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93. 大人

Penulis: Mr.Z
last update Terakhir Diperbarui: 2025-07-11 21:40:30

 4階へと上がって行くエスカレーター、近付く度に緊張感が高まる。さっき見たようなのがいると思うと、鼓動も早くなっていく。あの≪虚無限蝶の偽捕食者≫と言われていたアレ、想像するだけで鳥肌が立つ。

 全長2メートルほどの大きさ、背中には激しく光る七色蝶の羽根、左右の太い腕にはそれぞれ∞と0の紋章、身体の周囲には七色の風さえも纏っていた。

 ルイは簡単に勝ってるように見せたけど、あんなの私には到底できない。というか、人間に出来るものじゃない。

 そんな喚きさえも遮られるように、ここにいるのは私とショウカさんだけ。今更泣いて逃げても、行き止まりの大きなドアが待つだけ。

『怖い?』

「あ、いや⋯⋯」

『それでいいのよ。そういったアンテナが、結局は自分の命を守るんだから』

 彼女は前を向きながらそう言った。その姿勢からは恐れ一つ感じない。傍にルイがいないだけで、私はこんなにも弱いなんて⋯⋯

『あまり不安にならなくていいわ。なんてったって、私たちは所長のズノウが一部使える。これさえあれば、大抵の事はどうにかできるわ』

 ショウカさんがこっちを向いて少し笑った。その表情からして、よっぽど自信があるらしい。

 4階に着くと同時に、改めてハイスマートサングラスを掛けてみる。アイツらがいるのは奥の反対側の通路。ちょっと歩くと、その全貌が明らかになった。なんと、全く知らない真新しいヤツらがそこにはいた。

 背中に白黒蝶の羽根、左右の腕には"死"と"生"の入れ墨?

 身体の周りには"白黒の風?"が渦巻いており、全長は同様の2メートルくらいだろうか。

『まぁ、そうなるかぁ』

「アレを⋯⋯知ってるんですか?」

『あれは≪死生刻蝶の正風嵐者(ライフタイムリミット・トゥルーステンペスター)≫。さっきいたのと親戚みたいなものと考えて。あれも所長のズノウから召喚された厄介なヤツ。普通にこんなヤバいの置いてくなんて、そんなに私たちを消したいのね』

「つまり、強さも同じくらいという事ですよね⋯⋯」

『そうね。でも、3体ならどうにかなりそう』

「⋯⋯勝てます⋯⋯かね」

『4体以上だったらたぶん無理。だけど、3体だったら対処できる、理論的には』

 ⋯⋯それって、理想の動きをそのままに、確実に再現しなきゃいけないという事よね⋯⋯。当然のように、ミスは一つも許されそうにない。

 この時さらに絶望だったのが、ヤツら
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