LOGIN私には、大好きな夫がいる。 だけど、結婚してからもその夫は私の義妹・胡桃(こもも)ばかりを優先して、喧嘩になることもしばしば。 口論になると、夫の誠司(せいじ)はいつだって【離婚】を切り出してくる。 私は誠司が大好きだから、いつも離婚を切り出されるとすぐに泣いて謝ってきた。 だけど、誠司が胡桃を優先する度に、喧嘩になる度に【離婚】と言う言葉を口にする度に──。 あれだけ大好きだった気持ちが冷めていく。 夫からの99回目の【離婚】の言葉。 99回目が、最後と決めていた。 私は夫と本当に離婚した。 もう、夫誠司には何の未練も、愛情も残っていない。 これからは、自分で一人で、生きていく──。 そう思っていた私の目の前に現れたのは、容姿端麗で、とても背の高い男性。 その男性は、私に告げた。 「もみじさん。俺と結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?あなたが好きです」 その男性は、ただの会社員だと思っていたのに、大企業の社長で──。 全てを知った前夫の誠司が、私に泣きながら謝罪をし、離婚を取り消して欲しいと言ったけど。 私はもう既に大好きな旦那様がいるのだ。
View More◇ 誠司に家がバレてしまった事など露知らず、もみじは穏やかに過ごしていた。 髙野辺が体調を崩した、と聞いてお見舞いに行ってから数日。 次の出社日には髙野辺も普通に出社しており、もみじはほっと安心した。 髙野辺の家で話す事は出来なかったが、もみじは自分のデザインが完成した事を髙野辺に報告し、髙野辺は早速商品化について打ち合わせをしてくれた。 何度か打ち合わせをし、手直しをしてもみじのデザインが本決定した。 後は、生産と販路確保。 それに関してはもみじはもう打ち合わせに混ざる事は出来ない。 だが、髙野辺は最後まで打ち合わせに参加してはどうだろう、ともみじを誘ってくれたのだ。 ◇ 社長室。 髙野辺がもみじに対して、今後も打ち合わせへの参加をお願いしていた。 「自分が手がけたデザインが商品になり、そして営業達が販路を確保して市場に出回る。その瞬間の感動や、嬉しさは言葉では表せられないんです。だから、もみじさんにもそれを経験していただきたい」 「──髙野辺さん」 そんな風にただのデザイナーである自分を慮ってくれる髙野辺の優しさに、もみじは感動した。 そんなもみじに優しい目を向けていた髙野辺は、今回の商品化記念として、記念パーティーの開催も考えていたのだ。 「Sea」としてではなく「玖渡川 もみじ」として。玖渡川デザイナーとして、もみじの名前を業界中にまずは知らしめる。 そして、1年後に行われる駅舎立て替えの大規模なパーティー。 そこで、恐らくもみじは「Sea」が自分だと世間に公表するつもりなのだろう、と考えていた。 だからその前に、なるべくパーティーの場数を踏んでもらいたい。 髙野辺は今回も記念パーティーを開催するつもりだった。 だが、それはまだ企画段階。 もみじがデザイナーとして人前に出たくないと言うなら、髙野辺はもみじの気持ちを尊重しようとしていた。 だが、その前にもみじの気持ちを確認しないといけない。 髙野辺はもみじに向かって口を開いた。 「今回の商品化は、TKにとっても大きなイベントになります。発売記念のパーティーも開催する予定なので、もみじさんにもまたデザイナーとして参加してもらおうと思っていて……大丈夫ですか?」 不安そうに顔を覗き込んでくる髙野辺に、もみじは「もちろん大丈夫です!」と頷いた。 もみじが嫌が
もみじの車が視界に入る度、誠司は苛立ちが増して行く。 (ふざけるな……!俺が何時間待ったと思っている!?4時間、4時間だぞ!?そんな長い時間、あの男の家で、2人きりで……!) 怒りで目の前が真っ赤に染まる。 そして、噛み締めた奥歯が嫌な音を立てた。 誠司の額にはいくつも青筋が浮かんでおり、もみじの車を見つめる目は据わって行く。 トントン、と苛立ちを表すように誠司は自分の膝を指で叩いた。 (俺と離婚してすぐ、あの男に家に上がり込むなんて……!やっぱりもみじは不倫をしていたのか?いや、そもそも病院で初めて会った時からあの男がもみじに向ける目は普通じゃなかった……!) ドン!と車の窓を叩く。 運転手が小さく悲鳴を上げたような気がしたが、誠司は気にせず考え続けた。 (この間のパーティーの時もそうだ……!あの男、俺の女の腰を我が物顔で掴みやがって……!もみじももみじだ!あんな顔だけの男にへらへらしやがって……!) 誠司が舌打ちをした時。 運転手が怖々と口を開いた。 「しゃ、社長……」 「──なんだ」 「その、目的の車が……あるマンションの駐車場に入りました……」 「……後を追え」 「分かりました……」 もみじの車が入った駐車場に、誠司の車も遅れて入って行く。 もみじが車を停め、降りて来るのをじっとりとした目で誠司は見つめた。 「しゃ、社長……?」 「……俺が戻るまで待ってろ」 誠司はそれだけを言うと、もみじから少し遅れて車を降りる。 そして、歩いて行くもみじの後を一定の距離を保ち、着いて行った。 マンションの駐車場からエレベーターに向かう後ろ姿を見る。 もみじが乗り込んだ事を確認した誠司は、エレベーターが動き出してから歩き出した。 エレベーターの前に向かい、もみじが乗ったエレベーターが何階で止まったのかを確認してから誠司は隣にあったもう1台のエレベーターに乗り込んだ。 「──13階、か」 ぽつりと呟いた誠司の声は酷く低く、冷たい。 だが、その口元には嫌な笑みが浮かんでいた。 軽快な音を立ててエレベーターの扉が開き、誠司は降りた。 ふらり、と適当に歩き出し、通り過ぎる家の表札を流し見て行く。 ──田中、須藤、表札無し。 流し見ている誠司の目に、とある表札が入りぴたり、と足を止めた。 誠司の目は酷い執着心に歪み
◇ 「ありがとうございました、もみじさん」 「いえっ、お役に立てて良かったです!早く元気になってくださいね。また一緒にお仕事しましょう!」 夕方。 もみじは髙野辺のために食事を作り置きし、軽くキッチンとリビングの掃除をした。 体調が悪いと、掃除や洗濯が出来ないだろう。 そう思い、洗濯は流石に出来なかったが、使用したキッチンの掃除と、軽くリビングの掃除をした。 髙野辺も手伝おうとしたが、もみじは髙野辺を寝室に促し、少しだけでも休んでもらった。 予め触っても大丈夫な物や、部分を聞いていたため、スムーズに掃除は済んだ。 とは言え、髙野辺の家はとても広い。 キッチンは普段から使用していなかったようであっという間に掃除は終わったが、リビングの掃除は少々骨が折れた。 何しろ、もみじが暮らしているマンションの部屋を全部足しても髙野辺の家のリビングの広さには敵わない。 軽く掃除機をかけるだけでも時間がかかる。 掃除機の後は拭き掃除をして、触っても大丈夫な箇所を整理整頓をした。 それだけで既に夕方になってしまったのだ。 そして、寝室から慌てて出て来た髙野辺にお礼を告げられ、今に至る。 帰ろうとするもみじを、髙野辺が下まで送ろうと上着を羽織る姿を見て、もみじは慌てて口を開いた。 「髙野辺さん、体調が悪いのですから大丈夫ですよ!お家で休んでいてください……!」 「いえ、わざわざ来て下さったんですから、せめてお見送りはさせてください」 「た、髙野辺さん……」 さあ行きましょう、もみじさん。 笑顔で振り向く髙野辺に、もみじは困ったように笑い返し、気遣いに甘える事にした。 2人でエレベーターに乗り込み、下に降りる。 「今日は本当にありがとうございます、もみじさん。とても助かりました」 「急に来てしまってご迷惑かと思ったんですが、良かったです」 「迷惑なんかじゃないですよ。ありがとうございます」 2人で談笑をしていると、エレベーターが下に到着する。 「外まで送ります。今日は車ですか?」 「そうなんです、近くの駐車場に停めていて……」 「そうなんですね。車まで送ります」 「──あ、ありがとうございます」 2人で話しながら外に出る。 そして、すぐ側にある駐車場に着いていき、もみじが車に乗り込むのを髙野辺は見つめる。 「髙野辺さん、
ほかほかと温かな湯気を立てた美味しそうなお粥が完成した。 もみじは小皿にお粥をよそうと、トレーに乗せてリビングに運んだ。 「髙野辺さん、お待たせしました」 「──もみじさん!すみません、呼んでくれれば運んだのに……!」 ガタッ、と勢い良く立ち上がった髙野辺がもみじのもとへ歩いて行く。 「重いですよね、俺が持って行きますよ」 「えっ、あ……!髙野辺さん……っ」 もみじの手から優しくトレーを奪うと、髙野辺はリビングに向かう。 そんな髙野辺の背中を、もみじは急いで追いかけた。 テーブルに着いた髙野辺が、もみじにも座るよう促してくれる。 お粥を作って、買って来た物を髙野辺に渡したらもみじはすぐにお暇するつもりだった。 だから座ってもいいものか、と迷っていたのだが髙野辺が笑顔でもみじが座る椅子を引いてくれた。 それを断る事は出来ず、もみじは申し訳なさそうに椅子に座った。 「わ、美味しそうですね。ありがとうございます、もみじさん。いただきます」 「ど、どうぞ召し上がれ……!」 市販のお粥に、もみじが栄養を、と思ってアレンジを加えた。 とても食欲を唆る匂いに、お腹が空いていなかったはずの髙野辺だったが、お腹がくぅ、と鳴いた。 恥ずかしそうに笑った髙野辺につられて、もみじもくすくすと笑ってしまう。 髙野辺がお粥を美味しそうに食べてくれる姿に、もみじは緊張していたが、緊張が解けたようにふっと体から力を抜いた。 あっという間に全て平らげた髙野辺は、キッチンに残っているお粥も殆ど食べてしまい、もみじは驚いた。 「わっ、凄い、殆ど全部……!」 「すみません、もみじさんの作ってくれたお粥が美味しくて。ご馳走さまです」 「──ふふ、ありがとうございます。もし良ければ夕食の分も作って行きましょうか?体調が悪いと、自分で作るのは少ししんどいですよね?」 「……お願いしてもいいですか?」 「勿論です!作り置きしておきますので、食べられそうでしたら食べて下さいね」 笑うもみじに、髙野辺は目を細めて優しく見つめる。 体調を崩した自分のために、心配して様子を見に来てくれた──。 そして、食欲が無いだろう、と消化に良いご飯を作ってくれている。 キッチンで手際良く料理をするもみじの後ろ姿を髙野辺は見つめながら、自分の額を手で覆う。 (──ああ、くそ
reviews