第533話

幸せは突然に舞い降りる。

そう思いながら、初芽は足取りも軽やかにスタジオへと戻っていった。

その顔にはずっと笑みが浮かんでいて、むしろその笑顔はどんどん濃くなっていた。

だが、スタジオに戻った瞬間、そこに加津也が待っているのを目にして、彼女は一瞬固まった。

その瞬間、顔の笑みも少し強ばった。

初芽は一拍置いてから、気まずそうに口を開いた。

「......なんで、ここに？」

笑顔はさっきまでのように華やかではなく、やや控えめになっていた。

初芽にはわかっていた。

加津也がここへ来た理由。

おそらくは「やり直したい」という話だろう。

ここ最近、彼は何度か彼女の元を訪れてはいたが、滞在時間はいつも短かった。

そして最近では、ほとんど顔を見せなくなっていた。

初芽は、彼がもう自分のことを諦めたのかと思っていた。

まさか、今日ついてくるとは思ってもみなかった。

とはいえ、初芽もいずれ彼に会って話すつもりだった。

だったらこうして現れたのは、ある意味ちょうどいい。

加津也は、今や活き活きと輝いている初芽を見て、目を真っ赤にして嫉妬の色を浮かべていた。

彼の目はギラついていて、初芽を見つめるその視線は、さらに強く熱を帯びていた。

「初芽、俺たち、もう一度やり直そう？」

彼は立ち上がって、初芽の方へ歩み寄ってきた。

「もう君を失いたくない。もう、あの頃みたいな毎日は嫌なんだ」

「いろんなことを経験して、ようやく気づいた。俺は、本当に君を愛してるんだ」

初芽は後ろに下がりたくなった。

けれど、彼に頼みたいことを思い出し、衝動を抑えた。

その場に立ち尽くし、彼に抱きしめられたまま、表情だけを「心打たれた女性」のように演じた。

「加津也......そんなこと言われたら、私......」

声を詰まらせ、顔にも未練をにじませるような演技を見せた。

その様子に、加津也はますます心を揺さぶられた。

彼女をぎゅっと抱きしめたまま、必死に訴えた。

「俺は本気で君を愛してる。気づいたんだ。もう、君を手放したくないって......」

初芽も、それに合わせてそっと彼を抱き返し、顔には迷いや悲しみの表情を浮かべた。

「加津也の気持ちはわかるよ。でも私たちは、本当に似合わないの」

「今の私たちの関係って、もう私たち二人だけの問題じゃない。二つの