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第546話

Author: レイシ大好き
辰琉は彼女の打ちひしがれた様子を見ても、微塵の同情も浮かべなかった。

真白に対して、彼は最初から自分の目的をはっきりと自覚していた。

真白など、ただの欲を発散するための存在にすぎなかった。

それ以外の価値など、彼の中には存在しなかった。

しかも彼女は自分の戸籍や身元について何一つ知らない。

これは彼にとって、都合の良いことこの上なかった。

「カチャッ」という金属音が室内に響いた瞬間、真白の身体がびくりと震えた。

彼女は目を大きく見開き、辰琉を見つめた。

「な......何をするつもり?」

震える声で問いかけた。

彼女には何が起ころうとしているか、おおよその察しはついていた。

けれども、現実として目の前にそれが迫ってくると、どうしても恐怖が押し寄せる。

彼とのそういった時間は、恐怖と屈辱だけがつきまとうものでしかなかった。

そこに彼女の意思や感情が入り込む余地は一切なかった。

時には体に傷を負うことさえあった。

自分と遊女の違いはどこにあるんだろう。

自分は、まるで人の欲望のために存在する「物」に成り下がったかのようだった。

もう21世紀だというのに、なぜこんな目に遭わなければならないのか?

ここは、社会から見放された場所でもないのに。

時々、真白は思う。

なぜ辰琉という人間はここまで、自分の人間性を捨てられるのか。

なぜ法があるこの社会で、こういう人間がいまだに存在するのか。

真白は、自分の人生について、ただ祈るしかなかった。

緒莉があの時、かすかにでも物音に気づいてくれるように――

そうすれば、苦痛な時間も少しは減るだろう。

辰琉みたいなクズとずっと一緒にいることもないだろう。

辰琉は真白の拒絶の姿勢を見て、内心ますます苛立っていた。

「なんだ、その表情は?俺はお前が無戸籍でも文句一つ言ってないんだぞ。なのにお前は、俺を拒むのか?」

彼は冷たい目で彼女を見つめ、無理やり彼女の顔をこちらに向けた。

ズボンを脱げ、彼女の体に這い上がった手は、やさしさの欠片もなかった。

真白は無言のまま、シーツを握りしめ、ぽろぽろと涙を流し続けた。

そのとき彼女は心の底で願っていた。

電話の向こうは誰なのかはもうどうでもいい、どうか自分をこの地獄から救い出してほしい――と。

......

夜、辰琉は何事もなかったかのよ
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