ホームレスJCの大江戸繁盛記~現代知識を駆使して一攫千金を目指します!~

ホームレスJCの大江戸繁盛記~現代知識を駆使して一攫千金を目指します!~

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بواسطة:  瘴気領域مستمر
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大場カナコはバイタリティがカンストしているタイプの女子中学生。諸事情あって学校に通えず、橋の下に住んでいる。そして拾った石や流木をフリマアプリで売って暮らす日々を過ごしていた。そんなある日、川の中にいい感じの流木を発見。これは高く売れそうだと拾おうとしたらうっかり溺れてしまう。なんとか川原に這い上がると、そこは見知らぬ場所だった。異形のサルに追われるキツネ耳の巫女服少女を助けたことをきっかけに、カナコの江戸風異世界での生活が始まるのだった。これは一人のJCが知恵と勇気と口八丁で一攫千金を目指す物語である。

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الفصل الأول

第1話 ホームレスJC参上!

「我が名は大場カナコ! 世が世なら花も恥じらう女子中学生だった者である! いざ尋常に参るッッ!!」

 私はそう叫ぶと、川に向かって売れ残りの石を次々に放り投げた。一段、二段、三段……と水面を跳ねる石を見ているとすっきりする。今日の記録は十八段か。うむ、調子は悪くない。

 デイバッグがひとまず空になったので、今日の石拾いを始める。いい感じの石にそれっぽいキャプションをつけてフリマアプリで売るのが今の私の生業である。フリマアプリのポイントはお店の決済にそのまま使えるのが素晴らしい。銀行口座が凍結されていても問題なしだ。

 富士山の樹海で逃げ回っていた頃と比べたら、いまの川原暮らしは天国みたいなものだ。契約切れのスマホでも野良Wi-Fiでネットに繋がるし、石が売れたらコンビニから発送できる。梱包用のダンボールはスーパーでただでもらえる。ビバ現代文明である。

「おっ、何やら良さげな流木を発見!」

 バッグが半分ほど埋まったところで、川の少し深いところにいい感じの流木が沈んでいるのが見えた。よく干して綺麗に掃除してやると、こういうのも高く売れる。最高記録は3700円。石よりも高い値段がつくことが多いのだ。

 ざぶざぶと川に入る。春先の冷たい水がジャージに染みる。つべたい。だが、我慢。流木を掴む。川底に深く突き刺さっているようで、なかなか抜けない。腰を落とし、両手に思いっきり力を込める。

「うぉぉぉぉ……おりゃぁぁぁああああ!! あがぼぼっ!? がぼぼっ!? ごぼぼぼぼ……」

 すぽーんと勢いよく抜けた。それがよくなかった。足が滑った。転んだ。デイバッグに詰めた石の重みで立ち上がれない。がぼぼあぼぼと手足をばたつかせながら意識が遠くなり――

 ――――――

 ――――

 ――

「ぼはあっ!? げほいっ、ごっほ! じ、じぬがどおぼっだ……」

 何をどうしたのか覚えていないが、なんとか岸辺に這い上がれていた。全身を犬のように震わせて水気を飛ばす。あたりを見渡すと、景色がだいぶ変わっていた。けっこう流されてしまったのだろうか。とりあえず場所を確認しようと土手を登る。

「うーん、すがすがしいほどにど田舎……」

 土手から見える風景は、見渡す限りの田畑だった。ぽつぽつと民家が立っているが、瓦屋根と藁葺きの平屋ばかり。この辺に藁葺きの家なんてまだ残ってたんだな。ああいうのは観光地ぐらいにしかないもんだと思ってたよ。

 あちこちに桜が咲くのどかな風景に思わず心が和むが、のんびりもしていられない。まだ今日の出品ができていないのだ。ここがどこだか見当がついていないが、川上に向かっていけば元の場所まで戻れるだろう。

 拾った流木を杖代わりに、土手をとてとてと歩き始めたときだった。

「ぎゃぁぁぁあああ!! 誰かお助けぇぇぇえええ!!」

 土手の向こうから誰かが走ってきた。巫女服を着ていて、金髪の頭には三角の耳が生えている。コスプレの撮影をしているところに変質者にでも襲われたのだろうか。目を凝らすと、数人の人影が巫女服を追っているのが見えた。しかし、その人影は人間にしてはやけに小さいように思える。

「んー? サルか何かかな?」

「おーたーすーけぇぇぇええええ!!」

 眺めていると、巫女服の少女が目の前でずてーんと転んだ。いまどきこんなきれいに転ぶ人はめったに見ない。芸術点が高いな。

「ゲギャギャギャギャ!」「グギャギャギャギャ!」「ゴギャギャギャギャ!」

 少女を追っていたのは、思ったとおりサルだった。大きさは私の腰の高さくらいで、皮膚病なのかあちこちの毛が抜けており汚らしく見える。顔は青白く、まるでドクロみたいだ。額には角のような出来物がぽこぽこ付いている。いや、これ絶対変な病気持ってるわ。

「えんがちょっ!」

 私はバッグから取り出した石を3匹のサルの顔面に投げつけた。それは見事に眉間に命中し、サルたちは「ゲッ」「グッ」「ゴッ」と悲鳴を上げて逃げ去っていく。普段はこうしてスズメやハトを狩っているのだ。この程度は朝飯前である。

「あ、ありがとうございましたっ!」

 巫女服少女がよろよろと立ち上がり、ちょこんと頭を下げてきた。金色の瞳には涙が溜まっていて、おしりにはふさふさの尻尾が生えていた。ケモ耳はピコピコと動いており、なかなか気合の入ったコスプレだ。

「うん、まあ、あのままだと私も引っ掻かれたりしたかもだし。お礼を言われるようなことじゃないよ」

 助けるつもりで助けたのなら、礼金のひとつもせびるところだが、今回は自衛がメインだ。お礼を言われる筋合いはない。野生動物の爪や牙は怖いのだ。めっちゃバイキンだらけだから、かすっただけでも破傷風とかそういう怖い病気になりかねない。狩る目的でないのなら、大声を出すなり石をぶつけるなりして追い払う方が賢い。

「いえいえ、とんでもないです! 命の恩人です! ぜひお礼をさせてください!」

「そう? じゃあ、もらうけど」

 しかし、くれるというものを断るほどでもない。私は右の手のひらを少女に差し出した。

「おひけえなすって?」

「違うわっ!」

 なぜそうなる。私が任侠にでも見えるのか。磨いて売れば千万単位の値がつくと借金取りから太鼓判を押されたこともある美少女なのだぞ、私は。

「ええっと、お金、ですか……?」

「もちのろん。お金に勝る誠意なし。次に物だね。言葉なんていくらもらっても何にもならないし」

「そ、そうですか。あまり持ち合わせがないのですが……」

 そういって、少女は懐から財布を取り出した。布製の渋いデザインだ。小物にまで凝るとは、なかなかのコスプレイヤーである。

「すみません、これしかなくって……」

「かまわないよ。たくさんあればうれしいけど、少なくたってお金はお金だもん。……って、何これ?」

 私の手のひらには、五円玉に似たものが4枚置かれていた。デザインも違っていて、穴は四角く、寛永通宝と書かれている。古銭ってやつだろうか? いくらなんでもこだわりすぎだろ。

「ご、ごめんなさい! 命の恩人に十六文(※)は少なすぎますね……」

「別にいいよ。こんなのでもフリマで何百円かにはなるでしょ」

「ふりま? ええっと、他に何かできることがあればいいのですが……」

「うーん、じゃあ世境よざかい橋ってどの辺かわかる?」

 世境橋は私のがある場所だ。二車線のけっこう立派な橋で、下にいれば大雨でも濡れない。私の他にホームレスもおらず、なかなか住みやすい穴場である。このまま土手を歩いていけば着くと思うが、念のため道を尋ねてもいいだろう。

「世境橋ですか? 私もちょうどそちらに用事があったんです! よかったらご案内しますよ!」

「あ、そうなんだ。じゃあお願いするね」

 どうせまっすぐ行くだけだろうけど、案内してくれるのなら断ることもない。私は少女の揺れる尻尾を追いかけて歩き始めた。

四文銭しもんせん:江戸時代における最低通貨単位が「一文」であることは広く知られているが、一文銭の次の通貨が四文銭であることはあまり知られていない気がする。というか、私もこれを書きながら調べてはじめて知った。二八蕎麦は「二✕八」で十六文だったからそう呼ばれたなんて話もあるが、一見半端に見える十六文という価格は四文銭4枚でキリがよかったのだろう。

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第1話 ホームレスJC参上!
「我が名は大場カナコ! 世が世なら花も恥じらう女子中学生だった者である! いざ尋常に参るッッ!!」 私はそう叫ぶと、川に向かって売れ残りの石を次々に放り投げた。一段、二段、三段……と水面を跳ねる石を見ているとすっきりする。今日の記録は十八段か。うむ、調子は悪くない。 デイバッグがひとまず空になったので、今日の石拾いを始める。いい感じの石にそれっぽいキャプションをつけてフリマアプリで売るのが今の私の生業である。フリマアプリのポイントはお店の決済にそのまま使えるのが素晴らしい。銀行口座が凍結されていても問題なしだ。 富士山の樹海で逃げ回っていた頃と比べたら、いまの川原暮らしは天国みたいなものだ。契約切れのスマホでも野良Wi-Fiでネットに繋がるし、石が売れたらコンビニから発送できる。梱包用のダンボールはスーパーでただでもらえる。ビバ現代文明である。「おっ、何やら良さげな流木を発見!」 バッグが半分ほど埋まったところで、川の少し深いところにいい感じの流木が沈んでいるのが見えた。よく干して綺麗に掃除してやると、こういうのも高く売れる。最高記録は3700円。石よりも高い値段がつくことが多いのだ。 ざぶざぶと川に入る。春先の冷たい水がジャージに染みる。つべたい。だが、我慢。流木を掴む。川底に深く突き刺さっているようで、なかなか抜けない。腰を落とし、両手に思いっきり力を込める。「うぉぉぉぉ……おりゃぁぁぁああああ!! あがぼぼっ!? がぼぼっ!? ごぼぼぼぼ……」 すぽーんと勢いよく抜けた。それがよくなかった。足が滑った。転んだ。デイバッグに詰めた石の重みで立ち上がれない。がぼぼあぼぼと手足をばたつかせながら意識が遠くなり―― ―――――― ―――― ――「ぼはあっ!? げほいっ、ごっほ! じ、じぬがどおぼっだ……」 何をどうしたのか覚えていないが、なんとか岸辺に這い上がれていた。全身を犬のように震わせて水気を飛ばす。あたりを見渡すと、景色がだいぶ変わっていた。けっこう流されてしまったのだろうか。とりあえず場所を確認しようと土手を登る。「うーん、すがすがしいほどにど田舎……」 土手から見える風景は、見渡す限りの田畑だった。ぽつぽつと民家が立っているが、瓦屋根と藁葺きの平屋ばかり。この辺に藁葺きの家なんてまだ残ってたんだな。ああいうのは観光地ぐらいに
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第2話 冒険人足寄せ場にて
「あの、私、稲荷屋コガネって言います。あなた様は……」「私は大場カナコ。カナコでいいよ」「カナコ様ですね! 印地打ちの技、お見事でした。どこか名のある道場で習われたのですか?」「いんじうち? 石投げのこと? 水切りなら得意だよ」 私は適当な石を拾って川に投げる。石は四回ほど跳ねて、ぼちゃんと沈んだ。記録的にはいまいちだが、土手から投げてこれならまあ上等だろう。「わあ、すごい! どうやるんですか?」「うんとね、なるべく平べったい石を探してね。それで、手首のスナップをきかせて回転させる感じで投げるんだよ」「すなっぷ? なるほど、それが奥義なのですね!」 いまひとつ会話が噛み合わない。不思議ちゃんってやつだろうか。狙ってやっているならあざといが、そういう雰囲気でもない。どうやらホンモノのようだ。連絡先を聞かれたら断ろうと心に決める。「そのお着物も素敵ですね! 近頃の江戸では、そういうのが流行りなんですか?」「流行ってはいないんじゃないかなあ。学校指定のジャージだから、着てる子は多いかもしれないけど」 そのうえ、拾い物だからなあ。世境中学校という刺繍がされていたが、さすがにそれは取り去っている。「じゃーじと言うのですね! それがカナコ様の流派の道着なのでしょうか?」「いや、別に流派とかそういうのじゃないかなあ」 噛み合わない会話を続けつつ歩いていると、木造の橋が見えてきた。時代劇の撮影でもしているのか、その上をちょんまげ姿の人々が行き交っている。世境橋に住みはじめたのは去年の冬からだが、近場にこんな観光スポットがあったとは知らなかった。いつも石を拾いながら歩いてたから、案外行動範囲が狭かったんだよなあ。「着きましたよ、ここが世境橋です!」「うん、ありがとう。助かったよ……って、え?」 思わず聞き返してしまう。今いるのは世境橋ではなく、木造の時代劇めいた橋だ。しかし、嘘をつかれたわけではないようで、欄干にも「世境橋」と書かれている。同じ名前の、別の橋に連れて来られてしまったのだろうか。「あの、何か間違っていたのでしょうか?」 コガネが金色の目をうるませて申し訳なさそうな顔をしている。ご丁寧に頭の耳もぺたりと垂れていた。不思議ちゃんで気合の入ったコスプレイヤーだが、人間はできているようだ。「うーん、私が行きたかった世境橋と
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第3話 初仕事は業火と共に
「ハハッ! この稼業に齢なンて関係ないよ。腕がありゃァ誰でも一人前さ」「それじゃ、登録します。そして仕事をください」「話が早いねェ、これに名前を書いてくんな」 和紙の帳面が差し出され、借りた筆でそれに「大場カナコ」と名前を書く。姓名の隣に「在所」という項目があるので「世境橋ノ下二-四-五」という存在しない住所を記入。電話番号の欄がないのがありがたい。どんな仕事かはわからないが、変な仕事だったら断ればいいだけだ。「で、どんな仕事があるんです? いまからでも行けますけど」 まだ午前中だ。日雇いなら午後からの半日仕事もあるのではないか、と思って尋ねる。「おやおや、仕事熱心で助かるね。それじゃァ、ちょうど狐っ娘がマシラオニの巣穴を見つけてきたんだ。これの退治でどうだい?」「マシラオニって、あのサルみたいなやつです?」「ハハッ! マシラオニをサル扱いかい。こりゃ肝が座ってるねェ。あたしゃ気に入ったよ」 女は腹を抱えて笑っている。なぜだかわからないが、気に入られたようだ。まあ、世間的に見れば害獣駆除を引き受けようとする女子中学生なんていないだろうし、そりゃそうかという気もする。 しかし、まだ大事なことを聞いていない。「まだ引き受けたわけじゃないです。報酬はいくらですか?」「おやおや、勢いだけじゃなく、そういうところもしっかりしてンだねえ。マシラ狩りは歩合だから一概にゃ言えないが、普通にやれば三日は白いおまんまにありつけるだろうよ」 なんともわかりづらい表現だが、一食千円と計算して三日分で九千円か。半日の働きとしては悪くない。サルだのイノシシだの駆除報酬が一頭数千円だと聞いたことがあるから、だいたいそんな感じなんだろう。仮に報酬自体がしょぼかったとしても、あのサルの皮を剥いでフリマに出品したっていい。肉は……食べたらお腹を壊しそうだなあ。「わかりました。引き受けます。どこに行けばいいですか?」「狐っ娘。追加依頼だ。この嬢ちゃんを案内してやりな」「わかりました!」「よし、コガネちゃん。それじゃ早速行こっか」「はいっ!」 結局、世境橋の場所はわからなかったが、それはどうとでもなるだろう。むしろ未成年でも出来る仕事が見つかったので差し引きはプラスだ。七転び八起き、人間万事塞翁が馬、というやつである。 * * * もと来た道をさらに過
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第4話 新しい私、デビュー
 炎はごうごうと、白煙はもうもうと立ち上っている。なんかもう、たたら製鉄とかできそうな勢いだ。近くに水場はなかったし、どうしようかね、これ。山火事とか洒落にならん。ハハッ!「あの、これ消した方がいいですよね?」「うん、めっちゃ消した方がいいね。全力で消した方がいいね。死ぬ気で消すべきだね」 犬かきの要領で土をかけ、必死で消火を試みている私にコガネちゃんが言う。へいっ! 君もキツネっぽく犬かきしようぜ! マジでヤバイので。警察と消防がウォンウォンやってきて取り囲まれちゃうやつなので。取調室でカツ丼を食べながら、私の悲しい生い立ちを語らなければいけない展開が待ち受けている。 物心つく前に両親と死に別れ、引き取ってくれた叔父はギャンブル狂。勝っている時はよかったんですよ。タワマン暮らしとかしてました。海外旅行にも行きました。でも負けが込むと一気にやばいんです。黒服にサングラスの人たちに追われる日常が待っているんです。 一番ひどかったのは富士山の樹海ですね。よくサバイバル漫画で蛇とか食べてるじゃないすか。あれ、ご馳走なんですよ。実際美味い。でもそうそう獲れない。では主食は何かと言ったらよくわからない草とか虫ですよ。虫は当たり外れが大きいんです。すんげえ臭いやつと香ばしいやつが同じ種類なのに混ざってて――「かしこみかしこみも白す。掛けまくも畏き闇御津羽神、洩矢神、守屋大臣、天雲に生り坐せる畏き畏き御々柱―― 」(※) 私が思考の迷宮に入りかけていたら、コガネちゃんがなんか始めていた。どこに持っていたのか神社の神主さんがバサバサするあの棒(※)を振り回している。やばい、このピンチにいよいよ本格的に電波を受信してしまったのか。不思議ちゃんフォーエバー。君の勇姿は忘れないよ……。「祓いたまえ、清め給え……<水神の清水>ッ!!」 コガネちゃんがバサバサ棒を突き出すと、その先端から高圧洗浄機もかくやという勢いで水が吹き出す。霧状のそれは燃え盛る炎にかかり、じゅおおおおおという音とともに火がみるみる消えていった。「ふぅ……上手くいきました! 神仏のご加護に感謝ですね!」「ちょま、待って? いま何したの?」 私は思わ
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第5話 江戸前寿司パーティ!
「おっすしーおっすしー、おっすしっすしー♪」「カナさん、そんなにお寿司が好きなんですね」「ったぼうよ! こちとら何年江戸っ子やってると思うんでえ! 出身は埼玉だけどな! がっはっは!」「は、はあ」 マシラオニの角は、7本で八百文になった。大きさだとか一度の納品数とかで色を付けてくれるらしいが、詳しいことはよくわからなかった。というか深掘りして聞かなかった。私は早くお寿司が食べたかったのだ。 なお、コガネちゃんへの報酬は別口で支払われていた。荒事役と探索役では別会計になるらしい。「それで、コガネさんや、お寿司屋さんはどこにあるんだい? 回る寿司なんかダメだよぉ~。ばっちり稼いだんだから、ちゃんとしたお寿司屋さんじゃなきゃぁ~」「回る寿司? 屋台なら世境橋のあたりに出てますが」「おおっ、屋台のお寿司っていうのも乙だねえ」 そういえば、屋台でご飯なんて食べたことがないな。東京で暮らしていると屋台を見かけることなんかないし、漫画やアニメの中だけの存在だ。ちょっとドキドキしてしまう。 寄せ場から世境橋への道は案外明るい。居酒屋がいくつも軒を連ねており、その灯りが洩れているのだ。それでも東京の夜に比べたらずっと暗い。両眼2.5の視力が月で餅をつくウサギさんの姿をくっきりと映す。「おすすめの屋台はあるの?」「別に馴染みはないですね。というか、屋台のお寿司なんてどこで食べても一緒じゃないですか?」「ちみちみぃ~、わかってないねぇ~。寿司屋の命は鮮度だよ? 売れ残りのネタなんて使ってたら最悪なんだ。他の店なら隠れた名店もある。でも、寿司屋だけは繁盛店が絶対的に完全的に圧倒的に大正義なんだよ。ネタの回転がいいから、いつも新鮮なものが食べられるんだ」「は、はあ……」 納得いかない様子のコガネちゃんを尻目に、私は両眼2.5の眼力を持って向こうに見えてきた寿司の屋台をサーチする。うーん、一軒目はダメだな。いかにも覇気がない。あっ、鼻糞ほじってやがる。最悪だ。おっ、次は蕎麦屋か。かつおだしの香りがたまらんのう……って、いかんいかん。今日のメインは寿司なのだ。私の口は完全にお寿司なのである。そんな誘惑には負けないぞう。 そんな感じで寿司屋台を物色していると、世境橋の袂にいい感じに人が群がっている店を見つけ、そちらに向かっ
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第6話 屋台寿司屋の悩み事
「どうやらお悩みのご様子。私でよければご相談に乗りましょうぞ」「へい……変わったお召し物といい、寿司の食べっぷりといい、なによりおいらがトロを工夫していると気がついたその眼力。お嬢さんは若いのに相当な通人とお見受けしました。てえした話じゃねえんですが、聞いていただけるとありがてえ」「うむ、苦しゅうない。胸の内、とくと聞かせてみよ」「カナさん、また人格が変わってる……」 へへっ、人格などに囚われるのは未熟者の証拠よ。バリバリ切り替えて臨機応変にやっていけなきゃ、JCのホームレス暮らしなんて即詰んでしまうのだ。人生を幸せに生きるコツは応用力なのだよ、応用力。「じつは、おいらの幼馴染が漁師をやってまして、うちの仕入れもそいつに頼んでるんですが――」 大将は渋面を作って話し始める。私はその間もパクパクと他のお寿司を食べる。うむ、蒸しエビもおいしいな。肉厚でぶりっとした歯ざわりがたまらない。尻尾が取ってあるのも食べやすくてよい。「そいつがですね、『お前にゃ本当のマグロの旨さがわかってねえ。陸もんたちはあんなもん猫もまたぐと馬鹿にしてるが、釣りたてのトロっつったらこれ以上に旨いもんはねえんだ』と言ってやして。そこまで言われたらおいらも職人だ。トロで最高の握りを作ってやろうじゃないかと売り言葉に買い言葉で――」 あ、グルメ漫画とかでよくある展開だ。たぶんこの大将は幼馴染の妹と恋仲なんだけど、最高のトロの寿司が握れないなら結婚は認めないとかそういうやつだな。私は大将の言葉を待つ。へいへい、どんな修羅場が待ってるんだい? お姉さんに聞かせておくんなよう。「……」「…………」「………………」「……………………」 あれ、いくら待っても話が続かない。仕方がない、ここは助け舟を出してやろう。「それで、大将が結婚するためには美味いトロの寿司を完成させなければならんと、そういうことだね?」「へ、結婚? 何のお話で?」「いやだって、トロのお寿司を作れないとなんかマズイことになるんでしょ?」「あ、いや、ただ悔しいだけなんですが……」「それだけかいっ!」 なんだよもう、それだけなのかよ。いい大人がくだらないことで意地を張ってるんじゃないよ。しかし、まあそれはそれだ。私は美味しいトロを食べたいのだ。もう少し付き合って
last updateآخر تحديث : 2026-07-13
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第7話 シモフリウサギ捕獲作戦!
「おーおっトロ~♪ おーおっトロ~♪ 絶対食べるぞおーおっトロ~♪ ほっぺがとろけるおーおっトロ~♪」 というわけで、我々は田園地帯にやってきていた。目的はもちろんシモフリウサギなるあやかしである。「あのう、シモフリウサギの退治にどうしてそんなものを買ったんですか?」「無駄になるかもしれないけどね。わずかなチャンスでも準備万端整えるのがツキを離さない生き方なのだよ」「は、はぁ……」 コガネちゃんが言っているのは、行きがけに小間物屋で買った竹細工のかごと麻紐、それから棒手振りから買った野菜のことだ。ワンチャンあり得る、と思えばそれに全力で備えるのが数々のギャンブル勝負から学んだ私の人生訓である。麻雀でもポーカーでも、より高い手の可能性を残しておくのが重要なのだ。一回二回の勝負なら関係ないが、百回千回と繰り返せば差は明確に出てくる。どんなに低確率であっても、それに備えなければチャンスはつかめないのだ。「そろそろ依頼票にあった辺りですね」「おっ、ウサギのフン発見」 あぜ道の端の草むらに、コロコロと黒い粒が転がっていた。指で押すと柔らかく、まだ温かい。近くにいるな。私は水筒の水をそれに垂らし、その辺の雑草を加えつつ土と混ぜる。いい感じの泥が出来たらジャージを脱いで、全身にそれを塗りたくった。「なっ、何してるんですか!?」「うーんとね、迷彩? ウサギって警戒心が強いじゃん。今回はなるべく近づきたいからね。あ、コガネちゃんはここで待ってて」 慌てるコガネちゃんを置いて、草むらの中を四つん這いで進む。草むらがわずかに乱れているところに小さな足跡があった。点々と続く足跡を、なるべく音を立てないよう慎重に追いかける。その先に……お、いたいた。真っ白なウサギが三匹。よく見ると額に小さな角が生えている。 距離は7~8メートル。何か不審を感じ取ったのか、ウサギたちは後ろ足で立ってピクピクと長い耳を動かしている。これ以上近づくのは厳しそうだ。この辺で限界だろうと思い、麻紐を「えいっ」と投げつける。両端に石をくくりつけたそれは、くるくる回って三匹をまとめて絡め取った。「よっし!」 間髪入れずに草むらから飛び出し、三匹の耳を掴んで捕まえる。所詮は即席ボーラ(※)だ。一瞬動きを封じることはできても、暴れられたらすぐに外れてしまうだろう。「きゅいー! きゅい
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第8話 一文寿司大作戦
「い、一文寿司……ですかい? そりゃどういうこって?」「こういうこって」 私は大将から包丁を借りると、作りおきの寿司を十文字に切り分けた。「いっちもーん! いっちもーん! 一文寿司だよぉ~! ひと口、お手頃、お蕎麦や天ぷらそのあとに。お腹にちぃと隙間があったら、一文寿司はいかがでえ! ナウなヤングに大流行の一文寿司でえ!」 私が適当な口上を叫ぶと、そのへんの屋台で食べていた人々がわらわらと集まってきた。「おい、嬢ちゃん。寿司が一文ってほんとかい?」「ホントも本当。正真正銘一文だい。江戸っ子ならしゃらくせえこと言ってねえで、黙って食いやがれってんだ!」「しかし、ちっちぇ寿司だねえ」「かーっ! 旦那は立派に見えて粋ってもんがわかってないねえ。あんた、蕎麦は喉で味わうって言うだろう? つるーってやってごっくんだ。無駄にもぐもぐ噛んだりはしねえ。これが江戸っ子の粋ってもんよ。そこをいくとどうだい? 寿司を食うってなりゃもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ……あーっ、みっともないったりゃありゃしない。そこへ行くってえとどうだい? この寿司は。パクっていってゴクッてもんだ!」 私はこれみよがしに四つ切りにした寿司を手に取り、一気に食べてみせる。うむ、うまい。本当ならもっと味わいたいものだが、まあ仕方がない。「ひゃあ、美味いねえ。こりゃあ粋だねえ。これがわからねえやつぁとんだ唐変木だ」「ぐっ、お、おいらにもひとつ寄越せや!」「ははっ! たった一文だ。そうイキりなさんなや。好きなだけ食ってくんな」「はっ! これでまずけりゃ醤油壺にしょんべんひっかけてやるからな! ……んぐんぐ、おっ、こりゃうめえ」「こっちに新しいネタもあるぜえ。ここでしか食えねえ上物だ」「なんだこりゃ? なまっちろくて気味が悪りぃな」「なんだいもう、情けないねえ。いい大人がこれこれはどちらの産のなんとかという魚でございます。なにがしという漁師が漁りまして……なんてトレーサビリティ満載の説明をしなくっちゃあ恐ろしくって喉も通らないってのかい? ああ、情けねえ情けねえ。世境もギリギリ江戸の端って聞いたが、こいつぁおいらの空耳だったみてえだ」「何だこの野郎! いや女郎! おいらぁ三代前から生粋の江戸っ子でい! こんなもんにビビるかよ
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第9話 兎たちの沈黙
 世境の町外れに、その牧場はあった。 竹で編まれた厳重な囲いの中に、白い獣たちが何十匹も閉じ込められている。獣たちはそこで草を食み、愛を睦み、日に日に強さを増す陽光に耐えていた。(おとっつぁん、おとっつぁん、暑いよう)(ああ、暑いな。おとっつぁんとおっかさんが影を作ってあげるから、ここに隠れなさい)(暑いよう、暑いよう) シモフリウサギたちである。カナコによって捕らえられた3匹から始まり、多額の懸賞金をかけられたシモフリウサギたちは、冒険人足によって近在の山々からこの牧場に集められていたのだ。シモフリウサギは繁殖力が高く、この牧場で生まれ育ち故郷の雪山を知らない世代まで誕生していた。「ぎひーぎひぎひぎひ! ちみたちぃ~、順調に増えてるかい?」 悪魔だ。悪魔が来た。 この牧場を管理する、大場カナコという人間だ。赤茶けた髪を揺らしながら、うきうきとスキップしながらやってくる。「おほー、新しい子供たちが生まれたねえ。かわいいねえ、かわいいねえ。子供は牧場の宝だよぉ。早く育って、ちみもたくさん子供を作るんだよぉ~。ぎひーぎひぎひぎひ!」「きゅい~! きゅい~!」 我が子の口元に高麗人参を押し付ける大場カナコを、シモフリウサギ(父)は憎しみのこもった目で睨みつける。最初はまだまともだったのだ。新鮮な野菜を与えられ、雨風がしのげる屋根のある場所に住まわされた。それがいつの間にか、日差しの厳しい露天に変わり、「精がつく」と称して苦味ばかりが強い野菜を与えられるようになった。「社主、そろそろ蔦屋さんとのお約束の刻限が」「おおっと、もうそんな時間かい。蔦屋さんには一文寿司をもっと流行らせてもらわないとねえ」 真っ黒な着物を着た男が、カナコに報告に来た。十数人が一度に乗れる長い駕籠が、駕籠かきにかつがれてやってくる。離無尽と名付けられたその駕籠は、いまや一文寿司の頭目たるカナコの代名詞となっていた。「ぎひーぎひぎひぎひ! おっと、そいつとそいつ、だいぶ大きくなったねえ。そろそろ仕事ができるんじゃないかい?」「ハッ! カナコ様、承知しました」 息子が、娘たちが竹籠に詰められて出荷されていく。生臭い魚と共に、ひたすら空気を冷やすだけの生活が待ち構えているのだ。(おとっつぁん! おとっつぁぁぁあああん!!)(待て! 
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第10話 白黒将棋
「はい、王手飛車取り」「ぐっ、ま、待った!」「おうおう、江戸っ子が待ったかい? ずいぶん粋なことをなさるねえ」 「ぐおおおお……」「はい、王手。王手。王手。これで詰みっと。んじゃ、こいつぁもらっていくぜ。ごっつぉさん」 将棋盤の向こうでうなだれる男から一朱金(※)を巻き上げて、辺りを見回して次の相手を物色する。湯上がりでほかほかした男たちが、囲碁や将棋、花札などに興じている。しかし、私が視線を向けるとみんな顔を露骨に背けてしまう。ちっ、この湯屋でも少し暴れすぎたか……。「カナコさーん、そろそろ帰りますよー」「むう、もうひと稼ぎしたかったが……致し方あるまい。帰るかあ」「あっ、また賭け事ですか? わざわざ遠くの湯屋に行こうなんて言い出すから何かと思ったら」「えへへへ、ちょっとだけだってば。そうだ、帰りに稲荷寿司でも買っていこうよ。美味しいお店があるらしいよ」「もう、いつもそうやって誤魔化すんですから……」 コガネちゃんに怒られてしまいそうなので、食べ物の話題で気をそらす。コガネちゃんはお揚げさんに目がないのだ。口では呆れたようなことを言っているが、ケモ耳がぴくぴくして喜びを隠せていない、ふふふ、身体は正直じゃのう。 というわけで、屋台で稲荷寿司を買って帰る。甘辛いおだしをたっぷり吸ったお揚げの中に、キクラゲやかんぴょうの混ざった酢飯が詰まっている。これでひとつ四文なのだから大したものだ。「それにしても、カナコさんって将棋が強いんですね」「大したことはないよ。ハメ技をいくつか知ってるだけで」「は、ハメ技ですか」 謙遜しているわけじゃなく、私の腕は大したものじゃない。定石で言うと、鬼殺しとその変形をいくつか身につけているだけである。だが、どれも百年以上後に発明されたもので、江戸時代のいま使えば最強のハメ手となる。湯屋の二階で遊んでいる素人が初見で対応できるようなものではない。(※)「ところで、コガネちゃんは将棋やらないの? 賭けるかどうかは別として、けっこう面白いよ」「うーん、覚えることが多くて大変そうで。それに、男の人の遊びって感じもしますし」 たまにこうしてコガネちゃんも誘うのだが、将棋にはあまり関心がないようだ。そもそも、湯屋の二階に入り浸って遊んでいるのも男ばっかりだもんなあ。煙管の煙でむわむわしているから、湯上
last updateآخر تحديث : 2026-07-13
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