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92. 伝心

Auteur: Mr.Z
last update Dernière mise à jour: 2025-07-10 22:04:12

『ユキさんも"それ"、付けてみて』

「"これ"ですか?」

『私が見えるって事は、あなたも見えると思う』

 エスカレーターに上りながら、ショウカさんが言う。その通りに、頭にあるルイのハイスマートサングラスを掛けてみた。すると、"非渋谷ストリーム1~4階マップ"が多層立体的に現れ、"謎の何か"が4階に3体いる事がすぐ把握できた。ただ、上へ行くためのエスカレーター等は見えない。

『その反応は、見えたって事ね』

「はい、くっきりと」

 3階に着く頃、アパレル店が多くある通りへと変わった。景観は現実の渋谷ストリームにそっくりなのよね⋯⋯

 端側を通ると、大きな窓ガラスから外がよく見える。そこには相変わらず、紫に光る東京夜景が広がっていた。不意にその紫光が彼女を照らすと、一瞬身体が透けたようだった。

「あのー、ショウカさんは、そのー⋯⋯」

『死んでるわ。最期は所長に付いて行って死んじゃった。好きだったの、"あの人"が』

 ⋯⋯これって、ルイの事が好きだった⋯⋯ってことよね。

『あなたも好きなんでしょ? 彼の事が』

「⋯⋯えぇ!? 私ぃ!?」

『動揺しすぎでしょ。隠せてると思った?』

「あ、いや⋯⋯まぁ」

『いいじゃない。彼の事を妄想しながらここを触ってオ』

「ちょっとッ!? 今、卑猥な事を言おうとしてましたよねッ!?」

『え~、なんで分かったのよ』

「オ、は気付きますってッ! この話はここまでですッ!」

『やるじゃない。逆に見抜かれちゃった』

 もうなにこの人。真面目な人かと思ったのに。

『でも、これで少しは不安がほぐれたでしょ?』

 ⋯⋯確かになんか身体が少し軽く感じる。知らない間に強張ってたってこと⋯⋯?

 そこまで見越しての事だったとしたら、やっぱりこの人⋯⋯

『ここからが本番そうだからね。これが大人の対応ってヤツなのよ? 見習ってね?』

 うん、やっぱりよく分からないわ。

 他愛無い話をしながら歩いていると、今度は有名ハンバーガー店の右奥にエスカレーターを発見した。よく分からない所にばかり設置されているのが、段々ムカついてきた。もしこんなのが現実にあったら、クレームだらけで一瞬で閉店なのに。

『さて、ここからはいつでも戦える状態で』

「はい」

 "灰涅槃の鬼鎌"を取り出すと、鬼の眼から"灰色の光"が天井を差した。上に敵がいるという事を知らせてくれている。この鎌の元にな
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  • フォールン・イノベーション -2030-   96. 十二

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