Masuk夫と、夫の愛人の裏切りによって無実の罪で刑務所に入れられてしまった音羽。 刑務所で暴行を受け、救急搬送された事がきっかけで、夫との子供を妊娠していた事が発覚。 音羽を刑務所から出すと優しく告げた夫。 だが、暫く経っても音羽が刑務所から出る事は叶わない。当初の刑期が何故か伸びたのだ。 子供も夫と愛人に奪われ、実の母は死んだと言われる。 音羽にはもう戻る場所などないのだ、と酷い態度を取る夫。 夫は、音羽の筆跡を偽造し、勝手に離婚をしていた。 途方に暮れる音羽の前に現れたのは、どこか危険な香りを纏う男だった。 「表の世界に戻れないなら、俺と一緒に来ればいい」 表の世界で、輝かんばかりの日々を送る元夫と、愛人。 せいぜい表の世界でふんぞり返っていればいい。 私は、裏の世界からあなた達を引きずり落とす。 全てを知った元夫・樹は、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら懇願する。 「俺が全部悪かった。息子と一緒に戻ってきてくれないか」 音羽と音羽の息子は、裏の世界の男に抱きつくと冷たく告げた。 「私の夫はあなたじゃない。愛するこの人との子供がお腹にいるの」 「僕のお父さんはお前じゃない。格好よくて強いお父さんはここにいる!」
Lihat lebih banyak「──えっ」 「今、妊娠6週目らしい。つわりなどは無かったか?体が辛かったりしないか……?」 「ぜ、全然……気付かなくって……私のお腹に樹の赤ちゃんが……?」 全く気付いていなかったのだろう。 音羽は樹の言葉を聞いて呆然としていたが、次第にじわじわと頬が紅潮し、瞳が潤む。 「本当に……?本当に私と樹の赤ちゃんがいるの……?」 「ああ。間違いない。病院で検査をして、間違いなく妊娠しているそうだ」 「嬉しい……っ!」 「ああ、俺も嬉しいよ音羽。俺の子を妊娠してくれて、ありがとう……!」 樹は、音羽をそっと抱き起こし、自分の腕で抱き締める。 本当は思いっきり強く抱き締め、病室のベッドに押し倒してめちゃくちゃに抱いてしまいたい。 だが、音羽は受刑者に集団で暴行を受けて大怪我をしている。 腹の子が流れなかっただけでも奇跡だ。 「安心してくれ、音羽。音羽をこんな目に遭わせた奴を、思い知らせてやる」 「だ、大丈夫よ樹。私は、樹が私を信じてくれるだけで、とても嬉しい。樹と、この子のためにも私は絶対に屈しないわ。無実を訴え続けて、必ずあの場所から早く出るんだから」 「ああ、そうだな。この子のためにも、音羽には安心して綺麗で、清潔な家で過ごしてもらわないとな」 「あ……、でも樹、私……仕事に戻りたいわ。あなたの会社で、今まで通り仕事をしたいの……この子が大きくなったら無理だけど、それまでは会社に出社してもいいでしょう?」 「──ちゃんと、安定期に入るまでは駄目だぞ?医者からも働いて大丈夫だ、と言われてからじゃないと俺が絶対に許さない」 「ふふっ、樹は怖いお父様になりそうね」 「ああ。俺にとって大事なのは音羽と生まれてくる子供だけだからな」 音羽は、優しい目で見つめる樹にじわり、と胸が暖かくなる。 お腹を撫でてくれる樹の手が温かく、優しい。 じわじわと幸福感が胸に積もり、音羽はそっと樹に寄りかかった。 怪我の痛みが触ったのだろう。 音羽の顔色は悪くなり、痛みに顔を顰めている。 それに気が付いた樹は、慌てて音羽をベッドに戻した。 「すまない、音羽。医者から詳しい話を聞いてくる。すぐにまた戻ってくるからな。少し寝ているんだ」 「──うん、分かった樹。迷惑をかけてごめんね」 「大丈夫だ。迷惑をかけている、なんて思わないでくれ音羽」
病院内は、清潔で掃除が行き届いているのが良く分かり、樹はほっと胸を撫で下ろした。 (受刑者とは言え……玉櫛財閥の嫁だ。ぼろい病院じゃなくてまだ良かった。……だが) 樹は顎に手を添え、考える。 (この先の事を考えれば、音羽の刑期を短くさせて早く出した方がいいだろう。都内の大病院に入院させねば……) 考えながら歩いていると、あっという間に音羽が入院していると言う病室の前に着いた。 「玉櫛様、こちらです」 「──分かった。ひとまず妻と2人きりにしてくれ。話は後で聞きに行く」 「かしこまりました」 頭を下げ、去って行く院長や医師達。 その背中を数秒見つめた後、樹は特別室の扉をスライドして開け、中に入った。 「──音羽」 病室に入った途端、強い消毒液の匂いに樹は顔を顰めた。 音羽の細い腕には、点滴が繋がれ。 音羽のきめ細やかで滑らかな肌にはいくつもの青あざがある。 そして、樹の視線は真っ平らの音羽の腹に向かった。 「──無事で、良かった」 「……たつ、き?」 「音羽!」 音羽のか細い声が聞こえ、樹は慌てて音羽に駆け寄る。 痛みに震える音羽の手を、樹はぎゅっと優しく包み込む。 「嬉しい……こんな、遠くまで来てくれたの……?」 「ああ。勿論だろう?愛する妻が、大怪我をしたと聞いたんだ。駆け付けるのは当然だ」 「でも、お仕事忙しいんでしょう……?」 「いや、仕事はどうとでもなる。暫くはこっちで仕事をしてもいいしな。音羽が回復するまで、寄り添いたい」 「樹……」 樹の言葉を聞き、音羽の大きな瞳にはぶわり、と涙が溜まる。 「心配するな、音羽。すぐに出してやるから……」 「ありがとう……ありがとう、樹。本当に、私は何もやっていないの……それなのに、誰も信じてくれなくて……悔しい……っ」 「ああ。俺も音羽は無実だと信じているさ。もう少しだけ辛抱してくれ。必ず俺が音羽をあんな場所から出してやるから」 「──樹……んっ、う」 樹は、音羽の怪我に触らないよう、額に散らばっている髪の毛を優しく払い、そのまま音羽に口付ける。 優しく、だが次第に深くなる口付け。 音羽は痛みに喘ぎながら、それでも自分を求めてくれる樹に涙を零し、必死に口付けに答えた。 どれだけ口付けを交わしていただろうか。 音羽には数秒にも感じるし、数分間にも感じた
事が済み衣服を整えていると、樹の私用スマホが震えた。 樹が何の気なしにスマホの画面を確認する。 どこからか電話がかかってきたようで、樹はスマホを手に取り、電話を受けた。 「──もしもし?」 〈あっ、玉櫛 音羽さんの旦那さんですか?〉 「……ええ、音羽は私の妻ですが。そちらは……?」 〈私、──病院の者です。落ち着いて聞いてくださいね……。奥様ですが、その……暴行を受け、大怪我を……その際に全身の検査を行ったのですが──〉 電話を受けていた樹の顔色が、見る見るうちに変わる。 秘書の裕衣は、じっと樹を見つめていた。 裕衣の拳は、ぎりぎりと握りしめられ、震えている。 「分かりました。すぐに向かいます。妻は無事なんですね?」 〈はい。命に別状はございません〉 「良かった……数時間以内に到着するかと。ええ……はい、妻をよろしくお願いします」 樹は、そう言って電話を切ると、急いでシャツを羽織り、汚れたスラックスを履き替えた。 「樹……?奥さん……音羽さんに何かあったの……?」 裕衣は、心配そうに眉を下げて樹に話しかける。 樹はちらり、と裕衣に視線を向けたがすぐに逸らすと「ああ」とだけ頷いた。 「すぐに音羽の元に向かう。今日は戻らないから、仕事が一段落したら帰ってくれて構わない」 「い、家にも帰らないの!?」 「ああ。音羽は個室に入れるように手配した。今日は音羽に付き添うから帰らない」 「わ、私も音羽さんが心配だから一緒に行くわ……」 「いや、駄目だ。音羽は俺がお前を抱いているのを知っているんだ。……下手に刺激したくない」 そっけなく樹に告げられ、裕衣は取り付く島もない。 裕衣が樹に触れようと伸ばした腕は、足早に去る樹には届かず、樹は1度も裕衣を振り返る事なく社長室を後にしてしまった。 先程まで激しくお互いを求め合っていたのが嘘のように、あっさりと捨て置かれた裕衣は、悔しさに唇を噛み締めた。 情事の気配が色濃く残る社長室の中。 裕衣がのそのそと仕事に取り掛かり始めた頃。 会社のヘリポートに、ヘリがやって来た。 「──っ、まさか樹……音羽如きのためにヘリを手配したの……!?」 信じられない──。 裕衣は、悔しさに奥歯を噛み締める。 結局、樹にどれだけ抱かれても。 その行為が激しくても。 樹の妻の座には座れないのだ
「この性悪女が!」 「人まで焼き殺したらしい、とんでもない女だ!」 「私達も殺されるかもしれない!殺される前にやらないと!」 ガツン、ガツン、と女が頭を蹴られる。 髪の毛を掴まれ、壁に叩きつけられ、女は大きく咳き込んだ。 背中を強かに打ち、息が詰まった女は、そのまま意識を失い倒れ込んでしまった。 「──うわっ、気絶した……っ」 「やばい、本当に死んでないよね?」 「やり過ぎた……?」 「いや、でも痛めつけてくれって言われたし……」 「逃げよう。看守に見つかったら私達まで罰せられる!」 倒れた女はそのままに、女を囲って暴行していた数人の女達は蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出した。 そこに、騒ぎ声を聞き付けて興味本位にやって来た女がいる。 「──何だ?リンチかな?」 やってきた女は、わくわくそわそわとしたような顔をして、ひょこり、と壁から顔を覗かせた。 そして、目の前の光景に瞬間、目を見開く。 「お、おい!あんた!大丈夫かい!?」 慌てて駆けつける女の視界の先には、傷だらけで倒れている女──女性が、居た。 ◇ 女性刑務所。 関東から遠く離れた寒い土地にあるこの刑務所には、数多くの受刑者が服役していた。 そこで、救急搬送された女性が居た。 女性の傍には、女性刑務官と発見者の先程の40代くらいの女が、ストレッチャーで運ばれる女性に付き添っていた。 ストレッチャーで運ばれて行く女性は、年は20代半ば頃。 ほっそりとしなやかな手足に、きめ細かな肌。 化粧などしていないのに、美しい女性が救急車に搬送された。 その女性の名前は、玉櫛 音羽(たまくし おとは) 玉櫛財閥の御曹司、玉櫛 樹(たまくし たつき)の妻で、この刑務所に入所して数ヶ月。 音羽は、ずっと無実を訴えていた。 裁判でもずっと無実を訴えてはいたが、音羽の訴えはあっけなく退けられ、実刑判決を受けたのだ。 刑務所に入れられた後もずっと無実を訴えていたが、それは誰にも聞き入れられず。 そして、今日。 突然音羽はガラの悪いグループに呼び出され、集団で暴行を受けてしまったのだ。 頭の打ち所が悪く、気絶した音羽を見つけた同じ受刑者はすぐに看守に知らせ、こうして救急車が呼ばれ、搬送に至った。 「465番。発見し、教えてくれて感謝する。後は任せて、戻りなさい