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第7話
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インテリの妻は未来を紡ぐ天才 第8話
秦さんの母さんは私が三つ子を妊娠していると知ると、表情を一変させた。 その隙に、秦家の父子は私が秦さんを支えるためにこれまでどれだけ尽くしてきたかを熱心に語った。 母親はしばらく黙っていたが、やがて静かに頭を下げた。 「秀珍、私が間違っていたよ。あなたが子君にこんなにも深い愛情を持っているなんて知らなかった。本当にごめんなさい」 そう言って、彼女は学文を抱き上げ、普通の祖母のように孫を優しくあやし始めた。 軍の宿舎での生活は穏やかに進み、私はすぐに出産予定日を迎えた。 今回は秦家の家族全員が付き添ってくれて、出産のために事前に軍の病院に入院した。 妊娠している子供の数が多かったものの、私の「子宝に恵まれる体質」のおかげで出産は驚くほどスムーズだった。 それでも、秦家の家族たちは私の体をとても心配してくれた。 生まれてきたのは、二人の男の子と一人の女の子だった。 秦軍長も秦さんも、小さな娘を特にかわいがり、秦家の人々は息子以上に娘を大切にしているように見えた。 産後は、栄養価の高い食事や特別なケアを受け、私は体力をしっかりと回復することができた。秦さんはかつて約束してくれた通り、私と子供たちを全力で支えてくれた。 一方、秀紅は秦家の支援を受けて会計学を学び始めた。 彼女は元々頭の良い人で、これまでそうした機会がなかっただけだった。 ある日、秀紅が娘たちを連れて私を訪ねてきたとき、嬉しい報告をしてくれた。 「宋とその父親が村人たちに長年の仕打ちを訴えられて、もうすぐ刑が下されるって。私の離婚も無事に認められたわ」 そう話した後、彼女は少し困惑した表情を浮かべて言った。 「でも、ちょっと変な話があるのよ。宋、ずっと前世のことを覚えているって言うの。『俺が五人の息子を産む』とか、『秀珍がお嫁さんだった』とか。正直、少し頭がおかしいんじゃないかと思うわ」 宋の末路を聞いて、私は心の底から痛快だった。 ただ、秀紅の人生は前世では幸せだったのに、今世では宋のせいで随分苦労を強いられたことが少し胸に残った。 「お姉さんにはもっと良い人がいるはず。次こそいいご縁を見つけてあげたいな」と思っていると、秀紅は笑って手を振った。 「今はもう十分幸せよ。そういえば、知らないの？村では家庭連産責任制が導入された
インテリの妻は未来を紡ぐ天才 第1話
仲人の鋭い声が、我が家の薄暗い小屋を突き抜けた。 「宋さん！秀紅（しゅうこう）の足は不自由なんですよ？農作業なんてとても無理です。それに比べて秀珍（しゅうちん）は見た目も美人で、中学まで出ています。あなたにぴったりでしょう！」 宋瑋（そうい）は私を冷たい目で一瞥し、鼻で笑うようにこう言った。 「女が学歴を持って何になる？嫁は秀紅みたいに男を支える女でないとダメだ。男児を産まなきゃ家は続かないんだからな」 私は炕そばに立ちながら、その様子をじっと見ていた。手を強く握り締め、怒りをこらえきれず震えた。できることなら、その場で宋を殴り倒してやりたいくらいだった。（炕（かん）：中国農村特有の、冬に暖を取るため火で温められるベッド） だが、分かっている。彼もまた、過去をやり直そうとしているのだ。 前世、宋は当然のように私を選び、姉は村一番貧しい農家の男に嫁いだ。 初めのうちは、宋一家も私を歓迎していた。美人で学のある嫁に満足していたのだ。 けれど、姉が次々と五人の息子を産み、姉夫婦の家が一代で村一の繁栄を遂げた頃から、風向きが変わった。姉の夫は事業で成功し、村中から「姉は男を出世させる女」と褒め称えられるようになったのだ。 一方の私は三人の娘を産んだものの、宋家の没落が始まり、村では「不幸を呼ぶ女」とののしられた。 夫は私を町へ連れて行き、流行り始めたばかりの人工受精を受けさせようとした。 医者ははっきりと言った。「こういったケースでは原因は男性側にあります。宋さんは染色体に問題があり、男の子を作ることは不可能です」と。 それでも宋家の人々は耳を貸さず、理解しようともしなかった。家に戻ると、彼らは私におかしな民間療法を強要し、息子を産めと責め続けた。その結果、私は心身ともに衰弱しきり、それでも生まれてきたのは女の子だった。 宋は村で肩身が狭い思いをさせられることを恨み、酒に酔った勢いで私を殺した。私の娘たちも、姑と彼の手で食糧を節約するために殺されたのだ。 姉の秀紅は泣きながら喜びを爆発させていた。彼女の条件ではろくな結婚相手も見つからないと諦めていたのに、村で一番のエリートとも言える隊長の宋が、指名して彼女を娶ると言ったのだから。 両親も気が気ではなかった。宋は村長の息子であり、彼の家系には町で役人をしている親戚も
インテリの妻は未来を紡ぐ天才 第2話
前世、薬を買いに街へ行った際、宋はお金を持って遊び歩き、私を街中の道路脇に放り出した。その時、偶然通りかかった秦さんが私を見つけてくれた。 そこで私は初めて知った。彼が実は軍長の息子であることを。家族は名誉を回復し、官職にも復帰していた。彼は街に戻った後、大学に進学し、大学の講師となっていたのだ。（軍長：中国軍の高官、師団長に相当） 秦さんは言った。 「昔、田舎に下りていた頃、君がくれたあの一つの饅頭がきっかけで、君に惹かれたんだ。でもその時の僕には、君に釣り合う価値なんてなかった。ただ、君が結婚して不幸になったことは予想外だったよ」 彼は知人に頼んで、私の離婚を手助けしようとしてくれた。だが、その知らせが届く前に、私は宋に酔った勢いで殴り殺されてしまった。 今、村人たちは私の状況を「残念だ」と囁いている。何でもそつなくこなす私が、まともな結婚相手を見つけられなかったことを不思議がっていた。 まだ大学入試試験は再開されておらず、秦さんは農作業ができるわけでもなく、彼の家も既に没落している。村で一番不格好な娘ですら彼と結婚しようとは思わないだろう。（大学入試試験：文化大革命中（1966～1976年）の混乱で一時中止されたが、1977年に復活した人生を左右する重要な試験） 両親は宋から受け取った結納金で、秀紅に立派な嫁入り道具を揃えてやったが、秦さんは何も持っておらず、私も当然ながら何も得られなかった。 秀紅はまんとうのそばで鼻歌を歌いながら、新しい服や髪飾りを眺めていた。 「その宋は、まともな人間じゃないよ」と、私は警告した。 だが、姉は険しい顔をして言い返した。 「秀珍、私があんたより幸せになるのが許せないんでしょ？昔は私が何をやってもあんたに勝てなかったし、両親だってあんたのほうを大事にしてた。でも、もう違うわ。私はあんたより良い家に嫁ぐのよ。悔しいんでしょ？」 私が何を言っても聞き入れてもらえず、両親にまで叱られた。 「嫁に出した娘は他人だ。秀紅の結婚の邪魔をするなら、もう二度とお前を娘とは思わないぞ！」 いよいよ結婚式の日、宋は腕に立派な腕時計をつけ、自転車に乗って秀紅を迎えにやって来た。噂によれば、宋の家にはミシンもラジオもあるという。村中の娘たちが秀紅を羨ましそうに見つめ、ほとんど全員が宋家の祝賀に駆
インテリの妻は未来を紡ぐ天才 第3話
宋は勢いよく家の中へ飛び込み、大声でわめき散らした。「俺の息子が取り違えられたんだ！秀珍と秀紅が同時に産んだから、子供が間違えられたんだろう！俺の子は男の子だ！」李婆さんの嫁が彼を外へ押し出しながら叫んだ。「早く出て行きなさい！女が出産してるのに、男が入るのは縁起が悪いんだよ！大丈夫、間違いなんてないわ。秀紅が先に産んだのよ。秀珍はまだ生まれてないから、奥さんのところに行きなさい！」宋の怒鳴り声を聞きながら、私は妙に力が湧いてきた。そして、また一つの元気な産声が響き渡った。李婆さんが大声で知らせた。「生まれた！男の子だ！秦さん、早く迎えに来なさい！」秦さんは息子を抱きかかえ、涙をこぼしながら私のそばに駆け寄った。「秀珍、僕、父親になったよ！ありがとう、本当にありがとう！」私が何か言うよりも早く、隣の部屋から秀紅のすすり泣く声が聞こえてきた。「子供の性別なんて、どうしようもないじゃない。ラジオで言ってたけど、性別は女だけのせいじゃなくて、男にも関係があるんだって……」宋はもちろんそれを信じようとはせず、彼の中では子供の性別は女だけの責任だと思い込んでいた。秀紅が殴られる音が聞こえ、私は胸が痛んだ。「秦さん、私の両親を呼んで止めてもらって」と頼んだ。父は間に入り、宋をなだめようとした。「宋さん、焦らないで。最初は花が咲いて、実がなるのは後なんだ。秀紅だってまた産めるさ。ほら、彼女の母親だって最初に二人女の子を産んでから、男の子を四人も産んだじゃないか」しかし宋は冷笑し、「女なんて、財産を漏らすだけだ。俺が欲しいのは男だ！」と言い捨てると、秀紅と赤ん坊を実家に置き去りにして去ってしまった。子供の名前さえ考えようとしなかった。泣き腫らした目で秀紅はつぶやいた。「この子、名前を『招娣（しょうてい）』にしよう……次こそ男の子を産むんだから」秦さんは私を家へ連れて帰り、栄養をつけさせようと彼の大切にしていた名家の貴重な手稿を街で売り払った。そして、それで得たお金で紅糖と小さなかごいっぱいの卵を買ってきた。息子の満月祝いの日、両親が珍しく我が家を訪れた。「秀珍、お前の家はこんなに貧しいのに、この子を育てていけるのかい？秀紅のところへ渡したらどうだい。だって第一子が男の子じゃないせいで、秀紅は宋さ
インテリの妻は未来を紡ぐ天才 第4話
「姉さん？どうしてここに？」 現れたのは秀紅だった。彼女は背後から鉄のスコップで宋の頭を叩き、宋を気絶させたところだった。 秀紅は私を抱きしめ、泣きながら訴えた。 「秀珍……もう耐えられない。私は今夜、井戸に身を投げるつもりだったの。でも、彼がこそこそあんたの家に向かうのを見て、心配で追いかけてきたんだ」 秀紅は普段、言葉がきつくて誤解を招きがちだが、血を分けた姉妹だ。どうして心から憎めようか。 私は彼女の手を握り、穏やかに諭した。 「もう少し頑張って。もうすぐ良い日が来るから。それに、離婚してやり直せばいい。死ぬなんて考えないで」 今回は秀紅も私の言葉に頷いてくれた。 私は学文を抱きながら秀紅とともに宋家に戻り、姉の子供たち――招娣と盼弟――も一緒に抱えて実家へ避難した。 両親は当然のように反対し、秀紅に帰るよう説得した。 「離婚なんてありえない！変なことを言うんじゃないよ。お前を妹に影響されて馬鹿になったか？宋家は権力もあるし、良い家柄の親戚なんだぞ。たとえ死んでも離婚なんてするな！早く戻れ。生きてても死んでてもお前は宋家の人間なんだから！」 そんな話をしている最中、頭に包帯を巻いた宋が現れた。 「さっきの話、全部聞いたぞ。俺にあんなに多くの結納金を払わせておいて離婚だと？そんなの通るわけがない！」 父は慌てて取り繕うように言った。 「まあまあ、夫婦喧嘩なんてどこにでもあることだよ。秀紅も反省してる。さあ、彼女と子供を連れて帰りなさい」 しかし秀紅は毅然とした態度で言い放った。 「たとえ死んでも、あんな畜生と一緒にはいられない！」 宋は冷笑した。 「誰が秀紅を迎えに来たと言った？あんな役立たずの女を押し付けやがって。俺は嫁を変える。秀珍を連れて帰る！」 私は宋に向かって唾を吐き捨てた。 「ふざけるな。夢でも見てるんじゃないわ。私たち姉妹はどちらもお前なんかに付いて行かない！」 両親も説得を試みた。 「宋さん、それは無理な話だよ。秀珍はもう秦家の嫁だ。秦が死んだわけでもないのに、二度目の結婚なんてできないだろ？」 だが宋は包帯を指差しながら言った。 「昨夜、俺の頭を割ったのは秀紅だろう？嫁が夫を殴るなんて犯罪だ！刑務所行きだぞ。お前たちが嫁を変えないなら、彼女を牢屋に送
インテリの妻は未来を紡ぐ天才 第5話
「俺の嫁に誰一人触れるな！」 玄関に響いた声の主は秦さんだった。彼は堂々と紅旗自動車（中国製の高級車ブランド。特に政府要人や公式行事で使われることが多い）を家の前に停め、背筋を伸ばして家の中へと歩み入った。 その車を見た村人たちは珍しいものを見るように一斉に押し寄せてきた。 私は混乱の中から抜け出し、涙を流しながら秦の胸に飛び込んだ。 秦は優しく私の涙を拭い、次に私のお腹を見下ろした。 「秀珍、まさか……また妊娠してるのか？」 私は頷きながら答えた。 「あなたが出発した日に気付いたの。ちょうど六か月くらいよ。それより、試験はどうだった？」 秦は晴れやかな表情で「合格したよ」と告げた。その瞬間、村人たちが歓声を上げた。 「大学生だって！うちの村で大学生なんて初めてじゃないか！」 「前から秦は普通じゃないと思ってた。いやぁ、本当に大したもんだ！」 秀紅も私の肩を抱きながら怒りをぶつけた。 「大学生になったなら、どうしてすぐ秀珍を迎えに来なかったのさ？あんたがいない間に、あの子がどれだけひどい目に遭ったか分かってるの？」 秀紅はこれまでの出来事を秦に伝えた。秦は申し訳なさそうに頭を下げた。 「ごめんよ、秀珍。すぐに戻りたかったんだ。でも急に家族の問題が起きて、どうしても片付ける必要があって……」 その時、宋が鼻で笑った。 「家族の問題だって？どうせ街で金持ちの女にでも囲われてたんだろうよ。大学生？そんなもの、役に立たねぇよ。ただの能無しだ。勉強したって何になる？たとえお前が大学に受かったとしても、この村じゃ俺に頭を下げるしかないんだよ」 彼はさらに挑発するように続けた。 「俺は正直に言うぞ。俺は秀珍が欲しいんだ。お前が秀紅を連れて行くか、自分で消えるか選べ。秀珍は俺の息子を産むための女だ！」 その瞬間、秀紅が声を張り上げた。 「宋、あんたは人間じゃない！自分の問題なのに、全部他人のせいにしやがって！あんたが種なしなのは、あんた自身のせいだよ！」 前世と同じように、今世でも宋は病院で検査を受けており、結果は彼に問題があることを示していた。だが彼は恥ずかしさからその結果を隠し、すべての責任を秀紅に押し付けていたのだ。 今、秀紅に痛いところを突かれた彼は怒りに燃え、手を振り上げた。しかしその
インテリの妻は未来を紡ぐ天才 第6話
軍用車の隊列が私の家の前に整然と停まり、村全体が騒然となった。 宋は笑顔を浮かべながら歩み寄ると、声を張り上げた。 「叔父さん、やっと来てくれたんですね！」 車から降りてきたのは彼の叔父だったが、彼は宋には目もくれず、後部座席のドアを開けるために小走りで駆け寄った。そこから降りてきたのは、威厳に満ちた一人の男性だった。 「これが我々の軍区の軍長だ。村に誰かを探しに来たそうだ」 宋はさらににやけながら軍長に頭を下げた。 「軍長様、どうもこんにちは！私はこの村の生産隊の隊長を務めています。村のことなら何でも知ってますので、誰を探しているかお聞かせください！」 私の両親はこの状況に驚愕し、震えながら見守っていた。宋が軍長と話せるような人物だと思い込んだのだ。彼の取り巻きたちも急に態度を大きくし、宋の叔父や軍長に媚を売り始めた。 「軍長さん、ぜひ聞いてください！この家は悪質な農夫の一家です。大学に受かった途端、農夫を見下すようになりました。全員逮捕してください！」 その時、秦さんが一歩前に出た。宋は得意げに命じた。 「こいつを縛り上げろ！村でインテリとして来ていた頃から、まともに働きもせず、本ばかり読んでいたやつだ。あんなのは資本主義の残りカスだ！」 「父さん！」秦さんははっきりとそう呼びかけた。 その一言に、宋は一瞬驚いたが、すぐに嘲笑した。 「ははは、こんな時になって怖気づいて叫ぶのか？遅すぎるぞ。俺に向かって父さんなんて言っても、何の意味もない！」 すると、軍長が冷たく鼻で笑った。 「つまり、お前は俺を父親と呼びたいのか？」 宋の二姨父の顔が一瞬で青ざめた。 「秦軍長、もしかしてこの方が……お探しのご子息ですか？」 村人たちはこの展開に度肝を抜かれた。宋の取り巻きたちは震え上がり、口々に言い訳を始めた。 「軍長様、ごめんなさい！全部宋の奴がやれって言ったんです！」 秦さんは父を家の中へ案内した。荒らされて滅茶苦茶になった部屋を見た軍長は顔をしかめた。宋は事態が悪化したことを察し、こっそり逃げようとしたが、軍長に気づかれた。 「逃げるな！お前は俺に訴えを起こすつもりだったんだろう？中で話を聞こうか」 宋は力が抜け、軍人たちによって担ぎ込まれるように家の中へ連れて行かれた。 私
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インテリの妻は未来を紡ぐ天才 第7話
宋の叔父は顔面蒼白でその場で弁解を始めた。 「軍長！私はそんなことを言ったことなんてありません！こいつのでっち上げです！それに、私とあいつは実際には大した親戚でもないんです！」 秦軍長は冷たい目で彼を一瞥し、鼻で笑った。 「お前のように群衆から乖離し、村の暴君の後ろ盾となる行為についてはすでに告発されている。調査を待つがいい」 その言葉に、叔父はその場にへたり込み、口汚く宋を罵り始めた。 「俺をこんな目に遭わせやがって！こんな奴のために、もうお前の叔母と一緒にいられるか！」 村人たちは騒ぎ立てながらも、この壮絶な光景を興味深げに見物し、それが収まるとようやく自分たちの家に帰っていった。 秦軍長は、今回の訪問に際して、大量の食料や缶詰を贈り物として私たちの家に届けてくれた。 両親は驚き、恐縮しきりで、弟たちは目を輝かせてはしゃいでいた。 秦さんは秦軍長の立会いのもと、私に正式な結婚式をもう一度挙げたいと提案した。 両親はすっかり態度を変え、秦さんを息子以上に大切に扱うようになり、彼が何を言っても全て受け入れるようになった。以前、彼を「役立たず」と見下していた頃の様子は、跡形もなく消えていた。 私はこの機を逃さず、秦さんに頼んで両親を説得し、秀紅の離婚を認めてもらえないか相談した。 秦さんは優しい声で答えた。 「もし宋が刑を受けることになれば、お姉さんの離婚申請は確実に通るよ。それに、娘たちもお姉さんのもとに引き取られるだろう」 その言葉を聞いて、秀紅はようやく安堵の表情を浮かべた。 彼女は私の手を握りしめ、涙ながらに言った。 「秀珍、やっぱりあんたは幸運だな。私はずっとあんたを妬んで、ひどいことを言ってしまった。でも、許してくれるか？」 私は首を横に振り、穏やかに微笑んだ。 「お姉さん、私たちは同じ家で同じ苦労をしてきた。私たちこそ一番近い存在だよ」 秦軍長は私たちに帰るよう促し、次回改めて実家を訪問すると約束した。 私は学文を抱え、秦さんと一緒に車に乗り込んだ。その後ろを、秀紅が招娣と盼弟を抱えながら、足を引きずりつつ追いかけてきた。 秀紅は体に障害を抱え、離婚した上に二人の子供を抱えている。さらに両親は息子ばかりを優遇している。この村で彼女が生きていくのは到底難しいだろう。 私
インテリの妻は未来を紡ぐ天才 第6話
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宋は勢いよく家の中へ飛び込み、大声でわめき散らした。「俺の息子が取り違えられたんだ！秀珍と秀紅が同時に産んだから、子供が間違えられたんだろう！俺の子は男の子だ！」李婆さんの嫁が彼を外へ押し出しながら叫んだ。「早く出て行きなさい！女が出産してるのに、男が入るのは縁起が悪いんだよ！大丈夫、間違いなんてないわ。秀紅が先に産んだのよ。秀珍はまだ生まれてないから、奥さんのところに行きなさい！」宋の怒鳴り声を聞きながら、私は妙に力が湧いてきた。そして、また一つの元気な産声が響き渡った。李婆さんが大声で知らせた。「生まれた！男の子だ！秦さん、早く迎えに来なさい！」秦さんは息子を抱きかかえ、涙をこぼしながら私のそばに駆け寄った。「秀珍、僕、父親になったよ！ありがとう、本当にありがとう！」私が何か言うよりも早く、隣の部屋から秀紅のすすり泣く声が聞こえてきた。「子供の性別なんて、どうしようもないじゃない。ラジオで言ってたけど、性別は女だけのせいじゃなくて、男にも関係があるんだって……」宋はもちろんそれを信じようとはせず、彼の中では子供の性別は女だけの責任だと思い込んでいた。秀紅が殴られる音が聞こえ、私は胸が痛んだ。「秦さん、私の両親を呼んで止めてもらって」と頼んだ。父は間に入り、宋をなだめようとした。「宋さん、焦らないで。最初は花が咲いて、実がなるのは後なんだ。秀紅だってまた産めるさ。ほら、彼女の母親だって最初に二人女の子を産んでから、男の子を四人も産んだじゃないか」しかし宋は冷笑し、「女なんて、財産を漏らすだけだ。俺が欲しいのは男だ！」と言い捨てると、秀紅と赤ん坊を実家に置き去りにして去ってしまった。子供の名前さえ考えようとしなかった。泣き腫らした目で秀紅はつぶやいた。「この子、名前を『招娣（しょうてい）』にしよう……次こそ男の子を産むんだから」秦さんは私を家へ連れて帰り、栄養をつけさせようと彼の大切にしていた名家の貴重な手稿を街で売り払った。そして、それで得たお金で紅糖と小さなかごいっぱいの卵を買ってきた。息子の満月祝いの日、両親が珍しく我が家を訪れた。「秀珍、お前の家はこんなに貧しいのに、この子を育てていけるのかい？秀紅のところへ渡したらどうだい。だって第一子が男の子じゃないせいで、秀紅は宋さ
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前世、薬を買いに街へ行った際、宋はお金を持って遊び歩き、私を街中の道路脇に放り出した。その時、偶然通りかかった秦さんが私を見つけてくれた。 そこで私は初めて知った。彼が実は軍長の息子であることを。家族は名誉を回復し、官職にも復帰していた。彼は街に戻った後、大学に進学し、大学の講師となっていたのだ。（軍長：中国軍の高官、師団長に相当） 秦さんは言った。 「昔、田舎に下りていた頃、君がくれたあの一つの饅頭がきっかけで、君に惹かれたんだ。でもその時の僕には、君に釣り合う価値なんてなかった。ただ、君が結婚して不幸になったことは予想外だったよ」 彼は知人に頼んで、私の離婚を手助けしようとしてくれた。だが、その知らせが届く前に、私は宋に酔った勢いで殴り殺されてしまった。 今、村人たちは私の状況を「残念だ」と囁いている。何でもそつなくこなす私が、まともな結婚相手を見つけられなかったことを不思議がっていた。 まだ大学入試試験は再開されておらず、秦さんは農作業ができるわけでもなく、彼の家も既に没落している。村で一番不格好な娘ですら彼と結婚しようとは思わないだろう。（大学入試試験：文化大革命中（1966～1976年）の混乱で一時中止されたが、1977年に復活した人生を左右する重要な試験） 両親は宋から受け取った結納金で、秀紅に立派な嫁入り道具を揃えてやったが、秦さんは何も持っておらず、私も当然ながら何も得られなかった。 秀紅はまんとうのそばで鼻歌を歌いながら、新しい服や髪飾りを眺めていた。 「その宋は、まともな人間じゃないよ」と、私は警告した。 だが、姉は険しい顔をして言い返した。 「秀珍、私があんたより幸せになるのが許せないんでしょ？昔は私が何をやってもあんたに勝てなかったし、両親だってあんたのほうを大事にしてた。でも、もう違うわ。私はあんたより良い家に嫁ぐのよ。悔しいんでしょ？」 私が何を言っても聞き入れてもらえず、両親にまで叱られた。 「嫁に出した娘は他人だ。秀紅の結婚の邪魔をするなら、もう二度とお前を娘とは思わないぞ！」 いよいよ結婚式の日、宋は腕に立派な腕時計をつけ、自転車に乗って秀紅を迎えにやって来た。噂によれば、宋の家にはミシンもラジオもあるという。村中の娘たちが秀紅を羨ましそうに見つめ、ほとんど全員が宋家の祝賀に駆
インテリの妻は未来を紡ぐ天才 第1話
仲人の鋭い声が、我が家の薄暗い小屋を突き抜けた。 「宋さん！秀紅（しゅうこう）の足は不自由なんですよ？農作業なんてとても無理です。それに比べて秀珍（しゅうちん）は見た目も美人で、中学まで出ています。あなたにぴったりでしょう！」 宋瑋（そうい）は私を冷たい目で一瞥し、鼻で笑うようにこう言った。 「女が学歴を持って何になる？嫁は秀紅みたいに男を支える女でないとダメだ。男児を産まなきゃ家は続かないんだからな」 私は炕そばに立ちながら、その様子をじっと見ていた。手を強く握り締め、怒りをこらえきれず震えた。できることなら、その場で宋を殴り倒してやりたいくらいだった。（炕（かん）：中国農村特有の、冬に暖を取るため火で温められるベッド） だが、分かっている。彼もまた、過去をやり直そうとしているのだ。 前世、宋は当然のように私を選び、姉は村一番貧しい農家の男に嫁いだ。 初めのうちは、宋一家も私を歓迎していた。美人で学のある嫁に満足していたのだ。 けれど、姉が次々と五人の息子を産み、姉夫婦の家が一代で村一の繁栄を遂げた頃から、風向きが変わった。姉の夫は事業で成功し、村中から「姉は男を出世させる女」と褒め称えられるようになったのだ。 一方の私は三人の娘を産んだものの、宋家の没落が始まり、村では「不幸を呼ぶ女」とののしられた。 夫は私を町へ連れて行き、流行り始めたばかりの人工受精を受けさせようとした。 医者ははっきりと言った。「こういったケースでは原因は男性側にあります。宋さんは染色体に問題があり、男の子を作ることは不可能です」と。 それでも宋家の人々は耳を貸さず、理解しようともしなかった。家に戻ると、彼らは私におかしな民間療法を強要し、息子を産めと責め続けた。その結果、私は心身ともに衰弱しきり、それでも生まれてきたのは女の子だった。 宋は村で肩身が狭い思いをさせられることを恨み、酒に酔った勢いで私を殺した。私の娘たちも、姑と彼の手で食糧を節約するために殺されたのだ。 姉の秀紅は泣きながら喜びを爆発させていた。彼女の条件ではろくな結婚相手も見つからないと諦めていたのに、村で一番のエリートとも言える隊長の宋が、指名して彼女を娶ると言ったのだから。 両親も気が気ではなかった。宋は村長の息子であり、彼の家系には町で役人をしている親戚も
