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第111話
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元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第144話
「松村（まつむら）さん……」若い女性は戸惑いの色を浮かべた。「何見てんの？あんた、資産審査の手順ちゃんとわかってんの？もし何か問題が起きて、変な奴を中に入れたら、あんたその責任取れるの？」「私……手順はだいたい把握してます。研修のときに教わりました。もし審査の結果、この方のブラックカードに問題がなければ、その責任は私にはないはずです……」「ふん、仕事始めて日が浅いくせに、覚えは早いようね。でもね、一つ言っておくわ。この業界は目利きがすべてよ。どんな人がうちのサービスの対象になるのか、誰に金があって誰にないか、それぐらい見極められないようじゃ、時間の無駄ってもんよ」若い女性は唇をきゅっと結び、「ありがとうございます、松村さん。でも私はまだ新人で、まだ契約も取れていません。今は勉強の時期ですから、たくさん見て、たくさん練習して、時間を無駄にしても気にしません」そう言ってから、彼女は凛の方を向いた。「お客様、手順に従って、これからこちらのカードを確認させていただきます。問題がなければ、ご案内いたします」それから慎吾と敏子の方へ顔を向けて、にこやかに言った。「どうぞこちらでお掛けになって、お茶でも飲んでいてください。すぐに済みますので」慎吾は慌てて手を振った。「いやいや、そんな気を使わなくても……」彼の内心は、今にも心臓が飛び出しそうなほど動揺していた。凛はなぜ本気でやってるんだ？すぐにカード審査で正体がバレてしまう。早々に退散した方がましだ。多少馬鹿にされても、こんな意地を張る必要はない。敏子は慎吾より冷静に見えた。少なくとも、表面上は。彼女は静かに腰を下ろし、ゆっくりとお茶をひと口含んだ。ただ……茶碗を持つ手はずっと小さく震えていた。「お客様、こちらへどうぞ——」「はい」凛はうなずき、案内されてオフィスへと入っていった。「はっ……いい演技だわ。どこまで続けられるか見ものね！どうしようもないまで諦めないんだな……」……10分後——二人はオフィスから出てきた。「どうだった？やっぱりカードは偽物だったんでしょ？」あの女性スタッフはまだ入口に張り付いていて、どうやら今日は本気で凛に食ってかかるつもりらしい。しかし、二人は彼女の存在などなかったかのように無視した。「お客様、本当にご購入のご
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第143話
凛は高級不動産物件の見学には資産審査があることを知っていた。「ではVIP顧客にはどんなハードルがあるんですか？」「まず、臨市での不動産購入資格をお持ちであること。これが最低条件です。それから、口座に4億円以上の流動資産があるか、国内五大銀行のブラックカードを1枚以上所有していること。もちろん、それ以外にも資産を証明できる不動産の権利書などでも構いません」現金でも預金でもブラックカードでも、凛はどれも持っていた。どれを提示しようか迷っていると、慎吾が彼女の腕を掴み、そのまま外へ連れ出した。歩きながら小声で言った。「話がどんどん現実離れしてきてるぞ……4億の流動資産だって？ドラマじゃあるまいし」敏子もぽつりとつぶやいた。「小説だってこんな設定そうそう書かないわよ。ちょっと外に出てただけで、随分大胆になったわね」そう言ってスタッフの方に振り返り、申し訳なさそうに頭を下げた。「すみません、娘がふざけただけなんです。お仕事中にご迷惑をおかけして……」その様子を見た女性スタッフは、もう愛想を繕う気も失せたようで、あからさまに目を剥いた。「どこの田舎から来たんだか……別荘なんて買えるわけないくせに、セレブ気取り？冗談じゃないわ」敏子は言葉を失い、慎吾も顔を強ばらせた。とはいえ、こちらにも落ち度があった手前、強く言い返すこともできず、ひたすら謝るしかなかった。それを見たスタッフはますます勢いづいて言い放った。「別荘？あんたたちに買えるわけないでしょ。この辺の高層マンションのトイレ一つですら無理じゃない？最近ほんと、変な客ばっかり。正月早々、不愉快だわ」正月に働いてるだけでもうんざりなのに、大口の客かと思えば、来たのは貧乏人が三人組！最悪だわ。敏子が眉をひそめた。「確かにこちらにも非はありますけど、そんな言い方ってあります？一応、訪ねてきたお客なんですから……」「嫌なら最初から来なきゃいいでしょ？お客？あんたたちみたいなのが？購買力もないくせに、何見に来てんのよ。私の時間はタダじゃないの、無駄遣いしないでくれる？」凛は眉をひそめた。「どうして私たちが買えないって決めつけるの？言葉を選んで」「買えるって言えば買えることになるの？私だって大富豪ですって言ってやろうか？どうせ口先だけなんだから、何とでも言えるわよね」凛
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第142話
慎吾は意外そうに言った。「どうしてここに来たんだ？」凛が話そうとした時、販売センターのスタッフが笑顔で近づいてきた。「お客様、お部屋をご覧になりますか？当社は間取りが豊富で、ファーストホームでも住み替え用住宅でも、どちらもご要望にお応えできます」「まず見学させてください」凛は答えた。「こちらは当社の模型で、第3期の全体計画が非常に合理的であることがご覧いただけます。周辺にはスーパーマーケット、学校、病院があり、施設が非常に充実しています」凛は模型に視線を走らせた。「棟と棟の間隔が、少し詰まっているようですね」「仕方ありません、高層建築ですので、棟間距離がややコンパクトになります」「別荘エリアもあると聞きましたが？」真珠雅苑の全体計画は二種類の住宅で、一つは普通の分譲住宅――今、凛が見ている模型のエリア。もう一つは一戸建ての小さな別荘だった。「小」と付けるのは、その別荘が2階建てで、各階の面積はそれほど広くないが、前庭と裏庭が備わっているためだ。従来の「大別荘」の概念を捨て、人数の少ない家族向けに特化して設計されており、居住空間の需要を満たしつつも、広すぎて寂しいという印象はなく、真珠雅苑は臨市で人気のネット有名物件となっている。凛は前もってリサーチをしていたので——「湖畔別荘を見たいです」慎吾はガーデニングが好きで、家には大きな庭が必須だった。敏子は屋外で読書や創作をするのが好きなので、比較的静かな裏庭も必要で、できれば東屋があり、暇な時にお茶を楽しんで休めると理想だった。スタッフは凛が別荘を見たいと言い、しかも別荘エリアの名前を正確に言えたので、下調べをしてきたことをすぐに察した。彼女は素早く凛を一瞥した。すっぴんだが美しく、着ている服にブランド名は見えず、手にバッグも持っていない。見た目だけでは、すぐには購買力があるかどうか判断しにくい。とはいえ、あの顔はどう見ても貧乏そうには見えなかった。しかし……「凛、何を言っているんだ？」慎吾は慌てて娘を脇に引き寄せた。「模型を見るだけでいいだろう、別荘なんて見たら、本当に買う気があると誤解されるぞ！」「お父さん、このマンションどう思う？」と凛は聞いた。「いいんじゃない？同僚が何人もここの高層階を買ってるよ」ここは第二高校に近すぎて、自
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第141話
春美の顔色がさっと曇った。慎吾は言った。「そういえば、このモップ、さっきトイレ掃除に使ったばかりで、まだ洗ってないんだ。でもまあ、うちの和式トイレはそんなに汚くないし、大したことないよな。大友さんは気にしないよね？」気にするかっての！「ねえ、お父さん、もしかして忘れてない？」凛が口を挟んだ。「昨日の残り物、全部トイレに捨てたの。水は流したけど、なんか油っぽくてベタベタしてたよ……大友さん、もしかして体から残飯の匂いがしてたりして？」親子は交互に口を挟み、わざとらしく不快な言葉を並べた。春美の得意げだった顔は、瞬く間に真っ黒になった。「あ、あんたたち――」彼女は鼻をひくつかせ、本当に自分の体から凛が言ったような残飯の匂いがしてくるような気がした。「覚えてなさい！」そう言い残すと、彼女は足早に立ち去った。風呂！今すぐ風呂に入らなきゃ！その瞬間、凛は自分がモップを司る神になった気がした。娘の行動について、敏子は内心スッとしたものの、やはり手放しでは賛成できなかった。「……女の子なのに、すぐモップを振り回すなんて、みっともないわよ」「だってあの人、本当に嫌なんだもん……」凛は地面いっぱいに散らばった藤の花を見つめながら、胸を痛めた。慎吾は黙々と後片付けを始めた。「晴れたら、花棚をまた釘で打ち直して、庭の方に少し移動させよう」揉め事は少ないに越したことはない。どうせ大した問題でもないのだ。今日のような屈辱、自分はまだしも、敏子にはもう味わわせたくなかった。凛は少し黙ってから口を開いた。「お父さん、人ってさ、つけあがるものだって考えたことある？」春美が今日やったってことは、今後もまたやるってことだ。彼女自身が言ってたじゃない、一定の金額を超えなきゃ警察も動かないって。結局、誰もどうにもできない。慎吾は深くため息をついた。「でも、どうすりゃいいんだ？何十年も一緒に住んでる近所付き合いだよ。あの人がどんな性格か、一番わかってるのは俺だ。でもここに住んでる以上、顔を合わせないわけにはいかない。毎日口論してたら、周りにも悪い影響が出る」敏子もなだめるように言った。「もういいじゃない。あの人が騒ぐの、今に始まったことじゃないし、穏便に済ませようよ。こっちが大人になって、同じ土俵に立たないの」「じゃあ……」
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第140話
「こんな野蛮なこと、あなた以外に誰がやる？」普段は人を責めるような言葉を口にしない敏子が、明らかに怒りをあらわにしていた。「野蛮」という表現は、おそらく彼女にとって最大級の非難の言葉だっただろう。しかし春美にはまったく通じなかった。彼女は腰に手を当て、冷ややかに笑う。「野蛮？こんなのが野蛮だって？あんた、本当の野蛮ってものを見たことないんでしょ！」「……じゃあ、認めるのね？あなたがやったの！？」敏子は信じられないという顔で、思わず目を見開いた。すると、春美の目がわずかに光った。「口の利き方に気をつけなさいよ。私が何を認めたっていうの？証拠は？あんた、証拠持ってんの？それにね、仮に私がやったとして……だから何？警察でも呼んで逮捕させたら？法律じゃね、物を壊しても一定の金額以上じゃなきゃ立件されないの。こっちは法だって知ってんのよ」そのあまりに悪びれない態度に、敏子は怒りで顔を赤くし、息も荒くなった。それを見ていた慎吾が、すぐに彼女の前に立ちはだかり、彼女を庇った。「大友さん、あんまりにもひどすぎる！うちの藤の花は、そっちに迷惑かけたことなんて一度もない。俺たち、長年の隣人同士だろ？そこまでやる必要があるのか？」凛が周りを見回すと、庭中に藤の花が散らばり、両家の共有塀に近い花棚は折れ壊れて、今にも落ちそうになっていた。整然としていた庭は、いまや見る影もなく、まるで破壊の現場そのものだった。「迷惑かけたことなんて一度もないって？」春美は慎吾が口を挟んだのを見て、まるで火に油を注がれたように勢いづいた。袖をまくり、まさに一戦交える覚悟だ。「あなたの藤が、うちの野菜に日陰を作ってるの！だから育ちが悪いし、虫も湧く！これで迷惑かけたことなんて一度もないってって言えるわけ？」「それにこの棚よ！」春美は地面を指差した。「角が尖ってて、うちの窓に向いてるじゃないの。風水が悪くなって、家の運気まで下がってるのよ、これでも邪魔じゃないって！？」慎吾は呆れたように笑いながら言い返した。「まず言っておくけど、その空き地は共有スペースであって、野菜を育てていい場所じゃない。それに、その野菜畑のせいで、うちは夏になると蚊が大発生してるんだよ？だけど、うちは今まで一言も文句言わなかった。それからもう一つ、あの棚はうちの庭に立てたものだ。多少枝
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第139話
雨宮祖母は、出ていく息子の背中を睨みつけながら、怒りに任せて口汚く罵り始めた。「この親不孝者め！あの女狐にそそのかされて、親に逆らうようになったんだろう！私がひと言言えば、あんたは十言返してくる！どの言葉にも反抗の色がにじんでる！出て行け！もっと遠くへ行ってしまえ！あの女狐が産んだ小狐を連れて、二度と私を母だなんて思うんじゃないよ！」――敏子の公然たる反抗は、雨宮祖母にとってはまさしく面目丸つぶれの屈辱だった。この瞬間、彼女の中で敏子への嫌悪は頂点に達し、ついには慎吾への恨みすら混ざり始めていた。誰を嫁にもらうかって、よりによってこんな女！昔から言う通りだわ、嫁をもらったら母を忘れるって！親に逆らうやつなんて、みんな不孝者だ！……帰宅途中、慎吾は黙り込んでいた。敏子はそれを見て、そっと彼の手を握った。慎吾は顔を上げて彼女に笑いかけ、大丈夫だと示した。母親の偏愛には、もう何年も前から慣れていた。今日のような「気まずい別れ」も、一度や二度ではなかった。それでも以前なら、波風を立てたくなくて、黙ってやり過ごしていた。けれど——今回は娘が傷つけられた。その瞬間だけは、どんなに温厚な慎吾でも、もう我慢するわけにはいかなかった。家に戻ると、敏子は食事の支度を始めようとしたが、その手を、凛がふいにそっと押さえた。「……お母さん、私がやるよ」「あなたが？」以前、家にいた頃の凛は、料理なんて一切したことがなかった。食卓に並ぶ料理は、すべて慎吾が作って、彼女の目の前にそっと運んでいたのだ。「そうなの。今日は、私の手料理を味わってもらおうか」凛が胸を張って宣言すると——「台所を燃やさないようにね」沈んでいた気分もどこへやら、慎吾が思わず冗談めかして言った。「……私ってそんなに信用ないの？！」凛は悔しげに目を丸くする。すると、隣にいた両親が、揃って黙って頷いた。凛は絶句した。一時間後——食卓に並んだ料理の数々を見て、慎吾と敏子は、まるで何かとんでもないものを見たかのような顔をした。レバー炒め、トマトと牛肉の煮込み、チンジャオロース、酢豚、唐揚げ、ローストダックレッグ、さらに、あっさりした野菜炒めが二品と、豆腐のとろみスープまで。「こ、これ……全部あなたが作ったの……？」敏子がごくりと唾を飲み込ん
