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第3話

Author: 魔王君
病院の手術室で、明世のパンツの裾がまくり上げられ、ねじ曲がった脛が露わになった。

「粉砕骨折に神経断裂ですか。家族はどこですか?同意書のサインがなくて、壊死が進めば、取り返しがつかなくなりますよ!」

しかし待合室から返事はない。

隣の診察室から呼び出しの声が聞こえてきた。「入江未鈴さんのご家族はいらっしゃいますか?」

「ここです!」二つの声が同時に上がった。

「念のため処置しましたが、軽い擦り傷です。傷口を水に濡らさないように……」

涼介と海斗が細かく質問を重ねている間、明世の担当医が再び聞く。「ご家族はまだですか?いないなら電話してください!」

明世は震える指で涼介の番号を押した。「涼介、病院で家族のサインが必要で……」

「今忙しい。後で行く」

頼みの綱の電話は、無情にも切られた。

彼女は自嘲的に口元を歪める。この結婚生活の中に、あとどれだけの嘘が埋め込まれているのか、想像もつかない。

二時間後、隣の診察室から出てきた涼介は、苦痛に顔を歪める明世にようやく気づいた。

顔から笑みが消え、明世の前まで歩いてくると、珍しくばつの悪そうに言った。「すまない。お前がそこまで重傷だとは知らなかった。もし早く分かっていたら……」

「いいから、早くサインして」明世の脚を襲う激痛は、涼介の言い訳を聞く余裕すら奪っていた。

涼介は走り書きでサインを終え、憔悴した妻を振り返った。慰めようとしたのだろうが、その言葉は、何よりも残酷だった。

「未鈴は身寄りがないからな。俺と海斗でついててやらないと心配なんだ。サインは終わったから、まず彼女を家に送ってくる」

明世は彼の手を振り払った。「……勝手にして」

彼女はストレッチャーに乗せられ、手術室へと運ばれていった。

モニターにレントゲン写真を映し出す医者は告げた。「二時間以上も遅れたせいで、最適なタイミングを逃しました。残念ですが、切断するしかありません。義足をつけるにしても、予後は相当厳しくなるでしょう」

明世は白黒のレントゲン写真を見つめ、一言も発せなかった。

手術が終わった後、涼介と海斗の姿はどこにもなかった。

連絡もなければ、電話一本すらない。

七日後。明世が松葉杖をつき、廊下でリハビリをしていた時、再診に来た未鈴と涼介親子を見かけた。

「パパ」海斗が見上げて言う。「ママはもうどこにも行けないから、ずっと家で僕と一緒にいてくれるって未鈴さんが言ってたけど。本当?」

涼介は愛おしげに彼の髪を撫でる。「ああ、ママはずっと君のそばにいるよ」

明世は壁の陰に身を隠し、必死に嗚咽を噛み殺した。

未鈴が視線に気づいて振り向く。角にいる明世を見つけると、真っ直ぐ歩み寄り、勝ち誇ったような、妖艶な微笑みを浮かべた。

「この前私が怪我した時、涼介ったらとても慰め上手で……」

海斗が興奮して割って入る。「そうだよママ!僕とパパで、未鈴さんの猫ちゃんに新しいハウスを作ったんだ。未鈴さんがね、僕のこと『お手伝い名人』だって褒めてくれたんだ!」

涼介の瞳に微かな罪悪感が走り、よろめく明世を支えようと手を伸ばしかけた、その時。

「さぞ得意でしょうね?私の夫を奪って、息子を奪って、プリンシパルの座を奪って、今度は私の脚まで奪った!」

涼介が眉をひそめて叱責する。「自分の不注意で怪我をしたくせに、どうして未鈴のせいにするんだ!」

明世は松葉杖を握りしめ、毅然と顔を上げた。「涼介!あなたの妻はまだ、この私なのよ!」

「ママって本当にわがままだね。脚が一本なくなったって歩けるじゃない。車椅子があるじゃん!パパが言ってたよ。未鈴さんだってトラウマになったら一生残るって!」

海斗は涼介の背後に隠れながら、値踏みするように明世の表情を窺っている。

明世の中で、何かが完全に死んだ。彼女は叫んだ。「出ていきなさい!」

背を向けると、涙が頬を伝う。

この一回目のチャンスも、残しておく必要はない。

ポケットの中でスマホが震えた。弁護士から離婚協議書についての連絡があった。

【紺野様、本当にお子様の親権はいらないのですか?】

明世は感情を押し殺して返信した。

【ええ。あの男も、あの子も、どちらもいらないですから】
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