LOGIN結婚して2年、水瀬一花(みなせ いちか)は婚姻届受理証明書を発行してもらいに役所に行ってはじめて、夫から受け取り大切にしていた証明書が偽物だということを知った…… 夫の黒崎慶(くろさき けい)に、どういうわけか問い詰めに行ったが、6年間、自分を愛し大事にしてくれていたはずの男は、自分より6歳年上の大学時代の指導教員とすでに結婚5年目だという事実が発覚した。 一花はこの二人にうまく利用されていただけでなく、子供が生めない女だという理由からその二人の子供まで養子に迎えていた。 真実にぞっとした一花は、相続関連を任せている弁護士に電話をかけた。「未婚で子供はいません。全ての財産は私一人が相続します」 そして一花は黒崎家から離れることを決意する。しかし、慶は彼女には頼れる存在がなく、必ず自分のところに戻ってくると高を括り、悠長に構えていた。 しかしそれがある日、世間の注目を集める結婚のニュースに一花が登場したのだった。 一花はこの時、巨万の富を手にし、圧倒的な権力を持つ男と肩を並べてスポットライトの下に立ち、全国民から羨望の眼差しを向けられていた。
View More車を止め、勇はドアを開けてまた一花に言った。「車に乗ってください」一花は少し迷って、やはり乗ることにした。この日、自分を助けてくれた人物が国内トップクラスの財閥家である伊集院家であると、勇から聞いて知ることになった。伊集院家は、金融、テクノロジー、そしてエネルギー分野を中心にビジネスを展開している。国内の経済を牛耳る巨大財閥であり、「一国に匹敵するほどの財力を持つ」と言っても過言ではない。現在伊集院家の後継者は、28歳という若さの伊集院柊馬である。彼はその力で一族の事業を新たな高みへと押し上げ、ビジネス界では最も影響力を持つ若きリーダーだと認められている。昨晩、一花の祖父に当たる幸雄が伊集院家から電話をもらい、政略結婚の話を持ち出されたのである。そして彼らが選んだのが一花だった。勇は、伊集院家と親戚関係になりたいと考える名家は数えきれないほど存在し、もちろん西園寺家もその中の一つであると一花に教えた。そして、勇自身も柊馬の祖父である伊集院和彦(いじゅういん かずひこ)の指示で一花を探しに来ていた。「つまり、伊集院家は西園寺家よりも格上ということですか?」一花はあまり勇からあれこれ聞くのが面倒で、直接そう尋ねた。勇はそれに答えた。「比べることはできませんね。しかし、どうしても比べろと言われたら、西園寺家は南関で最も資産を持つ一族で、ビジネス界では首位にあります。しかし、伊集院家のほうは、国内において誰一人として頭の上がらない存在です」「その、伊集院柊馬って……どのような方なんですか?」一花はまた尋ねた。「伊集院柊馬は海外ではかなり有名な方です。国内ではあまり表舞台に現れないので、謎に包まれた存在、とでも言いましょうか。私自身、彼に会ったことはないのです。ただ、噂によると……」勇は鼻を擦った。彼は一花にこの政略結婚の説得にやって来たのだが、何か話そうとして少し思いとどまっていた。「噂によると?」「噂だと彼は……人付き合いにおいては、あまり積極的に交流される方ではないようですね」勇は事実を述べているが、かなりオブラートに包んで言っておいた。もし、柊馬がただ人付き合いが難しいだけの人間であれば、伊集院家は彼と政略結婚しようとする人がすでに殺到し、家の中はごった返しているだろう。「あまり積極的に交流されな
「西園寺家にですか?」一花はまた強調して尋ねた。「ええ、西園寺家でございます。これからは一花様のお家でございます」それを聞いて一花は一瞬黙ってしまった。西園寺匠は一花の実の父親だ。兆を超える遺産がまるで棚から牡丹餅のように一花のもとへ降ってきた。そして遅かれ早かれ西園寺家に戻る運命なのだ。隠れもできないし、隠れる必要すらない事実だった。一花は首を傾げた。「それもいいですね。私の家なわけだから、いつかは行ってみるべき場所なのだし」それが遅いか早いかだけの違いだ。そしてその途中、古谷が簡潔に西園寺家の現状について説明した。西園寺家が展開している事業は広範囲に及んでいる。そのほとんどの資産は匠に帰属している。残り一部分の資産は匠の父親、つまり一花の祖父と、匠の兄のもとにある。そして今、その匠の莫大な遺産が一花の手の中にあるということだ。つまり、一花は西園寺グループの筆頭株主となった。現在、祖父にあたる西園寺幸雄(さいおんじ ゆきお)は海外で療養中だ。それで西園寺家は今、匠の妻である和香(わか)が一族の管理をし、会社は養子である西園寺陸斗(さいおんじ りくと)が責任者として率いている。一時間後、ロールスロイスファントムが西園寺家の本宅に到着した。300坪を超える庭は見る者を圧倒する雰囲気だった。門を入って屋敷に到着するまで、車でも十数分かかった。西園寺邸の建物は普通の豪邸と比べても雄大で壮観だった。足元の石畳ひとつ取っても相当な価値がありそうなくらいだ。一花は生まれて初めてここまで贅沢に金を使って造られた豪華絢爛な場所に来て、緊張しないと言えば嘘になる。しかし、できるだけ平静を装っていた。彼女は古谷の案内で本館の応接間へとやって来た。重々しい雰囲気の扉をメイドが開けると、全面ガラス窓の前には優雅で高貴そうな人影が現れた。貴婦人の傍には二人の付き人が立っていて、ソファにはスーツに革靴の若い男性の姿があった。一花が現れると、その女性は軽く一花に視線を走らせ、近づいてきた。この時、古谷が小声で一花に、目の前にいる女性は西園寺匠の妻である西園寺和香であると紹介した。そしてソファに腰掛けているのは、匠と和香の養子である一花の名義上の兄、西園寺陸斗だ。和香が視線を上げると、古谷が他の使用人を連れて部屋を離れた。そし
一花が車に乗り込もうとしているのを見て、慶は気持ちを切り替え、一緒に行こうとした。この時間帯には、二人はいつも一緒に出勤する。「あなたは秘書に送ってもらって。私は不動産屋さんと約束して部屋を見に行くの」慶はそれを聞いて一瞬、訝しげにしていた。「だけど、今日は会社で重要な……」「この物件はとても人気があるの。だから、今日行かないと誰かに取られちゃうわ」一花は直接彼の言葉を切り捨てた。「あなたいつも言ってるじゃない。仕事が終わらなくても、ある程度のところで終わりにしないとキリがない、たまには自分を甘やしてやれってね」一花は淡々とした口調で言っていて、感情を表には出さずに微笑んでいた。しかし、その微笑みに、慶ななぜだか背筋がひやっとしてしまった。すると彼はすぐに口角を上げた。「分かった。じゃあ、俺も今日は会社を休んで君と一緒に家を見に行くよ」「その必要はないわよ」一花は輝くような笑顔を見せ、振り返って、指で軽く彼の胸元を突っついた。「一人で選びたいの。選んでからあなたに見せに連れて行くから」一花はもちろんこの時の慶の目論見が分かっていた。彼は別に彼女に付き添いたいわけではなく、見張っていたいだけだ。慶に任せてしまい、夫婦の名義で家を購入することになれば、そこは彼と綾芽のものになってしまう。一花が甘えるような口調で話すものだから、慶は突然ゾクッとして彼女の手をぎゅっと握りしめた。「お楽しみってこと?」「そうよ」その瞬間、一花の口元はこわばり、すぐに手を引っ込めた。「そうか、じゃ、君の言う通りにするよ」と慶は声のトーンを低くし、軽く彼女の肩を抱いた。それを避けることができず、一花はただ気持ち悪いのを堪えるしかなかった。そして一花が車でその場を去ると、慶の表情からスッと笑顔が消えた。彼はどうも一花が少しいつもと違うように感じていた。それとも、女性は敏感な生き物だから、何かに気づいて彼と綾芽の仲に嫉妬したのかとも考えていた。慶はネクタイを整え、ソワソワする気持ちを抑えようとした。一花に気持ちを持って行かれるわけにはいかなかった。いくら一花が魅力的な女性で、心から自分のことを想っていてくれたとしても……妻は綾芽、ただ一人なのだから。それから一時間後、一花は全面ガラス窓から、オフィ
一花はすぐには避け切れず、そのままジュースをかぶってしまった。その音を聞いて、使用人たちがすぐに一花のもとに駆け寄ってきた。「颯太!」すると颯太は血相を変えた慶に怒られたことに驚き、脱兎のごとく二階へと駆けあがっていってしまった。慶が追いかけようとしたが、それを綾芽が立ち上がって引き留めた。「慶君、まだ子供なんだから、力で脅すような教育をしようとしても駄目よ。私が様子を見に行ってみるわ」彼女はそう言い終わると、体にかかったジュースを拭き取っている一花へ視線をちらりと向けて、何か言いたげにしていた。それで慶はようやく一花のほうへと意識を向けた。「大丈夫だったか?見せてみて」一花はこの時すでに拭き終わっていて、慶の手が彼女の顔のほうへ近づいてくると「汚いから、触らないで!」と咄嗟にそう口に出した。しかし慶は一花の言葉の意味を理解していなかった。「ジュースくらいで俺が嫌がるわけないだろう?ただ君のことが心配なんだよ。颯太がこんなにわがままだったなんて、知っていれば君に世話を任せるべきじゃなかった」一花は軽く口角を上げて、皮肉交じりに言った。「そうね。もし実の母親が世話をしていたなら、私なんかよりもずっと立派に世話していたでしょうね。だけど残念ね、彼の母親は亡くなってるんだもの。養子を育ててる母親代わりの私では、本当にどうやって世話をしたらいいのか分からないわ」それを聞いた慶は一瞬たじろぎ、顔をこわばらせた。「何を言っているんだ、颯太は俺たちが養子として迎えた子だぞ。彼には一花という良い母親しかいないよ」そう言い終わると、彼は愛おしそうに一花の頭を優しく撫でた。一花は警戒しておらず、それを避けることができなかったため、触られた瞬間に気持ち悪くて体を硬直させた。部屋に戻ると一花はすぐにシャワーを浴びた。すると慶も彼女に続いてすぐにやって来た。彼は綾芽を滞在させる件で相談したかったのだ。相談と言えば聞こえは良いが、彼が自分の意見など全く聞かないことくらい一花は分かっていた。あの二人は本物の夫婦で、一花はただ偽の肩書きを持っているだけなのだ。「今会社は上場する前の大事な時期だし、颯太には誰か世話をしてくれる人が必要だ。それに会社は君を必要としているんだよ。柏木先生は子供教育のスペシャリストだ。君も見た