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第1405話 番外編五十三

作者: 花崎紬
「夜10時過ぎに貼ればいいんだよね?」

紗子が尋ねた。

「そう」

ゆみは頷いた。

「残りは予備に取っておいて。紗子ちゃん、怖がらなくていいからね。霊は気味悪いけど、見えないふりをしてれば何もしてこないから」

「わかった、ゆみ。安心して行ってきて。ここは私がいるから」

紗子は緊張しながら頷き、お札をしっかりとしまった。

ちょうどその時、病室のドアが開き、臨が眠そうな顔で入ってきた。

「紗子さん、姉さん……」

臨はだるそうに手を振り、買ってきた夕食をテーブルに置くと、あくびをしながらソファに座った。

「姉さん、行く時は呼んでね。ちょっと寝る……すごく眠いんだ……」

紗子は気を利かせ、ソファの上にあった小さな毛布を臨にかけてやった。

「今夜も臨くんを連れて行くの?」

紗子はゆみに尋ねた。

「うん」

ゆみは頷いた。

「これからは臨に手伝ってもらうことにしたの。彼の純陽の血はすごく役に立つんだ」

紗子はゆみの答えを聞いて一瞬固まり、そしてクスッと笑った。

「何だその吸血鬼みたいな言い方は」

「そう?」

ゆみは悪戯っぽく笑った。

「たまに指を切らせてもらうことはあると思うわ。特に手強い怨霊に会った時とかね」

「怨霊が出てくることもあるの?」

紗子は驚いた。

「怨霊ってどんな感じ?」

「怨霊ってのは、死に切れない幽霊のこと。狡猾で、普通の幽霊よりずっと手強いの。人を騙したり傷つけたり、何でもやるんだから!昨日も一人の怨霊に騙されたの……あの女、知ってるくせにわざと曖昧なことしか言わなかった!今夜また会ったら、何を企んでるのか全て吐かせるわ!」

ゆみは冷たく、しかし笑いながら説明した。

あの時澄華からのヒントがなかったら、今でもあの怨霊に騙されたままだっただろう。

「本当に気をつけてね」

紗子は心配そうな表情でゆみを見た。

「大丈夫」

ゆみは紗子の肩を叩いた。

「このお札は全部あの怨霊野郎のために用意したんだ!」

夜11時。

ゆみは臨を連れて再び学校へ向かった。

「君たち、何で毎晩こんな時間に来るんだ?」

正門に着くと、警備員が怪訝そうに尋ねてきた。

「おじさん、これどうぞ。心配しないで。悪さはしないから」

そう言いながら、ゆみは目で臨に合図をした。

合図を受け、臨はリュックから1箱のタバコを取り出して警
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