LOGIN私には、大好きな夫がいる。 だけど、結婚してからもその夫は私の義妹・胡桃(こもも)ばかりを優先して、喧嘩になることもしばしば。 口論になると、夫の誠司(せいじ)はいつだって【離婚】を切り出してくる。 私は誠司が大好きだから、いつも離婚を切り出されるとすぐに泣いて謝ってきた。 だけど、誠司が胡桃を優先する度に、喧嘩になる度に【離婚】と言う言葉を口にする度に──。 あれだけ大好きだった気持ちが冷めていく。 夫からの99回目の【離婚】の言葉。 99回目が、最後と決めていた。 私は夫と本当に離婚した。 もう、夫誠司には何の未練も、愛情も残っていない。 これからは、自分で一人で、生きていく──。 そう思っていた私の目の前に現れたのは、容姿端麗で、とても背の高い男性。 その男性は、私に告げた。 「もみじさん。俺と結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?あなたが好きです」 その男性は、ただの会社員だと思っていたのに、大企業の社長で──。 全てを知った前夫の誠司が、私に泣きながら謝罪をし、離婚を取り消して欲しいと言ったけど。 私はもう既に大好きな旦那様がいるのだ。
View Moreもみじは連絡用のSNSを確認してみたが、予想していた通り、やはり誠司からの連絡は一切無かった。 誠司は、もみじがあんな書き置きをして家を出た事を根に持っているのだろう。 だからこそ胡桃を呼び、泊まらせたのだ。 「──だけど、馬鹿ね。胡桃にこんな写真を撮られて、SNSに投稿されるなんて」 誠司には、既婚者という自覚がないのだろうか。 会社の社長という席に着いているのに、妻以外の女性とこんな事をしている場面を写真に残され、しかも投稿されている。 「こんなに危機管理能力が無い人だった……?」 それとも、ともみじは考える。 「胡桃可愛さに、判断能力が落ちているのかしら……」 会社の社長が、こんな事をしているとバレてしまったら。 そうしたら、会社の信用だって失ってしまうと言うのに。 「それとも誠司は、私が絶対に離れていかない、誰にも喋らないとでも思っているの……?」 確かに、誠司の事を盲目に愛していた以前の自分だったら。 こんな投稿を見てしまったら、誠司に問い詰めていただろう。 そして泣きながら責めて、誠司から返ってくる言葉に怯えていたかもしれない。 「離婚」の言葉に怯えていた昔のもみじだったら、誠司からそんな言葉を言われたらすぐに謝っていたかもしれない。 大好きな人だからこそ、そんな事をされても離れたくないと必死に縋っていただろう。 だが、今となってはこんな写真を見れば見るほどに誠司への熱も、愛情も冷めていくのを、もみじは感じていた。 「もしかしたら、家に帰ったら私の部屋とかに胡桃の形跡が残っているかも……。胡桃の香水、強くて嫌なのよね」 1度ハウスクリーニングを頼んだ方がいいだろうか。 そんな事を考えつつ、もみじはスマホの画面を消してテーブルに置いた。 もみじがスマホを置き、パソコンの電源を付けて仕事に取り掛かって少し。 廊下の方から祖母のもみじを呼ぶ声が聞こえてきた。 「もみじちゃん、昼食ができましたよ。ご飯にしましょうか」 「はーい、今いくねおばあちゃん」 もみじはパソコンを閉じて立ち上がる。 パタパタと駆け足で居間に向かった。 もみじが居間に到着すると、ご飯の支度がすっかり終わっていたようで。 美味しそうな和食が温かな湯気を立てているのが見えた。 真っ白なご飯に、湯気を立てている焼き鮭、黄色い卵焼きに菜の
◇ 「──あっ、これとか良さそう……!お母さん、これ借りるね」 翌朝。 祖父母の家で目覚めたもみじは、朝食前に母親の仕事部屋に来ていた。 本棚からデザイン雑誌を複数取り出すと、もみじはその中を軽く確認し素晴らしい作品達に刺激を受けた。 自分の頭の中に、素晴らしい作品達を見たお陰でインスピレーションが湧く。 「お母さんは普段どんな風にデザインしてたのかしら。どんな事から着想を得ていたの?日記か何かが残っていれば良かったんだけど……」 もみじはくるりと母親の作業部屋を軽く見回してみたが、日記に当たるような物は見つからない。 母親がデザインの仕事をしている時などのルーティンや、どんな風に仕事をしていたか。 その様子があれば。 残っていれば。 母親の存在を近くに感じられるような気がしていた。 そうすれば、背を押してもらえるような気がしたのだ。 元気付けられるような気がしていたのだが──。 「何もないって事も、お母さんの意志なのかもしれないわね」 もみじは小さく笑みを浮かべると、先程手に取った雑誌数冊だけを借りる事にして、部屋に戻った。 ◇ 朝食を食べ終え、もみじは祖父母の家事の手伝いをしつつ、穏やかな1日を過ごしていた。 昼前になり、昼食の準備を手伝おうとしたもみじだったが、祖母に大丈夫だから仕事をしなさい、と言われ部屋に戻ってきた。 部屋に戻ってくるなりもみじは充電器に繋げられた自分のスマホを目にして「あっ」と声を出す。 「そう言えば、今日は朝からスマホを見ていないわ。この家に帰って来てからあまり必要ないから忘れてた……」 流石にそろそろスマホを確認した方がいいだろう。 仕事関係のメールはパソコンでも確認出来るが、朝食を食べてからは手伝いに回っていて確認していなかったのだ。 「緊急のメールとかは……多分大丈夫よね……」 スマホの電源を付け、画面を確認したもみじの目に、1件の通知が目に入る。 それは、もみじもやっているSNSの通知。 仕事柄、こういったSNSでの情報収集は欠かせない。 そのために入れて、日々チェックはしているのだが、その際に胡桃の連絡先が同期されているため、彼女が投稿すると通知が来るようになってしまっているのだ。 今回の通知も、胡桃が新規投稿をしたからだった。 「──最悪」 見たくなくても、小さ
深夜──。 胡桃はパチリ、と目を開けると隣で眠る誠司に目を向けた。 室内には、先程まで情事に耽っていた名残りが色濃く残っていた。 「んん……体べたべた……シャワー浴びたあい……」 胡桃は自分の体に巻き付く誠司の腕をどかそうとした。 だが、ふとある事を思い付く。 誠司の腕を掴んでいた胡桃は、にやりと笑みを浮かべ、スマホを探した。 運良く近くにあったスマホを引き寄せ、電源を付けると自撮り写真を撮る。 顔や見えてはいけない所は映さず、けれど見る人が見れば、男が「誠司だ」と分かるように自撮りを撮る。 そして撮った写真を加工し、コメントを付けてSNSに投稿する。 【彼ったら、激しく私を求めて離してくれない♡明日がお休みの日だから良かった♡彼も疲れて眠っちゃってる。寝顔がとっても可愛いの♡】 写真だけでも情事後だと言う事がはっきりと分かる。 だが、コメントを付けてそれを確実なものにすると、胡桃はにたり、と笑みを浮かべてからスマホを閉じた。 今度こそ自分の体に絡み付く誠司の腕をどかし、胡桃はゆっくりとベッドから抜け出した。 ベッドの下には、誠司が剥ぎ取った胡桃の下着が散らばっていて。 それを見につける気にもならず、胡桃は誠司のシャツを羽織りシャワーを浴びに向かった。 シャワーを浴びてさっぱりした胡桃は、誠司の寝室ではなく、もみじの部屋に足を向けた。 「私が海外に行く前に、もみじに遺されたデザインを見つけられればいいんだけど……」 もみじの母親、舞奈が最後にデザインしていた未発表作。 遺作、だとも言われているそのデザインは未だ見つかっていない。 当時、祖父母の元に残っているんじゃないか、と胡桃の母親は考え祖父母の家を人を使って探させたが結局見つかる事はなかった。 それから、今まで。舞奈の遺作は見つかっていない。 「もしそれを見つけて、私が手を加えて発表出来れば……!私は一躍世界的なデザイナーになれる!誠司の会社だって、私のお陰で成長出来るわ。……私は社長夫人になれるし、国内で誠司のデザイン会社は1番の企業になる!私がいる場所が、国で1番有名なデザイン会社になれるの。そうなったら、どんなに気持ちいいか……!」 胡桃はぶつぶつと呟きながらもみじの部屋の扉を開け、中に入り込むと鍵をかけた。 万が一、誠司が起きてきた時に。邪魔をされたら面
胡桃は、誠司と通話を切った後いそいそと支度を始めた。 うきうきと自室で部屋着から気合いの入った下着に着替え直し、誠司が好きそうな露出の多い服装に着替える。 香水をたっぷり吹き掛け、メイクも直して鏡の前で自分の姿を確認した胡桃は、真っ赤な唇をにんまりと歪めた。 「──うん、可愛い♡もみじなんかより、私の方が全然可愛い♡」 胡桃は軽い足取りで階段を降りると、リビングのソファでゆったりと足を組んで座り、雑誌を読んでいた母親に近付いて行く。 足音に気が付いたのだろう。 母親が雑誌から顔を上げた。 「あら、胡桃?出かけるの?」 「うん。誠司から呼び出されちゃった。もみじの奴が今あの死にかけのじいさんとばあさんの所に泊まってるんだって。だから今日と明日は誠司の家に泊まるわ」 「あら、あの死に損ないの所に泊まってるの?それはちょうど良いわね」 「うん。誠司も今はもう私の体に夢中だから、そのうちもみじに離婚を切り出すんじゃないかしら?」 ふふふ、と笑いつつ胡桃は母親の後ろから抱きつく。 母親は胡桃の頭を撫でつつ、満足そうに頷いた。 「そうね。玖渡川の人間はみんな不幸にならないと。学生の時に誠司がもみじに惚れるのを阻止出来ていれば良かったんだけど……」 「でも、しょうがないわ。あの頃はまだ私も子供だったから誠司に色仕掛けも何も出来なかったもの。せいぜい可愛い妹を演じる事しかできなかった。だけど、今はもう私も大人だし♡」 「早くあんたが誠司の子供を妊娠してくれればね……」 「うーん……そこなのよね……。誠司ったら絶対に避妊するから……。今日、お酒に酔わせて避妊しないように誘導するわ」 「ええ、そうしてみて。事が済んだら、もみじの部屋を探してみて。あいつの母親が死んだ時、娘のために未発表のデザインを残しているはずよ。それを早く手に入れなさい」 「──うん。分かってる。それを手に入れたら、私も世界的デザイナーになれるもんね?」 「ええ、そうよ。あんなクソ女が世界的デザイナー?冗談じゃないわ。もみじも、大学でデザインを勉強していたんでしょう?もみじが何かしらの賞を取る前に、早くデザインを見つけて胡桃が有名デザイナーになりなさい」 「分かってる、お母さん」 そんな事を話しているうちに、大分時間が経ったのだろう。 胡桃のスマホに運転手が到着した知ら





