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第1207話 ちょっと話したい

Author: 花崎紬
紀美子はとっさに珠代を見つめ、助けを求める視線を送った。

今この場で自分が余計なことを言うのは得策ではない。

珠代さんが話を引き取ってくれれば、この話題は自然に流れるはずだ。

珠代はすぐに察し、前に出て言った。

「吉田社長、お気遣いなく。入江さんの分は私がやりますから」

龍介はうなずき、箸を取ってナマコを取った。

「紀美子、これを食べて」

それを見た晋太郎は鼻で笑い、彼もまた箸を取り、今度は鮑を紀美子の皿に入れた。

「これも!」

「……」紀美子は言葉を失った。

こんなんで、まともに食事ができるわけがないだろう!

こんな夜になるなら、残業してでも会社に残ったほうがマシだった!

しかも、晋太郎まで……

紀美子は彼を横目で見た。今日の彼はどうかしている。

今さら自分に対する未練なんてないはずなのに、なぜ他人と張り合って嫉妬をむき出しにしているのか。

紀美子は彼らを気にも留めず、立ち上がって酒棚からボトルを2本取り出した。

三人の男たちの視線が彼女に向けられる中、彼女は瓶の封を開け、テーブルに置いた。

「せっかく全員そろってることだし、今夜は飲みましょう!」

彼らの口を封じるには、もうこれしかない。

酒を飲ませて酔わせれば、その隙に逃げ出せるかもしれない。

そう言いながら、紀美子は再び席に戻り、自分のグラスにも酒を注いだ。

冷たい酒が喉を通ると、少しだけ落ち着いた気がした。

彼女が飲み始めたのを見て、三人も特に異議を唱えず、酒を口にした。

紀美子は彼らの様子を見ながら、徐々に自分のペースを落としていった。

それから一時間が経ったが、三人はまだ帰る気配を見せなかった。

紀美子はトイレに行くふりをして席を立ち、彼らに気づかれないように珠代を呼び、そっと耳打ちした。

「珠代さん、あの三人は任せたわ。もし揉めそうになったら、すぐに私を呼んで」

珠代は紀美子の意図を理解し、すぐに頷いた。

「ご安心ください、入江さん。彼らのボディガードもいますし、何とかなるでしょう」

紀美子は感謝の眼差しを送り、軽く頷くと、そのまま階段を上がっていった。

紀美子が席を外して十数分後、晋太郎は何かおかしいと感じた。

彼はダイニングの入り口をちらりと見て、紀美子がもう逃げたことを悟った。

だが、ここを離れるわけにはいかない。

何しろ、まだ二
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