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第84話

Author: 雪吹(ふぶき)ルリ
彼は思い出した。彩が帰国したばかりの頃、ある本革のバッグを気に入った。彼は清に買いに行かせた。清はそのバッグを家に届けたが、それを真夕に見られてしまった。

真夕はとても嬉しそうにそのバッグを見つめ、目を細めて彼に微笑みながら言った。「このバッグ、本当に綺麗だね」

彼女はそのバッグがとても気に入ったようだった。

司は言った。「彼女は本革のバッグが好きなんだ」

和也は唇を釣り上げた。「バッグが好きなら簡単だな、どうも」

その時、辰巳が入ってきた。「兄貴、和也、二人ともここにいたんだな」

和也は辰巳を見た。「辰巳、池本家に遊びに行ったんじゃないのか?」

「そうだよ。それに池本真夕と彼女の養父にも会ったんだ。彼女、自分の養父を軽蔑して認めようともしなかったんだよ!」辰巳は池本家で起きたことを全部話した。

「和也。彼女に惚れるなんて、残念だったよ。あいつにはそんな価値がないさ。今こそ彼女の本性を見抜いたはずだろ。貧しい者を見下して、金持ちに媚びて、虚栄心の塊みたいな女だ!」

和也は眉をひそめ、司を見た。「司、真夕と養父のこと、どうなってるんだ?」

司は言った。「俺もよく知らない」

和也は言った。「辰巳。時には、目で見たものが真実とは限らないよ。俺は真夕がそんな人間だとは思わない。彼女とその養父の間にはきっと何か誤解があるんだ」

「嘘だろ、和也。こんな時でもまだ彼女を庇うのか?」辰巳は心から怒りがこみあげた。彼は和也がこの事を知っていれば、真夕から離れると思っていた。「和也、本当に彼女に心を奪われてるんだな。兄貴からも和也に忠告してあげてよ!」

司のその冷たい瞳はとても深く、何を考えているのか読み取れなかった。彼は何も言わなかった。

一方、真夕は堀田家の本家に戻った。堀田家の大奥様はソファに腰掛けながら、彼女を待っていた。「真夕、帰ってきたのね。正成、早くスープを持ってきて」

執事の正成はスープを持ってきて真夕に渡した。「奥様、大奥様が用意なさったものです。温かいうちにどうぞ」

真夕はソファに座り、にっこりと微笑んだ。「ありがとう、おばあさん」

大奥様は満面の笑みを浮かべた。「真夕、養父のところはちゃんと片付いたかい?明日、彼を夕食に招こうと思ってるの。今や親戚同士みたいなもん
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千恵
うわあ 最低 こんな悪意を持って送りつけてくる奴には成敗だわ 何で見せない? 昔やられた事言えないの?
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