Mag-log in加納心には、子供の頃から想い続けていた人がいる。 その想いがようやく成就し、婚約者になれた。 だが、その事を知った婚約者の幼馴染が、海外から帰国した。 心の婚約者、清水瞬は海外から帰国した幼馴染で初恋の人、柳麗奈を忘れられずにいた。 瞬は自分の婚約者である心を蔑ろにし、初恋の人麗奈ばかりを優先するようになる。 そんな時、心は瞬との間に子供を授かったと知る。 喜ぶ心に、瞬は心を傷付ける言葉を口にした。 失意に沈む心は、とある事故に巻き込まれてしまう。 その時、心を助けてくれたのは滝川涼真だった。 心と滝川は、顔見知りのようで… 沈む心を励ます滝川。 滝川の優しさによって、心は少しずつ前を向き始める──。
view more私が行きたい、と言っていた夜景が素敵なレストラン。
高層階にあるこの場所は、窓から見える夜景が有名で。
まるで星を散りばめられたような光景に私の目は釘付けになっていた。
目の前には、どこか緊張した面持ちの婚約者――清水 瞬(しみず しゅん)が座っている。
素敵な時間も、もう終盤。
あとは食後のデザートを残すのみ、となった頃。
緊張した面持ちのまま、瞬が口を開いた。
「心(こころ)」
「どうしたの、瞬?」
瞬が、緊張した面持ちのまま、小さな小箱を取り出した。
私の目は、それを視界に映した瞬間、驚きに目を見開く。
瞬はすぅっと息を吸い込むと、私を真っ直ぐに見つめたまま、言葉を紡ぐ。
髪の毛の隙間からちらりと覗く瞬の耳は、真っ赤に染まっていた。
「加納 心(かのう こころ)さん。俺はこれからもずっと君と一緒にいたい。結婚しよう」
「――瞬っ、嬉しいっ。もちろんよ、よろしくお願いします!」
私達が付き合って、5年。婚約を結んでから、2年。
今日は私達の記念日だった。
そんな記念日に、こうしてレストランでプロポーズを受けるなんて。私の視界は、涙で滲んでいく。
私たちの周りには、いつの間にか沢山のお客さんが集まり、拍手で祝福してくれた。
感動して泣き出す私を瞬が優しく抱きしめ、そっと唇にキスを落としてくれた。
◇
それなのに――。
「心、君の気持ちは十分伝わったよ。俺たち付き合おう」
そう、愛おし気に目を細めて言ってくれたのは、全部嘘だったのだろう。
今、私に向けられている瞬の目は、かつての温かさや優しさ、愛おしさ
なんか微塵も残っていなかった。
ただただ、煩わしそうに瞳が細められ、冷たい視線が注がれている。
「……何だその顔は?嫌そうな顔をするな。麗奈は今、帰国したばかりで大変なんだ」
瞬は、心底煩わしそうに私を一瞥し、すぐに顔を逸らしてしまう。
「何も、言ってないわ……行ってらっしゃい」
「最初から快く送り出しておけばいいものを……面倒な事をするなよ、心」
瞬はふん、と鼻を鳴らして私をひと睨みした後、冷たく背を向けて部屋を出て行ってしまう。
苛立ち混じりに力任せに閉められた扉の音が大きく響く。
私は一人、広い部屋にぽつりと残され、佇んでいた。
今日は、記念日だったのに。
テーブルの上には瞬の好物が沢山用意され、所狭しと並べられていた。
瞬はそれを一口も食べる事はせず、会社から帰るなり急いで麗奈のもとへ行ってしまった。
沢山の料理が並べられたテーブルの向こう、二人で撮った写真が写真立てに飾られ、楽しげに笑っていた。
もう、あの写真の中のように笑う瞬を、私はしばらく見ていない。
◇ 2回目の検診の日。 この日も涼真さんはお休みを取ってくれて、検診に一緒に来てくれた。 そして、この日。 前回と一緒の女性医師から、驚く事を告げられた。 「──ああ、やっぱり。前回も違和感があったのですが、確信しました」 「えっ?」 「心音が2つ確認できますね」 「──えっ!?」 「おめでとうございます、お子様は双子ですね。双子の妊娠です」 ◇ 「──ぅっ、うぅ……」 「心、心大丈夫か?」 「ごめんなさい、涼真さん……。涼真さん、明日もお仕事で早いのに……」 「気にしないでくれ。心が辛い時に1人のうのうと眠っていられない」 涼真さんは、私がつわりで辛い時もずっと傍に寄り添ってくれていて。 匂いが駄目でご飯が食べられない時は、私が食べられる物がないか、とスーパーに走ってくれて。 沢山のフルーツや、食べられそうな物を買ってきてくれた。 双子の妊娠は、私が考えていたよりも凄く大変で。 つわりも酷いし、体調の変化が出やすいし、お腹も凄く重くなる。 私の体調を心配してくれた涼真さんは、私の仕事を一時休職扱いにしてくれて。 私が家で1人になってしまわないよう、持田さんや間宮さん、それに母がしょっちゅう家にやって来てくれた。 以前会議終わりに倒れてしまい迷惑をかけてしまった帝都ホテルの専務取締役に涼真さんと一緒に後日妊娠を報告しに行くと、凄く喜んでくれて。 家族でいつでもホテルを利用してくれ、と言ってもらえた。 そして、やっぱり涼真さんは新築の家を建ててしまって。 私がお腹が大きくなる前に、新築の家が出来る前に賃貸のお家に移動した。 階段が少なく、私の移動しやすさを大前提に考えて見つけてくれた賃貸。 この子達が生まれる頃には、新築の家が出来上がるだろう、との事。 私の父は、初孫だと喜び、涼真さんのご両親と一緒になって色々とベビーグッズを競うように購入しているらしい。 ◇ 「──私の所に、また帰ってきてくれたのかな?」 「心?」 夜。 寝室で、ぽつりと呟いた私の声に涼真さんが反応する。 私は笑顔で涼真さんに向き直ると、言葉を続けた。 「以前、前の子を亡くしてしまったけど……。もしかしたら、一旦帰って、妹か弟を一緒に連れてきてくれたのかなって……ふと、そう思ったんです」 私の言いたい事を悟ったのだろう。
「な……、なんっ、本当、ですか……!?」 涼真さんの感極まったような声が部屋に零れる。 声も震えていて、涼真さんは自分の顔を手で覆っていた。 「ええ、間違いないですよ。まだ胎嚢が確認出来るくらいの小さな袋ですが……エコーで見てみますか?」 「ぜ、是非!」 女性医師の言葉に、涼真さんは即座に答える。 私と言えば、まだ現実味が全然なくて。 唖然としたまま、エコーの準備が着々と進められて行くのを眺めている事しか出来なかった。 実感がまだ湧いていない私に、涼真さんが目元を赤く染めたまま、私の手を握って声をかけてくれる。 「心、心ありがとう……。本当に嬉しい……」 「涼真さん……」 看護師さんに促され、ベッドに横になる。 お腹に機械を当てられ、モニターに白黒の映像が映し出された。 それを確認しながら女性医師は丁寧に説明してくれる。 「ここにある小さな丸い形、分かりますか?これが胎嚢、と呼ばれる赤ちゃんを包む袋です。これからどんどん赤ちゃんが成長していきますよ」 「……本当に、赤ちゃんが?」 「ええ。これからつわりも始まると思いますから、体調の変化には気をつけてくださいね」 「涼真さんとの、赤ちゃん……?」 モニターに映った胎嚢を見た瞬間、さっきまで湧いてこなかった実感がじわじわと湧き出てくる。 私のお腹には今、涼真さんとの赤ちゃんがいるんだ。 そう考えた瞬間、私の視界はぶわっと涙で滲んだ。 その間も、涼真さんは女性医師に色々と質問していて。 つわりが酷い時にはどうしたら、とか。 仕事は移動が多いから大丈夫か、とか。 どんな事を気をつければいいか、とか。 色々な事を聞いていたけど、私は次から次へと溢れてくる涙を拭うのに必死で。 看護師さんからティッシュを渡されて、私は早く泣き止まないと。そんな事ばかり考えていた。 病院での診察が終わり、涼真さんと診察室を出た私達は、車で家に帰ってきた。 「心、荷物は?これだけか?」 「りょ、涼真さん!バッグくらい自分で持てますから!」 「駄目だ、まだ妊娠初期なんだから安静にしないと」 涼真さんは私の荷物を渡してくれる事なく、車から降りる際もいつも以上に気を使ってくれた。 「家も階段があるから危ないな。寝室を1階に移動しよう。それに家に入る前の階段も危ない。新築で家を建てるか?」
◇ 「本日はありがとうございました」 「いやいや、こちらこそ!お2人に会えて良かったですよ。どうですかな、この後予定が入っていなければ」 帝都ホテル。 専務取締役の部屋で会議を終えた涼真さん。 涼真さんの後ろに付き従っていた私は秘書として徹底していたけど、専務取締役は私たちが婚約している事を知っていたのだろう。 涼真さんと私に向けて手でお猪口の形を作り、口元にそれを運んで見せた。 お酒の席へのお誘いだ。 この後、予定が無ければもちろんご一緒出来ていたけど──。 涼真さんは申し訳なさそうな表情を作ると、専務へ断りの言葉を告げた。 「有難いお誘いですが申し訳ございません、この後も会議が入っておりまして……」 「なんと……!それは残念……。また次の楽しみに取っておくとしましょう」 「ええ、次は是非」 「加納さんも、次は一緒に食事を楽しみましょう」 「ありがとうございます」 専務は私にも笑顔で話しかけてくれて、私も笑顔で言葉を返す。 エレベーターで下まで送ってくれる、と言う専務の言葉に甘え、3人で談笑しながらエレベーターに乗り込んだ。 「そう言えば、御社で来春発表の──」 「そこまでご存知ですか……!ええ、それはですね──」 ……? あれ、おかしいな。 涼真さんと専務の声が、遠くなるような気がする。 頭がぼうっとして、ぐらぐらとする。 いけない、このままだと体がふらついてしまいそうだ。 私は内頬を強く噛み締め、何とか意識を保っていた。 だけど、エレベーターが下に着いて2人がエレベーターから出るのを待つため、私はエレベーターの操作盤にさっと移動しようとした。 だけど──。 「──っ、」 「心!」 動いた瞬間、ぐわん、と私の頭が揺れた。 そして体からふっと力が抜けた感覚。 私の名前を焦って呼ぶ涼真さんの声。 驚いたような顔の専務──。 ああ、いけない。 取引先に迷惑をかけてしまう──。 そこまで考えた所で、私の意識はぶつり、と切れてしまった。 ◇ 次に目が覚めた時、私の視界に入って来たのは見慣れない天井だった。 「……?」 ぼうっとする頭で僅かに身動ぎをすると、すぐ側から涼真さんの焦ったような声が聞こえた。 「心!目が覚めたか!?」 「涼真さん……?ごめんなさい、私……」 急いで起き上がろう
あれから、半年。 私と涼真さんはあれから目が回るほど忙しい日々を過ごしていた。 婚約発表をして、これから涼真さんと甘い生活が待っているのかな、なんて考えていたけどそんな私の考えは甘かった。 「──心!午後の予定は!?」 「は、はいっ!午後は帝都ホテルの専務取締役との会議と、来春発売予定の新作発表パーティーの会議が……!」 「明日のスケジュールはどうなっている?」 「明日は天童寺様との会食です!私はデザイン部門へ向かい、研究室に1日籠る予定なので、明日は持田秘書が涼真さんに付きます!」 「分かった、生地研究は我が社にとって大事なプロジェクトではあるが、自分の体を第一に考えてくれよ?」 「はい、もちろんです!」 あの3人が逮捕された直後は、私も涼真さんも事情聴取で警察署に何度も足を運んだ。 事件の件が落ち着き、これから多少ゆっくりできる、と思ったけど涼真さんが新規事業として始めた衣料部門が大成功した。 そのため、通常業務に加えて衣料部門の仕事も増え、私も涼真さんも毎日忙しさに忙殺される毎日を過ごしていた。 持田さんと間宮さんが引っ越してしまってから大分経つけど、婚約前に考えていた甘い同棲生活なんて夢のまた夢で。 ここ最近は私も涼真さんも深夜遅い時間に帰宅してまるで泥のように眠る事の方が多い。 それに、最近では滝川グループ本社で行っていた事業提携も涼真さんに降りてくる事が増えた。 今日訪ねる予定の帝都ホテルの専務取締役との会議だって、ホテル事業を本社から引き継いだばかり。 私と涼真さんは会議に向かうために会社の駐車場に向かっていた。 「くそっ、爺さんも容赦なく仕事を下ろしてくるな……」 「ふふ……っ、涼真さんに期待しているからこそですよ」 「ああ。爺さんの口癖だろう?一家の大黒柱たるもの、馬車馬の如く働け。だったっけか?」 「ふふふっ、だけど涼真さんが忙しくなると、比例して私も忙しくなってしまうから、お爺様には少し手加減してもらわないとですね」 「ああ、本当に。今度爺さんに心からも言ってくれよ。心が疲れたって言ってくれれば爺さんも手加減してくれるかも。爺さんも孫の嫁に体調を崩されたら大変だろう?」 くつり、と喉奥で笑う涼真さん。 涼真さんの口から出た「嫁」と言う言葉に、私は顔を真っ赤にしてしまった。 「……そろそろ式の事
ふわり、と私の唇に重なる何か──。 何かなんて、確認しなくても分かる。 涼真さんに、キスされたのだ。 涼真さんが車内で寝ぼけていた時のような、事故じゃない。 しっかりと、涼真さんの意思で私にキスをしてくれた。 すぐに唇が離れて、私は閉じていた瞼をそっと持ち上げた。 すると、すぐ目の前に涼真さんの顔があって。 私は涼真さんとキスをしてしまったのだ、と言う実感がじわじわと溢れてきて。 顔が熱くなってきてしまう。 「……叩かなくて良かったのか?」 不安そうな涼真さんの声が耳に落ちて、私は真っ赤な顔のまま、こくりと頷いた。 その瞬間──。 今度は涼真さんに強く引き寄せられて
ふわり、と香った涼真さんの香水の匂い。 嗅ぎなれた、爽やかな涼真さんの香水。 だけど、その香りに混じって、知らない香水の香りが私の鼻腔を擽る。 「──っ」 一瞬で分かった。 この香水は、きっとあの愛海さんの香水だ。 愛海さんは、涼真さんに抱きついていた。だからきっと、涼真さんにその香りが移ったのだろう。 「離し、て……っ、離してください、涼真さんっ」 「無理だ。離したら、心は逃げるだろう……。そうしたら……」 取り返しのつかない事になりそうだ。 そう、痛々しげに呟く涼真さん。 悲しげな涼真さんの声に、私は折れてしまいそうになったけど、その瞬間にまたふわりと愛海さんの香
「さっきの女性は、花里 愛海(はなざと まなみ)。昔、滝川家と花里家は……確かに婚約を結んでいた事はある」 「そう、だったんですね……」 まさか、本当に涼真さんの婚約者だったなんて、と私は俯いてしまう。 だけど、私が俯いた事に気がついた涼真さんは、私の手を握って、そっとその手の甲に唇を落とした。 「だけど、それは子供の頃の話だ。俺が高校に上がる頃には……婚約は解消してる」 「えっ、そんなに前に!?」 「ああ。子供の頃の婚約の話も、ただ単に家同士の政略的な物だ。……必要がなくなったから、婚約も解消された。俺も、彼女に特別な感情は抱いていなかったしな」 「昔の……、でも、どうして
部屋に入るなり涼真さんはネクタイやベストを脱ぎ、部屋に備え付けられているゴミ箱に投げ捨ててしまう。 「心、悪いがシャワーを浴びてくる。少しだけ待っててくれ」 「わ、分かりました」 こくり、と頷いた私を見た涼真さんは、ほっとして表情を緩める。 私に手を伸ばそうとして、そこで涼真さんの手はぴたりと止まった。 香水の移り香を気にしてくれたのだろう。 「すぐ出てくる」 涼真さんは悔しそうに唇を噛み締めると、すぐに踵を返してシャワールームに消えた。 私は、部屋の中で一人。 涼真さんがシャワールームに入ってすぐにシャワーの音が聞こえて来た。 「……わ、私が嫌がったから、捨てちゃった
Rebyu