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第2話 ​

Author: ももよう​
「でも、今はどうしてもパパのそばにいたいの」

父の声から、一気に眠気が消えた。

「わかった、わかったから。すぐに知り合いの行政書士に連絡して、ビザの手配をしてもらおう」

母は早くに亡くなり、父のそばには私しかいなかった。

それなのに、私はずっと彰人の後ろばかりを追いかけていたのだ。

隣の部屋から聞こえる物音は、朝から夕方まで絶え間なく続き、屋敷中に響き渡っている。

私はダイニングルームに座り、ロボットのように手を動かして食事を口に運んだ。

食べ終わる頃になって、ようやく二人が階下へ降りてきた。

美々は足元がおぼつかない様子だが、その表情は幸せそうな赤らみに包まれている。

私は箸を置き、その場を立ち去ろうとした。

「なんだ、後ろめたいことがあって逃げ出すつもりか?」

彰人が私の腕を掴んだ。

彼は、心の底から私が薬を盛ったと思い込んでいる。

彼の中では、私はそれほど悪い女なのだ。

私は精一杯、取り繕った微笑みを浮かべた。

「そんなことないわ。ただ、お腹がいっぱいになったから、二人の邪魔をしたくないだけよ」

すると、彰人の顔が険しく歪んだ。

「そうやって、思ってもいないことを口にする醜い姿に、自分で気づかないのか?」

隣では、美々も蔑むような視線をこちらに向けている。

私はテーブルクロスを強く握りしめた。彰人は他人の前で私を辱めることを、決してためらわない。

「鈴木、これから食事は一人分増やしてくれ。美々は今日からここに住む」

家政婦の鈴木優子(すずき ゆうこ)は困り果てた様子で私を見た。

ここは私の家であり、彰人がここに住めているのも私のおかげだ。

それなのに彼は、勝手に他人を住まわせようとしている。

「これからは美々の言いなりになれ。敬語を使ってな」

美々は得意げに顎を上げた。

喉の奥がつりそうになった。

「ここの家主は私よ。どうして彼女に住まわせなきゃいけないの?」

彰人の顔色がぱっと変わった。

以前の私は、彼と過ごす時間を増やすために、「ここは自分の家のように使っていいよ」と言ったからだ。

その時、スマホが鳴った。

画面を確認すると、知り合いの行政書士からだ。

私はスマホを手に、そのまま二階へと向かった。

「彰人、純菜ちゃんは私のことを見下してるのかしら……ごめんなさい、私のせいであなたまで彼女の顔色を伺うことになっちゃって」

「美々のせいじゃない。俺があいつを甘やかしすぎたせいだ」

部屋に入る直前、振り返ると彰人の重苦しい眼差しと目が合った。

……

「豊松様、書類の提出は完了しました。優先枠で申請しましたので、あと二日もあれば下りるでしょう」

「分かりました。ありがとうございます」

あと二日。あと二日で、私はここを去る。

部屋を見渡した。

彰人のそばにいたい一心で、私は十年もの間、自分をここに閉じ込めてきたのだ。

「純菜、俺は一生懸命頑張る。お父さんの期待を裏切らないように。いつか会社に入って、お前を守って、一生お姫様にしてあげるから」

大学生の頃の彰人は、安っぽい服ばかり着ていたが、その瞳に宿る輝きは、どんな絶景よりも私を惹きつけた。

突然、ドアが開いた。

彰人だ。

「勝手に入らないで」

「また何のへそ曲げだ?今日、俺と美々のことがあったからか?」

彼は気にせず部屋の中に足を踏み入れた。

「二人のことは私には関係ないわ」

私は彼に背を向けたまま、荷物をまとめ始めた。

「強がってるのは分かってる。さっきはあんな風に冷たいことばかり言って。

さっきの電話は誰からだった?」

私のことを嫌っているくせに、見張りだけはしたがる。

この数年間、彰人は私が他の男性と関わることを一切許さなかった。

「あなたには関係ない。私にだって人付き合いの自由はあるわ」

彰人は不機嫌そうに顔を歪めた。

「お前が俺にどんな下心を抱いてるか、知らないとでも思ってるのか?俺が好きなのは美々だ。お前がこの先十年、俺に縋り付いたところで、付き合うことなんて絶対にない。

今朝、お前が自分から出て行ってくれて助かった。そうでなきゃ、お前とやるところだった。想像するだけで反吐が出る。まったくたたないぞ」

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