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第5話 ​

Auteur: ももよう​
彰人が私の手首を強く掴み、無理やり自分の方へ向かせた。

「純菜、いつからそんなに平気で嘘をつくようになったんだ?お前がどれほど俺を愛してるか知ってる。他の女が近づくことさえ許さなかったお前が、俺たちを祝うなんてあり得ないだろう」

私は目を赤く腫らしながら、彼の手を力任せに振り払った。

「昔はただ若かっただけ。でも、これからはもう違う。美々だろうと他の誰だろうと、もう気にしないわ」

「そんな強がりを言って。本当に出て行くつもりじゃないかと少し心配したが、確信したぞ。ただ拗ねてるだけなんだな。

お前のような箱入りのお嬢様に、俺に付きまとう以外に何ができる?牙を剥いて周りの人間を追い散らしてきたお前の姿には慣れてるんだ。今さら物分かりのいい振りをしなくていい。

いい子にしてろ。一生、何不自由ない暮らしをさせてやるから。自分にふさわしくないものまで欲しがるのは、もうやめるんだ」

彼は優しく布団をかけ直してくれた。

その動きを見て、私は手足が氷のように冷たくなり、こみ上げる吐き気を感じた。

彰人は不意に、机の上にあった真珠の髪留めを手に取った。

「これでも俺を好きじゃないなんて言うのか。八年前に俺が贈った安物を、まだ持ってるくせに」

なぜその髪留めがここにあるのか、私には分からない。

「きっと美々が、値打ちのない偽物だと思って、私の荷物と一緒に放り出したんでしょうね」

「値打ちのない偽物だ」という言葉で、美々と彰人の両方をなじった。

彼の顔色は瞬時に険しくなった。

「美々はそんなに欲深い女じゃない。お前が気にしてるだけだろう。

四年前、お前はこの髪留めのために、泥棒に刺されそうになっても決して手を離さなかったじゃないか」

当時の恐怖は、今でも思い出すことができる。

けれど、これが彰人からもらった唯一の贈り物だと思えば、命さえ惜しくないほどの勇気が湧いてきた。

かつての私は、彼からもらったものなら、たとえ100円の価値しかなくても宝物のように大切にしていた。

けれど今、彼が美々を連れて高級ブランドショップで湯水のように金を使う姿を見て、ようやく悟った。本当に愛している相手には、世界のすべてを捧げたいと思うものなのだと。

私は髪留めを奪い取ると、迷うことなく窓の外へ投げ捨てた。

彰人は思わず手を伸ばしたが、間に合わなかった。

髪留めはぽちゃんと音を立てて、噴水の中に消えた。

「正気か?」

彰人は怒りに任せて怒鳴り声を上げた。

「俺が贈ったものを、どうして捨てられるんだ!」

「好きじゃなくなったし、もう要らないから、捨てるのは当たり前でしょう」

私は静かに彼を見つめた。

その顔は怒りで青ざめていく。

彼は部屋にある私のスーツケースを一瞥すると、突然背を向けて出て行った。

そして、部屋のドアを外からガチャンとロックした。

「どこへも行かせない。ここで頭を冷やして反省しろ」

私は必死にドアを引いたが、びくともしない。

ドア越しに彼の声が聞こえてきた。

「お前は俺の大切な人だ。俺のそばには、いつまでもお前の居場所があるんだ」

――けれど、彼のそばなんて、私はもうこれっぽっちも居たくない。

夜が明けた。

彰人が市内の人気ウェディングドレスショップをすべて呼び寄せ、美々のためにウェディングドレスを選ばせている気配がした。

私はスペアキーを見つけてこっそりドアを開け、スーツケースを引きながら裏庭から抜け出した。

車に乗り込む前に振り返ると、優子が庭で涙を拭いながら手を振ってくれている。

――ここは私の家だ。彰人に縛り付けられる筋合いなんてない。

タクシーで空港へ直行した。十年もの間、私を閉じ込めていた籠に、最後の別れを告げた。

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