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「陽介さんは怖くない」絶賛アピール実施中《3》

Author: 砂原雑音
last update Last Updated: 2025-06-03 20:53:30

「そう言ってくださると嬉しいです。同じものにします?」

「うん、まずはそれー!」

二人は随分と柔らかい雰囲気で会話をしていて、そのことに少々面食らう。

翔子が一人で「無神経にべらべらしゃべってごめん」と謝りに来た、というのは慎さんから聞いていた。

だけどまさか、こんな打ち解けた雰囲気になっているとは予測していなかった。

……やべえ。

なんかすげえ、居心地が悪い。

俺のオアシスのはずが。

そろりと視線を外して、佑さんへ目を向けると、にたあっと意地の悪い顔でほくそ笑んでいた。

「今日あたり、アカリちゃんも来るんじゃね?」

やめてくれ!!!!

「え、誰々、アカリちゃんって」

「陽介の合コン相手で、元彼女志願者」

「ちょっ! 誤解を招く言い方しないでくださいよ」

「全く誤解じゃねーだろそのままだろ」

アカリちゃんはアカリちゃんで、微妙に何考えてんのかわかりにくいし、そこに翔子も加わったらと思うと、ぞっとする。

慎さんだって、本当はどう思っているんだろう。

接客だから涼しい顔をしているだけ、じゃないんだろうか。

わかんねー。

ハラハラするけど、こんな事態になったのは誰のせいだ俺の所為か。

「うっわ、サイテー。合コン相手連れて来るとかする? そんな無神経とは思わなかった」

「……うるさい」

無神経の代表格みたいな奴に言われた!と言い返してやろうと思ったが、慎さんの前で余り絡みたくもなく、顔を背けて佑さんの方へ向ける。

これ以上絡むくらいなら、佑さんの嫌味笑いでも見ている方がマシだ。

「可愛い人ですよ。大事なお客様ですし。どうぞ」

と、慎さんの声がして、コトとグラスが置かれた音も聞こえる。

「それより、例の彼とはその後どうなりました?」

「あっ! そうそう聞いてよう! せっかくのクリスマスなのに、仕事だってデートもしてくれないんだよー!」

多分、わざと逸らしてくれたんだろう。

しかし逸れた先で、なんかついさっきどこかで聞いたような愚痴に思わず酒を吹きそうになった。

その後、暫く翔子の愚痴に付き合っていた慎さんだったが、ちらほらと他の客も見え始め佑さんも慎さんも、俺や翔子にだけ構ってるわけにもいかなくなり。

「ねえねえ陽ちゃん」

「なんだよ話かけんな頼むから」

「そんな神崎さんに気使わなくてもいいじゃない、つまんない」

「いや、普通つかうだろ……」

そんな拗ねた顔は今の彼氏に向け
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