Share

第558話

Author: 十一
陽一が必ず自分の側に立つと、凛は確信していた。

「あなたたちの鍵はもう渡したわ。私が持っているこの鍵は、絶対に渡せない」と凛は言った。

「なんでだよ?」

「バカね、鍵を渡したらCPRTを運び出す時どうするの?ドアをこじ開けて入るの?」

早苗はぱっと目を見開いた。「このCPRTって運べるの?!」

「もちろん。自分たちでお金を出して買ったものなのに、なぜ運べない?」

「そうそう、自分で買ったものなんだから、運びたければ運べばいいのよ」

「だから鍵は自分たちの手に持っていないと、行動する時に不便になる」

学而は口元をゆるめて言った。「上条先生があれこれ策を弄して僕たちを追い出そうとしたのは、やっぱりこの装置が目当てだったんだろうな。これであの人の思惑は外れるさ」

三人は荷物を運び出し、ドアを閉めて去った。

荷物といっても多くはなく、一人一つの段ボール箱だけだった。

その中で最も大きいのは早苗の箱で、中にはお菓子がぎっしり詰まっていた。

ポテトチップス、ナッツ、スパイシースナック、ビスケット、牛乳、炭酸水……

グラウンド脇を通りかかった時、サッカーボールが彼女めがけて飛んできた。避けようとして、彼女は思わず箱を放り投げてしまった。

幸い、ボールは腕をかすめて飛んでいったが、

箱の中身は地面にぶちまけられた。

早苗は無言で固まった。

凛と学而はすぐに箱を置き、手伝って拾おうとした。

しかし、その場で最も素早く動いたのは一だった。

彼は地面に散らばったお菓子を拾い集め、箱に戻し、そのまま抱き上げて早苗に手渡した。

「……あ、ありがとう」早苗は少し戸惑っていた。

親しい間柄でもないのに、

どうして突然、手伝ってくれたのか?

一の姿を見て、凛と学而は思わず視線を交わした。

凛は笑顔で一歩前に出た。「内藤先輩、ありがとう」

一は軽く笑い、「そんなに警戒しなくていい。追いかけてきたのは、彼らの肩を持つためじゃない」と言った。

凛は眉をつり上げた。「じゃあ、どういうつもり?」

一は数秒間沈黙し、ようやく口を開いた。「信じてもらえるかは別として、言わせてほしい。最初に君たちが実験室を申請した時、わざと場所を取ったわけじゃない。今回彼らと一緒に来たのも、からかうためじゃないんだ」

この点については、凛も意外ではなかった。

あの時対峙し
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 元カレのことを絶対に許さない雨宮さん   第568話

    「……だいたいそんなところよ」「チッ」時也は目を細め、危うい声を漏らした。「あの浪川、懲りてないな……」「え?」凛が問い返した。「別に。実験室の建設はどうなってる?」凛はそっと唇をかんだ。「何か困ってるのか?言ってみろ。手伝えることがあるかもしれない」時也が促した。凛はまさにこの一言を待っていた。「ある」絶対ある!もう山ほどある!――二分後。「……で、お前の困ってることって人手不足か?俺から人を借りたいって?」それも普通の建設作業員?凛は真剣な顔で言った。「それが何か問題でも?」時也は首を振った。「いや、ない」「じゃあ、さっきの顔は……?」「名刀は包丁として使われる時、その刀はどんな顔をすると思う?」「……」「人手が欲しいんだろ?三十人で足りるか?いや……四十人にしておくか?」凛と浩二は視線を交わした。これがお金持ちの世界か……特に浩二は目を輝かせ、何度も唾を飲み込んだ。先ほどの「チャラ男」という言葉は撤回しなければならない。ある「チャラ男」は社長であるだけでなく、簡単に数十人の作業員を差し出せるのだ。これは本当にすごい。時也は少し考え、最後に決めた。「直接、建設チームを二つつけよう」「!」浩二は衝撃を受けた。――これはもう親戚同然じゃないか!「問題ないだろう?」と時也が聞いた。雨宮兄妹はそろって首を振り、「ないない!」と答えた。……午後、時也は自ら凛を家まで送ると申し出た。浩二はにこにこと笑いながら言った。「ご迷惑じゃない?ここからならタクシーも便利だし……」時也はすでに作業服を脱ぎ、ヘルメットも外して、すっかりエリート社長の姿に戻っていた。真っ赤なフェラーリの横に立ち、「迷惑じゃないよ。ついでだし」と言う。全身から溢れ出すのは、まぎれもない富裕のオーラだった。浩二はその場に立ち尽くし、遠ざかる車のテールランプを見送りながら、思わずつぶやいた。――チャラ男じゃない。明らかに金のなる木だ!それでも兄として、彼はスマホを取り出し、凛にメッセージを送った。【気をつけて、着いたら連絡くれ】凛はスマホをしまい、思わず運転席の男を横目で見た。「スマホを置いたら俺を見るなんて?俺に関係あることか?」と時也が聞いた。凛は首を振

  • 元カレのことを絶対に許さない雨宮さん   第567話

    「凛、お前たち知り合いか?」と浩二が淡々と尋ねた。凛はすぐに頷いた。「知り合いよ」「もちろん!」時也も同時に口を開いた。二人の声が重なった。浩二は眉を吊り上げ、頭の先から足の先までじろじろと見回したが、見れば見るほど嫌悪感が募っていった。時也はそんな視線など気にも留めず、平然と椅子を引き、凛の隣に腰を下ろした。――見ておけ。これがお前のライバルだ。分をわきまえるなら、さっさと引き下がれ。浩二は鼻を鳴らした。「ふん」このチャラ男、なんて横柄なんだ……「凛、紹介してくれないか?」浩二は顎をしゃくって言った。「この人……どう見てもお前の知り合いには見えないが?」――「知り合いには見えない」ってどういう意味だ?!じゃあ俺は何に見えるんだ?時也はその一言を聞いた瞬間、相手が嫌味を言っていると悟った。ところが凛はなぜかあいつには甘く、本気で紹介しようとした。「そうだな凛、この人もお前の知り合いには見えそうにないし、ぜひ紹介してくれよ」時也はすかさず嫌味で応じた。浩二の表情が険しくなった。視線がぶつかり合う静寂の中、二人の男はすでに八百回の火花を散らした後のようだった。凛は眉をひそめた。明らかに火薬の匂いが漂っているのに、彼女には理由がわからなかった。初めて顔を合わせた二人の男に、どんな深い因縁があるというのか。猛獣同士みたいに睨み合う必要なんてある?「じゃあ、改めて二人を紹介するわ。こちらは瀬戸時也、私の友人で投資会社の社長。こっちは雨宮浩二、私の従兄で、今はスマートホーム会社を経営してるの。お二人とも、何か質問は?」「従兄?!」時也が声を上げた。「こいつが社長?!」浩二も驚いた。言い終えると、二人は顔を見合わせ、少し気まずい空気が流れた。「こほん!」時也が真っ先に反応し、茶碗を持ち上げた。「いや失礼、凛の従兄だとは知らず、目が利かなかった。無礼を詫びて、酒の代わりに茶で乾杯させてもらおう」浩二は彼の誠実な態度と率直な物言いに触れ、胸の中にあったわだかまりもすっかり消えていた。彼は茶碗を掲げて返礼した。「瀬戸社長、ご丁寧に」時也が問いかけた。「さっき凛から、浩二さんがスマートホームの事業をやっていると聞いたが」「そうだ。この業界にも詳しいのか?」「二社ほど投資

  • 元カレのことを絶対に許さない雨宮さん   第566話

    彼にこうして掴まれたまま?!しかもおとなしく頷いて「うん」と答えた。そしてそのまま連れて行かれてしまったのか?時也の目は赤く染まった。いや……あいつはいったい誰なんだ?普段なら、ほんの少し凛に触れただけで二歩も飛び退くのに、どうしてこの男には……結局のところ、さっき浩二と女将が交わした挨拶を、時也はまるで耳に入れていなかったのだ。「……瀬戸社長……瀬戸社長?!」視察に同行していたプロジェクトマネージャーが二度呼びかけても反応がなく、声を張り上げてさらに二度呼んだ。「なんだ?!」冷ややかな視線が突き刺さり、プロジェクトマネージャーは頭皮が痺れるようで、息苦しくなった。「お、お電話が鳴ってます」プロジェクトマネージャーはごくりと唾をのみ込み、慌てて汗を拭った。時也は無表情のまま携帯を取り出し、そのまま通話を切った。プロジェクトマネージャーの胸はぎくりと鳴り、さらに慌てふためいた。……その頃、浩二と凛はもう食事を始めていた。浩二が尋ねた。「味はどうだ?」凛はすぐに頷いた。「おいしい!」「女将は工事現場向けに料理してるからな。味もいいし、量も十分だ。ほら、肉をもっと食え」浩二は自分の肉を彼女の皿に移し、それからようやく食べ始めた。「お兄ちゃん、多すぎて食べきれないよ」「これくらい、全然平気だろう!お前はもう痩せすぎだ。もっと食べて大きくならないと」「……」凛にとって、兄の愛はすべて肉だった。浩二は思い出したように言った。「そういえばさっきの男、どう見てもろくでもないやつだ。女の子が外に出るときはもっと気をつけろよ。俺が口うるさいと思わないでくれ、万が一ってこともあるんだからな。悪人の顔に『悪人』って書いてあるわけじゃないんだから」今まさに、兄としての責任感が溢れていた。特に叔父夫婦が不在のこの状況では、兄は父のような存在であり、妹を守り導く責任があると感じていた。いわゆる「火事・泥棒・チャラ男にご用心」ってやつだ。一方、その「チャラ男リスト」に入れられているとは露ほども知らない時也は、食欲をなくし、目の前の香ばしい丼にも全く手が伸びなかった。心も視線も、少し離れた席で笑い合う二人に奪われていた。特に、男が自分の丼から料理をすくって凛の皿に移し、凛がそれを受け入れた

  • 元カレのことを絶対に許さない雨宮さん   第565話

    時也は眉をひそめ、いら立ちを隠さずに遮った。「結局、俺の言うことを聞くのか、それともお前の言うことを聞くのか?」男は首をすくめ、もう何も言えなくなった。聞き覚えのある声に、凛は思わずそちらを振り向いた。ちょうどその時、浩二が声をかけた。「凛、こっちに来て!」時也は勢いよく振り返った。二人の視線が合い、一瞬お互いに動きを止めた。先に我に返ったのは時也だった。驚きと喜びを湛えた目で笑みを浮かべ、立ち上がって彼女に歩み寄った。「どうしてここに?!」「工事現場を見に来たの」「工事現場なんて見てどうするんだ?」凛は言い返した。「私が工事現場を見ちゃダメなの?」「いや……お前はこの専門でもないし、これで稼いでるわけでもないだろ?何を見てるんだ?珍しいからか、それともただの冷やかしか?」凛は軽く咳払いして言った。「ここに私の土地があるの。家を建てようと思って。何か問題でも?」「ここに?土地がある?」時也は何かを思い出したように眉を動かした。「あの時、海斗がくれたやつか?」「それ、なんで知ってるの?!」凛は目を丸くした。時也は鼻で笑った。「お前とあいつのことなんて、俺が知らないことはない」海斗が土地を渡す前に彼の意見を求めてきたことがあった。時也はその譲渡契約書を見た瞬間、思わず眉をひそめた。海斗のけちな振る舞いに軽蔑を覚えると同時に、凛が長年あれほど尽くしてきたことが不憫で仕方なかった。共同で立ち上げた会社がいまや上場したというのに、共同創業者に渡したのは小切手一枚と土地一片だけ?まるで物乞いを追い払うみたいじゃないか。よくもそんなことを思いついたものだ。それを受け入れてきたのは凛だけだった。他の起業家なら、こんな不合理な利益分配に納得するはずがない。案の定、凛は最後にはそれを受け入れ、株を要求することさえなかった。時也がそれを知った時、嫉妬で目を赤くした。どうしてだ。どうして海斗のような屑に、こんな素晴らしい女性が巡り合うんだ。自分はほんの少し遅かった……ほんの少し!「……時也?時也?!」凛が二度呼んだ。「何考えてるの?呼んでも反応ないじゃない」「げほ……馬鹿な奴のことを思い出してた。大丈夫だ、続けてくれ」「だから、どうしてここに?」「俺?ここにリゾートの

  • 元カレのことを絶対に許さない雨宮さん   第564話

    これは遺伝の法則に反しているじゃないか。凛の問いかける口調には、浩二は自分の父・雨宮省吾の面影すら感じられた。この数年、彼女は帝都でどう過ごしてきたのだろう。順風満帆に育った子なら、自分の金で実験室を建てる度胸もなければ、あれほどの土地を手に入れて審査を難なく通すほどの人脈や手腕もないはずだ。凛の周りには、謎が尽きない。だが浩二にとって、その謎を解くことよりも彼女の境遇を思いやる気持ちの方が強かった。それでも彼は何一つ尋ねなかった。もしかすると、触れないことこそが彼女にとって一番の慰めになるのだろう。浩二は少し険しい顔つきになり、「確かに、予想より工事の進みが遅い」と言った。「原因は?見つかったの?」彼は苦笑して答えた。「人手が足りないんだ」「?」大きな経営判断の失敗かと思いきや、それだけ?浩二の会社は、もともと基礎土木工事はやめていた。そんな仕事は風雨にさらされるうえ、儲けにもならない。だからスマートホーム内装事業に専念すると決めた時点で、この分野はきっぱり切り捨てたのだ。ところが凛は、土木工事も一緒にやるようにとはっきり求めてきた。浩二には彼女の意図がよくわかっていた。どんな高層ビルも地盤があってこそ立つ、土木は最も基本となる部分だからだ。彼女が他人に任せるのを不安に思うのも当然だ。やるならやろう、経験がないわけじゃないし。浩二はすぐに以前の工事チームに連絡を取り、「20人ほどの人手がある、みんな勤勉で誠実な人たちだ。過去の経験から考えて、これで十分だと思っていた」当初の計画通り、基礎を深く打たないのであれば、この見積もりは正しかった。しかし浩二はより良いものを求め、図面を変更した。たった3センチの違いに見えても、実際の作業量はかなり増える。「……この変更で人手が足りなくなった」凛は考え込んでから尋ねた。「この問題は長期的なもの?それとも一時的?」一度の図面変更で工期が延びるのは問題ない。だが頻繁に変更して工期がどんどん伸びていくのは予定外だ。浩二が言った。「図面はこの後も調整が入るだろうと。今の人手では……対応しきれない」「分かった。じゃあもう2つ工事チームを追加する?」浩二は苦笑いを浮かべた。「工事チームが市場のもやしみたいに、欲しい時にすぐ手に入ると

  • 元カレのことを絶対に許さない雨宮さん   第563話

    「結構です!」凛はそのままカーペットに腰を下ろし、足を組んだ。「これで大丈夫です」柔らかい長毛のカーペットは、触れた瞬間に高級品だとわかる。座っても全く痛くなく、背中はベッドにそのままもたれることができた。もしここに……お菓子と飲み物があれば完璧なのに――そう思った瞬間、陽一がナッツやポテトチップス、さらにライムジュースを二本抱えて入ってきた。「!」先生は本当に自分のことをわかっている!陽一はお菓子を置くと、自分もカーペットに腰を下ろし、二人の背後にそれぞれ枕を置いた。こうして二人は、映像を見ながら、食べ、飲み、そして語り合った。そして……生放送が終わった。凛が時計を見ると、もうすぐ十一時。思わず目を見開いた。彼女はすぐに立ち上がり、帰る支度をした。陽一は彼女を玄関まで送り、ドアを開けて中に入るのを確認すると、ようやく自分の部屋へと戻っていった。ゴミを片付けているとき、ふと二人がもたれて使ったクッションが目に入った。自分の方は押しつぶされてへこんでいるのに対し、凛のは表面に皺が少しあるだけ。陽一はそれを手に取り、掌で皺を伸ばしてベッドに戻そうとした瞬間、かすかな香りが鼻をかすめ、動きを止めた。抑えきれない身体の反応に、彼は悔しげに小さく罵りを吐いた。初めて、自分が情けないと思った。だが、このどうしようもない状態を変えることはできなかった。彼はわかっていた。たとえ今はどうにか鎮めても、次に同じ状況に直面すれば、また身体は理性を裏切るだろうと。陽一は深く息を吸い込んだ――難しい。あまりにも難しい。かつて海外でP0級の課題に取り組んでいた頃でさえ、これほど苦しくはなかった。……隣の部屋で凛はシャワーを浴びると、そのままベッドに横になった。やがて深い眠りに落ちていく。自分がもたれた枕一つのせいで、誰かが寝返りを繰り返し、眠れぬ夜を過ごしていることなど、知る由もなかった。……土曜日、珍しく陽が差した。凛は授業がなかったので、工事現場まで足を運び、進捗状況を確認することにした。事前に知らせていなかったため、妹が現場に姿を見せると、凛は思わず驚いた。「どうしてここに?!」凛もまた同じく驚いた。目の前の浩二の姿は――彼が自ら声をかけてこなけ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status