تسجيل الدخول夏海は探るように態度を少し軟化させた。さっきの言葉が通用したらしく、誠は何か思うところがあるような顔をして、夏海に言った。「明日の朝一で、彼女に連絡してもらえるか?」夏海は急いで言った。「会社もここから急になくなるなんてありえないでしょ?私は明日もここで仕事してるんだから、私があなたに会うのを避けるかもしれないと心配するなら、朝までさっきみたいに待っていたっていいでしょ」彼女は言い終わると、タクシーが通りがかったのを見て、誠の返事を待たずにタクシーを止めてドアを開き中に乗り込んだ。家に帰る途中、夏海は少し不安だった。誠は見た目からしてかなり怪しい。しかし、彼が本当に一花を困らせに来たのだとしたら、堂々と西園寺グループ本社に現れる必要はないだろう。夏海はあれこれと考えを巡らしだすと、寝付けなかった。五時過ぎまで寝返りをうち、しっかり寝ることができなかった。彼女はもう諦めてお湯をためて風呂にでも入ろうと思った。しかしその時、玄関を激しく叩く音が聞こえてきた。その音に夏海は驚き、急いで誰が来たのか確認しに行った。彼女は引っ越してから、玄関の外には監視カメラを取り付けていたのだ。今後、陸斗か和香の手下などが騒ぎに来ても、監視カメラで証拠が残せる。しかし、来た人物を確認すると彼女は呆然としてしまった。そこにいたの鳥宮誠だった。彼はどうやってここを探し出したのだ?まさかストーキングしていたのだろうか?夏海が寝室に携帯を取り行って通報しようとしたところに、誠の声が響いた。「もうすぐ朝になるだろう。西園寺さんに連絡してもらっていいか?」「あ、あんたね!どうやって私の家が分かったのよ。このストーカー野郎!」夏海はまだ恐怖でドキドキしていたが、思わず彼に返事してしまった。「俺はストーカーなんかしてない。ただあんたのポケットに発信機を入れておいただけだ」淡々と軽い口調でいう誠は、まるでそれが何も問題ない行為だと言わんばかりだった。彼は一晩中、夏海の家の前にいた。夏海が起きたらすぐに一花に連絡してもらおうと思っていて、さっき家の中から足音が聞こえてきたので、すぐにノックしたのだ。夏海はその言葉を聞いた瞬間に顔を歪めた。この男……彼女は今度は返事をせず、すぐに寝室に戻った。警察
もし元々体格がよくなかったら、とっくにM国で命を落としただろう。誠は体が少し回復すると、すぐに柊馬の捜索に向かった。誠は柊馬を連れ去ったのは「青空」のメンバーだと思っていたのだが、数日あちこち調べてみて、他にも多くの人がM国で彼の行方を探していることを知った。誠も追手の「青空」のメンバーと一戦交えた。彼もそれを利用して、柊馬の消息を相手から聞き出そうとしたが、相手は全く手がかりを掴めていなかった。「青空」を除いて、柊馬を救いだせる人間は、誠と似たような状況にある人物か、柊馬にはM国に他の友人がいたということになる。もし、見知らぬ人が助けたのだとしたら、誠だけほうっておいて、柊馬だけ助けるのはおかしい。誠は状況をまとめ、分析した結果、大きな確率で、柊馬は知り合いに助け出されたのだと結論を出した。しかし、その人物の動機は謎だ。なぜなら誠はM国で柊馬にまつわる情報やニュースを見つけ出せていないからだ。それでも柊馬を連れ出したのは「青空」とは無関係の人物だと言える。だから彼は安全なはずだ。それに、すでに南関市に戻ってきている可能性もある。そこまで考え、誠は自分の安全を確保するのと、さらに他の情報を手に入れるために、まずは南関に戻ることに決めた。しかし、彼は如何なる連絡手段も持っていなかったので、一花たちの連絡先が分かないし、それにM国で彼らに連絡しようとすれば、不必要な面倒を招くことになるかもしれないと考えた。それで、その身に残っていた貴重品を旅費に変えた。「あの、はっきりと教えてくれないと困ります。今はあなたのほうから私にお願いしている立場ですよ。もし、あなたが一花さんとどういう関係なのかはっきり教えてくれずに、あなたが悪者だったらどうします?どうしてそんな相手に一花さんと連絡をとってあげられるっていうんですか?」夏海は少し可笑しかった。「だったら、逆に俺のほうはどうやって、あんたと西園寺さんの関係が良いと信じればいいんだ?」誠は淡々とそう言った。彼は全く感情の起伏のない声でそう言ったが、夏海は言葉を失いかけた。「あんた……」「余計なことはどうでもいい。あんたは西園寺さんの電話を知っているだろう?今すぐ彼女に電話してくれ、俺から話す」誠は夏海に話す隙も与えず、はっきりとそう言った。夏海
心の問題には、やはり心に効く「薬」が必要だ。柊馬が今これほどまでの苦痛に耐えているのは、全て西園寺一花というあの女性のためだと、優紀はよく分かった。優紀はドアの前で三十分も立っていた。その間、柊馬は医者から少し休憩してほしいと言われるのを無視していた。全身は汗でびっしょりになっているが、それでもひと時も止まらずリハビリに励んでいる。優紀は使用人にその場を任せ、自分は背を向けて去っていった。……深夜の西園寺グループ本社ビル。この時、夏海が残業を終えて、エレベーターを出ると、ロビーの隅に人影が見えた。この時間、オフィスビルには一人も残っていないはずだ。こんなところで誰かが待っているわけがない。夏海は思わずその人影のほうへ視線を移すと、どうもその姿には見覚えがある気がした。彼女が受付に戻ってみると、当直の社員が暇そうに携帯を見ていた。「ねえ、あの人は誰ですか?こんな遅くにお客様?」夏海の声に、すぐに当直の社員はハッとした。彼は目を細めてそちらに目を向けた。「私もよく分かりません。彼は午後に来て、ずっとあそこに座っているんです。どうも西園寺社長に会いにきたらしいんですが、今社長は不在だと伝えたのに、あそこから動こうとしなくて。このまま帰らないなら、セキュリティを呼びます」一花に会いにきたと聞き、夏海はさらに気になった。夏海はその男のほうへ歩いていった。距離が近づいていくほどに、彼女は確かにその男には見覚えがあるとはっきり分かった。……それは以前、あの携帯ショップで昂輝の携帯を選んだ時に会った男だ!「あなたですか?」夏海はその男の隣に来ると、低い声で尋ねた。誠は顔をあげて夏海を見た時、少し分かっていないような顔をしていたので、夏海がすぐにこう言った。「覚えていませんか?この間、携帯ショップで私が見ていた携帯を買った……」「ああ、君か」誠はその言葉で思い出し、眉をひそめた。「君はここの社員だったのか?」彼はすぐに立ち上がった。彼は非常にだらしない格好をしていた。着古したカーキ色の上着に、ズボンも埃まみれだった。ライトの下で、彼の顔には多くの細かい傷跡が見えた。それに髭も剃っておらず、あの携帯ショップで見た健康的な彼のイメージとは、かなり違っている。「ええ……ここで
一花が言うと、湊はすぐに彼女が伝えたい意味を理解した。「奥様、あの女の言葉を信じてはいけません!きっと作り上げたものでしょう。簡単に騙されてはダメです!」「じゃあ、あなたも彼は戻ってくるはずはないって思ってるのね?」一花の一言に、湊は言葉を詰まらせた。彼女は下を向いた。今座っている椅子は、昔柊馬がよく座っていた場所だ。窓の外はすでに暗くなっている。寂しげにしている一花の肩が徐々にその闇に包まれていく。それでも、この時の彼女はここ数日で一番落ち着いた様子だった。「私は……」湊はなかなか言葉が出てこなかった。彼は無意識に、柊馬はすでにこの世にはいないものだと思っていたのだ。あのバスが爆発したと聞いた瞬間、柊馬は二度と帰ってこないだろうと思っていた。そして一花も自分と同じように考えていると思った。一花がM国にいる徹にずっと柊馬の情報を探してもらっているのは、自分をただ慰め、心の拠り所にするためにしているのだと思ったのだ。そうすれば、暫くの間、苦しみや絶望から逃れられる。「私は彼が生きてると信じているわ。あの女の話が全て本当ではないにしても、柊馬が生きているということに関しては、本当だと思うの」一花の頭も、とても混乱していた。和香に柊馬の話題を出された時には、冷静でいられなかった。だから、彼女は今やっと冷静に考えてから決心した。理性的な判断ができないのであれば、自分の心に従うまでだ。和香が、捨て身の覚悟で挑んできたのだ。一花のほうはそれを受けて立たない理由はないだろう。「奥様、それではあまりにも衝動的すぎるのでは……」「彼が生きていることは他の何よりも重要なの」一花は湊にはうるさく言われたくなく、彼の言葉を遮ってからまた言った。「私名義の資産はとても多いから、すぐには整理できないはず。ゆっくりまとめてもらえばいいから。それから契約書も、何かあったときのために、何パターンか用意しておいてくれる?」一花がそう言うと、湊は一瞬呆然としたが、すぐに我に返って全てを理解した。彼はやる気を出した顔になり、ニヤリと笑った。「かしこまりました!」和香が最も執着しているのが、匠の遺産だ。これらの遺産を譲渡するにしても、かなりの時間がかかる。時間こそが、今の一花にとって唯
しかし今、亮は「青空」を率いている。和香も完全に白川家とは決裂してしまったし、匠に対する情もなくなっている。だから、ようやく二人は一緒になれる。それが、二人が会った時、和香はまだ西園寺グループにこだわり続けていた。亮もまさか彼女が諦めないとは思っていなかった。和香はいくら亮に止められても、南関市に戻り、引き続き一花と争うと、意見を変えることはなかった。亮は彼女がどんな野心を持っても支えられるつもりだというのに、どうして今でも彼女はまだ西園寺グループに執着しているのか、この時亮はようやくわかってきた。和香は別にどうしても西園寺グループを手に入れたいわけではない。ただ、彼女の匠に対する恨みが深く、どうしても勝負がつくまで、食い下がりたいわけだ。たとえ自らの命を犠牲にしたとしても、和香は止まるつもりはなかった。亮はそんな彼女を止めることは不可能だと判断し、柊馬がまだ生きているという情報を和香に教えた。それにより、一花の弱点をつこうという策だ。「青空」の人間はひたすら柊馬の行方を追っていた。柊馬の生死が確実に分かるまで……そしてやっと数日前に、柊馬と誠の消息が掴めた。和香は突然口を閉じ、ただ一花を冷たい目で睨んだ。一花は彼女の意図を読み取り、すぐに口を開いた。「みんな出て行って、私と彼女、二人っきりで話し合いたいから」湊は何か言おうと口を開いたが、一花が目配せで彼を制止し、そして、和香の見張りを担当する警察官に近づき、何かを短くささやいた。相手も安心できなかったが、一花の顔を立て、二人っきりの時間を五分だけ与えた。みんなが去ると、一花はすぐに引き続き和香に詰問し始めた。一花は和香の言葉など一切信用していないが、柊馬の情報であれば、嘘だったとしても、それを無視することはできない。和香は一花の我慢できない様子を観察しながら、バスの中の出来事を生き生きと語りだした。そして一花が泣きそうになった瞬間、話を止めた。和香は話し終わっていなかったが、その言葉の端々から柊馬は彼らの手中にあるのだと一花に暗示するものだった。今、彼は満身創痍。生きてはいるが、明日はどうなるのか分からない状況だ。「……口ではどうにでも語られるでしょう。それをどうやって証明するつもり?」一花はどうにか自分の気持ちを抑え
一花が明らかに自分を恨んでいるのを見て、和香は得意になった。彼女は言った。「一花さん、実際私の要求はシンプルなのよ。私が裏で手を引いていただなんて馬鹿げた告発は取り下げて、西園寺グループの実権と匠の遺産を私に譲ってくれればいいの。そうすればあなたとは平和的に和解し、私たちがもう衝突することなんてなくなるの」一花はその言葉に、笑い声を漏らした。「ねえ、あなた頭でもおかしくなった?」この場にいる全員が一花が我を忘れた行動を起こすのではないかと警戒していた。警察でさえも、相手の挑発に乗って冷静さを失ってはいけないと諭してきた。全員が和香の罪を証明する証拠が不足しているが、極悪人を使ったことはほぼ事実だと思っている。M国のほうが協力してくれさえすれば、その罪は遅かれ早かれ確定するだろう。「伊集院柊馬さんは大丈夫?」突然、和香は小声でそう尋ねた。その言葉に、全員に緊張が走った。ただ唯一、一花だけが、素早く和香に飛びかかった。一花は手を伸ばして和香の襟を掴み、引っ張った。「あんたに彼の名前を口にする資格はない!」湊は慌てて反応し、和香の付き人が一花を引き剥がした瞬間、一花を庇うように前に出た。警察はただ低い声で注意した。「西園寺一花さん、手を出さないように」すると一花は力を込めて和香の襟を引き、和香の首がきつく絞まった。それでも一花は手の力を緩めようとしなかった。周りの人も一花になかなか手を出すことができずにいた。和香は冷たく笑った。「夫婦といっても、森の中に住まう鳥と同じようなものよ、危険が近づいた時には別々に飛んで逃げていくでしょ?それにしても、あなたたち夫婦はそれほど深い絆で結ばれているというのに、どうしてバス事故の時に、あなたは彼とともにいなかったの?」「またふざけた言葉を吐き出してごらんなさい、今すぐ口がきけなくしてやるから」一花も嘲笑した。彼女は和香の耳元に近づき、かなり落ち着いた低い声を出した。しかし、まったく冗談で言った言葉ではなかった。和香は背筋が凍るような思いがした。彼女はもちろん一花が冗談でそう言ったわけではないと分かっている。それに、別に一花を怒らせるためにこうやって来たわけではない。「口がきけなくなったら、彼の行方をあなたに伝えることができなくなるけど?」







