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貴女が涙を呑んだ理由《6》

Author: 砂原雑音
last update Huling Na-update: 2025-07-13 10:00:25

「そうや、篤くんと連絡とっとん?」

真琴さんの顔から一瞬表情が消えたのは、食べ終えた雑煮の椀を集めながら真衣さんがそう言った時だった。

「いや。もうずっと取ってない、かな」

「そうなん? 高校まであんなに仲良かったくせに」

「そうでもないよ」

口元にもう一度笑みは浮かんだものの、湯呑を撫でる手が少し忙しなくなって、最後にはテーブルの下に隠してしまった。

それを見て、篤というのが例の幼馴染のことなのだとすぐに悟った。

「しょっちゅう遊んでたやん! 篤くんなあ、デキ婚らしいよ!」

「は……、デキ、婚?」 

「そう! びっくりやろ。昨日から帰ってきてんのよ。後で顔見に行っといで」

今度こそ取り繕う余裕もない様子で、真琴さんの血の気が下がるのを見た。

「いや、いい。どうせ二月に会うし」

「そんなん式の日なんてそれほど喋られへんやん?」

「今日は、夕方の新幹線には乗らなあかんし、ええって」

辛うじて、口許だけは笑って断る言葉を探していた。

ぎゅっと膝の上で握られるその手に、誰にも気づかれないように重ねると、すぐに手のひらを上向けて握り返してくる。

「ええっ? あんたらそんなすぐ帰んの?」

「あーっ、すんません! 俺の方に予定があって!」

俺がそう言うと、真琴さんが顔を上げてこちらに視線を向けるのが目の端に見えた。

「そうなん? てっきり泊まっていくもんやと思って真琴の部屋掃除しといたのに」

「すんません、真琴さんも一緒に約束してたもんで。今度はもっと、ゆっくり時間作ります」

「急やったもんなあ、仕方ないけど」

「あ、でも! 真琴さんの部屋は見てから帰りたいっす!」

ぎゅうっといつにない強

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