょっと違和感を覚えた。だって〝皆で協力して〟玲央さんを自由気ままにさせるって変じゃない?

「あの、玲央さんって……あ、漢字の方の」

 おずおずと口を開くと、カズサさんが私の後ろで「漢字の方……っ」と笑った。笑いのツボが限りなく浅い人だ。

 聞かなかった事にして、再びミヤビさん達に尋ねる。

「玲央さんって、どういう人なんですか?」

「玲央? なんで?」

「自由人なのに、皆から信頼されている理由が分からなくて」

「……そっか」

 ミヤビさん、ヨシノさんは少しだけ笑った。そして何も言わなかった。後ろにいるカズサさんもかげろうさんも、誰も口を開かない。

「あの……?」

 困った私の所へ、撮影を終えた玲央さんが戻ってくる。そして「予定変更で全体撮影だってさー」と皆を集めた。

「おっと行かなきゃ。じゃあね萌々ちゃん。今日は会えて嬉しかったよ」

「え、ちょっと。まだ話は、」

 終わってない――と言おうとした時。

 ヨシノさんが口を開く。

「レオは唯一無二のセンターだ。それだけの実力を持っている。俺たち Ign:s をここまで引っ張ってくれた張本人だから」

「その〝レオ〟は玲央さん皇羽さん、どちらの……」

 次に、ミヤビさん。

「それは自分の目で確かめてみて。きっと答えは見つかるから」

「答え……?」

「萌々ちゃんなら、きっとね」

 そう言って、メンバーが次々に私を抜かしてカメラの前に集まる。

 玲央さんも初めはカメラの前に立っていたんだけど、「忘れ物」とこちらへ戻って来た。

「玲央さん、どうしたんですか?」

「うん、ちょっと気分が」

「体調悪いんですか⁉ 待っていてください、奥で休めるか店長に聞いて――」

 言い終わる前に、玲央さんは私の腕を引っ張る。

 そして耳元に口を近づけ、私にしか聞こえない声量で喋った。

「言い忘れてたけど、その服すごく似合ってる」

「……へ?」

 訳が分からなくて、ポカンと口を開ける。私から離れる玲央さんと、視線を交えながら。

「今は俺を見
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