LOGIN夫の突然の韓国出張に違和感を覚えた美月は、国内ホテルの利用履歴から嘘を見抜く。 SNSで助けを求めながら証拠を集めた先で、浮気相手が実の妹だと知る。裏切りを暴き、離婚と制裁を経て、自分の人生と新しい愛を取り戻す物語。
View More家の鍵を開けると、陽翔が先に靴を脱いだ。片方を裏返したまま、眠いと言う。私が鞄を置く間に、蓮司が玄関へ入ってきた。「その袋、食卓に置いてもらえますか」「はい。上着は、先に掛けてきますね」廊下で別れの挨拶をしないまま、彼が家の奥へ進んだ。私は息子の靴を揃えてから、そのあとに続いた。陽翔の着替えを手伝い、歯を磨かせる。式で頑張っていたぶん、眠気も一度に来たらしい。横になると、今日の料理の話を途中までして、目を閉じた。しばらく隣に座ってから、私はそっと離れた。食卓には、持ち帰った荷物が寄せてあった。蓮司は湯を沸かし、棚の前でこちらを見た。「カップは、これで合っていますか」「はい。私も飲みたいです」ふたつ出してもらい、私は荷物を片づけた。飾りを入れた小箱は、すぐにしまえなかった。蓋を開けて、今日、髪につけていたものをもう一度見た。「疲れましたか」蓮司がカップを置いた。「少し。でも、寝るのがもったいなくて」「僕もです」彼が隣へ座った。湯気の向こうで目が合う。式のときより近い距離なのに、急に何を話せばいいのか分からなくなった。今日あったことなら、いくらでも話せる。それより先にしたいことがあった。「少し、寄りかかってもいいで
翌週末、控室の扉を開けると、蓮司が窓のそばで待っていた。私に気づき、手にしていた進行表を椅子へ置く。私は部屋へ一歩入り、裾を踏まないように足元を確かめてから、彼を見た。「どうですか」少し早口になってしまった。蓮司は私の顔から肩へ、白いドレスの裾へと視線を移した。それから、もう一度目を合わせた。「きれいです。思っていたより、ずっと」言ってから、彼も困ったように笑った。「練習してきたことが、全部飛びました」「練習してくれたんですか」「何も言わなかったら気になると、言われたので」覚えていてくれた。私が欲しかった言葉を、義務だから用意したようには聞こえなかった。彼はまだ、少し照れた顔で私を見ている。頬が熱くなった。ちゃんと見てほしくてここに立ったのに、今度は目をそらしたくなる。「蓮司さんも、素敵です」濃い色の上着を着て、いつもより少し背筋を伸ばした彼が、すぐ目の前にいた。「僕は、何を言われても平気だと思っていました」「平気じゃないんですか」「今、少し困っています」声を立てて笑うと、彼の肩も緩んだ。私から近づいて、差し出された手に指を重ねた。いつもの手だった。それが嬉しくて、指の間を少し詰めた。 
翌朝、陽翔を園へ送ってから、私は最初の章を開いた。書き直した方がいいと思いながら、触れずにいた段落があった。何をすべきだったかを、今の自分から過去の自分へ言い聞かせている。読んだ人まで、同じようにしなければと思うかもしれない。その段落を、あの日、自分が実際に見たものと、できなかったことから書き直した。正しい結論を先に置くより、時間がかかった。昼近くになって読み返すと、ようやく、迷っていた自分がそこにいた。その先の一文を、今度は自分で書きたいと思えた。…… 原稿を書き、担当者に読んでもらい、また直す。既存の記事を使う範囲と書籍の契約条件も確認し、納得してから契約した。名義は連載と同じものにした。家族の写真や、暮らす場所を知らせる内容は載せなかった。週4日の仕事を続けながら書くと、予定どおりには進まない週もあった。できたところまで送り、次の期限を相談した。母と会長には、その間に結婚することを伝えた。母は少し目を潤ませてから、どんな日にしたいのかと聞いた。会長も、蓮司の話を聞いたあと、私へ同じことを尋ねた。私は、近い人たちと落ち着いて祝いたいと答えた。誰にどう説明すれば認めてもらえるかではなく、ふたりがどう過ごしたいかを話せた。校正の戻しを終える頃には、式の日も決まっていた。
日曜日の朝、私は陽翔の隣へ座った。「少し、ママの話を聞いてもらってもいい?」息子は描いていた絵から顔を上げた。私は使っていない色鉛筆を端へ寄せ、ふたりの間を空けた。「ママ、蓮司さんと結婚して、一緒に暮らしたいと思っているんだ」陽翔はすぐには何も言わなかった。手に持った青い鉛筆を、絵の上で一度転がす。嬉しいと言ってくれたら、きっと私は安心する。でも、その言葉をもらうために話し始めたのではなかった。「れんじさん、きょうくるの?」「今日は、あとで来てもらおうと思ってる。一緒に住むのは、もう少し先だよ」「おとまり?」「泊まりに来る日だけじゃなくて、この家で一緒に暮らすようにしたいの。準備して、いつからか決めたら、ちゃんと話すね」その答えが、すぐに絵になるわけではないのだと思った。陽翔は首を少し傾けた。「パパは?」私は息子の方へ体を向け直した。「パパとは、今までみたいに会うための相談をするよ。蓮司さんと暮らすから、パパを好きじゃなくならないといけないわけではないよ」「ボール、またする?」「遊びたいことは、伝えようね。会う日は大人が相談して決めるから」息子は絵へ視線を戻した。すぐに笑ってくれたわけではなかった。それでも、気になることを私に聞いてくれた。私は、その問いへ答えるところから始められた。「分からないこ
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