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第3話

Auteur: 沙和
銀司はベッドの脇に立ち尽くし、いつもは冷静な瞳に困惑の色が浮かんでいた。

これまでずっと、美鈴の方が積極的にキスを求め、身体を求めていたのに――まさか自分から初めて求めた時に、こんなに冷たく拒まれるとは。

呆然とする彼をよそに、美鈴はくるりと背を向けると、布団をぐるぐると体に巻きつけた。

「最近、体調が優れないから……別々の部屋で寝るわ。あなたは客室を使って」

その言葉に、銀司の表情が初めてはっきりと崩れた。

しかし美鈴は最後まで振り向かず、すでに眠るふりをしている。

重苦しい沈黙の後、扉を力任せに閉める音が響いた。

翌朝、階段を降りた美鈴は、出勤準備中の銀司とすれ違った。

「引き継ぎは全て終わったから、これからは吉岡さんに任せるわ。それじゃあ、もう一緒に出勤しない」

淡々と告げる彼女に対し、銀司はまるで聞こえていないかのように、黙って玄関を出ていった。

閉められずに残されたドアを見て、美鈴は思った。

冷戦状態に入ったのね。

今までなら、必ず彼女が折れて謝りに行ったものだ。

だが今回は、慌てて追いかけるでもなく、キッチンへ向かった。

スマホで検索した洋食レシピ動画を見ながら、丁寧に朝食を作り始めた。

出来上がった料理を味わいながら、海外の求人サイトを閲覧した。

もはや銀司の機嫌など、どうでもよかった。

それから数日、二人は完全に無視し合うようになった。

ある夜、お風呂から出た美鈴は、スマホに大量の未読メッセージが届いているのに気づいた。

全て銀司からのものだ。

【演奏会に来ない理由は?】

【いつまでこんな子供じみたことを続けるつもりだ?】

【開演まであと30分。今すぐ来い】

【美鈴、最後通告だ。本当に来ないのか?】

……

以前なら、彼の演奏会を欠席することなど考えられなかった。

交通事故で骨折した時でさえ、松葉杖をついて真っ先に応援に行ったものだ。

「一番のファンでいる」と約束していたから。

だが今回は姿を見せず、一言の説明さえしなかった。

この変化が、銀司をどれほど混乱させたか。

でも、もう私には関係ないことだと美鈴が思った。

美鈴はメッセージを全て削除し、見なかったことにした。

しかし銀司は諦めず、電話をかけまくってきた。

スマホの電源を切ると、今度は自宅の固定電話が鳴り始めた。

「演奏会に来ないなら、せめて打ち上げに出席しろ」

何度も繰り返され、美鈴はついにうんざりしてコートを手に取った。

会場に着くと、黒のタキシードを粋に着こなした銀司が、杏に『きらきら星』を教えているところだった。

「橋本さん!あの二人、めっちゃいい雰囲気じゃない?」

同僚が興奮しながら近寄ってきた。

「まさにお似合いのカップルよね」

美鈴は微笑んで軽く頷いた。

「ええ、本当にお似合いだわ」

その声がステージまで届いたのか、銀司は不意にミスタッチをし、表情を険しくした。

ハイヒールで不安げな杏がステージから降りようとすると、彼はさっと立ち上がり、彼女の細い腰を抱えて優しく降ろしてやった。

「わあっ!銀司さん、ありがとう」

「気にするな」

そう言いながら、銀司は美鈴の方へ視線を送った。

しかし彼女は同僚と楽しそうに談笑しており、全く気に留めていない様子だ。

冷房の効きすぎた室内で、薄着の杏がふるえていると、彼はすぐさま上着を脱ぎ、彼女の肩にかけてやった。

杏は上着にくるまると、嬉しそうに彼の隣にぴたりと寄り添った。

それから、銀司は銀色の果物ナイフを巧みに操り、彼女のためにフルーツを切り分け始めた。

その手つきは、四百億円の価値があると言われるピアニストの手らしく、優雅で無駄のない動きだった。

それを見た同僚はまたしても興奮し、美鈴に目配せした。

「本当に可愛がってるわね」

美鈴はそれに応えるように、またしても薄く笑っただけだった。

打ち上げが中盤に差し掛かった時、誰かがゲームを提案した。

簡単なカードゲームで、同じ柄を引いた二人が罰ゲームを受けるというもの。

運悪く、第一ラウンドで銀司と杏が選ばれてしまった。

そして引いた罰ゲームは――十秒間のキス。

一瞬、会場全体が水を打ったように静まり返った。

その沈黙を破ったのは、意外にも美鈴だった。

「キス、キス」

彼女は楽しそうに手を叩き、周囲を煽り始めた。

その笑顔は本物のように見えた。誰もその瞳の奥にある冷たさには気づかなかった。

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