Se connecter麗しいイケメン係長、金子仁にゾッコンな成海準一は、二人で飲みに行った帰りに「俺たち付き合わない?」と言われて有頂天に。しかし、仁には酒を飲むと出る悪癖があった……。 準一、仁それぞれの視点で恋心を描く、楽しくて心温まるラブストーリー。
Voir plus「成海、ちょっと。」
顔を上げて声のする方に顔を巡らすと、仁さんがこちらを見て手招きをしていた。 「はい。」 係長の席へと向かう。心臓がドキドキする。叱られるかもしれない、などという理由ではない。麗しい仁さんに呼ばれたから。あの人の近くに行けるから。 「なんでしょうか。」 「これ、この間の資料。」 仁さんは、俺がお願いしていた会社の資料が入っていると思われる、USBメモリを差し出した。 「ありがとうございます。」 小さなそれを、恭しく受け取った。もう用事は済んでしまった。後ろ髪を引かれながらも、俺は自分の席へと戻った。うちはミュージアムグッズを作る会社だ。ここは企画部発案課。仁さんは入社7年目で、第二係の係長だ。係長最年少だとか。仁さんは金子仁という名前だが、第一係にも金子さんがいたため、金子さん、ではなく仁さん、と呼ばれるようになったそうだ。俺が入社するより前の話だ。その別の金子さんは仁さんよりも年次が1つ上だったのだが、既に会社を辞めている。
俺は入社3年目の成海準一。うちの係は15人。日々世界のグッズ状況を追い、新しい物を作ろうと頑張っている。しばらく資料作りをしていたが、ちょっと疲れを感じたのでコーヒーを飲みに行く事にした。仕事場は飲食禁止なので、廊下の先にある休憩所へ行かなければならない。そこに紙コップの自販機がある。
廊下へ出て休憩所へと足を向けると、なんと休憩所に仁さんがいた。ラッキーだ。 「お疲れ様っす。」 俺が声を掛けると、仁さんが首をこちらに向けておう、と言って表情を緩めた。柔らかな表情をすると、また一段と麗しい。涼やかな目元に整った鼻、口。横分けにしたサラサラな前髪。全体的に細身で、足が長い。背も高いが俺の方が少し高いと思われる。 俺はコーヒーを買い、仁さんの横に座った。でも、遠慮して一人分空けて座った。 「明日から3連休ですね。何か予定あるんですか?」 俺は何か話をしたくてそう声を掛けた。仁さんは俺の方を向き、 「いや、特に何も。成海は?」 と言った。 「俺も何もないっす。あ、そしたら仁さん、今夜飲みに行きません?」 思い切って誘ってみた。 「お、いいね。行こうぜ。」 仁さんは快諾してくれた。やった!会社には辞める意向を伝え、引継ぎを始めた。また誰かが俺の後釜に「出世」してくるのだろう。俺の代わりなんていくらでもいる。それよりも、自分の人生を思ったように生きなければ。 会社を退社出来たのは夏だった。8月のお盆の前に、やっと引継ぎが終わったのだ。俺は久しぶりに実家に帰省する事にした。関東なのだからいつでも実家に帰れると思っていた時にも、結局ほとんど帰らなかった。九州勤務になってからは全く帰っていなかった。だから、ちゃんと泊りがけで帰る事にした。 仁さんとは一緒に住む算段を付け、俺の引っ越し荷物は新しい家に運び込んだ。まもなく仁さんも実家を出て一緒に住むようになるだろう。その前に、俺の実家に仁さんを招待した。 「わあ、いい景色だな。」 電車とバスを乗り継ぎ、降り立ったところは畑が見渡せる高台だった。 「暑いっすけどね。」 相変わらず内陸部は暑い。 「でも清々しいよ。海の近くとは違って。」 仁さんが言った。だけど、仁さんの白い肌が炎症を起こすのでは、と気が気ではない。 「仁さん、日傘差しましょう。」 仁さんが日傘を持っている事は知っている。俺はもうすっかり日焼けしているからキャップで充分だが。 青い日傘を差した仁さんと、坂を下って実家へと向かう。セミの鳴き声がうるさい。ああ、夏だな。 「ただいまー。」 玄関をくぐると、母親が台所から出てきた。 「お帰り。暑かっただろ。」 エプロンで手を拭きながらそう言う母。そして後ろを伺っている。仁さんが日傘を閉じ、後ろを向いて畳んでいた。 「あ、仁さん、母です。」 そう声を掛けると、仁さんが振り向いた。 「こんにちは。お邪魔します。」 「まあ、べっぴんさんねえ。初めまして。いつも準一がお世話になっております。なんて綺麗な方なのかしら。」 母は片手を頬に当て、ぼうっとしている。 「仁さん、どうぞ。」 俺が上がるように促すと、母は慌ててスリッパを出した。 子供の頃は土間があり、木造の平屋だった実家。今はすっかり立て替えてしまって普通の家だが、それでも都会の家とは違って広いし、瓦屋根の木造だ。 建て替えたので、もう俺の部屋はなかった。使われていない居間に荷物を置き、リビングに入った。 「すみません、あまり落ち着ける感じじゃないですけど。」 「そんな事ないよ。家からも眺めがいい
仕事は面白かった。やりがいがあった。でも、仁さんと次にいつ会える、という約束ができない状況が続き、時々ふっと寂しさがよぎった。 仕事が面白いのは、一から十まで自分で出来るからだ。それは、ここでしかできないのだろうか。この九州でしか?もっと言えば、この会社でしか? 一から十まで自分でやりたいなら、独立するという方法もあるのではないか。俺は徐々にそう考えるようになった。独立して一人でやるなら東京の方がチャンスはある。会社を辞め、東京で会社を興すか? そう考えたら急に心拍数が上がった。手に汗を握る。しかし、何の為にその選択をするのだろうか。仁さんの近くにいる為か?それなら、もし仁さんが東京から遠く離れた場所に転勤になったら? 仁さんと一緒に会社を興すという手もあるだろうか。それは、仁さんがそうしたいと思ってくれれば、という前提条件付きだな。とにかく仁さんに相談しなければならない。 「今週末は会えそうか?」木曜日の夜、仁さんから電話があった。「それが……ちょっと立て込んでいて。あ、でも俺、仁さんと話したい事があって。できれば会って話したいけど、電話でも。1時間くらい。」俺がそう言うと、仁さんが突然大きな声を出した。「えー、電話で1時間なんて嫌だよ。また俺がそっちに行くよ。そうすれば夜だけでも一緒に居られるだろ?そこで話せばいいじゃん。」うう、また仁さんにばかり負担をかけてしまうのか。「えーと、じゃあ、待ってます。」だが、それもあと少しだけかもしれない。あの話がまとまれば……。 そして翌日金曜日の夜、仁さんが博多にやってきた。交通費もバカにならないだろう。今回は新幹線で行くと言われ、博多駅まで迎えに行った。「おお、成海、来てくれたのか。」「当たり前じゃないですか。あ、荷物持ちます。」仁さんの、少し大きめなリュックを受け取った。「一日分の着替えしか持ってきてないぜ。」仁さんが笑う。確かにリュックは大きい割に軽い。「ホテルは取っておきました。行きましょう。」俺たちは近くのビジネスホテルへと向かった。 「それで、話って?」まず甘い時間を、と思っていたのだが、仁さんにそう切り出された。確かに、あの話をしなければ、と思っていると没頭できないかも。だが、意見が決裂した場合、その後に仲良くイチャイチャできるだろうか……。「何?怖いんだけど。
仁さんをホテルまで送りそのまま、俺も一緒に朝まで過ごした。「う…ん、あ、成海おはよう。」目を覚まし、微笑む仁さん。朝からなんて美しいのだ。俺が見とれていると、「何黙ってるんだよぉ。」仁さんはそう言って勢いよく起き上がり、俺の鼻をちょんと突いた。「あ、いえ、仁さんは美しいなあ、と。」ちょっと照れながら言うと、仁さんこそ照れ笑いをし、「シャワー浴びてくる。」と、さっさと顔を背けて行ってしまった。仁さんの事は何よりも大切だ。仕事も面白いし大事だが、仁さんを放っておいてまでやる事ではない。もっと真剣に考えなくてはならない。仁さんともっと一緒にいるにはどうしたらいいのか。できれば一緒に暮らしたい。でも職場がこんなに離れていては、そんな事は無理なのだ。かといって、仁さんに仕事を辞めてくれなんて言えるわけがない。そもそも仁さんの方が職歴も長く、会社にとって必要とされている。俺は……仁さんのお陰で出世はしたけれど、僻地に追いやられた身。いや、九州が僻地というのはちょっと違うか。うちの会社にとっては開拓地。フロンティア人材だと思えば必要な存在なのかもしれないが。「どうした?考え事か?」いつの間にか仁さんが目の前にいて、タオルで髪の毛を拭いていた。「うわ、濡れ髪……かっこいいっす。」思わず心の声が出た。仁さんはニヤッとして、でもやっぱりデレっと照れた。「まったくお前は。」「だって、本当の事ですもん。」言った俺も照れる。そして、タオルを奪い取り、仁さんの髪を拭き始めた。仁さんは大人しく俺の前に座った。「気持ちいい。」仁さんが呟く。ずっとこうして居られたらいいのに。「仁さん、俺、やっぱり仁さんの傍にいたいです。」そう言ったものの、どうすればいいのか分からない。仁さんは聞こえなかったのか、それとも聞こえたのか、黙っていた。 大宰府に観光に行き、一日デートをし、土曜日の夜、仁さんを空港へと送って行った。「じゃあな。」保安検査場に入ろうとする仁さんを、俺は思わず止めた。まだキスもろくにしていない。昨日俺が仕事に行ってしまったからだし、仁さんをあんな目に遭わせたからだが、それでもこのまま離れるなんて悲しすぎる。 俺は仁さんの腕を掴み、無言でズンズンと歩いた。「成海?どこいくんだ?」仁さんがそう言っても、振り返らずにトイレへとまっしぐら。他に場所
ホテルの廊下に出て、エレベーターで地上階へと急いだ。おっさんが追いかけてくるかもしれないと思い、なるべく遠くへ行こうと思った。 外へ出てみると、全くどこだか分からなかった。人もまばらで、深夜なのだろう。とはいえ、俺は上半身裸の状態だった。幸いズボンは履いていたので、ポケットに財布もスマホも入っていた。とにかく人目につかないように建物の陰に入った。恥ずかしすぎる。 暗がりにうずくまり、両腕で体を抱えた。すると、涙が出てきた。怖かった。気持ち悪かった。とにかく宿泊しているホテルに帰るしかない。このまま帰るか、それともコンビニでシャツでも買うか。 立ち上がろうとしたところで、スマホが震えた。規則正しく震えている。電話だ。スマホをポケットから取り出すと、画面に成海の名前が出ていた。「な、成海?」すぐに電話に出た。「あ、はい。まだ起きてましたか。メッセージ送ったけど未読だったので、寝ちゃったかなと思ったんですが、そうじゃなかったらーと思って心配になって。」涙がどっと出た。「うっうっうっ……」言葉にならない。「仁さん?」「お、俺、今どこに居るのか、わかんな……。服、着てなく……て。」「え、え?どういう事ですか?あの、今いる場所をLINEで送ってください。迎えに行きますから。」「わ、かった。」俺は電話を切った。あまりやった事がなかったが、LINEで居場所を送れる事は知っていた。それをやってみる。ついでに「今、上裸」という文字も送った。 15分くらい経った頃、「仁さん!どこですか?仁さん!」と、やたらでかい声で呼ぶ成海の声が聞こえてきた。もう涙は引っ込んでいたが、また安心したら涙腺が緩んできた。「ここだよ。」暗がりから出て行くと、成海が目の前にいて、「仁さん!どうしたんですか!?ああ、なんて事だ!」騒がしく喚いたかと思うと、俺を抱きしめた。こらこら、裸の男を抱きしめるなんて、警官来るぞ……と思ったのだが、俺も涙が溢れてきて、「なるみぃ……」思い切り抱きしめ返してしまったのだった。 ひとしきり抱きしめ合った後、成海が持ってきたTシャツを借りて着た。そして、事の顛末を話しながら歩いた。行先は俺の宿泊先。時刻は1時半頃だった。「ごめんな、仕事の邪魔して。」回りにほとんど人がいないので、手を繋いで歩いていた。「何言ってるんですか。俺
平日は以前と変わらない仁さんだった。つまり、俺との関係に進展はなし。でも、週末の約束があるから気にしなかった。周りに関係がバレたら困ると思い、昼ご飯も誘ったりしなかった。お互い一人で済ませて、今まで通りの会話をした。 それでも時々不安になった。やっぱり仁さんが忘れているのではないかと。だが、LINEで何か送ると、ちゃんと返してくれた。『今週末、楽しみですね。』と送れば、『どこの店に行くか決めたか?』と返ってきて、仁さんの方でも色々調べてくれて二人で行く場所を決めたりした。そのやりとりの先頭には、例の『俺たち、恋人同士になろう』の文字がある。大丈夫だ。多分。 土曜日の朝。待ち合わ
その夜、仁さんが日本酒のお店に連れて行ってくれた。「仁さんは日本酒がお好きなんですね。」俺がテーブル席に腰かけながら言うと、「まあ、日本酒が好きというより、日本酒に合うつまみが好きなんだよ。」と、仁さんがやはり座りながら言った。「そうなんですか?焼き魚とか、おでんとか?」「そうそう。お刺身とか、和食全般だな。」仁さんがメニューを見ながら言った。そして、刺身の盛り合わせやら煮込み料理やら焼き鳥やらを注文した。 お猪口に酒を互いに注ぎ合い、乾杯をした。“最初から日本酒”というのはほとんど経験がなかったが、空きっ腹で飲む日本酒は、甘くて辛くてカーッと体に熱を伝えた。今日は対面で座
会社近くの居酒屋に入った。「お疲れ~。」「お疲れさまっす。」カチンと杯を合わせた俺と仁さん。仁さんはお猪口で、俺はジョッキだが。俺たちはカウンター席の端に並んで座った。仁さんはひたすら日本酒を飲んだ。俺は最初生ビールを飲んだのだが、その後はお猪口をもう1つもらって仁さんと同じ日本酒を飲んだ。「いやー、飲み屋に来るのも久しぶりだな。」仁さんが言う。「そうなんすか?」「昔は金曜日と言ったら必ず飲み会だったけどな。あの感染爆発の後はパッタリで。」仁さんは手酌で日本酒を自分のお猪口に注ぎ、まだ少し酒が入っている俺のお猪口にも注いだ。「あ、すんません。」「感染が落ち着いてきたらさ
「成海、ちょっと。」顔を上げて声のする方に顔を巡らすと、仁さんがこちらを見て手招きをしていた。「はい。」係長の席へと向かう。心臓がドキドキする。叱られるかもしれない、などという理由ではない。麗しい仁さんに呼ばれたから。あの人の近くに行けるから。「なんでしょうか。」「これ、この間の資料。」仁さんは、俺がお願いしていた会社の資料が入っていると思われる、USBメモリを差し出した。「ありがとうございます。」小さなそれを、恭しく受け取った。もう用事は済んでしまった。後ろ髪を引かれながらも、俺は自分の席へと戻った。 うちはミュージアムグッズを作る会社だ。ここは企画部発案課。仁さんは入