Share

第2話

Auteur: 拾安
久我は私よりもよく分かっているようだった。今の私の恋愛がどれほどめちゃくちゃで、私が彼のことを、この不健全な恋愛から逃れるための浮き輪としか見ていないことも。

「他に何かある?」

スマホを握る手に、自然と力が入った。

「瑠璃、分かっているだろう。僕には普通の夫婦関係が必要なんだ」

彼の声は低く、どこか魅惑的だった。

私が何を聞きたがっているのか察したのか、彼は続けて説明した。

「つまり、夫婦としての義務を果たしてほしい。妻になってくれるだけじゃなく、僕の子供の母親にもなってほしいんだ」

「確かに家族からは催促されているけど、僕たちの結婚がただのルームシェアみたいな関係になってほしくない」

私は立ち上がって、極楽鳥花に掛かった白いレースのカーテンを外しながら、窓の外に沈みゆく夕日を眺めた。

「久我さん、結婚するからには、演技するつもりなんてないわ」

「なら、明日浜城まで迎えに行くよ」

「半月だけ待って。きちんと決着をつけなきゃいけないことがあるの」

電話を切り、久我の連絡先を『旦那様』に変更した。

彼の言う通り、これが私のこの恋愛から抜け出す第一歩だった。

深津は戻ってこなかった。正確には、数日間まったく姿を見せなかった。

以前なら、何度も何度も電話をかけて、どこにいるのか、いつ帰ってくるのかを問い詰めていただろう。

でも今は、そんな気持ちさえなくなっていた。

どこにいるかなんて、明らかすぎるのだから。

深津との共通の友人たちに連絡を取り、招待状を回収した。みんな驚いていた。

深津の意向で派手な結婚式は避けることになっていたが、それでも私は意地になって招待状を作った。それは一種の儀式のようなものだった。

数枚の招待状をバッグに戻しながら、暗い表情で友人たちを見つめた。私は何も隠すつもりはなかった。

「ええ、新郎が変わったの。だから招待状も作り直すわ」

その言葉を聞いても、周りからは特に驚きの声は上がらなかった。

むしろ、友人たちは冗談めかして笑い合っていた。明らかに私の言葉を本気にしていなかった。

よく考えれば当然だ。私はあれほど深津のことが好きで、彼の冷たい態度にも気にしたことがなかった。

もし他の人が同じことをして突然結婚を取りやめると言い出したら、私だって信じなかっただろう。

でも構わない。行動で示してみせる。今回こそ本当に手放すことを。

すべての招待状を回収し終わって間もなく、深津が帰ってきた。

いつも几帳面な彼なのに、白いワイシャツにはシワが寄り、充血した目は疲れきっていた。

一目見ただけで、彼の状態が良くないことが分かった。

私を見るなり、彼は私のさっきの決断と奇しくも一致する言葉を口にした。「配った招待状は全部回収して。恩師が亡くなった。少なくとも半年は喪に服さなきゃいけない。結婚式はできない」

そう言いながら、深津は私が大騒ぎするか、喧嘩を始めるだろうと思っていたに違いない。

結婚を急いでいたのは私のほうで、祖父も私の結婚を心待ちにしていることも知っているのだから、私が焦っているはずだと。

きっと反論の言葉まで用意していたのだろう。でも、私は平静な顔をして言った。

「分かったわ。ご愁傷様」

Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application

Latest chapter

  • 共に傷つく運命   第14話

    私の興奮した様子を見て、彼も喜びと感動で胸がいっぱいになったようだった。私の手をしっかりと握り、目に涙を浮かべながら、優しく囁いた。「君はママになるんだ。僕もパパになる」私は笑顔で彼の手を握り返した。「そうね、弁護士さん、あなたはパパになるのよ」病院を出た時、昔の友人からメッセージが届いた。深津と珠里が式場で大喧嘩になり、手も出て、今は二人とも病院に運ばれたという。「珠里さんが流産して、もう子供を産めないかもしれないって」「それに深津さんは、珠里さんに刺されて、もしかしたら......危ないかも」正直、深津と珠里がこんな結末を迎えるとは思ってもみなかった。でも、よく言うように、因果応報というものね。私は久我の手と指を固く絡ませた。「弁護士さん、お腹すいた。焼肉を食べに行かない?」久我は笑いながら私を抱きしめた。「いいよ、奥さん」

  • 共に傷つく運命   第13話

    二ヶ月後、一通の招待状が届いた。新郎は深津蒼介、新婦の名前には浅井珠里の文字が刻まれていた。結局、二人は一緒になるべくしてなったのね。書斎から出てきた弁護士の夫は、私の手から招待状を抜き取り、眉をひそめながら目を通した。「元カレが結婚するのか?」この酸っぱい表情を見ると、また妬いているのが分かった。私は笑いながら彼の腰に腕を回した。「弁護士さん、まだ妬くの?私たちは戸籍も一緒の正式な夫婦でしょう。深津のことなんて過去の話よ」「それに、彼も今は愛する人と結ばれるんだし」久我は私の腰に腕を回し、しばらく黙っていた。「分かった。じゃあ、一緒に行こう」この素直じゃない様子に私は笑みを浮かべた。「もともと北都に一人で置いていくつもりなんてなかったわ」久我と席に着いた時、隣で噂話が聞こえてきた。珠里は妊娠三ヶ月だという。計算すると、私がまだ浜城を離れる前のことだ。試験管ベビーを諦めたという話は、嘘だったのね。私が冷ややかに鼻を鳴らすと、隣の久我が私の手を握りしめた。周りの人が私と久我を見つけて、冗談めかして話しかけてきた。私は久我の腕にしがみながら紹介した。「私の夫です。久我慎也、弁護士です」あの事故で深津が車椅子生活を余儀なくされるとは、想像もしていなかった。手も不自由になったと聞いた。外科医にとって、それは死よりも辛いことだろう。ステージの上で、珠里が彼に結婚の意思を尋ねた。でも深津は顔を背けただけで、なぜか私に視線を向けているような気がした。その瞬間、突然吐き気を覚えた。「どうした?」首を振って答えた。「分からない。気分が悪くて」久我は私の手を取って急いで席を立ち、病院に連れて行くと言って譲らなかった。だから深津の「瑠璃、僕と結婚してくれないか?」という言葉は、聞こえなかった。救急外来から産婦人科に回されて、医師に最後の生理の日を聞かれた時。私と久我は、生理が半月も遅れていることに気づいた。「以前もこれほど遅れたことはありますか?」医師の言葉で我に返った。首を振った。以前も完全に規則正しいわけではなかったけれど、これほど遅れたことはなかった。念のため、医師は一連の検査を指示した。「妊娠4週目」と書かれた診断書を見た時、久我はまだ夢見心地で、これが現実

  • 共に傷つく運命   第12話

    画面に表示された知らない番号を見て、最初に思い浮かんだのは深津だった。考えるより先に指が動き、切ってしまった。でも切ってすぐ、またしつこく着信が鳴った。ふと思い直した。すべての知らない番号が彼からとは限らない。深津のせいで、見知らぬ番号を全部拒否するわけにはいかない。深く息を吸って、電話に出た。受話器の向こうから、確かに聞き覚えのない声が聞こえた。「もしもし、北野瑠璃様でしょうか?」「はい」と短く答え、相手の話を聞くことにした。相手も私の慎重な態度を察したのか、すぐに本題に入った。「北都総合病院の救急科です。深津蒼介様が速度超過で事故を起こされ、今危篤な状態です。病院までお越しいただけますでしょうか?」その言葉を聞いて、私は一瞬固まった。その意味を理解するのに時間がかかった。深津が北都に来ていた?しかも速度超過で事故を?「もしもし、北野様?お聞こえですか?」私の反応がないことに気づいた看護師が、私を現実に引き戻した。深く息を吸って、複雑な思いを抱えながらも、きっぱりと断った。「申し訳ありません。私たちはもう別れています。今日は私の結婚式なので、時間を作ることができません。他のご親族やお知り合いに連絡していただけませんか」言い終わると、相手の返事も待たずに電話を切った。深津が北都に来たのは私のことかもしれないと薄々感じていたが、今言った通り、私たちはもう別れている。彼のことに関わる余地はもうない。それに、彼の周りには頼れる人がたくさんいる。私がいなくても大丈夫なはず。披露宴会場は大いに賑わい、親族や友人たちでホールは満席だった。私はトレーンの長いウェディングドレスを纏い、おじいちゃんの腕を取りながら、一歩一歩久我の元へ歩いていった。おじいちゃんはずっと私の伴侶との出会いを待ち望んでいたけれど、その日が本当に来てみると、目を潤ませて感極まっているようだった。「おじいちゃん、今日は晴れの日なのに、どうして泣いてるの?」そう言いながらも、おじいちゃんの様子を見ていたら、私も胸が熱くなってきた。笑顔を作って、少し明るい雰囲気にしようとした。「それに、新居もすぐ近くだから、結婚しても頻繁に会いに来るよ」おじいちゃんは私の目も潤んでいることに気づき、手の甲を優しく叩いた。「そうだな、そうだな。

  • 共に傷つく運命   第11話

    二日後、約束通り久我は両親と共に挨拶に来た。久我の両親は誠意を示し、結納金の内容は十分なものだった。久我の母は私の手を握り、優しく微笑んだ。「お爺様、ご安心ください。瑠璃を私たちの家に迎えて、決して寂しい思いはさせません。瑠璃のお母様にもそうお約束しましたから」傍らで久我は再び婚前契約書と、複数の資産証明書を取り出した。「おじいちゃん、これは瑠璃への僕からの誓いです。彼女を愛しているから、財産の半分を譲ります」改訂された婚前契約書では、久我は自分の利益をほとんど考えていなかった。久我と彼の両親を見ながら、深津との結婚を避けられて本当に良かったと思った。おじいちゃんはこの縁談を喜び、久我の両親と日取りを決めて、すぐに区役所へ婚姻届を出しに行かせた。年配の方々にとって、婚姻届こそが何より大切なものだから。久我がインスタに投稿したのを見て、私も笑顔で婚姻届の写真を撮り、彼と手を繋いだツーショット写真も撮った。ペアリングが陽の光に輝いていた。久我は結婚式の時に、もう一つリングをくれると言った。これは普段用だと。投稿すると、昔からの友人たちが次々と祝福してくれた。この時になって、やっと皆が私が深津以外の人と結婚したことを信じたようだった。婚姻届を出した後は、ウェディングフォトと結婚式の準備だけが残っていた。私も準備に参加したかったけれど、久我が全て取り仕切って、私はドレスの試着と会場装飾のアドバイスくらいしかすることがなかった。なぜ一緒に準備させてくれないのかと尋ねたことがある。その時、彼は私を抱きしめながら、指を一本ずつ遊ぶように触れて言った。「僕が君を迎えるんだから、準備も僕がするべきだよ」この間、深津から連絡が来なかったわけではない。最初は電話を切っていたけれど、しつこいので結局新しい番号に変えた。それ以来、深津からの連絡は途絶えた。彼の消息を再び聞いたのは、結婚式の三日前だった。式当日、私と久我は早朝からホテルに向かい、ドレスに着替えてヘアメイクの準備を始めた。久我はゲストの接待を両親に任せ、自分は私の側から離れようとしなかった。鏡の前に立っていると、久我が私から目を離さないことに気付いた。その真摯なまなざしに、つい尋ねてしまった。「こんなに完璧な準備、私が戻って来てか

  • 共に傷つく運命   第10話

    言葉の途中で、リビングの真ん中で目を潤ませている私の姿が目に入った。杖が「トン」と床に落ち、おじいちゃんはそれも構わず、目を真っ赤にしながら、部屋の方へ向かおうとした。私はスーツケースを放り出し、数歩で追いつき、ベッドに戻ろうとしていたおじいちゃんを後ろから抱きしめた。「おじいちゃん、会いたかった......」おじいちゃんは私の言葉を信じていないようだった。そうよね。あの時、進学で出て行くだけで、休みには帰ってくると言ったのに、結局数年も帰らなかった。最近帰ってくることは知っていたけれど、具体的な日にちは久我から聞いただけだった。この六年間、一度も電話をしなかった私のことを、おじいちゃんはもう自分のことなど忘れてしまったと思っていただろう。おじいちゃんは鼻を鳴らし、私の腕を振り払おうとしたけれど、私はもっとぎゅっと抱きしめた。涙が溢れ出して、おじいちゃんの肩に落ちた。肩の濡れた感触に気づいたのか、おじいちゃんはため息をつき、ようやく抵抗するのをやめた。口では厳しいことを言いながらも、声のトーンは随分と柔らかくなっていた。「会いたかっただなんて、六年も帰らずに私を一人ぼっちにしておいて。久我家の坊やが毎日気にかけてくれなかったら、私が死んでも分からなかっただろうに」私は慌しくおじいちゃんの口を押さえ、「縁起でもない」と首を振った。「もう、長生きしてね。そんな不吉なこと言っちゃダメ」おじいちゃんの言葉を思い出し、胸が痛んだ。「ごめんね、おじいちゃん。私が悪かった。もう出て行かないから、ずっとおじいちゃんと一緒にいていい?」するとおじいちゃんは急いで首を振った。「とんでもない。何を言うんだ。おじいちゃんはまだお前の結婚式を見たいんだよ。お前が幸せになるのを見届けてから、おばあちゃんとご両親の元に行くつもりだ」その言葉を聞いて、もっと胸が苦しくなった。いつかおじいちゃんと別れる日が来ることは分かっている。でも、できるだけ遅く、もっと遅くであってほしかった。しばらく話をして、やっと空気が和らいできた。おじいちゃんは私を見つめ、感慨深げに言った。「大きくなったな。痩せたけど、変わったな」「どんなに変わっても、私はずっとおじいちゃんの孫だよ」おじいちゃんの肩に寄りかかり、やっと心が落ち着いた。おじいち

  • 共に傷つく運命   第9話

    久我が私のことを好きだという事実に、私は大きな衝撃を受けた。正直、これまで私は、久我のような才能あふれる高嶺の花が、私のために頭を下げるなんて思ってもみなかった。子供の頃、両親は冗談めかして、大きくなったら久我と結婚させようなんて言っていた。その時の私は、首を振って必死に否定した。私の目には、勉強と本以外に関心を示さない久我は、一生独りで過ごすべき人のように映っていた。彼は女性との距離感が明確すぎて、男性との付き合いですら、まるで「君子の交わりは淡きこと水の如し」といった感じだった。後に「アセクシャル」という言葉を知り、久我にぴったりだと思っていた。なのに今、彼は私のことが好きだと言う。私の表情を見ただけで、また何か余計なことを考えているのが分かったのか、彼は私の髪をくしゃりと撫でた。「瑠璃、気づかなかった?君だけが僕の1メートル以内に入れる人なんだよ。僕の考えの中にいつも君がいることにも気づかなかった?」私は驚いて彼を見つめた。「え?妹みたいに思ってくれてたんじゃないの?」久我は呆れたような表情を見せた。「瑠璃、誰が妹とキスしたいなんて思うかよ」うわ、なんて直接的な言葉。顔が真っ赤になった。私の困惑した様子に気づいたのか、彼はそれ以上からかうのをやめて、家まで送ってくれた。北野家と久我家は近所で、帰り道はいつも同じだった。エレベーターの中で、私たちは黙って立っていた。この静けさを壊すまいと、視線を泳がせながらも、つい彼の方をちらちらと見てしまう。そんな時、彼もこっそり私のことを見ていることに気づき、耳先が熱くなった。「ディン」という音とともにエレベーターのドアがゆっくりと開き、久我は私の家の前で立ち止まった。これ以上中に入るつもりはないようだった。スーツケースを私に渡しながら言った。「じゃあ、蓮太郎おじいちゃんとの再会の邪魔はしないでおくよ」私はスーツケースを受け取って頷いた。彼は軽く笑って、手を伸ばし、優しく私の髪を撫でた。「さあ、早く入りなよ。数日中に、両親と一緒に正式に挨拶に来るから」その言葉に、さっき引いた耳の紅潮がまた戻ってきた。私は彼に向かって軽く目を細め、鍵を取り出して家の扉を開けた。振り返って何か言うことはなかったが、胸の中は温かかった。スーツケース

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status