Masuk婚約者と社長令嬢から「婚約は白紙」と言われ、すべてを奪われ下着姿で放り出される如月璃子。 璃子を拾ったのは、甘いマスクの裏に秘密を隠した正体不明の修理工・真壁 仁。 不思議な魅力を持つcrescent moonの店主・真壁聖子との出会いが、璃子を美しく、冷徹に変身させる。 仁と契約結婚を結び、極秘の代行組織『Blue Code Studio』を始動。 自分を裏切った者たちへ、容赦のない反撃を開始する。 「略奪者たちへ捧げた時間とコスト、利息をつけて、全額返却請求させていただきます」 仁が見せる意外なほど深く、甘い愛。 やがて璃子は、彼が国内最大財閥の若き代表・山城 陸であることを知る。 裏切り、復讐、至高の溺愛。
Lihat lebih banyak車から降りてマンションを見上げると、リビングの窓からあたたかな灯りが漏れていた。 静かに玄関の鍵を開けると、足音に気づいた仁さんが、弾かれたように廊下へ走ってきた。 「璃子! おかえり、無事だったか!?」 「仁さん……」 心配でたまらなかったという顔をした仁さんは、璃子のもとへ駆け寄ると、力強く璃子のお腹を圧迫しないように優しく抱きしめてくれた。その温もりに包まれた瞬間、今日一日張っていた緊張の糸が、ふっと解けていくのが分かった。 「……うん、ただいま。全部、終わりました」 リビングで温かいお茶を飲みながら、麗香専務と直樹に告げた最後の言葉、そして二人との完全な決別について報告した。 仁さんは静かに耳を傾け、最後に璃子の手をぎゅっと握りしめてくれた。 「よく頑張った、璃子。君が過去のすべてにちゃんと向き合ってケジメをつけたこと、本当に誇りに思う……これからはもう、過去に怯える必要なんて何もない。俺たちの未来だけを見つめていこう」 「はい……っ」 仁さんの温かい言葉に、瞳から静かに涙が溢れ落ちた。 けれど、それは悲しい涙ではなく、心が満たされていく温かい涙だった。 ◇ 数日後。体調がすっかり安定した休日、私たちは仁さんのご実家を訪れていた。 「お義父さん、お義母さん。今日はおふたりにお伝えしたい大切な報告があって来ました」 お茶を淹れてくれた義母と、少し緊張した面持ちで座る義父に向かって、仁さんが真っ直ぐな瞳で告げた。 「璃子の体に、新しい命が宿りました。妊娠二ヶ月です」 「まあ……っ!」 両手を合わせて瞳をまん丸に輝かせた義母。 「本当か……!?」 目を見開きそう言って義父は口が開いたままだった。 一瞬の静寂の後、義母は両手で口元を覆って目を出涙で濡らし、義父は破顔して深く頷いた。 「おめでとう、璃子ちゃん……! 体は大丈夫なの? つわりは? 無理しちゃダメよ!」 義母は璃子のお腹に手を触れながらそう言った。 「ありがとうございます、お義母さん。聖子さんや頼人さん、みんなが過保護なほど守ってくれているので大丈夫です」 「そうか、そうか……。ゴタゴタもあって、君には苦労ばかりかけてしまったな。これからは真壁家総出で、君と赤ちゃんを守るからね」 義父のあたたかい言葉に、
麗香専務が警備員に連れられてスタジオを去った、その日の夕方のことだった。 頼人さんと黒岩さんに「今日はもう早く帰りなさい」と促され、聖子さんに車で送ってもらうためにスタジオの裏口を出たとき、建物の陰から、ボロボロのコートを着た一人の男がふらりと姿を現した。 「……璃子」 掠れた声に振り返ると、そこにいたのは直樹だった。 かつては身だしなみに人一倍気を使っていたはずの直樹は、髪も肌も荒れ果て、高級そうだったブランド物のスーツはヨレヨレに汚れている。 麗香専務が言っていた通り、別のパトロンに乗り換えたものの、すぐに使い捨てられて放り出されたのだろう。その目は酷く充血し、怯えたように泳いでいた。 「直樹さん……」 「璃子、頼む、僕を助けてくれ……! 僕は麗香に騙されていたんだ! あいつが桐島の権力で僕を脅すから、僕は従うしかなかったんだよ……っ。僕が本当に愛していたのは、今でも君だけだ!」 ――意外だった。 これまで、直樹は自分のことをずっと『俺』と言っていた。 付き合っていた頃、「社会人になったら『僕』と言った方が印象がいいよ」と璃子がどれだけ提案しても、プライドが邪魔をするのか、直樹は頑なに受け入れずずっと『俺』を通していたのだ。 それが、今は『僕』と言っている。 この人に一体何があったら、プライドの塊だった男が、こうも変われるものなのだろうか。 必死に璃子に媚びるように言い訳を並べ立てる直樹を見つめながら、璃子の胸に湧き上がってきたのは、怒りでも憎しみでもなかった。ただ、言いようのない『哀れみ』だけ。 (直樹さんは、そんな人じゃなかったのに……) お金と権力という魔力に魅せられ、自分を見失い、泥沼に落ちてしまった目の前の男。その引き金が麗香専務との出会いだったとしても、最終的にその道を選び、プライドすら売り払って変わってしまったのは、直樹自身。 直樹は璃子の手へ縋り付こうと手を伸ばしてきたけれど、隣にいた聖子さんが鋭い目つきでその手をピシャリと叩き落とした。 「近寄らないでくださるかしら。芹沢直樹さん」 聖子さんの言葉はとても強く、これまでにないほどの低い声だった。 「璃子! お願いだ、あの返却請求代行の会社で、僕を雇ってくれ! 僕なら君の右腕として、いくらでも役に立てる! 昔みたいに、二
あの一件から、璃子は聖子さんに半ば強制的に休暇を言い渡され、自宅で安静に過ごしていた。 『璃子ちゃん、今はとにかく身体が第一よ。初期の無理は絶対に禁物。一週間は自宅で大人しくしていなさい』 聖子さんはそう言って怒っていたけれど、会社の様子が気になって、どうしてもじっとしていられなかった。体調が落ち着いているのを見計らい、三日振りにオフィスに出社した璃子は、会議室の前に漂う異様な空気に足を止めた。 (まだ……いらっしゃるの?) ドアを少しだけ開けると、そこには三日前と変わらない、張り詰めた空気が満ちていた。 そして、璃子の姿が視界に入った瞬間。 パイプ椅子に座っていた麗香専務の目が、カッと見開かれた。 「璃子……! 璃子さん……っ!!」 立ち上がった麗香専務は、遮ろうとした頼人さんや黒岩さんの手をすり抜け、狂ったような勢いで璃子に向かって駆け寄ってきた。 「きゃっ、」 璃子が身をすくめるよりも早く、麗香専務はその場に崩れ落ちるように床に膝をついた。そして、璃子のスカートの裾、剥き出しの膝を、痛いほどの力で掴んできたのだ。 「麗香専務が……!?」 「お願い、お願いよ。如月さん! 私をここで雇ってちょうだい……!」 見上げんばかりに璃子にすがりつく麗香専務の目からは、大粒の涙がボロボロと溢れていた。完璧だったメイクは完全に崩れ、かつて桐島ホールディングスの頂点に君臨していた面影なんて、どこにもない。 「私にはもう、本当に何もないの……! 桐島家からも追放されて、仕事も、お金も、住む場所すら失ったわ! 知識も努力もしてこなかった私を、外の会社は誰も見向きもしてくれない! でも、あなたなら優しいでしょう。私を見捨てたりしないでしょ!? お願い、ここで働かせて! 何でもするから……っ!!」 涙と鼻水に塗れながら、プライドの破片すらなく璃子に泣きつく元・専務。その無様な姿に、背後で明衣ちゃんが息を呑み、黒岩さんがいつでも引き離せるように身構えるのが分かった。 聖子さんが「離れなさい!」と激昂しかけた、その時。 璃子は自分の膝を掴む麗香専務の、小刻みに震える冷たい手を見つめながら、静かに息を吸い込んだ。 「皆さん、ありがとうございます。……でも、大丈夫です」 璃子は周囲の皆を見回し、それから、足元で泣き崩れる麗香専務をまっすぐに見据えて言った
私、横田明衣。 頼人さんと聖子さんが「この案件を預かる」と言ってくれた翌日のことだった。 黒岩さんが指定したBlue Code Studioの緊迫した会議室。 ついにあの女が姿を現した。 「……お久しぶりです、皆さん。それから、横田さんも」 コンコン、という力ないノックの後に部屋に入ってきた人物を見て、私は自分の目を疑った。 そこにいたのは、かつて私が桐島ホールディングスで嫌というほど見上げてきた、あの完璧で冷酷な麗香専務の面影を無くした一人の女性だった。 ハイブランドのスーツはどこか型崩れしていて、いつも完璧にセットされていた髪は少しパサついている。何より、出会う人間すべてを見下していたあの傲慢な瞳が、今は怯えたように泳いでいた。 「本当に、一人で来たのね。……座ったら、麗香さん」 聖子さんが冷ややかな声をかける。麗香専務はビクッと肩を揺らし、促されるままに椅子へ腰掛けた。その手は、自分の膝の上で小さく震えている。 「単刀直入に聞こう。仁と璃子ちゃんが席を外しているこのタイミングで、うちのサイトに『白紙の依頼』なんて不気味な真似をしてまでここへ来た目的は何だい? 聖子は『直樹の返却か謝罪か』なんて言っていたけれど」 頼人さんがデスクに肘をつき、綺麗な指を組んで麗香専務を見据える。その目は、憐れみすら含まない、ただの観測者のそれだった。 麗香専専務は乾いた唇を戦慄かせ、何度も喉を鳴らした。そして、目の前にいる宇佐美と山城のトップ、そして黒岩さんと私を見回し、ついに消え入りそうな声で本音を吐き出した。 「……私を、ここで雇ってほしいの」 「「え……?」」 私と黒岩さんの声が綺麗にハモった。 あまりにも予想とかけ離れた斜め上の言葉に、頭の回転が追いつかない。 「雇ってほしい……? あなたが、このBlue Code Studioで、働きたいと言っているの?」 私が呆然としながら問い返すと、麗香専務はプライドを粉々にへし折られた顔で、惨めに視線を落とした。 「……桐島家から、縁を切られたわ。仕事も、役職も、住む場所も、すべて剥ぎ取られた。今の私は、ただの『元・桐島』。私には、何も残っていないのよ……!」 感情を爆発させるようにそう言うと、麗香専務はデスクに両手をついて、私たちに向かって深く頭を下げた。あの、世界の中心にいるかのように
「仁? あなた、近すぎない? 璃子ちゃん困っているわよ」 そんなこと口にされたら、余計に意識してしまう。聖子さんは、案外……というか、かなり人の恋愛模様を面白がるタイプなのかもしれない。 覗き込むような聖子さんの瞳は、完全に獲物を見つけた猛獣のそれだった。 仁さんは、バツ悪そうに一本の小瓶をテーブルに置いた。 「仁さん? これは?」 袋から出されたのは、いかにも高価でよく効きそうな金色のラベルのドリンクだった。 「体が冷えているかと思って、買ってきたんだ。疑問系はやめてくれよ!」 璃子は答えに迷い、聖子さんへそのドリンク瓶を渡した。 「璃子ちゃん。言いたいこと分かったわ。遠慮
目が覚めると、白い壁と年季の入った木製の梁。 ここがどこなのか、記憶を思い起こす。 「そうだ、昨日の夜、あのマカベって青年に助けられたんだっけ……!」 慌てて布団をはぐと、女性物と思われるスウェットを着ていた。誰が着せてくれたのだろうか。 襖の向こうから、わずかにコーヒーと少し焦げたトーストの香りとゆっくり階段を上がってくる音がする。耳を澄ますと足音が止まり、スーッと襖が開いた。 「起きた?」 女性の優しい声が耳に残った。声のする方へ視線を向けると、絶世の美人が微笑かけている。 「大丈夫よ。何もしてないわ。そのスウェット、私が着せたわ。安心して」 何もされていないことに安心しつ
璃子は、直樹さんを見つめながら、アイスブルーのジャケットに手をかけた。 「誕生日の贈り物よね? 直樹さんは『俺にふさわしい色』と言ったこと覚えていますか?」 そう言って、ボタンを外す。 真冬に着るには、驚くほど体温を奪う色。結局のところ、璃子のためではなく、直樹さんの隣に置くための色だった。 「一度も私に、馴染まなかったジャケット」 価値が失われたわけではない、役目が終った。 上質な生地の重みを確かめるように、一度持ち上げて床へ落とした。 次に、ブラウスのリボンに手をかける。リボンを解き、ボタンを一個一個外した。 「俺の成績を上げるためには、清潔感のある白を着ていてほしいと渡さ
直樹さんの長い指に絡みつく、真っ赤なマニキュアの塗られた指。その手首には、璃子の給料の何ヶ月分かもわからない、ダイヤを散りばめた高級時計が光輝いていた。 「……直樹、さん? 麗香、専務……? どうして、二人が一緒に……」 震える声で絞り出す。頭の中が真っ白になって、立っているのさえやっとだった。 「あら、まだいらっしゃったの? あなた、直樹さんの家政婦さんでしょう」 「えっ? 家政婦?……直樹さん、これ、どういうこと?」 「璃子、昇進できたのは、麗香専務のお陰だ」 (コネということなの? それとも……男女の仲を?) 「直樹さん? 私が作ったデータや書類にミスでもあったの? 何か弱
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