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第7話

Author: 少女の呟き
廻はあんなにイケメンなのに、私ごときと極貧生活を送らせるなんて忍びない。

来たれ!金よ!

ビッグマネー、カモン!

「一攫千金、一攫千金」と祈るように唱えながら帰宅すると、部屋は真っ暗だった。

あれ?

うちのインキュバス、買い物にでも行ったのか?大人しくしてろって言ったのに。

近所のスーパーに探しに行こうと踵を返した瞬間、ちょうど階段を上がってきた廻と鉢合わせた。

私の顔を見ると、彼はどこか気まずそうな表情を浮かべた。

「……帰ってたのか?」

私は頷き、何気なく尋ねる。

「家にいなかったじゃん。どこ行ってたの?」

「食材を買いに行っていた」

「そう。で、荷物は?」

私は手ぶらのインキュバスをジロリと疑いの目で見やる。

廻は少し沈黙した後、謝った。

「すまん。買い直してくる」

そう言って踵を返そうとする彼を、私は引き止めて優しく言った。

「買いに行かなくていいよ。まだ家にいっぱいあるし」

「……ああ。じゃあ、飯を作る」

彼はスリッパに履き替え、キッチンへと向かった。

おかしい。いつもなら私が帰るなり、玄関で待ち構えていた彼は、喉をゴロゴロと盛大に鳴ら
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