ログイン挙式まで残り二週間、英玲奈は婚約者の陽向が秘書の結愛と妊娠を祝っている場面に遭遇。 婚約破棄するため父に事実を打ち明けると、待っていたのは、さらなる裏切りだった。 「紹介しよう。結愛は私の娘だ。結婚式は中止しない。ただし花嫁は英玲奈から結愛に変える」 父と陽向の嫌がらせで仕事も家族も失うことになった英玲奈。そんなある日、英玲奈は亡き母が自分のために作ってくれたウエディングドレスを結愛に奪われることを知る。 「結婚なんかしない、婚約者にも興味はない。だけど、あのウェディングドレスだけは譲らない」 母の形見のウェディングドレスを身に纏い、英玲奈は復讐のためにある男と新しい人生を歩み始める。
もっと見る実家について玄関の扉を開けると、そこは冷え切った空気が満ちていた。リビングのソファに座る実父・南雲厳一郎(げんいちろう)は、私の報告を聞き終えるなり手にしていた本を乱暴に机に叩きつけた。「実にくだらない! 婚約破棄など私は絶対に認めないからな!」「くだらない……? 彼は、二週間後に私との挙式を控えながら、自分の秘書との間に子どもまで作ったのですよ。南雲家の婿養子になる男が外で不貞を働き、おまけに妊娠させていたなんて、我がグループの泥を塗る行為です。南雲のブランド価値を失墜させることに繋がると思いますが……!!」淡々と言い返す私が面白くないのか、父の歪んだ顔は怒りでみるみるうちに赤黒く染まっていった。「黙れ!やっと後継者が見つかったと思ったのに……そもそも、陽向君の心を掴めなかったお前に責任があるとは思わないのか。男の遊びの一つや二つをいちいち根に持つなんて……これだからお前は……!」「遊びの一つや二つ?妊娠までしてその言い方はないのではないですか?それに、南雲グループの後継者なら私がなるって再三……」「黙れ、身の程を知れ!!」リビングの重苦しい空気を切り裂くような父の鋭い怒号が響き渡った。 あまりの圧に言葉が喉に張り付く。父は冷酷に目を細め、私という存在そのものを値踏みするように見下した。「後継者は代々、男がなるものだと決まっている。女のお前には最初から無理だと何度言ったら分かるんだ。どれだけ夜遅くまで働き、いくら数字を出そうがお前の努力など所詮は女の浅知恵。評価されるのも、お前が『女』だからだ。そんなことも分からないから、お前は陽向君に飽きられたんじゃないのか」南雲グループの一人娘として、幼い頃から父の跡を継ぐことを夢見てきた。 しかし、「女だから」という理由だけで、どれだけ実績を上げても父から一度も認めてもらったことはなかった。挙句の果てに、三年前に陽向を後継者とするために結婚を命じて、それ以降、私が立てた事業計画は、すべて陽向の実績として処理された。父は今、私の努力のすべてを「女の浅知恵」と切り捨て、浮気をされた原因は私にあると言い放ったのだ。「いいか、お前の役目は南雲家を私の代で終わらせないための、優秀な男を南雲家に迎え入れるただの器にすぎないんだ。それなのに、その唯一の役目すら果たせないなんて、まったく……実に愚かで哀れだな。黙って
婚礼まであと二週間。それなのに……私は婚約者が別の女と妊娠を祝う瞬間を見てしまった。***「英玲奈(えれな)様、あちらのお席に行ってはなりません!」煌びやかな夜景が見渡せるホテルの最上階レストラン。ホテルのスタッフが青ざめた顔で私を必死に止めようとしている。その手を振り払い、ハイヒールの音をカツカツと冷徹に響かせながら近づいていく。(やっぱりここにいたのね……)婚約者の城之内陽向(じょうのうちひなた)と秘書の橘結愛(たちばなゆあ)が楽しそうに笑っている。二人とも目の前の相手に夢中で私の存在に気づいていないようだ。陽向がこの店で一番高価なシャンパンを掲げたウエイターに目配せをすると、 スポンッ、とコルクの抜けた音が響き、黄金の泡がグラスの中で湧き上がっていた。「妊娠おめでとう。結愛に子どもが出来たなんて嬉しいよ」「陽向、ありがとう。お腹の子、あなたに似てくれたらいいな……」「そんなことないさ。結愛に似たって絶対に可愛らしい子になる」結愛が愛おしそうにお腹を撫でると、陽向も目を細めて嬉しそうに微笑んでいる。幸せに満ちた二人とは対照的に、あまりの衝撃に心が急速に凍っていく。(……今、子どもって言ったわよね?それに、互いに似ればいいって……浮気だけじゃなく子どもまで作ったの?)「……でも陽向、本当に結婚しちゃうの?いつも陽向のことを支えているのは誰だと思っているのよ?」不機嫌そうに呟く結愛に、陽向は『拗ねている姿も可愛いよ』とでも言うように結愛の手をそっと握った。「分かっている。僕の心にいるのは結愛だけだ。いつも支えてくれてありがとう」今、確かに陽向は『結愛』の名前を口にした。(支えてくれてありがとう?あなたの社内での地位を上げるために、私がどれだけ尽くしてきたと思っているのよ?今まで何度もあなたの代わりに事業計画を立てて商談をまとめたのに、実績はすべて横取りしていったじゃない……それに結愛って、なんで秘書のことを下の名前で呼んでいるのよ……!)これ以上の戯言なんて時間の無駄だ。雰囲気をぶち壊すように低く落ち着いた声をかけた。「……なんだか楽しそうね、こんなところで何をしているのかしら?」「英玲奈……っ!? なぜここに……」結愛は驚きで目を見開いていたが、陽向は一瞬動揺したもののすぐにいつもの表情に戻すと、呆れたようにため息をついた