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俺が本気で去ったあと、彼女は取り乱した

俺が本気で去ったあと、彼女は取り乱した

Por:  きゅうCompletado
Idioma: Japanese
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俺の誕生日の夜、三宅清実(みやけ きよみ)は帰ってこなかった。 その日の朝、清実から届いたのは、コンビニのデジタルギフトと、たったひと言のメッセージだけだった。 【誕生日おめでとう】 恋人に送るとは思えないほど、よそよそしい文面だった。 その直後、何気なく開いたSNSで、清実の後輩が投稿した写真が目に入った。 有名ホテルのレストランで向かい合うふたり。テーブルの上には、俺が欲しいと言っていた腕時計の箱が置かれている。 投稿には、こう添えられていた。 【先輩から、ずっと大切にするって言ってもらえた。一生忘れられない夜】 俺は問い詰めることも、取り乱すこともなかった。荷物をまとめ、翌朝にはこの街を出た。 俺がいなくなっても、清実は大して気に留めていなかったらしい。 「あの人のことだから、どうせ何日もしないうちに帰ってくるでしょ」 そう言って、平然と仕事を続けていたという。 1か月後、ようやく清実から電話がかかってきた。 「欲しがってた車、買ってあげる。だから、もう帰ってきて」 けれど、俺が欲しかったのは、そんなもので埋め合わせることのできる愛じゃなかった。

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Capítulo 1

第1話

川瀬周平(かわせ しゅうへい)の投稿には、清実の友人たちからのコメントがいくつも並んでいた。以前は俺もフォローしていた、見覚えのある顔ぶればかりだ。

【うわ、清実さん太っ腹。そんな高い時計、さらっと贈れるなんてすごい】

【さっき松岡陸(まつおか りく)のSNSも見たけど、誕生日にもらったの、コンビニのギフト券だけみたいだよ。清実さんの中じゃ、彼氏より周平くんのほうが大事なんだね】

俺は画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。

今日は俺の誕生日だ。

清実は朝一番にメッセージを送ってきて、仕事が立て込んでいて帰れないと告げてきた。

そして一緒に届いたのが、コンビニのデジタルギフトと、たったひと言のメッセージだった。

【誕生日おめでとう】

一方で、周平の正規採用は高級レストランで祝い、俺が前から欲しがっていた腕時計まで贈っていた。

7年という月日が、急にどうしようもなく滑稽なものに思えてきた。

清実にとって俺は、コンビニのギフト券ひとつで誕生日を済ませられる相手だった。

周平は、時間も金も惜しまず尽くしたい相手だった。

そこへ、周平がまた新しい投稿を上げた。今度は動画だ。

カラオケボックスの薄暗がりの中、清実がカメラをまっすぐ見つめながら、切なげにラブソングを歌っている。

周りの連中が囃し立てる声も入っていた。「清実さん、周平のこと好きすぎでしょ」

「いつになったら陸なんか捨てて、堂々と周平と付き合うわけ?」

動画はそこでぷつりと途切れた。

俺はスマホを握りしめた。言葉にできない感情が胸の奥にわだかまり、息が詰まった。

ふとテーブルに目をやれば、2時間かけて作った料理が並んでいた。その隣には、自分で焼いたケーキも置いてあった。

今日は清実とふたりで、穏やかな誕生日を過ごせると思っていた。

なのに彼女はまた「仕事」を口実に俺を放ったらかしにし、周平のもとへ行ってしまった。

こんな理不尽は、この7年間で数え切れないほど繰り返されてきた。いつしか、そんな扱いにすっかり慣れてしまった自分がいる。

スマホをしまい、ケーキの箱を開けてカメラを向け、1枚撮り、その写真をSNSに載せた。

誕生日を写真に残すのは、毎年続けてきた習慣だ。今年も同じだ。誰かのせいで、この習慣を崩すつもりはなかった。

投稿を終え、ケーキを1切れ切って口に運んだ。甘くとろけるはずのクリームが、なぜかひどく苦く感じられる。

ふと思う。俺と清実の恋も、このクリームによく似ている。

甘く幸せなものだと思っていた。けれど、その甘さの奥には、ひどく苦いものが隠されていた。

甘さが消えたあとに残るのは、胸の悪くなるような後味だけだ。

……

テーブルの料理をすべてゴミ箱に放り込んだ直後、清実から電話がかかってきた。

開口一番、不機嫌な声が響く。

「ケーキの写真なんかSNSに上げて、どういうつもり?あんたの周りの人に、今年は誕生日を一緒に過ごさなかったって知らせたいわけ?」

これまではどんなに忙しくても必ず帰ってきて、写真にはいつも彼女が写っていた。今年だけ清実が写っていなかったため、俺が当てつけで投稿したと思ったのだろう。

「別に、そんなつもりはないよ」

俺は感情を滲ませることなく、淡々と答えた。

「白々しい。私が帰らなかったこと、内心不満なんでしょ」

清実の声に苛立ちが滲む。

「今日は急な仕事が入って帰れないって、ちゃんと言ったはずよね。お祝いだって送ったじゃない。いちいち細かいことを気にしないでよ。じゃあね、まだ仕事があるから。切るわよ」

プツッという無機質な音とともに、電話は一方的に切られた。

俺は自嘲気味に笑った。いつか清実が俺のほうを振り返ってくれると、まだどこかで期待していた自分が、心底馬鹿らしかった。

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ノンスケ
ノンスケ
よくあるクズ男の女版?何をしても彼氏は自分から離れていかないと思い込んでたのかな。プレゼントといい、誕生日なのに浮気相手とディナーといい、どう考えても向こうが本命だと思うよね。彼が去るのも当然じゃない?
2026-08-25 21:40:58
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10 Capítulos
第1話
川瀬周平(かわせ しゅうへい)の投稿には、清実の友人たちからのコメントがいくつも並んでいた。以前は俺もフォローしていた、見覚えのある顔ぶればかりだ。【うわ、清実さん太っ腹。そんな高い時計、さらっと贈れるなんてすごい】【さっき松岡陸(まつおか りく)のSNSも見たけど、誕生日にもらったの、コンビニのギフト券だけみたいだよ。清実さんの中じゃ、彼氏より周平くんのほうが大事なんだね】俺は画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。今日は俺の誕生日だ。清実は朝一番にメッセージを送ってきて、仕事が立て込んでいて帰れないと告げてきた。そして一緒に届いたのが、コンビニのデジタルギフトと、たったひと言のメッセージだった。【誕生日おめでとう】一方で、周平の正規採用は高級レストランで祝い、俺が前から欲しがっていた腕時計まで贈っていた。7年という月日が、急にどうしようもなく滑稽なものに思えてきた。清実にとって俺は、コンビニのギフト券ひとつで誕生日を済ませられる相手だった。周平は、時間も金も惜しまず尽くしたい相手だった。そこへ、周平がまた新しい投稿を上げた。今度は動画だ。カラオケボックスの薄暗がりの中、清実がカメラをまっすぐ見つめながら、切なげにラブソングを歌っている。周りの連中が囃し立てる声も入っていた。「清実さん、周平のこと好きすぎでしょ」「いつになったら陸なんか捨てて、堂々と周平と付き合うわけ?」動画はそこでぷつりと途切れた。俺はスマホを握りしめた。言葉にできない感情が胸の奥にわだかまり、息が詰まった。ふとテーブルに目をやれば、2時間かけて作った料理が並んでいた。その隣には、自分で焼いたケーキも置いてあった。今日は清実とふたりで、穏やかな誕生日を過ごせると思っていた。なのに彼女はまた「仕事」を口実に俺を放ったらかしにし、周平のもとへ行ってしまった。こんな理不尽は、この7年間で数え切れないほど繰り返されてきた。いつしか、そんな扱いにすっかり慣れてしまった自分がいる。スマホをしまい、ケーキの箱を開けてカメラを向け、1枚撮り、その写真をSNSに載せた。誕生日を写真に残すのは、毎年続けてきた習慣だ。今年も同じだ。誰かのせいで、この習慣を崩すつもりはなかった。投稿を終え、ケーキを1切れ切って口に運んだ。
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第2話
冷めきった愛は、二度と元には戻らないのだ。……夜が更けても、清実は帰ってこなかった。周平が次々とSNSに動画を上げていたおかげで、ふたりの行動は嫌でも伝わってきた。今日は周平の正規採用が決まったらしく、清実はそれを祝うためにカラオケへ行き、その後は高級レストランで肩を並べて食事までしたという。愛の差というのは、こういう瞬間にこそ残酷なほど浮き彫りになるらしい。辛くないと言えば嘘になる。だがもう、以前のように清実を問い詰めて騒ぎ立てる気力は残っていなかった。ただただ、疲れてしまったのだ。俺は部屋に入り、自分の荷物をまとめ始めた。ここは、俺と清実が使っている寝室だ。けれど同棲を始めてからというもの、彼女がここに帰ってくることは滅多になくなった。月に帰ってくる回数は、片手で数えられるほどしかなかった。いつも「仕事が忙しい」と言い訳を繰り返していたが、本当は周平と過ごしていたのだと、俺は知っていた。馬鹿ではない。彼女の心がどんどん離れていくのは、よそよそしい態度から嫌でも感じ取っていた。だからある時、彼女が本当は何をしているのか確かめたくて、病院まで足を運んだことがある。そこで目にしたのは、執務室で周平と頭を寄せ合い、ひとつの画面で映画を見ている清実の姿だった。途中、周平がこっそり顔を寄せ、彼女にキスをした。清実は頬を赤らめながら、「次はダメよ、私、彼氏いるんだから」と口先だけでたしなめた。だが周平が続けて、「彼氏がいるからこそ、隠れて会うスリルが楽しめるんじゃないですか」と囁くと、彼女は欲望を我慢できなくなったかのように、彼女のほうから周平に近づき、唇を重ねた。それ以来、彼女はその背徳的な刺激にのめり込み、行動は日に日にエスカレートしていった。……荷物をまとめ終えた頃には、もう真夜中だった。清実はまだ帰ってこない。俺はため息をつき、指にはめていたペアリングを外して、化粧台の上に置いた。清実と付き合って、もう7年になる。彼女が一番つらかったのは、両親を相次いで亡くし、多額の借金だけが残された頃だった。生きていく気力さえ失うほど、追い詰められていた。そんな彼女を必死に支え、寄り添ってきたのは俺だ。借金返済のために身を粉にして金を稼ぐうち、俺たちの間には自然と深い情が芽生えた
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第3話
俺の見ていないところで、清実と周平の間には、すでにこんなにも堂々と親密なやり取りが交わされていたのか。そういえば以前、周平のことで清実と激しく喧嘩したことがあった。彼女が酔い潰れた夜、周平が彼女を抱きかかえて家まで連れてきたことがあった。あの時俺は怒ったが、翌日彼女は不満そうにこう釈明した。「どうしていつも私を疑うわけ?周平は、私が指導している後輩にすぎないのよ。卒業したばかりの子が、指導役の私を家まで送ってくれただけ。あの子は、あんたみたいに何でも変なふうに勘ぐったりしないわよ」彼女はいつだって、俺と周平を比べた。清実にとって、周平は何をしても正しく、俺は何をしても間違っているらしかった。看護師たちの会話を聞くのをやめ、俺は再び歩き出す。これが清実に会う最後の機会だ。今日を最後に、俺と彼女の間には何の関係もなくなる。執務室に着き、扉を開けようとしたその時、中から聞こえてきた声に、思わず動きが止まった。「あはは、くすぐったいってば、やめてよ」「清実って、そんなにくすぐったがりだったんだ?昨日、裸で触っても全然平気だったのにさ」「もう、意地悪。昨日は楽しむのに夢中だっただけだもん」扉の隙間から覗くと、執務室にいるのは清実と周平のふたりだけだった。清実は周平の膝の上に座り、顔いっぱいに笑みを浮かべている。もうずいぶん長いこと、彼女がそんな風に笑うところを見ていなかった。久しぶりに見たその笑顔に、込み上げてきたのは、ただ耐えがたい嫌悪感だった。ふたりの間にすでに何かがあったことは、とっくに察していたはずなのに。それでも、こうしてその口から直接聞かされると、気持ち悪さがこみ上げてくる。手にしていた朝食も、急に渡す気が失せた。背を向けてその場を離れようとした瞬間、うっかり鍵を床に落としてしまう。「誰?」清実の声が響いた。扉の隙間から、こちらを覗き込んでくる。視線がまともにぶつかった。一瞬にして、彼女の目に動揺が走る。慌てて周平の膝から飛び降りた。……「待って、説明させて!」清実は飛び出してきて、俺を執務室の中へ引っ張り込んだ。執務室の中には、まだ酒の匂いが漂っていた。目をやると、机の上には赤ワインのボトルと、二脚のワイングラス。グラスの中には飲みかけのワインが残って
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第4話
「じゃあ陸、今夜は周平の家でご飯をごちそうになりましょう。彼ね、実は料理が上手なのよ」まずいことを口にしたと気づいたのか、彼女は慌てて付け足した。「あっ、毎日お弁当持ってきてるんだけど、前に1回分けてもらったら、すごく美味しかったの。だから……!」「そうそう、陸さん、絶対来てくださいね!今日は早めに仕事を切り上げて、腕によりをかけて作りますから、きっと満足してもらえますよ!」周平は得意げに俺を見た。あいつが何か企んでいることくらい、もちろん分かっていた。「いいよ、行く」俺の返事に、彼はまた一瞬、意外そうな顔をした。以前にも何度か誘われたことがあったが、俺はその都度断り、不機嫌になっていた。あいつは俺にとって何の関係もない相手だったから、わざわざ家まで行って食事をする理由などないと思っていた。だが今はもう、どうでもよくなっていた。それに明日にはこの街を離れる。今さら清実と揉め事を起こしたくもなかった。……周平が休みを取って先に帰ると、清実も続いて休暇を取った。そして俺を連れて、腕時計を買いに行った。たった1万円ほどのものだ。「誕生日プレゼント。本当は昨日、一緒に選びに来たかったんだけど、時間がなくて」手首の時計を見つめながら、俺はふと思い出した。周平がSNSに自慢げに投稿していた腕時計のことを。清実が贈ったもので、値段は100万円。清実はいつだって、周平にだけは気前がよかった。滑稽極まりないと思いながらも、俺は「ありがとう」とだけ返した。もうすぐこの街を出る。彼女の顔を見なくて済む日も、もう目の前だった。夜、周平のマンションに着いて中に入ると、玄関には、青とピンクのペアのスリッパが並んでいた。清実は迷いなく、ピンクの方を履いた。俺の視線に気づき、慌ててスリッパを脱いだ。「私に用意してくれたものだと思って、間違えて履いちゃった」俺は何も言わず、別の新品のスリッパに履き替えて中へ入った。周平の部屋は綺麗で、内装を新しくしたばかりのように見えた。「陸さん、いらっしゃい。ご自由に見ていってください。今年に入ってから買ったばかりなんです。そうそう、先輩も一緒に選んでくれたんですよ。3000万円を現金一括で払いました」周平がキッチンから出てきながら、何気なく言った。清実の顔色が
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第5話
「ああ、ちょっと旅行に行こうと思ってな」俺はとっさに嘘をついた。これまでにも何度か、この街を出ようと考えたことはあった。だがそのたびに、俺は清実にそのことを話していた。清実に話してしまえば、結局俺は出て行けなくなった。彼女が引き止めるからだ。正直、理由がわからなかった。とっくに他の男と関係を持っている彼女にとって、俺がいなくなった方が都合がいいはずなのに。清実は俺の言葉を聞いても、まだ腑に落ちない様子だった。「でも、部屋を手配するって言ってたじゃない」「ただの打ち間違いだろ。ホテルを予約するって意味だったんだと思う。すぐ戻るよ」彼女はほっとしたようだった。「そう。いつ発つの?」「明日だ」「まあまあ、まずは食べましょう。今日は陸さんの誕生日祝いをやり直す日なんですから」周平がふたりの会話に割り込んできた。……食事を終えたあと、俺は清実と一緒に家に帰った。帰り道、彼女はずっと、それとなく俺の様子をうかがっていた。「本当に怒ってないよね?周平は、私が指導している後輩ってだけ。普段からよくしてくれるから、少し親しくなっただけだから」「怒ってない。いい後輩を持てて良かったな」そう言うと、俺は目を閉じた。眠ったふりをするためだ。もうこれ以上、彼女と話したくなかった。彼女がひと言発するたびに吐き気がした。抑えきれない嫌悪感がうっかり顔に出てしまいそうで、それが怖かったのだ。家に着くと、清実は寝室へ、俺は風呂へと向かった。「陸、すぐ戻ってくるって言ってなかった?なのになんでこんなに荷物が多いの?それに、テーブルの上の指輪、なんで外してあるの?」清実の声が、風呂場の扉の向こうから聞こえてきた。扉を挟んで、俺は一瞬固まった。しまった。まとめた荷物と、外した指輪をそのままにしていたことを忘れていた。「ああ、向こうは寒いかもって思って、多めに持っていくことにしたんだ。指輪は……最近、指の調子が悪くて外してただけ」「ふうん……そう」彼女が立ち去る気配がして、俺は息をついた。スマホを取り出し、上司に返信した。アメリカには行かない、代わりにイギリスの支社に行きたいと伝えた。清実にアメリカ行きを知られてしまった以上、もうそこには行きたくなかった。上司からはすぐに、それでいいという返事
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第6話
だが、もう俺のことを愛していないんじゃなかったのか?「清実、俺はお前と別れる。もう、この関係を続けていくつもりはない」その言葉を口にした瞬間、体がすっと軽くなった気がした。7年間一緒にいて、幸せだったのは最初の2年だけだった。残りの5年間、彼女の心はずっとどこか別の場所にあった。それでも俺は、何も言わずに耐え続けてきた。言わなければ、この関係はいつまでも保てると思っていたからだ。だが俺は忘れていた。一度変質してしまった愛情は、やがて関係そのものを少しずつ崩していくのだと。「私と、別れるの?」清実は信じられないという顔で俺を見つめた。その綺麗な目が、大きく見開かれている。「ああ、お前と別れる」「陸、今の言葉を取り消すなら、今回だけは聞かなかったことにしてあげる」「お前と別れる」俺はもう一度、はっきりとその言葉を繰り返した。パンッと鋭い音が響き、彼女が思い切り俺の頬を叩いた。怒りのあまり、彼女の胸が激しく上下していた。「陸、ここで何を騒いでるの?今まで甘やかされすぎて、調子に乗ったんじゃないの?私は何も間違ったことはしてない。なのに、どうしてあんたから別れを切り出されなきゃいけないの?」衝撃で顔が横に向き、じんわりと熱い痛みが広がった。何も間違ったことをしていない?一瞬、聞き間違えたのかと思った。そんな台詞を、よくも堂々と口にできるものだ。この5年間、彼女が俺に対して重ねてきた裏切りの数々を、俺はひとつ残らず覚えている。5年間ずっと我慢してきた。もう、限界だった。「自分は悪くないと思うなら、そう思ってればいい。どのみち、俺はお前と別れる」冷たく言い放つと、スーツケースを引いてその場を立ち去ろうとした。彼女が俺の手を掴んだ。「行かせない。ちゃんと私が納得できるように説明してから……」言い終わる前に、着信音が彼女の言葉を遮った。テーブルの上のスマホが震え続けている。画面に浮かぶ名前は、【周平くん♡】だった。吐き気がこみ上げてきた。彼女は動揺した様子で慌ててスマホを手に取り、通話音量を下げながら電話に出た。電話の向こうで何を言われたのかはわからないが、彼女はひと言だけ答えた。「すぐ行く」電話を切ると、彼女は苛立った目で俺を睨んだ。「もうあんたと言い争
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第7話
「頷いてくれるなら、一生大切にする。死ぬまで愛し続けるから」なのに今、彼女は別の男に同じ言葉をかけている。「死ぬまで愛し続ける」と。結局、誓いの言葉なんて、口にしたその瞬間だけが本物なのだろう。現地に到着すると、会社のスタッフがわざわざ出迎えに来てくれていて、住まいの手配も済ませてくれていた。シャワーを浴び終えて休もうとしていたところに、清実から電話がかかってきた。その声は、怒りで震えていた。「陸、あんた、私を騙したのね!結局、行ってしまったじゃない!別れるなんて、私は認めてない。それなのに、どうして勝手に出て行ったの?」「出て行かないなんて約束はしてない。だから、騙したことにはならない」彼女に怒鳴られるのはもう慣れきっていたので、俺の態度は冷静なままだった。「それと別れの件だが、お前が納得してもしなくても、俺たちはもう終わってるんだ。お前はとっくに他の男と浮気してるじゃないか。周平とのこと、俺が知らないとでも思ってたのか」「あんた……」彼女は言葉を失った。俺は冷ややかに笑った。「じゃあな。俺たちの7年は、ここで終わりだ」電話を切ると、そのまま彼女をブロックした。SNSのアカウントも含めて、すべてだ。そして倒れ込むようにして眠りについた。ようやく心から休めると思った。もう清実を中心に生活を回す必要もない。毎日食事を作って届ける必要も、洗濯をしてやる必要も、彼女の裏切りに耐える必要もなくなった。愛がなくなれば、こんなにも身軽になれるものなのか。俺は今、身をもってそれを実感していた。目を覚ますと、浩から動画が送られてきていた。バーで清実が飲んでいるのを見かけたのだという。動画の中では、清実が周平にもたれかかり、何人かの友人たちと話し込んでいた。「清実、陸が海外に行ったって聞いたけど、マジ?」清実はまるで気にしていない様子で答えた。「本当よ」「笑っちゃう。もう二度と戻らないとか言ってたらしいけど、あの人のことなら私が一番わかってる。あの人は、あんなに私のことを愛してるんだから、私から離れられるわけないって。どうせ、何日もしないうちに戻ってくるでしょ」それを見終えて、俺は改めて思った。本当に、もう二度と戻る気はない。……数日休んだあと、俺は正式に業務を開始した。会社か
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第8話
清実の口調が、少しだけ柔らかくなった。「あんたが怒ってる理由、分かってる。誕生日に、周平へあの腕時計を贈ったことでしょ。あれは、普段から仕事を手伝ってもらってるお礼よ。少しくらいいいものを贈ってあげてもいいと思っただけ。あんたにコンビニのギフト券しか送らなかったのは、私たち、もう長い付き合いじゃない?今さら高価なもので気持ちを確かめ合う必要もないでしょ。気持ちさえ伝われば、それで十分だと思ったの。それに、カップルなんだから、どっちのお金も、結局はふたりのものでしょ。わざわざあなたのために高いものを買っても、同じことじゃない」大したものだと思った。結局、話を聞いているうちに、悪いのはいつの間にか俺ということにされていた。だが彼女は忘れているらしい。そもそも、これまで俺たちがお金を「ふたりのもの」として扱ったことなど、ただの一度もなかった。機嫌がいい時だけ、俺にプレゼントを買ったり、家の生活用品を少し買ったりする。機嫌が悪ければ、何ひとつ買ってくれない。それどころか以前、彼女は婚前の財産契約まで持ち出してきたことがある。彼女は平然とこう言った。「将来、いつかあんたに私が捨てられるかもしれないでしょ?自分を守る方法だって、ちゃんと考えておかないと」「清実、俺を本当に馬鹿だとでも思ってるのか?」俺は冷ややかな声で聞き返した。「その話はもういい。それより、これまでのことはどう説明するつもりだ。お前が周平にマンションの費用を出してやったこと、高級時計を贈ったこと、それにラブホへ行ったこともだ。しかも俺の誕生日に、お前は周平と一緒にいた。俺が何も知らないとでも、本当に思っていたのか?」電話の向こうが、ふいに静まり返った。彼女の息遣いだけが耳に届く。そろそろ通話を切ろうとしたところで、彼女がようやく口を開いた。「……全部、知ってたのね。ごめんなさい、ちゃんと説明させて。周平とのことは、あの日私がすごく酔っていて、それで……」「もういい。それ以上は言うな。俺に説明する必要もない。どんな理由があろうと、俺はもう二度とお前を許さない。俺は、自分の目で見たものしか信じない」「待って、お願いだから聞いて……!」彼女の声には、悲しげな響きが滲んでいた。「お願い。だったら、欲しがってた車を買ってあげる。今すぐ手配
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第9話
「あいつが投稿したSNSの動画や写真、俺は最初から全部見てるんだよ」俺の言葉に、清実の顔が一瞬にして青ざめた。実は昨日、浩から電話があり、清実が周平から「陸は金のことで不満を持って出て行った」と聞かされていたことを教えてくれた。それを鵜呑みにした彼女が、あの電話をかけてきたというわけだ。つまり彼女は、俺が周平のSNS投稿をとっくに見ていたという事実を、今この瞬間まで知らなかったのだ。俺はポケットからスマホを取り出し、保存していた周平の投稿画面を清実の目の前に突きつけた。彼女はいくつか目を通すと、表情をこわばらせた。「私……これには訳が……ほんの一時の気の迷いだったって言ったら、信じてくれる?」俺は思わず吹き出しそうになった。「人前では立派な『清実先生』も、ずいぶん滑稽な一面があるんだな。自分の心に聞いてみろよ。今口にしたその言い訳を、自分自身で本気で信じてるのか?清実、浮気はどこまでいっても浮気だ。素直に認めればいい。俺はもう、お前と周平の邪魔をするつもりはない」「陸……ごめんなさい」彼女の目から、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。「私が悪かったわ。周平とのことは、ただの火遊びだったの。本気で好きだったわけじゃないの!私の心の中にいるのは、昔からずっとあんただけなのよ。これからは心を入れ替える。もう二度と、ほかの男と個人的に関わったりしない。だから、お願い、私を許してくれない?」俺は静かに告げた。「清実、お前はギャンブルに溺れた人間が、本気で悔い改めるところを見たことがあるか?あいつらが後悔するのは、いつだって賭け方や、勝負の仕方を間違えたことだけだ。賭け事に手を出したこと自体を、心から悔いたりはしない。お前もそれと同じだ。自分の犯した過ちに向き合う気なんて、これっぽっちもない。ただ言葉巧みに俺を騙して連れ戻し、都合のいい予備として手元に置いておきたいだけだろう」清実はもう言い返す言葉もなく、何度も口を開きかけたが、結局何ひとつ声に出すことができなかった。その夜、俺はSNSのアカウントでライブ配信を始めた。フォロワーたちが、俺の顔を見てみたいと言っていたからだ。配信を始めた途端、視聴者数はあっという間に10万人にまで跳ね上がった。コメント欄には、「かっこいい」という言葉が次々と流れていた。
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第10話
「清実、お前が医者になるために必死で努力していた頃のこと、覚えてるか?」俺の突然の問いに、彼女は一瞬、言葉を失って目を瞬かせた。俺はかすかに笑った。「俺が好きだったのは、あの頃のお前だよ」あの頃の彼女は、一本の野草のようだった。どれほど風雨にさらされても、決して倒れることはなかった。生活のために必死で仕事を探し、勉強にも懸命に打ち込んでいた。何度大きな壁にぶつかっても、諦めることなく立ち向かい続けていた。毎日疲れて帰ってきても、俺の顔を見ると目を輝かせて今日あったことを話してくれた。あの頃の俺たちは、心から幸せだった。「あの頃のお前は、どこまでも粘り強く、潔い人間だった。でも今のお前は、すっかり汚れてしまった。今の俺には、もうお前を愛せない。お前はずっと『許してくれ』と言ってくるが、俺がこれまでお前に何度チャンスを与えてきたか、自分でわかってるのか?」彼女の瞳が、驚きでわずかに揺れた。「……どういう意味よ?」「5年前、お前はすでに浮気を始めていただろ。あの時の相手は、周平じゃなかったけれどな」俺は胸の中にしまっていた昔の記憶を思い出しながら、ゆっくりと語った。「その後も、お前は相手を何人も替えながら、裏で関係を続けてきた。俺は全部知っていたんだよ。でも、ただの一度もお前を問い詰めたりはしなかった。いつかお前自身が過ちに気づいて変わってくれると信じていたし、俺が優しく接し続ければ、お前も罪悪感を覚えて、もう二度と裏切らなくなるだろうと思ってたからな。でも、俺は間違っていた。お前の裏切りは収まるどころか、ますますエスカレートしていっただけだった。だから、もうこれ以上、俺に許しを求めるな。お前に与えられるチャンスは、とっくの昔にすべて与えた。それを自分で無駄にし、台無しにしたのはお前自身だ」それを聞いた清実は、膝から崩れ落ちるようにその場にへたり込み、両手で顔を覆って激しく泣き出した。「あんたに……本当にひどいことをした……私が全部悪いの……私が、汚くて、最低な人間だった……!」「ああ、確かにお前は最低な女だ。そうじゃなきゃ、恋人がいるのに何人もの男と浮気したりしない」その冷たい言葉に、彼女はハッと顔を上げ、愕然とした表情で俺を見つめた。「あんた……昔は、私のことそんな風に最低だなんて、一
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