『え~、気付かれた方も多いと思いますが、ロアが今ちょっといません。先ほど急に動かなくなりまして、現在裏で様子を見てもらっています』
は? さっきまであんなに会話してたのに? 最後のアレはどうなったんだよ!? その後番組は止まる事無く、100万給付の事や新経済対策の内容、東京内建造物の急な赤い光、終盤にはロアが最後に言おうとしていた事の考察が数分だけされた。 L.S.を使った新事業を売り出す、外交を増やして国々の物を組み合わせた限定品を作る、宇宙事業を新たに進める、と様々な意見。しかしその反動で、一気に税金を上げる、公共料金が引き上げられる、L.S.の使用料を毎月取られる、といった意見も。 だが、俺が本当に気になったのはそれらではなかった。ほんの少数だがSNSでこう言ってる人たちがいた。 「人間を殺して、その分を取り上げるんじゃないか?」 なんでかは俺にも分からない。なぜかこの言葉だけがずっと脳裏に残った。この違和感はなんだろう⋯⋯。 「ねぇ、ルイ」 考えていると、不意にユキが話しかけてきた。 「総理の会見って夜にもするって言ってたよね」 「ん⋯⋯言ってたな」 「会える人は会いましょうって言ってたけど、次は強制的に見せるとかじゃないってことかな」 「かもな。また夜に見てみるしかない、ってか、この100万どうするよ?」 「う~ん⋯⋯私は一旦貯金かなぁ。ルイは?」 突然の100万に対しても、ユキは案外冷静な様子だった。昔っからの冷静さは、ここでも変わらずのよう。ちなみに俺もと言っておいた。特に欲しいものっていっても、そんな今はない。 「さて、そろそろ出ますか」 「うん」 俺たちが出ると同時に、一気に人が入っていった。もう昼が近いからか、人気だったりするからか、それかあの席の良さがまさかバレてるなんて事は、流石にあまり無さそう。 会計は出る時に自動でL.S.から支払われるため、特に接客とかは無い。何年か前から自動会計の無人店舗が広がっていったが、こんな施設内まで今や無人みたいなもの。奥に管理人一人くらいはいるんだろうけど。 「えっと、10階でやってるんだよね? それ」 俺の新仕様になったL.S.を指してユキは言う。そんなこんなでユキに連れられ、エスカレーターで例の10階に向かう。またあの場所に行くってわけだ。さっきの影響か、一気に増えた人の数。あまり多くならないうちに帰りたい、と考えながら向かう途中、 「悪い、ユキ。ここからはちょっと一人でもいいか?」 「? いいけど、どこか行くの?」 「どうしても確認したい事があって、後で屋上に来てくれ」 「屋上? 分かった」 俺はすぐに屋上へと向かった。実はさっきから、配信やSNSで謎の赤ビル建設が話題になってる。AIだけで作ってるらしく、とてつもない速さで出来ていってるらしい。上の方からだと様子が見えるらしいから、ここからならすぐ見えるはずだ。せっかくだし、ちょっと見られるうちに見てみたい。 屋上へ行くと、何人かが先にその様子を見ていた。「あれなに?」という声が聞こえてくる。秋葉原駅のすぐ横、確かに大きな赤い何かが今出来ようとしている。人は一人もおらず、何台もの機械だけが正確に動いていた。秋葉だけじゃない、渋谷にも出来てるっていうし、謎だ。 さらに上をよく見てみると、赤いドローンも数台飛んでいるのが見える。何をする場所になるんだろう。L.S.でいろいろと確認をしていると、ユキが来るのが横目に見えた。屋上は風が結構あり、ユキの履いてるミニスカートが一瞬捲れ上がった。ピンクのアレは見えなかった事にしておこう。 「⋯⋯変態」 「いや見てねえって」 「嘘、絶対見た」 「もう何でもいい、んな事よりアイツを見てみ」 「?」 ユキは赤ビルを見て少し驚く。俺たちはハンモックのある場所に座り、アレを眺めた。 「さっきはやっぱり見た?」 「何を?」 「ピンク」 「ピンクってなんだ」 「引っかからないかぁ」 「どうだっていいだろ、んなこと」 「よくないし、ルイの変態」 「意味分からん」 ⋯⋯あれ? ユキを横目に見ると、右腕には水色のL.S.があった。 「なぁそれ、どうしたんだ?」 「あ、これね。さっきUnRuleの事前予約当選者ってのに当たっちゃったみたい」 「は? ユキも?」 「うん」 ⋯⋯マジ? 予約の数ってヤバかったはず。 100万人くらいって、告知で見た気がする。その中の100人中2人がここにいるという事になる。にしても、形もまた少し違う。疑問が残る中、俺たちはもう数分だけ眺めてから秋葉原駅へと向かう事にした。経済対策の影響で利用者が多いのか、タクシーは全く捕まえられなかった。 「あ~、タクシー乗り場にも全然いないかぁ」 「こんな時だけ使いやがって」 「ね。電車乗るしかないかなぁ」 駅前にも確かに人は多かったが、意外にも予想の範疇だった。俺たちは仕方なく駅構内へと入る。改札は今は何かを媒介して通る必要は無く、次の改札を通る時にL.S.が自動で支払ってくれる。最近電車は乗ってないけど、電車内も凄い進化してるって聞いた。無人電車による自動運転だけでなく、なんと全部三階建てらしい。 AIによる案内も充実していた。駅員のような恰好をした人型アンドロイドや、マスコットキャラがまるで人のように老人たちを案内している。今までの駅員の仕事をあれらが代替してるって感じなのだろうか。 各所でL.S.の大きい版のようなホログラム掲示板まであり、もう俺が知っている駅では無かった。そんな俺の横で、何一つ表情を変えないユキ。 まさか知らないの俺だけじゃないよな⋯⋯? こんなに凄いんだな、今の駅って⋯⋯。俺の家は渋谷の神山町。高級住宅街なんて言われている場所だが、最近は別にそんな大した家ばかりじゃない。近くにユキの家があるが、俺の家より全然大きい。そこに向かうには、山手線の外回り(東京・品川方面)の方が少し早く行ける。
人の流れに沿ってホームに行こうとしたその時、後ろの方で男の大きな悲鳴が聞こえ、それと重なるように人々が大声を上げて走って離れていく。駅員アンドロイドたちがすぐ気付いたのか、警報を鳴らしだし、横を走りだした。 構内の壁のタッチパネルやホログラム掲示板が真っ赤になり、【〈〈緊急避難〉〉走らず慌てず対処をお願いします】と表示され、瞬く間に視界は赤へと染まった。 「⋯⋯ユキ、先行ってろ」 「いや、私も行く」 「いいのか、ヤバいヤツがいるかもだぞ」 「大丈夫、危なかったら一緒に逃げよ」 ただの好奇心だった。こんな事は今は滅多に起こらないから。ヤバければ逃げればいい、それだけを考え、問題の後ろの場所へと行く。それは人を掻き分けたほんの数メートル先。 そこには真っ赤に染まった床。取り押さえようとする駅員を次々と破壊するアレ。俺の脳内で危険信号が発した。今すぐ逃げろって。逃げろって。 脳内が言う。早ク逃ゲロ。 早 ク 逃 ゲ ロ※この話以降は【三船ルイの視点】となります 静かな風が辺りを包んだ。巨大な紫月がこの渋谷スカイを照らし始めると、あの時の事が蘇った。何も出来ず、こいつに殺された、あの時の事が。あんなに何も出来ない事は初めてだった。 自慢じゃないが、俺は一度も負けた事が無かった。ARやXRは、VRと違ってリアルの繊細な動きと判断が物を言う。ただ鍛えればいい、ただ慣れればいい、その時代は終わり、AIを使って常に最新の動きと対策を研究し、独自の動きへと、自分のAIへフィルターをかける必要がある。肌に合っていたのがこの環境だった。 こんな意味不明な経済対策が始まった時、その経験がこんなに活きるなんて、人生何があるか分からないと思った。でも、最期はこいつと会って、今までの経験全てを否定されたかのようだった。 遥か先を行った見た事無い動き、5年の歳月はあまりに大きさな差を生んでいた。 でも、今は違う。一度見たのは脳裏に焼き付いている。死んでから何もかも失って、何もかも捨てて、その代わりのものを持ってきた。 それは誰でもない、ユキたちのおかげ。だから、またここに立っていられる。 次はもう無い。今度こそ、どちらかがこの世から消える。『⋯⋯』 ヤツの両手に銃剣が握られた。このヘリポート上へと散る、0と∞、白と黒の時間粒子。"真の不死蝶"という存在が、辺りを震撼させる。 白空羽田空港の時のように、話してかけてくれそうにない。アドバイスもくれそうにない。俺を本気で殺すという意志だけが、そこには立っている。 ヤツの背中から七色蝶の羽根が広がると、ヤツは一瞬で俺へと迫って来た。お互いの銃剣が激しくぶつかった時、俺の銃剣から"新たな粒子"が舞う。 "前と違う異変"を察知したのか、ヤツが動きを変えようとする。その背には、薄っすらと浮かぶショウカさんが目を瞑り、ヤツを包んでいた。 ショウカさん、そこで見てるんだろ? 俺が代わりに持ってきた、この"全虚無限涅槃蝶の銃剣"で、あんたらを連れて帰るからな。「ルイ⋯⋯!!」 ユキの叫ぶ声が後方から伝う。「大丈夫だ。手に持ってる"それ"、任せたからな⋯⋯!」 ユキが持つ、あの"白黒カプセル"。それをどうするのか、全てユキに委ねている。 けど、そんな他の事を考える暇は今無い。目で認識出来ない攻防が続く中、死んで得た"コレ"が正しいのか
「え、ユキ!? ショウカさん!?」「ルイ!? あれ!?」 さっきまで35階にいたのに! よく分からないけど、戻ってこれた⋯⋯?『ちょうどいいじゃない。二人が持ってる盾をここにはめましょう』 なんと、ルイも"蝶型の盾"を持っていた。こっちと形状が全く同じ"七色蝶の盾"。 それぞれ持ってる盾を、決まった数字の窪みへとはめると、轟音を立ててドアが開き始めた。 これでやっと、渋谷スクランブルスクエア方面へと行けそう。さっきは4階から35階まで苦労しそうと思ったけど、案外すんなり終わって良かった。いや、まぁ苦労はしたんだけど⋯⋯ このハイスマートサングラス、凄く役に立った。これのおかげでマップ把握だけでなく、ショウカさんの位置も把握しやすかった。 ルイはこうなる事が分かっていて、私に貸してくれたのかな? 一体、彼はどこまで上に行ってしまうのだろう。きっと、これからもずっと私の進むべき道を教えてくれる。だから傍にいると、こんなにも安心する。「それ、使えたか?」 ルイがハイスマートグラスを見て言う。分かってるくせに。「うん、大活躍だった」「なんか、ショウカさんが持ってるのに、ユキが持ってないのはよくないって思ったからさ」「あなたは先読みが凄すぎなのよ、はい」 ハイスマートグラスを外し、彼へと返す。「いや、それやるよ」「え?」「この後も使うかもしれないだろ。やるって」 まさかの突き返されてしまった。ずっと大切にしてる物だろうに。ルイは出かける時、いつもこれを付けていた。高性能なだけでなく、視力回復や斜視改善や若返り等、様々な医療効果もあるとされているコレ。まだ持ってる人が少なく、ずっと欲しいと思って予約してもすぐ売り切れ。 壊さないように、大事に持っていないと⋯⋯『じゃれ合ってていいねぇ』「⋯⋯じゃれ合ってませんから」 淡々と先を歩いていたショウカさんが、唐突に私へと振り向いて言う。じと目なその表情は、少し寂しそうにも見えた。 渋谷スクランブルスクエア前まで来る頃、空気が変わるのを感じた。ここだけ威圧感が凄いというか、なんというか⋯⋯『この中へ入れば、所長をどうにかしない限り、たぶん帰れない。それでも、いいわね?』「⋯⋯はい」『聞くまでも無さそうね、その顔は』 彼の覚悟が決まった返事を聞いて、私も今一度、自分を奮い立たせる
ショウカさんの戦い方は、まるで私をずっと後ろから見ているようだった。こんな白黒の風が吹き乱れ、ヤツらの目まぐるしい動きが続く中、自分と私の正確な安置を見出している。 その安置へと移動するだけで、的確なサポートをしやすい上に、ヤツらの手も届かない。 私が"共有されたズノウ"を上手く使えてないだけかもしれないけど、それでもここまで完璧に扱うなんて、只者じゃない。『ユキさんッ!』「はいッ!」 縦横無尽に来る3体の猛攻を、何手も先が見えているように避けては、次々ズノウを組み合わせて当てていく。 "蝶のように舞い、蜂のように刺す"よりも、"蝶のように舞い、鬼のように叩く"という表現が正しい。一撃避ければ、私たち二人による十数連撃が続く。これだけやっても、手数の多さはこっちの方が少ないという事実。それでも、一つずつ確実に当てていく事に意味がある。 でも、幾ら裂いても効いているのか実感が無く、徐々に疲労が溜まっていく。自分の限界が来てしまえば、それはショウカさんの限界を意味する。 迂闊に適当なズノウを選ぶわけにもいかない。これは今の二人だからこそ、成り立っている連携。 一旦ショウカさんがこっちへと下がってくると、彼女もかなり息が上がっているようだった。「⋯⋯どんだけ、硬いの⋯⋯!」 私がそう呟くと、『左のは、もう少しでいけるはず! でもアイツら、どんどん速くなってるわ!』 絞り出すように言うショウカさん。私は軽く深呼吸し、息を吞んだ。「左は私がいきます! 後の2体をショウカさん、少しの間、面倒見れますか!?」『それはいけるけど、本気で言ってるの? ユキさん一人よ!?』「このまま続けば、私の体力、持ちそうにないので! ショウカさんを信じます!」 きっと生死の分岐点はここしかない。突き抜けた決定打を、どっちかがやる必要がある。『⋯⋯わかった、行ってきなさい!』 それをやるべきなのは、私だ!「はいッ!!」 どんな恐怖も飲み込んだ。どんな心臓の鼓動も飲み込んだ。彼の顔をすぐ見たい、それだけの理由で。 また私の全てを白黒の風が包む。 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。 どれだけ出てこようと飲み続け、足を確実な安置へと刻み続ける。 後ろから聞こえ続けるショウカさんの声。だから応えない
4階へと上がって行くエスカレーター、近付く度に緊張感が高まる。さっき見たようなのがいると思うと、鼓動も早くなっていく。あの≪虚無限蝶の偽捕食者≫と言われていたアレ、想像するだけで鳥肌が立つ。 全長2メートルほどの大きさ、背中には激しく光る七色蝶の羽根、左右の太い腕にはそれぞれ∞と0の紋章、身体の周囲には七色の風さえも纏っていた。 ルイは簡単に勝ってるように見せたけど、あんなの私には到底できない。というか、人間に出来るものじゃない。 そんな喚きさえも遮られるように、ここにいるのは私とショウカさんだけ。今更泣いて逃げても、行き止まりの大きなドアが待つだけ。『怖い?』「あ、いや⋯⋯」『それでいいのよ。そういったアンテナが、結局は自分の命を守るんだから』 彼女は前を向きながらそう言った。その姿勢からは恐れ一つ感じない。傍にルイがいないだけで、私はこんなにも弱いなんて⋯⋯『あまり不安にならなくていいわ。なんてったって、私たちは所長のズノウが一部使える。これさえあれば、大抵の事はどうにかできるわ』 ショウカさんがこっちを向いて少し笑った。その表情からして、よっぽど自信があるらしい。 4階に着くと同時に、改めてハイスマートサングラスを掛けてみる。アイツらがいるのは奥の反対側の通路。ちょっと歩くと、その全貌が明らかになった。なんと、全く知らない真新しいヤツらがそこにはいた。 背中に白黒蝶の羽根、左右の腕には"死"と"生"の入れ墨? 身体の周りには"白黒の風?"が渦巻いており、全長は同様の2メートルくらいだろうか。『まぁ、そうなるかぁ』「アレを⋯⋯知ってるんですか?」『あれは≪死生刻蝶の正風嵐者(ライフタイムリミット・トゥルーステンペスター)≫。さっきいたのと親戚みたいなものと考えて。あれも所長のズノウから召喚された厄介なヤツ。普通にこんなヤバいの置いてくなんて、そんなに私たちを消したいのね』「つまり、強さも同じくらいという事ですよね⋯⋯」『そうね。でも、3体ならどうにかなりそう』「⋯⋯勝てます⋯⋯かね」『4体以上だったらたぶん無理。だけど、3体だったら対処できる、理論的には』 ⋯⋯それって、理想の動きをそのままに、確実に再現しなきゃいけないという事よね⋯⋯。当然のように、ミスは一つも許されそうにない。 この時さらに絶望だったのが、ヤツら
『ユキさんも"それ"、付けてみて』「"これ"ですか?」『私が見えるって事は、あなたも見えると思う』 エスカレーターに上りながら、ショウカさんが言う。その通りに、頭にあるルイのハイスマートサングラスを掛けてみた。すると、"非渋谷ストリーム1~4階マップ"が多層立体的に現れ、"謎の何か"が4階に3体いる事がすぐ把握できた。ただ、上へ行くためのエスカレーター等は見えない。『その反応は、見えたって事ね』「はい、くっきりと」 3階に着く頃、アパレル店が多くある通りへと変わった。景観は現実の渋谷ストリームにそっくりなのよね⋯⋯ 端側を通ると、大きな窓ガラスから外がよく見える。そこには相変わらず、紫に光る東京夜景が広がっていた。不意にその紫光が彼女を照らすと、一瞬身体が透けたようだった。「あのー、ショウカさんは、そのー⋯⋯」『死んでるわ。最期は所長に付いて行って死んじゃった。好きだったの、"あの人"が』 ⋯⋯これって、ルイの事が好きだった⋯⋯ってことよね。『あなたも好きなんでしょ? 彼の事が』「⋯⋯えぇ!? 私ぃ!?」『動揺しすぎでしょ。隠せてると思った?』「あ、いや⋯⋯まぁ」『いいじゃない。彼の事を妄想しながらここを触ってオ』「ちょっとッ!? 今、卑猥な事を言おうとしてましたよねッ!?」『え~、なんで分かったのよ』「オ、は気付きますってッ! この話はここまでですッ!」『やるじゃない。逆に見抜かれちゃった』 もうなにこの人。真面目な人かと思ったのに。『でも、これで少しは不安がほぐれたでしょ?』 ⋯⋯確かになんか身体が少し軽く感じる。知らない間に強張ってたってこと⋯⋯? そこまで見越しての事だったとしたら、やっぱりこの人⋯⋯『ここからが本番そうだからね。これが大人の対応ってヤツなのよ? 見習ってね?』 うん、やっぱりよく分からないわ。 他愛無い話をしながら歩いていると、今度は有名ハンバーガー店の右奥にエスカレーターを発見した。よく分からない所にばかり設置されているのが、段々ムカついてきた。もしこんなのが現実にあったら、クレームだらけで一瞬で閉店なのに。『さて、ここからはいつでも戦える状態で』「はい」 "灰涅槃の鬼鎌"を取り出すと、鬼の眼から"灰色の光"が天井を差した。上に敵がいるという事を知らせてくれている。この鎌の元にな
「⋯⋯なに、あれ?」 歩道の途中、"巨大な七色蝶のようなドア"があった。 避けて通ろうとすると、まるで通せんぼするようにドアが動き始めた。左に避ければ左に、右に避ければ右に、どこまでも邪魔してくる。 このドアの前では、鎌を出そうとしても出せず、ズノウも使えないようになっている。一体何なのコレ⋯⋯?『もしかして、"この窪み"にはめる物が必要なのかも』「そんなゲームのイベントみたいな事、あります?」『まぁ、このUnRule自体が元々ゲームだから』「⋯⋯そうだった」『2つ窪みがあるわね、"35"と"38"ってそれぞれ書いてあるわ』 二人が会話する中、私は辺りを見回してみた。すると、1か所だけ渋谷ストリームのビル内へ入れる場所を発見した。「あれ、ここだけ中へ入れるみたいです」 二人を呼んで近付くと、"2"という数字が大きく浮かび上がった。さっきから、この謎の数字はなんなの⋯⋯?「んー、さっきの"35と38"はたぶん、この渋谷ストリームの最上階が35階、渋谷サクラステージの渋谷タワー最上階が38階だから、それが関係してるとか⋯⋯。この"2"は入れる人数⋯⋯とか? なんか人のアイコンあるし」『おぉ、さすが若所長』「⋯⋯俺は所長じゃないんですけど」『5年違うだけなんだし、いいじゃない。若所長って呼ばせてよ』「そういえば、あなたは何て呼べば⋯⋯」『言ってなかったっけ、そういえば。私は霧海(きりうみ)ショウカ、28歳独身。一応、2035年の君の副所長をさせてもらってたのよ』 すんごいドヤ顔してる。若くして大きな研究所の副所長にまでなるなんて、この人は相当凄い人なのかな。『てなわけで、ここからどうしましょう。二人しか入れないのだとしたら、一人がここに残る事になるわ。私が残ってもいいのだけど⋯⋯そうすると、ユキさん、しんどいかも』「え?」『気付いてるわよ。私と会うまで、しんどかったでしょ』「なんで気付いて!?」『見れば分かるわ。なんか、あなたは私とよく似てる感じするから』「そうだったのか? ユキ」「⋯⋯ごめん、黙ってて。ここ、なんか苦しくて⋯⋯」『この世界自体がズノウで作られたものだから、人が長居する場所じゃないしね。でも、私が傍にいれば、ユキさんを安静にできるみたい』 それで楽になってたんだ。だったらどうしよう。この人を残すと、私