すべてを失った元令嬢は世界を支配する男の愛を纏う

すべてを失った元令嬢は世界を支配する男の愛を纏う

last updateLast Updated : 2026-08-11
By:  中道 舞夜Updated just now
Language: Japanese
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南雲グループの令嬢・英玲奈は、挙式直前に婚約者の裏切りを受ける。浮気の証拠を取るために乗り込むと、妊娠祝いにシャンパンを開けて喜ぶ婚約者。そして相手は、実父の隠し子の「異母妹」だった。 父は妹を溺愛し、花嫁を妹に変えて結婚式は強行すると宣言。 父と婚約者の嫌がらせで会社も家も追われ、すべてを失い「元令嬢」になった。そんな英玲奈に手を差し伸べたのは圧倒的なオーラを纏った正体不明の男。 怪しいながらも英玲奈の危機を助けてくれた男の誘いに乗り、英玲奈は新しい人生を歩むことを決意。この男は一体何者なのか?家も地位も奪われた元令嬢が、最恐の味方と共に全てを奪い返す大逆転復讐劇が今、幕を開ける―――

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Chapter 1

1.祝杯

結婚式まで、あと二週間。

朝、結婚式のスピーチをする人へのお礼の品をカタログを見ながら吟味していると、その姿を見た陽向は「英玲奈は本当に真面目だな」と目を細めて笑っていた。陽向も私と同じ気持ちでいる。そう思っていたのに……夜になって、彼はホテルで別の女のためにシャンパンを開けていた。

「英玲奈(えれな)様、あちらのお席に行ってはなりません!」

煌びやかな夜景が見渡せるホテルの最上階レストラン。ホテルのスタッフが青ざめた顔で私を必死に止めようとしている。その手を振り払い、ハイヒールの音をカツカツと冷徹に響かせながら近づいていく。

(やっぱりここにいたのね……)

婚約者の城之内陽向(じょうのうちひなた)と秘書の橘結愛(たちばなゆあ)が楽しそうに笑っている。二人とも目の前の相手に夢中で私の存在に気づいていないようだ。

陽向がこの店で一番高価なシャンパンを掲げたウエイターに目配せをすると、 スポンッ、とコルクの抜けた音が響き、黄金の泡がグラスの中で湧き上がっていた。

「妊娠おめでとう。結愛に子どもが出来たなんて嬉しいよ」

「陽向、ありがとう。お腹の子、あなたに似てくれたらいいな……」

「そんなことないさ。結愛に似たって絶対に可愛らしい子になる」

結愛が愛おしそうにお腹を撫でると、陽向も目を細めて嬉しそうに微笑んでいる。幸せに満ちた二人とは対照的に、あまりの衝撃に心が急速に凍っていく。

(……今、子どもって言ったわよね?それに、互いに似ればいいって……浮気だけじゃなく子どもまで作ったの?)

「……でも陽向、本当に結婚しちゃうの?いつも陽向のことを支えているのは誰だと思っているのよ?」

不機嫌そうに呟く結愛に、陽向は『拗ねている姿も可愛いよ』とでも言うように結愛の手をそっと握った。

「分かっている。僕の心にいるのは結愛だけだ。いつも支えてくれてありがとう」

今、確かに陽向は『結愛』の名前を口にした。

(支えてくれてありがとう?あなたの社内での地位を上げるために、私がどれだけ尽くしてきたと思っているのよ?今まで何度もあなたの代わりに事業計画を立てて商談をまとめたのに、実績はすべて横取りしていったじゃない……それに結愛って、なんで秘書のことを下の名前で呼んでいるのよ……!)

陽向は、かつて私にも同じような優しい言葉をくれた。

三年前、彼が初めて大きな案件を取った日、誰もいない会議室で私を強く抱きしめた。

「英玲奈、今の僕があるのは英玲奈のおかげだ。英玲奈がいたから、僕は絶対に忘れない」

あの時の彼の手は温かく、声も本物に聞こえた。けれど今、その手は別の女の手に優しく重ねられている。

これ以上の戯言なんて時間の無駄だ。雰囲気をぶち壊すように低く落ち着いた声をかけた。

「……なんだか楽しそうね、こんなところで何をしているのかしら?」

「英玲奈……っ!? なぜここに……」

結愛は驚きで目を見開いていたが、陽向は一瞬動揺したもののすぐにいつもの表情に戻すと、呆れたようにため息をついた。

「今は仕事中だ。邪魔をしないでくれ。……君は仕事とプライベートの区別もつかないのか?」

「仕事?」

「ああ、そうだ。彼女は僕の秘書だ。秘書と食事をして何が悪い。君だって橋本君と食事くらいするだろう」

「ええ、するわ。でも、こんな恋人同士が来るような場所に二人で来たりしないし、ましてやこんな高級なシャンパンを開けたりもしない。それでもまだ仕事と言い張るつもり?」

陽向に詰め寄っていると、結愛は小さく悲鳴を上げてわざとらしく陽向の腕にしがみついた。

「ねえ、なんで英玲奈さんがここにいるの?怖いわ」

「……すまない。実は、英玲奈は常日頃から僕のことを監視しているんだ。そうやって僕を縛り付けていないと気が済まないみたいで……でも、君のことは僕が守るから安心してくれ」

秘書と浮気しているだけでなく私に問題があるような言い方をするなんて……怒りで全身が震える。こんなにも非道で馬鹿な男だなんて思わなかった。

「私が監視?嘘を言わないで!それに、さっきから、結愛、結愛、結愛って名前で呼んで、どういう関係なのよ。とても上司と部下の関係には見えないわ」

「……何を言っている、聞き間違いだ。耳も悪くなったのか?それとも妄想癖でもあって、自分を悲劇のヒロインか何かと勘違いしているようだな。言いがかりもいいかげんにしてくれ」

「英玲奈さん、何か勘違いされていませんか?私たちは今日仕事の打ち合わせでここに来ました。シャンパンも私の記念日だと知った城之内役員の計らいで注文してくださりました。城之内役員は私の事をいつも気遣ってくれるとても優しい人です。……それは、婚約者であるあなたもご存知なのでは?」

結愛は、取り繕った笑顔でクレーマーの対応でもしているかのように私に話しかけてくる。丁寧な言葉遣いだが、自分がいかに愛されているか見せつけているのだ。

「記念日……?そう、あなた妊娠したのよね。お互いに似た子どもになるといいとか言って嬉しそうにしていたのものね。あなたたちの会話は、すべて聞かせてもらったわ。もちろん、父にも報告する……このことを父が知ったらなんと言うかしら?」

その言葉に陽向と結愛はピクリと眉をあげて顔をひきつらせた。結愛の口角は上がっているが笑顔は崩れ、陽向は目を泳がせて動揺を露わにしている。

「ウエイター、彼女は部外者だ。すぐさま外につまみ出してくれっ!!!」

「すみません……彼女、精神的に不安定で思い込んだら暴走が止まらないんです……物を投げたり暴れ出したりすることもあって……」

「……っ!誰がそんなこと……」

「申し訳ございません、他のお客様のご迷惑にもなりますのでお引き取りを……」

陽向の指示で、すぐに数人のスタッフがすぐさま私を取り囲む。腕を引かれてその場を去る私に周囲の客からの好奇と冷笑の視線が突き刺さっている。 腕を掴まれながら、私が一度だけ振り返ると、陽向と結愛は勝ち誇ったような笑みを浮かべてシャンパングラスを合わせていた。

(……人を悪者に仕立て上げておいてシャンパンを楽しんでいるというの?……乾杯でも何でもすればいいわ。婚約は絶対に破談よ!!)

エントランスを出て待機させていた車に乗り込むと、専属運転手の加藤がバックミラー越しに息を呑んだ。

「加藤、すぐに実家へ向かってお父様にすべてを報告して婚約を破棄してやるんだからっ……」

「かしこまりました。……ですが英玲奈様、旦那様がすんなりと婚約破棄を認めるとは思えません……」

「ええ、分かっている……でも、黙ってなんかいられないもの」

走り出した車から見える夜景をぼんやりと眺めていた。陽向と一緒にいた三年間を思い出す。陽向は、私にも常日頃から感謝の言葉を口にしてきた。だから私も、自分が影になり陽の当たらない目立たぬ場所で一人奮闘することになっても耐え抜いてきたのだ。

(馬鹿みたい……結局、陽向は自分のために尽くしてくれる女性が欲しかっただけで、私でなくても誰でも良かったのね……)

背もたれに頭を預けて腕で目元を隠す。泣いている姿なんて加藤にも見られたくなかった。

悲しくて泣いているのではない。自分が喉から欲しかった次期後継者という立場を、あんな男に取られること。そして、実績作りのためのお膳立てをすべてさせられてきたことに対して悔しさがこみ上げたのだ。

「英玲奈様……大丈夫ですか?」

「……ええ、平気よ。結婚式が執り行われる前になんとしても破談にさせるわ。陽向がごねてきたら、結愛の両親にもこの事実を伝えて訴えてやるんだから」

タブレットを開き、社員情報のデータベースから橘結愛の情報を検索する。秘書課の名簿一覧から橘結愛の名前をタップして経歴や履歴書を見ようとしたその時だった。

 『権限がないため、閲覧できません』

南雲グループ会長の娘であり幹部の私には、海外買収案件の極秘資料でさえ閲覧権限があり、組織の全権限が付与されているはずだ。こんな画面、今まで一度も見たことがない。

それなのに、ただの秘書の履歴書すら見ることができないなんて、誰かが細工をしているとしか思えない。そして、それが出来るのは、一人だけだ。

「お父様……どうして?」

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1.祝杯
結婚式まで、あと二週間。朝、結婚式のスピーチをする人へのお礼の品をカタログを見ながら吟味していると、その姿を見た陽向は「英玲奈は本当に真面目だな」と目を細めて笑っていた。陽向も私と同じ気持ちでいる。そう思っていたのに……夜になって、彼はホテルで別の女のためにシャンパンを開けていた。「英玲奈(えれな)様、あちらのお席に行ってはなりません!」煌びやかな夜景が見渡せるホテルの最上階レストラン。ホテルのスタッフが青ざめた顔で私を必死に止めようとしている。その手を振り払い、ハイヒールの音をカツカツと冷徹に響かせながら近づいていく。(やっぱりここにいたのね……)婚約者の城之内陽向(じょうのうちひなた)と秘書の橘結愛(たちばなゆあ)が楽しそうに笑っている。二人とも目の前の相手に夢中で私の存在に気づいていないようだ。陽向がこの店で一番高価なシャンパンを掲げたウエイターに目配せをすると、 スポンッ、とコルクの抜けた音が響き、黄金の泡がグラスの中で湧き上がっていた。「妊娠おめでとう。結愛に子どもが出来たなんて嬉しいよ」「陽向、ありがとう。お腹の子、あなたに似てくれたらいいな……」「そんなことないさ。結愛に似たって絶対に可愛らしい子になる」結愛が愛おしそうにお腹を撫でると、陽向も目を細めて嬉しそうに微笑んでいる。幸せに満ちた二人とは対照的に、あまりの衝撃に心が急速に凍っていく。(……今、子どもって言ったわよね?それに、互いに似ればいいって……浮気だけじゃなく子どもまで作ったの?)「……でも陽向、本当に結婚しちゃうの?いつも陽向のことを支えているのは誰だと思っているのよ?」不機嫌そうに呟く結愛に、陽向は『拗ねている姿も可愛いよ』とでも言うように結愛の手をそっと握った。「分かっている。僕の心にいるのは結愛だけだ。いつも支えてくれてありがとう」今、確かに陽向は『結愛』の名前を口にした。(支えてくれてありがとう?あなたの社内での地位を上げるために、私がどれだけ尽くしてきたと思っているのよ?今まで何度もあなたの代わりに事業計画を立てて商談をまとめたのに、実績はすべて横取りしていったじゃない……それに結愛って、なんで秘書のことを下の名前で呼んでいるのよ……!)陽向は、かつて私にも同じような優しい言葉をくれた。三年前、彼が初めて大きな案件を取った日、誰もいない会議室
last updateLast Updated : 2026-06-25
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2.最悪の事実
昔から父は厳しい人間だった。いつも完璧を求められて、褒めてもらった記憶はない。私のことを簡単に認めてくれないことも、嫌というほど知っている。けれど陽向が秘書を妊娠させた件は、もう私だけの問題ではない。南雲グループの名誉を傷つける醜聞だ。陽向のことを知れば、父は私の側に立ってくれるはずだ。実家へ向かう車の中で、私はまだ愚かにもほんの少しだけ期待していた。しかし、私は間違っていた。リビングのソファに座る実父・南雲厳一郎(げんいちろう)は、私の報告を聞き終えるなり手にしていた本を乱暴に机に叩きつけた。「実にくだらない! 婚約破棄など私は絶対に認めないからな!」「くだらない……? 彼は、二週間後に私との挙式を控えながら、自分の秘書との間に子どもまで作ったのですよ。南雲家の婿養子になる男が外で不貞を働き、おまけに妊娠させていたなんて、我がグループの泥を塗る行為です。南雲のブランド価値を失墜させることに繋がると思いますが……!!」淡々と言い返す私が面白くないのか、父の歪んだ顔は怒りでみるみるうちに赤黒く染まっていった。「黙れ!やっと後継者が見つかったと思ったのに……そもそも、陽向君の心を掴めなかったお前に責任があるとは思わないのか。男の遊びの一つや二つをいちいち根に持つなんて……これだからお前は……!」「遊びの一つや二つ?妊娠までしてその言い方はないのではないですか?それに、南雲グループの後継者なら私がなるって再三……」「黙れ、身の程を知れ!!」リビングの重苦しい空気を切り裂くような父の鋭い怒号が響き渡った。 あまりの圧に言葉が喉に張り付く。父は冷酷に目を細め、私という存在そのものを値踏みするように見下した。「後継者は代々、男がなるものだと決まっている。女のお前には最初から無理だと何度言ったら分かるんだ。どれだけ夜遅くまで働き、いくら数字を出そうがお前の努力など所詮は女の浅知恵。評価されるのも、お前が『女』だからだ。そんなことも分からないから、お前は陽向君に飽きられたんじゃないのか」南雲グループの一人娘として、幼い頃から父の跡を継ぐことを夢見てきた。 しかし、「女だから」という理由だけで、どれだけ実績を上げても父から一度も認めてもらったことはなかった。挙句の果てに、三年前に陽向を後継者とするために結婚を命じて、それ以降、私が立てた事業計画は、すべて陽向の
last updateLast Updated : 2026-06-25
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3.結愛
「結愛が、私の妹……?」「ああ、血の繋がりはないがな。だが、私の娘には変わりない」南雲グループは、高学歴の社員しか採用していない。そして、秘書課に配属されるのは容姿端麗で語学力が高い者や法律の知識を持つ者などいずれにしても花形の部門だ。そんな中で結愛だけが名前も知らないような大学出身で、何故、結愛がうちのような大手に勤めているのか、なぜ陽向の秘書に抜擢されたのか、ずっと疑問を抱いていた。しかし、今の父の発言で全ての謎が解けた。(大して学力もない結愛がこの会社に入社したのも、陽向の専属秘書に抜擢されたのも……すべて父の力があってこそだったのね……)「お姉さまはいつも完璧で仕事も出来ることは知っています。でも、陽向はお姉さまと一緒にいると、息が詰まるって言っていました。陽向は私の隣にいる時だけ、自分らしくいれる気がするって嬉しそうに言っていました。……だからお姉さま、陽向を自由にしてあげてもらえませんか?陽向も私といることが幸せだと言っています。お姉さまの今の場所を私に譲ってください」「結愛、心配することはない。結愛から頼まなくても、英玲奈の地位は結愛に譲らせるつもりだった。結愛は、英玲奈と違って素直で愛嬌があって本当に可愛いからな。陽向君に誠心誠意尽くすところも社長夫人としての器にピッタリだ。……だから、陽向君も結愛を選んだんだろう」「そうだよ。結愛の言う通り、英玲奈といるとしんどいんだ。僕はいつも、周りから英玲奈の功績を分け与えられた男みたいに思われるし、英玲奈自身も
last updateLast Updated : 2026-06-30
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4.母
英玲奈sideリビングを飛び出して二階へと駆けこんだ。父は冗談や言葉だけの脅しはしない。有言実行でやるなら徹底的に容赦せずに潰す人だ。そうやって今までいくつも企業を弾圧してきたのを私は間近で見てきている。陽向の結婚相手を私から結愛に代えると言うのも、私が婚約破棄を諦めるための脅しの発言ではないだろう。……きっと父は、本気だ。だからこそ、居場所がなくなったこの家にしがみつく気はなかった。もうこの家に二度と足を踏み入れない。そう思った私は、母の部屋へと入った。部屋の扉を開けた瞬間、私は初めて息ができた気がした。ここには父の怒号も、陽向の嘘も、結愛の勝ち誇った笑顔もない。あるのは、古い木の匂いと母が生前好んでいたサンダルウッドの香りだけだった。母が亡くなって随分と時は経ったが、メイドたちのおかげで母の部屋は綺麗に清掃や手入れがされており当時のままだった。父は、私にいつも完璧を求め、南雲家の娘なら弱音を吐くなと言った。けれど母は、礼儀作法の稽古から私をこっそり連れ出して、自分で作った小さなワンピースに着替えさせて外へ連れ出してくれた。「英玲奈は南雲家の子である前に、私の娘よ。綺麗でいていいし、わがままを言ってもいい。ちゃんと愛されていい子なの」私の事を唯一愛してくれた母は、私が十五歳の時にガンで亡くなった。(確か、結愛は私の三歳下だったはず……父は、母が生きている時から不倫をしていたのね。母は知っていたのかしら?精神的に落ち込む時もあって治療のせいだと思っていたけれど、もしかして父のことで気を病んでいた……?)デザイナーだった母は、仕事が大好きで病に侵されてからも、辛い治療の中でも病室で毎日のようにデッサンを書いていたと加藤が話をしていた。あの頃、反抗期だった私は母の見舞いに行くのは、まだ親離れできていないと思われる気がして受験勉強を理由にしてあまり病院へはいかなかった。そして、大人になった今、なぜもっと母のところへ顔を出さなかったのかと当時のことをずっと悔やみ続けている。 クローゼットを開いて母の遺品を見渡すが、宝石やアクセサリーなど高価な物は父や義姉妹に奪われてしまい何も残っていない。しかし、母が書いたスケッチブックなど母が生きた証を感じられるものが残っていたら、それだけはどうしても持ち帰りたかった。机の引き出しを開けると、探していたスケッチブッ
last updateLast Updated : 2026-07-01
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6.監禁
英玲奈side陽向と結愛の結婚式当日。早朝、まだ皆が眠っている時間に加藤は私が泊まっているホテルのスイートルームに訪ねてきた。「英玲奈様、加藤です。例の物をお持ちしました……」周囲に誰もいないことを確認し、そっと中に招き入れる。頼んでいた品を受け取りすぐさまベッドの上に置いて確認すると、母が私のために作ったドレスに間違いない。母が私のために作ったドレスは完成していた。しかし、父はそのドレスをあろうことか結愛に着せようとしていうことを知った私は、加藤に奪ってくるようにお願いをしたのだ。「加藤、最後の最後にこんな我が儘を頼んでしまってごめんなさい。これ、少しだけれど私からの気持ちよ。……今までありがとう」鞄から五百万円の小切手を手渡すと、加藤は両手を振って受け取りを拒否した。「英玲奈様……こちらは受け取れません。私は、お金のためにやったのではございません。……生前、奥様には大変お世話になりました。ですので、奥様の思いを踏みにじることは、いくら旦那様でも許せなかったのです」「ありがとう。母も喜ぶわ。回収してくれたドレスは絶対に大切にする」母の形見であるこのウェディングドレスだけは父や結愛に渡さない。加藤を見送ってから、スーツケースにドレスを綺麗に詰め込んで、その場を後にしよ
last updateLast Updated : 2026-07-04
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7.乱入
陽向side結婚式場の控室。あと数時間で俺の人生は華やかに変わるはずだった。それがまさか、あんな事態になるなんて……。「ドレスがなくなるなんて、一体どういうこと!? 代わりのものは安っぽいし、おまけにサイズが大きくて貧相に見えてしまうじゃない!」挙式の一時間前、控室には結愛のヒステリックな声が響いていた。ドレスが盗まれたせいで、急遽用意されたサイズの合わないドレスを着る羽目になり、結愛の機嫌は最悪だった。胸元がぶかぶかで不格好に浮いている。「……結愛、そんなに怒るなよ。あのドレスがよかったのは分かるけれど、無い物は仕方ないじゃないか。ドレスなんてどれも一緒だろう」「ドレスなんてどれも一緒……!?」俺の失言に結愛は殺気立った視線で睨みつけてくる。これ以上機嫌を損ねるのは危険だと判断し、必死で言葉を取り繕った。「……いやっ、どんなドレスを着ても結愛なら可愛く着こなせるからどれも一緒、そういう意味だよ」機転が利いたおかげで結愛の眉間のシワが少しずつ消えていき、心の中でそっと胸を撫で下ろす。俺は式が執り行われるのを待ち侘びていた。(まったく……衣裳なんてただの飾りだろう。たかが数時間着るだけのもののために、目くじらを立てやがって。こっちは、今後何十年もの人生が掛かっているんだ
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9.決別
英玲奈side私は今、お母様の形見である世界で一番美しいウェディングドレスを纏いながら、正体不明の男の隣に立っている。 男は、いつの間にか白いタキシードに着替え私をエスコートしていた。「お前……っ! 式をめちゃくちゃにしやがって……! それにその男はなんだ。どうしてそんな格好でここにいる!?」父が唾を飛ばして怒鳴り声を上げる。 陽向と結愛もあまりの衝撃に言葉を失い、信じられないものを見る目でこちらを凝視していた。招待客たちの冷ややかな視線が、一斉に新郎新婦と南雲家のトップである父、そして私たちへと突き刺さる。私は男の腕をしっかりと掴み、これ以上ないほど冷酷に微笑んでみせた。「お父様、陽向さん。あなたたちは、結愛との結婚が決まったら、私のことは南雲家の人間ではないと言い放ち仕事や大切な家族を私から奪おうとしましたね。……南雲家の人間でないのなら、私も自分に関係のない他人に、これ以上お話しすることは何もありませんわ」「お前……っ!」 父が怒りにまかせて私にとびかかろうと身を前に乗り出すと、その瞬間、私の隣の男に仕えている黒スーツにサングラスを身に着けた二人のガードマンが立ちはだかり、父を押さえ込む。隣に立つ男は、騒然とする会場を一瞥することすら面倒だと言わんばかりに、私の耳元で静かに囁いた。「英玲奈、もういいだろう。これ以上ここに居ても時間の無駄だ」
last updateLast Updated : 2026-07-07
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10.謎の男
英玲奈sideリムジンが到着したのは、都心の超一等地にある空を突き刺すようにそびえ立つ最高級タワーマンションの地下駐車場だった。 静まり返った車内で、隣に座る男がシートに深く背を預けたまま低い声で私を促す。「今日はここに泊まるといい。必要最低限の生活用品はすべて揃えてある」「ありがとう……。あなたのことは何と呼べばいいかしら? お礼もしたいし、名前を教えて下さらない?」私がまっすぐに問いかけると、男は酷薄な笑みを浮かべサングラスの奥の瞳をわずかに細めた。「……俺と手を組むと決めたら名前を教えてやる。それまでは知らなくていいことだ。何かあったらこの番号に連絡しろ。対応してやる」男はぶっきらぼうにそう言って一枚のカードを私に差し出してきた。 私が受け取ると同時に男の部下と思しき運転手が恭しくドアを開ける。私が車外へ出ると、エンジン音を響かせながらリムジンは颯爽と敷地を去っていき、残された私は、呆然とその場に立ち尽くしていた。「南雲様ですね……お話は伺っております。部屋に案内しますので、どうぞこちらへ」 マンションのコンシェルジュに案内されたのは、最上階にある一室だった。オートロックの扉が開いた瞬間、その空間の圧倒的なスケールに私は思わず息を呑んだ。
last updateLast Updated : 2026-07-08
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