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第10話

ผู้เขียน: 北野 艾
詩織が怜をなだめる間もなく、一方的に電話は切られた。

すぐにかけ直そうとした、まさにその瞬間、今度は柊也からの電話が割り込んできた。

詩織は、それに出るしかない。

「広江に来い」

柊也は用件だけを告げると、すぐに電話を切った。

相変わらず、命令口調だ。

詩織は数秒ためらったが、最終的に広江へ向かうことを決めた。

だが、それは柊也のためではない。スカイウィング社と、怜のためだ。

あの案件は、彼女自身が選び、心血を注いできたプロジェクトだった。

何度も怜の元へ足を運び、提案を練り直し、ようやく相手の心を動かして漕ぎつけた提携なのだ。

それを途中で見捨てるのは、どうしても忍びなかった。

こうなっては、風間先生との約束を反故にするしかない。案の定、電話口でこっぴどく叱られた。

詩織は、この件が片付いたら必ず、大人しく治療に専念しますからと、必死に約束するしかなかった。

深夜、広江市に降り立つと、外は土砂降りの雨で、気温もぐっと下がっていた。

詩織は急いで来たため、何の準備もできていない。おまけに、タイミング悪く腹の奥が鈍く痛み始め、体調は最悪だった。

どうにか体を支えてタクシーに乗り込み、ホテルに着いた頃にはもう深夜零時を回っていた。

時間は遅かったが、詩織はスカイウィング社の件について、柊也と事前に話をしておきたかった。

明日の早乙女社長との再交渉で、こちらの方針が統一できていないせいで話がこじれるのを恐れたのだ。

部屋に入ると、雨で濡れた髪を拭うのも忘れ、すぐに柊也の携帯を鳴らした。

コールが数回鳴った後、ようやく相手が出た。

だが、詩織が口を開くより先に、電話の向こうから聞こえてきたのは、志帆の声だった。

「柊也くん、江崎さんから電話よ」

柊也の返事はくぐもっていて、はっきりとは聞き取れない。

志帆が、彼の言葉を伝える。「江崎さん、柊也くん、今シャワーを浴びているの。だから、後でまたかけ直してもらえる?」

詩織は、思わず喉を詰まらせた。

「……大したことではありませんので。賀来社長のお邪魔はいたしません」詩織はそう言うと、一方的に電話を切った。

深夜のホテル。男女が一つ部屋に二人きり。何かが起こるには、あまりに都合のいいシチュエーションだ。

窓の外では、雨足がさらに強まっている。詩織は窓際に立ち尽くしながら、体の芯まで這い上がってくるような寒気を感じていた。

広江は、江ノ本よりもずっと冷えるらしい。

腹の底から突き上げるような痛みが、いよいよはっきりとしてきた。トイレに立った詩織は、そこで自分が生理になっていることに気づく。

予定日より、一週間も早い。しかも、痛みはこれまでのどの時よりも激しかった。

脂汗を滲ませながら、彼女はフロントに助けを求める電話をかけ、鎮痛剤と生理用品を部屋まで届けてくれるよう頼んだ。

部屋に来たスタッフは、彼女のあまりの顔色の悪さにぎょっとした。

「お客様、病院へお送りいたしましょうか?」

詩織は首を横に振る。「大丈夫です、鎮痛剤を飲めば、少しは落ち着くと思うので」

それでもスタッフは心配そうに、「何かございましたら、ご遠慮なくすぐにフロントにご連絡ください」と言い添えた。

「はい」

頷きはしたものの、結局詩織は誰の手も借りず、独りでその夜を耐え抜いた。

翌朝、ベッドから起き上がっても、体調は一向に優れない。化粧で隠そうとしても、土気色の顔はどうにもならなかった。

今から会う柊也が、このことで難癖をつけてこないようにと、心の中で祈るしかなかった。彼は、社員が仕事中に生気のない顔をしているのを、何よりも嫌う男なのだから。

胃の薬を飲まなければならないため、詩織は時間を見計らって、何か口にしようとホテルのレストランへ向かった。

着いたところで、ちょうど朝食を終えたらしい柊也と志帆が、レストランから出てくるところだった。

三人は、ばったりと鉢合わせした。

先に口を開いたのは、志帆だった。「あら、江崎さん。今、起きたところ?もうレストラン、あまり食べるもの残ってなかったわよ」

詩織は表情を変えずに応じる。「ええ、少し出遅れてしまいました」

柊也は、詩織には一瞥もくれず、玄関の外に目をやりながら志帆に話しかけた。

その声は低く、そして驚くほど優しい。「外は雨だ。まだ気温も下がるだろうし、一度部屋に戻って上着を取ってこよう」

「ええ」と頷いた志帆は、詩織に軽く会釈すると、柊也と共にその場を去っていった。

……柊也にも、人を気遣う心があったのか。

そんな彼の姿を初めて目の当たりにした詩織は、その場で数秒、呆然と立ち尽くした。

レストランの中は、志帆が言った通り、食べられるものはほとんど残っていなかった。

詩織はパンを二つほど皿に取り、とりあえずこれで済ませようと席に着こうとした、その時だった。柊也から電話がかかってきた。

詩織はそれに応答する。

聞こえてきたのは、さっきの優しい声とは打って変わって、冷え冷えとした声だった。「出ろ」

「……今、ですか?」詩織は手の中のパンを見つめ、わずかにためらった。

「なんだ。俺たちを待たせる気か?」

詩織はしばし絶句した後、「……分かりました」とだけ答えた。

彼女はパンをバッグに押し込み、急いで玄関ロビーへ向かう。そこでは、柊也と志帆はすでに車に乗り込んでいた。

二人は後部座席に並んで座っており、詩織のために空けられていたのは助手席だけだった。

詩織はすっとまつ毛を伏せ、胸中の思いを隠すように、黙って助手席に乗り込んだ。

車のドアが閉まるやいなや、柊也は苛立たしげに運転手を促した。

バッグの中のパンにはまだ僅かな温もりが残っていたが、詩織にそれを食べる機会はなかった。

柊也が車内で飲食するのを嫌うからだ。

七年間、彼の秘書を務めてきた詩織は、柊也の好みをすべて知り尽くしている。

彼の好みに合わせることは、長年のうちに体に染み付いてしまった習性で、もはや無意識に従ってしまうのだ。

たとえ今、胃の不調を紛らわすために、何かお腹に入れる必要があったとしても。

もちろん、柊也が彼女にそんな時間を与えるはずもなく、彼は早速プロジェクトの話を切り出した。

「以前、スカイウィング社とはどう話を進めていた」

その声は、プロジェクトが滞っているのはお前のせいだとでも言うような、詰問する響きを帯びていた。

詩織は、冷静に事実を述べようと努めた。「この案件はすでに二次交渉を終え、基本合意書も締結済みです。投資比率も合意の上でしたから、今になって一方的に条件を変えれば、スカイウィング社側が反発するのは当然です……」

詩織が言い終わる前に、柊也が冷たく遮る。「プロセスが完了していない限り、すべては変更の範囲内だ」

彼は一瞬言葉を切り、バックミラー越しに詩織と視線を合わせると、薄い唇を歪めた。「俺のそばにこれだけ長くいて、そんな理屈も分からないのか?」

詩織はぐっと言葉を飲み込み、目を伏せて尋ねた。「でしたら、比率を引き下げる理由を、お聞かせいただけますか」

今回、彼女に答えたのは志帆だった。「私の経験から見ると、スカイウィング社のドローンは商業化の面で不十分よ。事業計画書にあるような市場の将来性には、到底達しないわ。だから比率の引き下げを提案したの」

「スカイウィング社は歴史のあるブランドで、確かな技術力と充実したアフターサービスも魅力です。そこを評価して、エイジアは投資を決めたはずでは」

「けれど、ビジネスに必要なのは利益であって、情ではないわ」志帆の一言が、詩織の言葉をすべて否定した。

彼女は赤い唇の端をわずかに持ち上げ、柊也に戯れるように言う。「柊也くん、やっぱりあなたの教育が足りなかったみたいね」

「ふん」と柊也は浅く相槌を打った。そして何気ない素振りで詩織に視線を流す。「だから秘書止まりなんだ。投資ディレクターは務まらん」

志帆はくすりと笑う。「投資の世界でやっていくには、やっぱりそれなりの頭脳と先見性が必要だもの。江崎さんは、学部卒なんでしょう?プロジェクトを動かすのは、彼女には少し荷が重かったのよ、きっと」

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