黒瀬部長は部下を溺愛したい

黒瀬部長は部下を溺愛したい

last updateDernière mise à jour : 2026-07-15
Par:  桐生桜En cours
Langue: Japanese
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イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブショートストーリー。 ※キャラクター、イラストはAIです

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Chapitre 1

CASE:1 ……ずるい。

 白石莉央しらいしりお、25歳。

 この春に入社したばかりで、周囲に馴染めず、慣れない仕事にひとり残っていたある日。

 時計はすでに21時を回っていた。

(もうこんな時間か……あともう少し)

 パソコンと向き合い集中していたせいか、背後からの気配に気付かなかった。

「……お疲れ。これ、食べとけ」

 差し出されたのは紙袋とペットボトルのお茶。

 驚いて振り返るとそこにいたのは、直属の上司で入社当時から存在感を放っていた、営業部のエース・黒瀬慧くろせけいだった。

「あっ……すみません、私……まだ終わってなくて……」

「知ってる。でも、飯も食わずにやってたら倒れるぞ」

 ごく自然な仕草で莉央のパソコンを閉じてしまう。

「続きは明日。ちゃんと食って、帰ること。それが社会人の基本だ」

「はい……ありがとうございます」

 その言葉が優しくて、でも甘えさせてくれる余地がなくて……ぐっと胸に残った。

 紙袋の中には、莉央の好きそうなサンドイッチと小さなドーナツ。

「……なんでこれ、私が好きなやつ……」

 ぽつりと呟いた声に、慧は少しだけ口元を緩めて言った。

「見てれば分かる……お前、チョコよりクリーム系、よく選んでたろ?」

 そう言ってスタスタと去っていくその背中。

(……ずるい。そんなの、勘違いしちゃうじゃん)

 莉央はその瞬間、静かに心を持っていかれた。

 当時、慧にとって職場は戦場だった。

 結果を出す、誰にも弱みを見せない。

 余計な情なんか持ち込むな。

 それが自分の信条だった……でも。

 ある日、ふと見かけた新人の女の子。

 書類の山に埋もれ、先輩の指示を聞きながらもメモをとって、何度も頷いていた。

 だが、帰り際のエレベーター前で、その子の目が少し赤かったのを見逃さなかった。

(……泣いてたか)

 別に優しくする理由はなかった。

 ただ、気になった。

 なぜか、その頑張りすぎる不器用な姿が、妙に引っかかった。

 数日後。

 その子がまた、夜遅くまで残っていた。

「……あの子、また残ってるのか」

 そのとき、自分の足が勝手に動いた。

 コンビニで、なんとなく選んだサンドイッチと甘いドーナツ。

 気づいたら差し入れを持って、彼女のデスクまで行っていた。

(……なんでこんなことしてんだ、俺)

 後から自分で思った。

 けど……。

 ありがとうって笑った顔が、まっすぐで。

 媚びるでもなく、遠慮がちで。

(……やばいな)

 その夜、自分の手が無意識にスマホに触れて、彼女の名前を検索していた。

 ――――『白石莉央』

 ただの後輩で……部下のはずのその子の名前を打ち込んでいた自分に気づいて、苦笑する。

(……完全にやられてる)

 これまでの人生で女に苦労したことはなかった。

 どんなに告白されても誰にも揺れなかったこの心が……あの笑顔ひとつで、なぜか……。

 …………ずっと、目で追ってしまうようになった。

To be continued

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CASE:1 ……ずるい。
 白石莉央、25歳。 この春に入社したばかりで、周囲に馴染めず、慣れない仕事にひとり残っていたある日。 時計はすでに21時を回っていた。(もうこんな時間か……あともう少し) パソコンと向き合い集中していたせいか、背後からの気配に気付かなかった。「……お疲れ。これ、食べとけ」 差し出されたのは紙袋とペットボトルのお茶。 驚いて振り返るとそこにいたのは、直属の上司で入社当時から存在感を放っていた、営業部のエース・黒瀬慧だった。「あっ……すみません、私……まだ終わってなくて……」「知ってる。でも、飯も食わずにやってたら倒れるぞ」 ごく自然な仕草で莉央のパソコンを閉じてしまう。「続きは明日。ちゃんと食って、帰ること。それが社会人の基本だ」「はい……ありがとうございます」 その言葉が優しくて、でも甘えさせてくれる余地がなくて……ぐっと胸に残った。 紙袋の中には、莉央の好きそうなサンドイッチと小さなドーナツ。「……なんでこれ、私が好きなやつ……」 ぽつりと呟いた声に、慧は少しだけ口元を緩めて言った。「見てれば分かる……お前、チョコよりクリーム系、よく選んでたろ?」 そう言ってスタスタと去っていくその背中。(……ずるい。そんなの、勘違いしちゃうじゃん) 莉央はその瞬間、静かに心を持っていかれた。◆ 当時、慧にとって職場は戦場だった。 結果を出す、誰にも弱みを見せない。 余計な情なんか持ち込むな。 それが自分の信条だった……でも。 ある日、ふと見かけた新人の女の子。 書類の山に埋もれ、先輩の指示を聞きながらもメモをとって、何度も頷いていた。 だが、帰り際のエレベーター前で、その子の目が少し赤かったのを見逃さなかった。(……泣いてたか) 別に優しくする理由はなかった。 ただ、気になった。 なぜか、その頑張りすぎる不器用な姿が、妙に引っかかった。 数日後。 その子がまた、夜遅くまで残っていた。「……あの子、また残ってるのか」 そのとき、自分の足が勝手に動いた。 コンビニで、なんとなく選んだサンドイッチと甘いドーナツ。 気づいたら差し入れを持って、彼女のデスクまで行っていた。(……なんでこんなことしてんだ、俺) 後から自分で思った。 けど……。 ありがとうって笑った顔が、
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CASE:2 どういうこと!!??
 地方出張、日帰り予定が急遽の泊まりに変更。  会議が押して、ホテルにチェックインした時にはもう22時を回っていた。「……え、手違い?」 「はい。誠に申し訳ございません」 「どうした」 「あ、それが……」 2部屋予約したはずがホテル側のミスでなぜかタブルの1部屋予約になってしまったことを説明。  フロントスタッフは申し訳なさそうな声で、頭を下げていた。「他に空いてる部屋、ってないですよね?」 「はい……本日は満室でして……ご希望の部屋がご用意できず、大変申し訳ありません」 「仕方ないな」 ハプニングの末、同じ部屋に泊まることになってしまった。  隣にいた慧は「気にしなくていい」と穏やかに返してはいるけど、莉央の心臓はバクバク。  部屋に入るとダブルサイズのベッドが、どーんと鎮座していた。(いやいやいやいや……え? え?? ベッド1個!?)「あ、あの、私床で寝ます! 」 「いや駄目だろ、それは」 「いや、ほんとに大丈夫です私!」 「俺が床で寝る。さすがに女性にベッド譲らないとかありえないし」 「駄目ですよ! そんなことしたら黒瀬部長、体痛くなりますよね!? 」 「……じゃあ……」 一拍の間に慧がちらっと莉央に視線を流す。「ベッドの端っこ同士で寝るか」 「…………っ!?」(ど、ど、どういうことーーーー!!??)◆ 時間はすぎ、シャワーを済ませた後、気まずさ全開の空気でベッドに潜り込むふたり。  距離感、ギリギリ。  むしろ一歩間違えば………触れる。  莉央は背を向けて眠ろうと必死。(ちょっと待って、心臓……壊れるんだけど……) そして……。「……白石」 「っ……」 反応してしまった。「な、な、なんでしょう?」 「そう怯えるな」 「すみません……」 「寝れそうか?」 「……はい」(たぶん……なんとか) 背後で人の動く気配がして振り向くと、すぐそばまで慧が近づいていた。「えっ……」 「やっぱり普通に寝ていいか? 端だと落ち着かない」 「あ、はい。私のことは気にせず使ってください」 「………そうか。なら………」 突然、腰に回った慧の腕……と思ったらそのままぐいっと引き寄せられる。「わっ……く、黒瀬部長?」 「人の気配があるのに、
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CASE:3 やっぱり私、好きかもしれない
 翌朝、昨夜を思い出して顔を真っ赤にして起きる莉央と、少し寝不足そうだけど余裕の笑みを浮かべる慧。「おはよう、白石」 「おは、ようございます……」(ぅぅ……もう、今日一日まともに目合わせられないっ……) 会社に戻るも慧はいつも通り。  何も変わらない態度が逆になんだかもどかしい。  そして、無情にも時間だけは過ぎていき、あっという間に数週間がたった。(最近、黒瀬さんとあんまり話せてない……気がする) 話しかけたいのに、忙しそうなタイミングばかりで。  差し入れのお礼もろくにできないまま、距離だけが空いていくようで。(やっぱり……私なんか、特別じゃなかったのかな) あの夜の差し入れ。あれが本当にたまたまだったとしても……。「私、嬉しかったのにな……」 鞄の中に忍ばせている、あの日のお菓子の包み紙。  なぜか捨てられなくて、見るたびに胸がちくんと痛くなる。(……避けられてる、のかな) そんなことばかり考えて落ち込む日々が続いていたある日。  夕方のオフィス。  人もまばらになった頃、備品室でばったりと鉢合わせる2人。「あ……黒瀬部長」 「白石……」 数秒の沈黙。  でも、その時の慧の声は、少しだけ優しくて。  莉央の目を、そっと見て言った。「最近、避けてた……かもしれない。ごめん」 「……え?」 「なんか、自分でもよくわからなくて……でも、気づいたら目で追ってた……気になってたんだと思う」 莉央の心臓が跳ねた。「……私も。たぶん……同じです」 目と目が合って、ふたりとも照れ笑い。  それだけで、胸がいっぱいになった。 …………そして、ふたりの恋が、ゆっくりと動き出す。◆ その日は、仕事のトラブルで泣きそうになった日だった。  重要なデータをうっかり削除してしまった後輩。  巻き添えでプロジェクト全体が一時ストップ。  直属の上司にキツく叱られた莉央は、責任を感じて必死に立て直そうと動いた。  けれど…………。  疲労も、プレッシャーも限界に近かった。 ようやく帰路につく頃にはオフィスは静まり返っていた。  エントランスで、ふと立ち止まる。「……もう、無理かも」 足が動かなくて、目の奥がじんと熱くなる。  そのとき……。「……白石? まだ居たのか
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CASE:4 お前……酔ってるな
 その日は、部署の飲み会。  慧はいつものように、静かにグラスを傾けていただけなのに……。  女性社員たちがこぞって席を替わりながら話しかけてくる。「部長って彼女いないんですか?」 「え、じゃあ今フリー? すっごい意外!」 「休日は何してるんですか? 今度よかったら……」(……またかぁ……) 莉央は、笑顔で対応する慧を横目に、黙々とビールを煽っていた。(わかってる。部長は悪くない。この状況はいつものことだけど……でも、やだ……) グラスを置く音が、少しだけ強くなった。  気づけば、顔がぽーっと熱くて、思考もふわふわ。  そんな莉央を見て、慧が声をかける。「白石、飲み過ぎだ」 「んー……やだ。まだ飲む」 「もう十分飲んだだろ。ふらふらしてる」 「してないもん……っ」 「いいから帰るぞ」 なんとか連れ出された帰り道。  酔った莉央は千鳥足で、明らかに様子がおかしい。「少しここで休もう」 近くの公園のベンチに、そっと座らせてくれる。「黒瀬部長って……ほんと優しいですよね……」 「そうか? 普通だろ」 「いえ……優しいですよ……」 「お前はお酒弱いくせに、無理するな」 「だって……部長がモテるからぁ……」 「……は?」 「いっつもモテてて……顔もかっこいいし、仕事もできるし、みんな好きになっちゃうの当たり前じゃないですかぁ……」 「お前……酔ってるな」 もう自分が何を言いたいのか分からなくなってきた。「最初……怖かったんです。部長のこと。目つきとか、無口だし厳しいし……でも」 少し潤んだ瞳で、慧を見上げる。「でも……ちゃんと知ったら……すっごく優しくて、ちゃんと人を見てて……すごいなって思ったんです。自分にも他人にも厳しいのに、嫌われないの、凄いです」 「………」 「言ったことは必ずやり遂げるし……その、なんか……」 「…………」 次の言葉を待つ慧が息を飲んだその瞬間……。「……すごく……だから………私………」 コテン。「……おい」 莉央の頭が、慧の肩にトンと預けられている。  すやすや寝息を立てる莉央の顔は、赤く染まっていて……。「……ここで寝るなよ」 小さく笑って、慧はそっと莉央の髪を撫でた。◆ 翌日。(……うーん、頭が痛い……) 目
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CASE:5 やっぱり好き
 来週のプレゼンに向けて、慧とふたりで作業をすることに。  会議室で資料を並べていると、慧がすっと隣に腰を下ろす。「……あれ? 部長、反対側じゃなくていいんですか?」 「画面、見づらいでしょ。こっちの方が見やすいから」 それだけ言って、莉央のすぐ隣に座る。  距離、ほんの数センチ。画面を覗き込む慧の息がかかるほど近い。(ち、近い……!) 慧は平然とした顔でパソコンを操作していて、全然動じる様子がない。  けれど莉央の心臓は、すでに爆発寸前。「……これ、どう思う?」 「あ、え、っと……私は……」(集中できるわけないじゃん!!)「………?」 莉央がモニターから目を逸らしたのに気づいて、慧が少し覗きこむ。  その顔があまりに近くて、思わず横へよろけてしまう莉央。「わっ……!」 「危な!」 そのまま、慧の腕が莉央の腕を支えて止める。  すぐそこにある顔、腕から伝わる温度。  莉央は心臓の音が慧に聞こえるんじゃないかと本気で焦る。「……大丈夫か?」 「だ、だいじょうぶ……です……」(やば、むり、今のなに!?)「顔、赤い」 「え、そんなことないですって……!」 「……そっか」 そう言いながら、慧はふっと優しく笑って、莉央の頭を軽く撫でる。「っ……!?」 「頑張ってるの、ちゃんと見てる……無理しなくていいから」 その声も、優しすぎる手つきも、全部反則。(やっぱり好き……だめだ、耐えられない……)「白石……顔に出すぎ」 「で、出てませんっ!!」 「……ふっ、そうか」 「~~~~っ!!(ほんとにもう、ずるい……!!)◆ 今日は会議室で遅くまでふたりで資料整理。  莉央はこのチャンスを逃さないように「黒瀬部長って、好きな人とかいるんですか?」と軽く聞いた。  そのつもりが……。「……いるよ」 少し間があいたが、しっかりと聞こえた。  「いる」って。「へ……へぇそうなんですか……」 予想以上に落ち込む。(そんなあっさりと答えるなんて……すっごく好き、なんだろうな) それ以上、言葉を紡げず結局最後までなにも話せずに帰宅となった。  だが会社を出て少しした頃、ちょうど小雨が降ってきて……。「え、うそ……」 「酷くなる前に急ごうか」 「はい」 慧と小
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CASE:6 なら、俺から言おうか?
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CASE:7 ……それ、反則
(これって、恋人……だよね? 嘘みたい……)「莉央、寝ないのか?」 やっと気持ちが通じ合って……ドキドキもまだ止まらない……のに。(寝るなんて……そんなの……) 立ち上がった慧の手の袖をちょんと摘まんだ。「……? どうした」 「あの……その…………ですか?」 「え、なに……? ごめん、聞こえなく……」 慧の言葉を遮って、莉央は思いきり手首を掴んで引き寄せた。  隣に戻ってきた慧に莉央は……。「ほんとに……寝ちゃうんですか?」 「………」 「……なにも、しないんですか?」    ふわっと空気が止まる。  2人の間の温度が、急に上がったような気がした。「……なぁ、それ、反則なんだけど」 ちょっと目をそらして、耳まで赤くなってる慧。   (あっ……めっちゃ照れてる……かわいい……!) 嬉しくなった莉央は、にこっと笑いそして……そっと、慧の頬にキスを落とす。  やわらかく、ぬくもりのある、優しいキス。「黒瀬部長……おやすみなさい」 とろけそうな笑顔。  そして莉央はくるんと背を向けた。「……それはずるいだろ」 もちろん慧は引きとめた。「莉央、今の……わざと?」 耳元で囁く声は、少しだけかすれてて、息が混じる。「わざとって、何がですか」 「俺のこと、試してんのかと」 「違います!」 「そう、でも……そんな顔で、おやすみとか……寝る気ないくせに」 すっ、と慧の目が細くなる。慧は莉央の腰に腕を回して自分の膝の上に乗せた……。◆「……黒瀬、ぶちょ……」 名前を呼びきる前に、慧の顔が近づいた。  慧の手がそっと頬を包んで、もう一方の手が、背中を撫でて抱き寄せる。  静かに、そっと唇が重なる。ゆっくりと、深く、温度を確かめるように。  最初は優しく。  けれど、想いが溢れたように、キスはだんだんと熱を帯びていく。「……んっ……」 慧が優しく背中を撫でる。  そのたびに、莉央の体の奥が甘く揺れた。「……ふ、ぁ……」 小さく漏れた声に反応するように、慧がもう一度唇を重ねる。  今度は少し深く、名残惜しそうに、何度も重ねて。「……莉央」 名前で呼ばれたその声が、甘くて、深くて、全部を奪っていく。「……黒瀬、部長……」 「慧、だ。……そう、呼んで。好き
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CASE:8 今夜は送るだけにする
 目が覚めた時、そこには静かなぬくもりがあった。「……ん……」 ふわふわの毛布に包まれて、隣には、うっすら寝息を立てている慧の姿。  いつもはぴしっとしてる彼の寝顔は、少し無防備で……やっぱり、かっこいい。  昨夜、何度も何度も囁かれた「好き」の言葉。キスをして、抱きしめられて……。(……本当に、寝ただけなのに。ドキドキして寝た気がしない……) それでも、慧の腕の中は安心で心がふわりとほどけたのか、自然と眠ってしまっていた。  そんなことを思っていたら。「……おはよう。百面相か?」 「わ、わっ! 起きてたんですか!」 「ああ」 「っ…………昨日のこと、夢じゃなかったんですね」 「夢が良かったか?」 「違います! 夢みたいに嬉しいってことで」 「ふっ……好きだよ、莉央」 「っ!!!!」(不意打ち……!)「……私も、好きです……」 言葉のあと、自然に顔が近づいて、そっと唇が触れる。  寝起きのキスは、柔らかくて、甘くて、まるで幸せの象徴だった。「はぁ……これから毎日こうやって起きられたらいいのに」 「……毎日は、さすがに恥ずかしい、です……」 「じゃあ、毎週末とか?」 「……考えておきます(小声)」 「そっか。じゃあ、その間にいっぱい『好き』って言わせるように頑張る」 「……ほ、ほどほどでお願いします……」 恥ずかしい……でも、顔がゆるんじゃう。  慧の隣にいられる朝は、こんなにも幸せで心の奥がじんわり温かくなる。  好きになってよかった。  伝えられてよかった。  そう思える始まりの朝だった。◆ 恋人になって初めての休日。  待ち合わせ場所に現れた慧は、いつものスーツじゃなくて、ゆるめのシャツで落ち着いた私服姿。  その雰囲気はやっぱりかっこいいが満載。「……待たせたか?」 「いえ……慧さん、なんか……かっこよすぎます」 「お前がそう言うのなら、今日の服、正解だな」 自然と手を差し出されて、莉央はそっと指を絡める。  ドキドキが止まらないのは、今日が初めてのデートだから。  そして、「彼氏」としての慧に、初めて触れるから。「行きたいとこ、いくつか考えたんだけど……今日はお前が主役な。どこでも連れてく」 「え、そんな……」 「彼女
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CASE:9 キス、していい?
 退勤後、窓の外は雨。小さな水の音が、静かにオフィス街を包みこんでいた。「莉央、傘ある?」「えっと……ないかも……」 莉央が鞄をあさっていると、慧が迷いなく、持っていた傘を差し出す。「じゃ、入って」 慧の傘は少し小さめ。 自然と、ふたりの距離はぎゅっと近くなる。(うわ……近い……)「ありがとうございます」 雨の音にかき消されるような静けさのなかで、ふたりだけの世界が、そっと始まる。 歩くたび、腕がかすかに触れる。 慧は当たり前のように莉央の方へ傘を傾けて、自分の肩を濡らしながら守ってくれる。「……なぁ」「はい?」 立ち止まった慧が、ふっと莉央の顔をのぞき込む。 髪にかかった雨粒を、指先でそっとぬぐってから……。「キス、していい?」「……っ!!!」 雨の音しか聞こえない静かな帰り道。 小さな傘の中はふたりだけ。 それなのに、そんな声で、そんな優しい目で言われたら……莉央は、コクリと小さくうなずいた。 慧の手が頬に触れて、唇がそっと重なる。 それは、雨に似た静けさ。 だけど、心を優しく溶かしていく熱を持っていた。(やばい……胸くるしっ……) キスのあと、慧は莉央の耳元でささやいた。「かわいすぎ……このままさらってもいい?」「……っだ、ダメです……」「ふっ……なら今度……覚悟してて」 笑いながらそう言って、また歩き出す彼の肩は、相変わらず少しだけ濡れていた。◆ 付き合い始めて数日。 まだ誰にも知られていない、ふたりだけの関係。 会社では、表面上これまで通り。でも……。(やっぱり……無理。冷静でいるの、むずかしいな……) 資料の確認に追われながらも、莉央の目は自然と慧を追ってしまう。 デスクで何気なく横を通るとき。 会議の移動で、廊下ですれ違うとき。 たったそれだけでも、胸が高鳴ってしまう。 だけど……慧はまるで何事もなかったかのように振る舞うから。(私ばっかり、浮かれてる……) そんな風に思えて、ちょっぴり切なくなる。 昼休み、コーヒーを取りにいく途中。 曲がり角で偶然……慧とすれ違った、その一瞬。「……お疲れ」 その低い、小さな声が、莉央の耳元に届いた。「……っ!」 言葉を飲み込み、振り向くこともできなかった。 でも、確かに聞こえた。 後ろ姿のまま、何もなかったように歩き
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CASE:10 まだまだ足りない
 ある日の昼休み直前。 エレベーターに向かった莉央は、角を曲がった先で慧とばったり会う。「……あっ」「……よかった。会えた」 慧は穏やかに微笑み、エレベーターホールの壁際へ莉央を促す。 ランチタイム直前、廊下は混み合い始めていて、ふたりの距離は自然と近くなる。「あの、誰かに見られたら……」「大丈夫。すぐ混むし、こっちの死角、気づかれにくいから」 そう言って、慧は莉央の手を……そっと、でもしっかりと、握った。「……っ、ここで……?」「ん、ダメ?」 声は低く甘く、耳元に落ちるささやき。 莉央の手を握ったまま、慧の親指がそっと手の甲をなぞる。 さらに指を絡めてきて、その指先同士をゆっくり撫でてくる。(触り方……ずるい) 手を繋ぐより、ずっと恥ずかしい。 なのに、逃げられない。「莉央……かわいい顔してる」「えっ、見てたんですか……?」「うん、反応見て楽しんでる」 くすっと笑う慧は、完全にいつもの余裕のある態度。 一方、莉央は赤くなるばかりで、冷静でいられない。「……ちょ、ずるい、です……」「俺ね。莉央とこうしてるだけで、めちゃくちゃ癒されるんだよ。こっちの方がずるいでしょ?」「……っ!」 エレベーターが開く直前、慧は絡めた指をほどいて、莉央の手の甲にそっとキスを落とした。「じゃ、いってらっしゃい。午後もがんばって」 誰にも気づかれない、ふたりだけの時間。 でも、指先がまだ熱くて、胸の奥がくすぐったい。 莉央は小さくうなずきながら、心の中で呟いた。(午後どころか……今日ずっと頑張れる気がする……)◆ 珍しく莉央が風邪をひいた。「すみません……せっかくのお休みなのに……」 ベッドの上でかすれた声を出す莉央に慧は静かに首を振る。「何言ってんだ。俺が甘やかすチャンスだろ」 そう言いながら、おでこに冷えピタを貼って、優しく髪を撫でる。「はい、水。あと、プリン。好きだろ?」「う……食べたい……」「なら、じっとしてろ」 スプーンで小さくすくって、莉央の口元に差し出す。 されるがままに口を開くと、すぐにふわっと甘さが広がる。「ん……おいしい……」「そうか。食べられそうで良かった。しんどくないか?」「はい……慧さんがいてくれるから……安心します」「ならもっと甘えてくれていいぞ」 そっと莉央の手を握っ
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