家が焼けて住む場所がなくなった私・夢見萌々を拾ってくれた人は、顔よしスタイルよしの麗有皇羽さん。「私に手を出さない約束」のもと、皇羽さんと同居を開始する。 だけど信じられない事が判明する。なんと皇羽さんは、今をときめく人気アイドルと瓜二つだった!皇羽さんは「俺はアイドルじゃない」と言うけど、ソックリ過ぎて信じられない。 とある理由があって、私はアイドルが大嫌い。だから「アイドルかもしれない皇羽さんと一緒にいられない」と言ったけど、皇羽さんは絶対に私を離さなかった。 どうして皇羽さんが、出会ったばかりの私を深く想ってくれるのか。皇羽さんからたくさんの愛をもらった後、私は衝撃の事実を知る。
View Moreパチパチと燃え盛る炎に包まれる、私のアパート。季節は一月。冬特有の乾いた空気と、たまに吹き抜ける突風。それにより……
「格安木造のアパートが全焼とは……」
火の勢いってスゴイ。何がスゴイって、炎がどんどん大きくなっていって、あっという間にアパートを飲み込んでしまう所だ。
「出て行ってて良かったね、お母さん……」
誤解がないように言うと「ちょっと用事で留守中」とか、「少し買い物に出ている」とかではなく。お母さんは永遠に出て行った。幼い頃に両親が離婚して以来、母に育てられた私。だけど今朝、母は書き置き一枚で、アパートから姿を消していた。
『冷蔵庫におにぎりあるからね』
そのおにぎりも、アパートが燃えた今は炭になってるわけだけど。
「おにぎり、食べたかったなぁ……」
栗色ロングの私の髪に、空中を舞う灰が絡まる。黒色の斑点が、髪に浮かび上がった。
「はぁ、今日のお風呂が大変だよ。髪が長いと、ただでさえ洗うの面倒なのに」
言いながら、燃え上がる自分の部屋を見つめる。そういえば、私の部屋が燃えているということは、お風呂もないってことだよね?寝るところも無いんだよね?
どこかのお焚き上げみたいに眺めていたけど、燃えているのは、私の全財産だ。
あの炎の中に、(微々たる額とはいえ)私の全財産があるよね?お金だけじゃなくて、学校のカバンや制服も何もかも全部だ。
「や、ヤバいかも……!」
今さらになって、自分の身に起きた〝最悪の出来事〟を自覚する。
ヤバい、本当にヤバい。何も手元に残らない!
今日は土曜日。起きた私は意味もなく、ダルダルの部屋着を着て外を散歩していた。だから今、私の手の中には、アパートの鍵が一つあるだけ。
「じゃあお風呂とか言う前に、下着も燃えた……?」
その時、消防士さんに「下がって!」と注意される。
「わ……!!」
慌てた私がコケそうになった、
その時――ガシッ
「あっぶねぇな」
あれ?誰かにギュッてされている感覚。いま私、誰かに包み込まれている?
大きな手が、私の腰を掴んでいる。いとも簡単に引き寄せ、倒れそうだった私を真っ直ぐ立たせた。
「あ、ありがとうございます……」
「ん、気をつけろよ」 「は……い!?」ペコリとお辞儀をした後。ビックリしすぎて、声が裏返っちゃった。だって!
「(なんと言う顔の小ささ!ううん、服が大きいだけ? ひょっとして来年以降も同じ服を着るために、節約してスリーサイズくらい大きいのを買ったの!?)」
もしかして仲間かな?私と同じ、お金がない人なのかな!?
だけど、どうして深く帽子を被ってるんだろう?真夏でもあるまいし。
「(それに、どこかで見た事あるような気がする……)」
初対面なんだけど、初対面じゃないような。誰だっけ?
「迷惑は承知だ。厄介だと思ってくれて構わない。苦労をかける自覚がある。これから見るのは地獄かもしれない。だけど、これ以上に萌々と離れていると……俺がもたない。左手の指輪だけじゃ萌々を守れないと、嫌というほど知った。萌々を守りたい。間接的にではなく、俺が直接、この手で」「皇羽さん……」 そんなことを思ってくれていたんだ。この指輪は、私にとって充分にお守りになっていたのに、それではまだ足りないと、そう思ってくれるんだ。 彼の愛の深さに、止まっていた涙が再び溢れる。これほどまでに愛されて、大事にされて……私は幸せ者だ。今度は、その幸福を形づくる。夫婦という形に、二人で変わっていく。そんな私たちを、皆には知ってもらいたい。 「皇羽の溺愛っぷりは相変わらずだね」 クスリと笑みをこぼすミヤビさんが、おもむろにスマホを操作する。そうしてマネージャーさんとのメールを見せてくれた。 「俺も二人の関係を秘密にしておくのは潮時だと思っている。というのも、皇羽にドラマの話が来るんだよ。キスシーンどころではなく、濡場ありのね」「「え」」「ほら、皇羽って無駄に色気ある設定で売っているからさ~」「「あぁ……」」 ドラマの話は、どうやら皇羽さんも知らなかった事らしい。ミヤビさんは「俺がマネに言って、丁重にお断りさせてもらったよ」と説明してくれた。ホッと、肩の力が抜ける。だって演技とはいえキスだって嫌なのに、それ以上のことなんて……! でも、それは結婚したとて振って来る問題かもしれない。実際、結婚していてもドラマでキスシーンをそつなくこなす俳優はたくさんいる。むしろ俳優とは〝そういう職業であり個人の私情は介さない〟が常識であり暗黙のルールだ。 「……」 いまやアイドルは、歌って踊るだけが仕
玲央さんが、私の肩へ優しく手を置く。 「ごめんね。皇羽から話を聞いてすぐ、皆と相談したんだ。答えは、さっき聞いた通りだよ」 「さっき聞いた通りって……」 Ign:sの皆さんは、私と皇羽さんを後押ししてくれるの? 付き合っていることも、結婚することも発表していいの? 「でも、そんなことをしたら」 Ign:sだって、どんな影響を受けるか分からない。もしかしたら大量のファンが去っていくかもしれないし、反対に過激なファンが増えて困ったことになるかもしれない。そんな騒動を懸念した事務所が、とうぶんIgn:sを表に出さない決断をするかもしれない。 どちらにしろ、無傷ではすまない。今までとは確実に、大きく変わって来るだろう。高確率で、悪い方へと。 やっぱり……そんなこと、あってはダメだ。これからIgn:sは、まだまだ活躍していくのだから。 「迷惑をかけたくありません」と、皆さんの好意を、気持ちだけ受け取った。 だけど玲央さんは「怖がらなくていいよ」と、私の肩に置く手を熱くさせる。 「いい方法を、皆で考えよう。誰も傷つかない結婚を、二人が成し遂げるために。大事な人たちの大事な局面だ。ぜひ俺たちに手伝わせて」 「でも……」 「萌々ちゃんと皇羽の二人だけじゃない、Ign:sがいる。俺たちは二人の味方だよ。二人で悩んで答えが出なくても、これだけ人数がいたら何かしらの突破口が見つかりそうじゃない?」 「!」 玲央さんは、Ign:sの皆さんは…… 本当に、私たちの結婚を認めてくれるんだ。後押ししてくれるんだ。幸せな門出になるようにと、願ってくれているんだ。 「ありがとう、ございます……っ」 こらえきれない涙が、さっきから流れ続けている。もっとおしとやかに泣きたいのに、もはや号泣だ。モデル失格の泣き方だ。きっと目は、明日パンパンに腫れちゃうだろう。 だけど、これが今の私だ。しょせんは背伸びしているだけで、本物はまだまだプロのモデルに及ばない未熟者。芸能界について知らないことが多い、一般人に近い私だ。その分、もっている知識も少ない。 だから仲間の力をかりる。二人で考えてダメでも、皆さんとなら―― 「きっとご迷惑をかけちゃいます。きっと、たくさん悩ませちゃいます。 それでも、手をかしてくださいますか……?」 するとミヤビさん、
「確かに私と皇羽さんは将来結婚する約束をしました。指輪も交換しています……だけど結婚するタイミングも発表も、今ではないと思うんです。日本だけでなく世界中から注目を浴びているIgn:sの一人から既婚者が出るなんて、ファンの方々への裏切りです」「……それで、いいの?」 かげろうさんが、ゆっくり尋ねる。玲央さんと似た、心配してくれている顔だ。あまり口数は多くないけど、こういった何気ない所作からでも優しい人だと分かる。 そして、それはかげろうさんだけじゃない。メンバー全員が、皇羽さんと玲央さんを見守ってきた優しい人たちだ。玲央さんを支えようと一致団結してくれていたのも、記憶に新しい。 (そんな優しい人たちが集まるIgn:sだからこそ、迷惑はかけたくない) 迷惑――自分で言った時に、ツキンと胸の奥が痛む。私と皇羽さんは好き合っているから一緒にいて、二人で過ごす時間を幸せだと思っているけれど……私たち以外の人からすれば、迷惑以外のなにものでもないんだ。 唇に力を入れないと、口が情けない「への字」になっちゃう。まさか私と皇羽さんの恋が、これほど前途多難だったなんて……。 だけど、ここで諦めない。モデルデビューする前、私はもう二度と「皇羽さんを自分から諦めない」と決めた。だから今だって繋いでみせる。私と皇羽さん、二人の気持ちを未来へ繋げていく。 切り開くんだ。みんなが認めてくれる、私たちが寄り沿う未来を。 例え結婚が今じゃなくても、どれほど時間がかかっても―― 「そもそも結婚を発表するのであれば、私がモデルとしてデビューする際に〝皇羽さんと恋仲である〟と明言しておくべきだったのです。そこでたたかれてデビューできなければ、それまでの私だったということ。 だけど当時の私は、デビューすることが大事だと思っていたので……皇羽さんとの関係を明かす、なんて微塵も思っ
タクシーが道を走る音が、ハッキリ聞こえた。そんなつかの間の静寂を切り裂いたのは、迷ったような私の声。車の音に負けそうなほど、弱い音。 「……それは、もちろん。はい」 「もちろん」なんて、「はい」なんて返事をしたけど……すみません、玲央さん。 私の出した結論に、私の気持ちはありません。私は、私の弱い心に負けたんです。 自分が幸せになるために誰かを不幸にすることは、お母さんが私にしたことと同じだ。 お金がなくて生活が苦しい。だからお母さんは、食い扶持である私を捨てた……といっても、一生懸命バイトをした私が、むしろお母さんを養っていたのだけど。 話を戻して。 お母さんに捨てられて一人きりになった時。私は偶然にも皇羽さんと再会して、衣食住を与えてもらった。幸福をもらえた。不幸のどん底にいた私は、また幸せになれた。 だけど皆がそうとは限らない。 私たちが結婚すると聞いて、不幸になる人は大勢いる。だってIgn:sはスーパースターなのだから。大好きだからこそ、大好きな人が誰かの特別になるのは悲しい。発表後、そういった悲しい気持ちをもつ人はたくさん増えるだろう。 だけど皆が皆、どん底から幸せに戻れるとは限らない。たまたま私は皇羽さんと再会して幸せになれたけど……皆が皆おなじじゃない。きっと長く心に傷を抱える人もいる。私は恵まれていたにすぎない。 つまり私はお母さんと一緒で、誰かの幸せを奪い、不幸を与えようとしている。あの日、私が抱いた絶望を、今度は私が、私以外の誰かに与えるのだ。 「それは、嫌だな……」 自分が誰かを不幸にするなんて嫌だ。 誰にも不幸のどん底におちてほしくない。 他人の不幸を顧みず、自分の幸福だけを追求してしまう私が、自分勝手すぎて怖い。 そんな恐怖心が、私の前にたちはだかっている。通せんぼしている。 その恐怖心に……私は、勝てない。 「皇羽さんには、私から言って納得してもらいます。玲央さん、教えてくださりありがとうございました」「……ううん」 そう言ったきり、玲央さんは口を噤んだ。私も私で、なんと言ったらいいか分からないから、それきり黙る。 既に春休みに入ったのか、学生たちがあちこちで楽しそうに笑っている。その中に、Ign:sのファンの人はどれくらいいるんだろう。 「……っ」 そう思うとキリ
唐突な疑問。真剣な瞳。 私から出る言葉を一言一句聞き逃さない、警戒態勢だ。 「二人の様子を見るに、初対面って感じもなかった。さっきのは誰?」「マスコミの方で、綾辻さんといいます。実は弱みを握られそうになって……いえ、ちゃんと回避したんですけど。それから、あぁやってつきまとってくるんです。事務所を通してと言っているのに」「弱み?」「えぇっと……」 「首にキスマークがついているよ」という嘘に反応しちゃったせいで、誰かと付き合っているのかと疑われたこと。あの後、慌てて訂正したけど……本当のところ、綾辻さんはどう思っているんだろう。 私の言い分を信じて「付き合っている人はいない」と思っているのか、やっぱり「誰かと付き合っている」と疑っているのか。 「でも正直なところ、綾辻さんが私に構うのは、スクープうんぬんではなくて……実は、前に告白めいたことを言われまして。表向きは〝仕事〟で通しているようですが、私をつきまとうあの姿勢に関しては、明らかに私情も入っているかなと」「……」「玲央さん?」「はぁ~~~~~」 全てを話し終えると、玲央さんは深いため息をついた。タクシーの中にある酸素を全部吸い込んだ?っていうくらいロングブレスだった。息苦しくないのかな?「窓あけますか?」と聞くと、丁重に断られた。次に玲央さんは「無防備すぎる」と、吐き捨てるように呟いた。 「そこまで相手の心情が読めているのに、どうして一人で行動するかなぁ。絶対に狙われるって、それは分かっているでしょ?」「さすがに、それ以降はずっとマネージャーと共に行動しています。帰りも車で送迎してもらいましたし。でも今日はIgn:sの皆さんの所へ行くんです。そこへマネージャーを同行させるわけにはいきません」 そう。いくら気心知れ
前回と同じく、綾辻さんはかなり近い距離まで私に近寄って来た。あいにく今日は「寄るところがあるので」とマネージャーに送ってもらわなかったから、綾辻さんを一人で対処しないといけない。 でも……大丈夫。だって、もう皇羽さんを傷つけないと決めたから。もう二度と、皇羽さんにあらぬ誤解を与えてしまわないように。私がハッキリ、綾辻さんに言うんだ!「あの、綾辻さん」「どうしたの?」 私が足を止めると、茶色のロングコートを着た綾辻さんの足も止まる。首から大きなカメラがぶら下がっていて、まるで私を見張っているかのようにレンズがこちらを向いている。今、この瞬間も撮られているのかな? いや、そう思って対応すべきだ。 出来る限り堂々と、決して臆さないよう綾辻さんの目を見た。 「マネージャーを通した仕事でない限りはご一緒することが出来ないので、つきまといはやめてください。この忠告を聞いてもつきまといをやめない場合は、警察に相談します!」 私の言葉に、綾辻さんはキョトンとした顔を浮かべる。だけど次に「つ、つきまとい⁉」と焦ったのか、水をかぶったようにサッと顔を青くした。 「そんな、つきまといだなんて……ただの仕事だよ!」「仕事であろうがなかろうが、つきまといはつきまといです」 自覚がなかったなんて恐ろしい。きっと仕事が板についているんだろうな。つきまとう仕事が日常だから、つきまといそのものも日常化しちゃったんだ。 だけどダメです。つきまといは、立派な立派な犯罪なので! きっと!! 「私と直接接触を図るのはいけない行為です。何度も言いますが、これからは必ず事務所を通してください。いいですね?」「ま、待ってよ。萌ちゃん!」 綾辻さんが私へ手を伸ばす。触られるのは嫌だから、すぐに逃げようとした。だけど信号が赤になり、そうかといって信号無視もで
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