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第858話

Author: 落流蛍
千代は激しい興奮で血が逆流するような気持ちだった。

商治は紹介した。

「母さん、彼女は小林水子。俺の友達」

そう言ってから、水子にも言った。

「こっちは俺の母」

「初めまして、小林水子と申します。よろしくお願いいたします」

千代は水子をじっくり見つめ、口元に笑みを浮かべた。見れば見るほど気に入ったようで、特に友達という言葉に喜びがにじみ出ていた。

「水子さんね?飛行機で疲れたでしょ。さあさあ、中に入って休んで」

水子は千代に手を引かれて家の中へ入った。

振り返って商治たちに助けを求めるような視線を送ったが、彼らは笑っているだけで、助けに来る様子はなかった。

「僕は先に帰るよ。君たち親友同士でゆっくり話すといい」

時也はそっと華恋の頭を撫でた。

華恋が彼の触れ方に全く抵抗しないとわかってから、時也は何かと彼女に触れるようになった。

華恋自身は気づいていなかったが、時也ははっきり感じていた。

華恋は時也に対して、まったく警戒心を持っていない。

それに気づいたときから、彼は何夜も眠れなかった。

華恋は時也の後ろ姿を見送ったあと、商治と一緒にリビングへ戻った。

するとちょうど、千代が水子に彼氏はいるのかと聞いていた。

水子は千代の勢いに完全に押されてしまい、華恋と商治に助けを求めるような視線を送った。

それを見た商治はすかさず前に出た。

「母さん、水子は華恋の友達で、華恋に会いに来たんだ。だからあんまり水子を独占しないで。彼女たちにゆっくり話をさせてあげてよ」

千代は答えた。

「あらまあ、あなたたちお友達だったの?それなら、早く言ってくれればよかったのに。じゃあ、おばさんは邪魔しないわね」

そう言ってから、商治に目を向けた。

「商治、ちょっと2階に来なさい。母さん、話があるの」

商治は呆然とした。

彼は自分に矛先を向けてしまった……

書斎に入るなり、千代は待ちきれずに口を開いた。

「ねえ、そうでしょ?でしょ?」

商治はとぼけたふりをした。

「何が?」

「やっぱりね!あなた、水子のこと好きなんでしょ?」

商治は母の鋭い視線を避けて、窓の外を見た。

「またそんなことを……」

「そんなこと、ってねぇ。あんたは私の息子よ。母さんにわからないとでも?」

千代は得意げだった。

「華恋のことを私がしつこく構ってても、
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