로그인私には、大好きな夫がいる。 だけど、結婚してからもその夫は私の義妹・胡桃(こもも)ばかりを優先して、喧嘩になることもしばしば。 口論になると、夫の誠司(せいじ)はいつだって【離婚】を切り出してくる。 私は誠司が大好きだから、いつも離婚を切り出されるとすぐに泣いて謝ってきた。 だけど、誠司が胡桃を優先する度に、喧嘩になる度に【離婚】と言う言葉を口にする度に──。 あれだけ大好きだった気持ちが冷めていく。 夫からの99回目の【離婚】の言葉。 99回目が、最後と決めていた。 私は夫と本当に離婚した。 もう、夫誠司には何の未練も、愛情も残っていない。 これからは、自分で一人で、生きていく──。 そう思っていた私の目の前に現れたのは、容姿端麗で、とても背の高い男性。 その男性は、私に告げた。 「もみじさん。俺と結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?あなたが好きです」 その男性は、ただの会社員だと思っていたのに、大企業の社長で──。 全てを知った前夫の誠司が、私に泣きながら謝罪をし、離婚を取り消して欲しいと言ったけど。 私はもう既に大好きな旦那様がいるのだ。
더 보기何で。どうして。 私には用意してくれなかったのに、どうして胡桃には簡単に指輪をプレゼントするの。 それに、どうして誠司は当然のように、左手の薬指に胡桃と揃いの指輪を付けているの──。 そんな言葉が、もみじの頭の中でぐるぐると巡る。 「酷い……こんなのって、酷過ぎるわ……」 もみじの視界が、じわじわと滲んで行く。 もみじが、どれだけ婚約指輪と結婚指輪に強い憧れを抱いているか。 それを誠司は知っているくせに、こうして胡桃には簡単に与えるのだ。 落ちたスマホは、未だに胡桃のストーリーが流れている。 食べきれなかった料理は、なんの躊躇もなく、無惨にもゴミ箱に雑に捨てられて、ストーリーは終わっていた。 ◇ NEW ISLAND。 そう、社名が掲げられた会社が入っているビルの前に、もみじは立っていた。 もみじと誠司が結婚している事は、誠司の会社でもあまり知られていない。 何故なら、誠司がもみじが会社に来る事を嫌がるからだ。 ただ、誠司が結婚している事も、既婚者だと言う事も隠してはいない。 だから彼の会社で働く社員は、誠司が結婚している事も知っている。 ただし、妻がもみじだという事は知らないが──。 誠司の会社で働いている社員達は、皆もみじの義妹である胡桃を誠司の妻だと思っている。 胡桃は度々誠司の会社にやって来るし、誠司が嫌な顔1つ見せずに胡桃を社長室に迎え入れるからだ。 どんなに忙しくても、誠司は胡桃をぞんざいには扱わない。 だから、誠司の会社の社員たちは「社長は愛妻家」だなんてイメージを持っているのだ。 ビルに足を踏み入れたもみじは、会社が入っている階のボタンに手を伸ばし、エレベーターの「閉」ボタンを押した。 すると、押した直後に「乗ります!」と言う男性の声と、急いでいるような足音が聞こえ、もみじは慌てて「開」ボタンを押した。 「すみません!ありがとうございま──」 「いえっ、あっ、きゃあっ!」 エレベーターに駆け込んで来た男性が、エレベーターの入口にいたもみじと正面からぶつかってしまう。 「すみません、大丈夫ですか」 「ご、ごめんなさい。私こそぼうっとしていたから」 「いえ、俺がちゃんと確認せずにエレベーターに駆け込んだから……どこにも怪我はありませんか?」 もみじは、ぶつかってしまった自分の顔を手のひらで軽
【やだー!零しちゃった、ごめんね♡】 【いや、気にしないでくれ。安い料理だ。零れた分は捨てれば良い】 【ふふふっ、優しいわね、大好き♡】 【はいはい、俺も大好きだよ】 もみじのスマホから流れる、聞きなれた男女の声。 顔を見なくたって分かる。 「胡桃と、誠司──?」 もみじは、突然流れだしたストーリーの動画に、驚いて座り込んでいた体勢から何とか立ち上がると、よろよろとスマホが置いてあるテーブルに戻った。 スマホの画面には、胡桃ともう1人の男性──それは、誠司なのだが。 顔は映らないように調整されている。 胡桃と男性が、仲睦まじい様子で料理を食べている様子が映っていた。 「私が……作った料理……」 誠司のために。 2人の記念日のために、ともみじが愛情を込めて作った料理だ。 2人でテーブルを挟んで食べようと思っていた。 それなのに、もみじが作った料理は、動画の中でぞんざいに扱われ、零れたと言う理由で殆ど手をつけていない料理が捨てられていた。 【ねえ、どれが食べたい?私が食べさせてあげる♡】 【うーん、君が食べさせてくれるなら何でもいいよ】 【じゃあ、これかなぁ。はい、あーん♡】 胡桃の甘ったるい声と、誠司の低くて落ち着いた声がスマホから流れる。 胡桃はあろう事か、もみじが作った料理を誠司の口に運んでいる。 誠司も、慣れたように胡桃の手から差し出された料理を口を開いて待ち、食べている。 そんな、傍から見たら仲の良いカップルに見えるだろう2人。 その証拠に、そんな胡桃のストーリーのコメントには、ハートマークが沢山つき、拡散されている。 【可愛い胡桃ちゃんと、優しい彼氏さんは理想のカップルだね】 【いいなぁ、可愛い胡桃ちゃんにあーんって俺もして欲しい】 【胡桃ちゃんの彼氏さんって凄いイケメンっぽいよねぇ、いいなぁ】 などなど、沢山のコメントがついている。 誰も、まさか胡桃の動画に映る男性が既婚者で。 胡桃は、その妻の義妹だなんて知らないだろう。 もみじの目に、とあるコメントが飛び込んできた。 【いいなぁ、彼氏さんとのペアリング】 【しかも、あれってあそこのブランドだよね?入手困難って言われているのに、凄い!】 え、ともみじの思考が止まる──。 「ぺあ、りんぐ……?」 たどたどしく口にした言葉。 一瞬遅れ
「──ぇ」 もみじの声が、ぽつりと零れる。 どうして胡桃が、誠司から指輪をプレゼントされているのか──。 自分には、婚約指輪だって。結婚指輪だって用意してくれなかったのに。 誠司は、会社が軌道に乗ったら。 もっともっと稼げるようになったら、もみじが驚くほどの結婚式を挙げよう、と言われていた。 それに、指輪も結婚式の時にもみじに喜んで欲しいから、と婚約指輪も、結婚指輪も誠司は用意してくれなかった。 だから、もみじは誠司と結婚して2年も経っていると言うのに、もみじの薬指には指輪ははまっていない。 左右、どちらにも、だ。 「指輪は、特別な証なんじゃないの……?だから、誠司も……指輪はもうちょっと待ってって、言ってたのに……」 それなのに。 もみじの義妹、胡桃にはこうしていとも容易く誠司は指輪をプレゼントするのだ。 もみじがずっと焦がれているものを。 長年、誠司から贈られるその時をもみじが心待ちにしていると、誠司も分かっているはずなのに──。 ガツン、と頭をハンマーで殴られたような衝撃だ。 たった1枚の写真。 されど、そのたった1枚の写真がもみじの心をズタズタに切り裂いた。 もみじが放心している間にも、胡桃からの通知は再び送られてくる。 ──チロン、チロン。 軽快な音を立てて送られてくるのは、SNSの通知。 それは、胡桃がたった今投稿したばかりのお知らせだった。 画像と、ストーリー。 もみじは、何も考えず、無意識にスマホを見てしまう。 そこに映っていた画像に、もみじは再び胸をぐさり、と刺されるような痛みを感じた。 【大好きな人がすっごい豪華な食事を用意してくれた♡】 そんな投稿と共に、見覚えのある料理が胡桃の笑顔と一緒に映っている。 そして、背後には顔は映っていないし、ぼやけていて良く分からないが、男性が映っている。 胸あたりからソファに座っているのか、膝辺りまでが映っており、その男性の腕に着けられている腕時計にも、もみじは見覚えがあった。 「──誠司、まさか……」 もみじは、リビングのテーブルから勢い良く立ち上がると、冷蔵庫に向かった。 急いで扉を開けて中を確認する。 昨夜、もみじが時間をかけ丁寧に作った豪華な食事の数々。 記念日だから、と誠司の好きな物を沢山作った。 日持ちがするように、誠司が帰ってき
翌日。 もみじが起きた時には、既に誠司は会社に行った後だった。 昨日、あれからもみじのスマホには誠司から謝罪も釈明もなく。 ただ最後の通話履歴が残っているだけだった。 「──はあ」 もみじは溜息を零し、のそりとベッドから起き上がり、身支度を始める。 晴れない気持ちのまま、もみじがリビングに向かうと、リビングのテーブルには昨夜は無かった物がどん、と存在感を放ち、置かれていた。 「──えっ、薔薇の花束……?それに、これは……プレゼント……?」 さきほどまで沈んでいたもみじの表情が、少し明るくなる。 家には誠司の姿は既に無い。 だが、誠司ももみじが誕生日だと言う事も。 そして、昨夜が2人の記念日だと言う事も、分かっていたのだ。 それなのに、胡桃の元に行っていた自分の夫に怒りを覚えていたのに。 だが、誠司からのプレゼント一つだけでもみじの気持ちはふわり、と軽くなり表情も明るく変化する。 「誠司……ちゃんと私の誕生日を覚えてくれていたんだ」 薔薇の花束と、プレゼントに添えられたメッセージカードを手にしたもみじは、それに添えられている誠司からの言葉を見て、口元がゆるりと緩む。 「大変、薔薇の花が萎れちゃう。早く花瓶に移してあげないと」 ぱたぱたと急いで薔薇の花を花瓶に移し終えたもみじは、リビングのテーブルに着いて誠司からのプレゼントを開封した。 包装紙を丁寧に剥がし、細長い箱をぱかりと開けると。 そこには華奢なチェーンに繋がれた綺麗なトップの付いたネックレスが入っていた。 「──綺麗」 お洒落で、綺麗で。だけど、普段使いも出来そうなデザインだった。 もみじがそのネックレスを手に取り、うっとりと眺めているとちょうどその時もみじのスマホがブブッ、と振動した。 「もしかして、誠司?」 もみじは、誠司がメッセージを送ってくれたのだろう、と躊躇いもなくその通知をタップしてスマホを開く。 もみじの視線はネックレスに殆ど集中していて、その通知の送信相手を確認していなかった。 だから、そこに書かれている「胡桃」の文字も、もみじの目には入っていなかった。 ネックレスを大事に箱にしまい直し、もみじは誠司からだと思っている連絡を確認しようとスマホに視線を落とした。 すると、そこに書かれていた文字が目に飛び込んで来る。 【私が選んであげたネ