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第820話
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冷酷社長の逆襲：財閥の前妻は高嶺の花 第836話
「あいつ以外誰がいるんだ？」檎はタバコを口にくわえ、憤慨しながら言った。「桜子が何を考えているのか全然わからないよ。離婚したばかりで、クソ野郎のスキャンダルがあちこちに溢れてるのに、どうしてわざわざ治療してあげるんだ？ほっとけばいいのに！」「桜子が猫や犬を助けてると思えばいいじゃない。そこまで気にすることないよ」栩は軽く慰めるように言った。「え？陽汰が隼人の治療をするのか？」「たぶんね。桜子が関わると、どんなことでも解決できるから」「ふーん、せっかく帰国したんだし、手ぶらじゃ帰れないよな」檎は深くタバコを吸い込んで、鋭い目で一息吐きながら言った。「それなら、手術室に忍び込んで、隼人を......」そう言いながら、首を切るような仕草をした。栩は一瞬身震いし、驚いて言った。「おい、何してんだよ！もし隼人に手を出したら、盛京が揺れるぞ！桜子に迷惑かけるな、父さんにも迷惑をかけるな！」「へへ、冗談だよ」檎は栩の肩を軽く叩いて、ダンスフロアへ向かって歩き出した。今夜は少し飲みすぎたから、酔いを覚ます必要があった。栩は人で溢れるダンスフロアを見つめ、少し息苦しさを感じた。彼は桜子と同じようにタバコの煙が嫌いなので外に出て、少し空気を吸うことにした。幻想的な光と音楽、美女たちの妖艶な体が、ダンスフロアを一層熱くしていた。檎はタバコをくわえ、知らない美女たちと体を寄せて踊っていた。彼のダンスはやや下品だったが、素晴らしかった。しかし、もしイケメンでなければ、通用しなかったかもしれない。突然、檎は甘い香りに気づいた。酒を飲んでいたせいか、その香りが一瞬彼を酔わせ、ぼんやりとした瞬間が訪れた。次の瞬間、女性が檎の胸に飛び込んできた。彼は無意識にその女性の細い腰を抱きしめ、二人の体がぴったりと密着した。いい香り、柔らかい......変わる光の中で、檎はその女性を見下ろし、深く目を細めた。「......桜子？」違う、彼女じゃない。桜子にはあんな痣はないし、あんな甘い香水も使わない。檎は目を見開き、記憶がM国に飛んだ。思わず声を上げた。「お前か？」あの異国で、一度会っただけで忘れられなかった女性だ！「ん......イケメンさん、私のこと知ってるの？でも、私はあなたのこと知らない
冷酷社長の逆襲：財閥の前妻は高嶺の花 第835話
桜子は顎に手をあて、少し考え込んだ。うーん、特に問題はなさそうね。もし陽汰が今、目の前にいる「誘拐事件」の黒幕の女性は神の手だと知ったら、きっと彼は先ほどの賞賛の言葉を深く恥じ、地元で葬式を出したくなるくらい後悔するだろう。「神の手ですら助けに行った男なのに、柳川先生、あなたはその人の人柄を疑うんですか？」桜子は冷静に微笑んで尋ねた。「それじゃあ、あなたはあなたのアイドルの人柄も疑っているってことになりますよ？」この言葉は多少、道徳的に圧力をかけている部分があったが、今の状況では、この狐のような男を丸め込むために仕方ない。陽汰は唇をきつく結び、椅子を引き寄せて、ゆっくり座りなおした。そして、しばらく黙って考え込み、やがて口を開いた。「わかった、神の手の顔を立てるために、仕方なく見てみることにする」桜子は内心で歓喜しながら、表情を崩さず、淡々と答えた。「神の手に代わって、ありがとう」久しぶりに帰国した檎は、家に帰ることなく、むしろ忙しそうに過ごしていた。昼間は家でぐっすり寝て、夜になると外に出たくてたまらないのだ。そのせいで、栩はよく冗談を言う。「お前が昼夜逆転しているのを知っている人は、お前が特殊な職業を持っていると思っているんじゃないか？知らない人は、お前がどうしてこんな生活をしているのか分からないだろうね」檎は栩、樹、桜子を誘って飲みに行こうとしたが、二人は断り、結局栩だけが付き合うことに。だって、檎は酒を誘ってくるときだけは、弟らしく見えるんだ。でも、栩はこっそり肝臓薬を飲み、酔い覚ましの薬も持っていた。そうしないと、正直、ついていけないからだ。二人はバーに着き、目立たない席を選んだ。目立たないようにしたが、高城家の兄弟はその容姿の良さで、どこにいても目立ってしまう。結局、二人はほとんど酒を飲むことができず、女性たちに電話番号を聞かれたり、声をかけられるばかりだった。栩はうんざりしていたが、檎は楽しそうにしていた。「誰かが声をかけてきたら、一杯飲むことにしよう！」と言って、二人は互角に競り合っていた。最後に、檎はもう飲めなくなり、女性たちに言った。「俺には彼女がいるんだ」「ふーん、信じられないわ。もし彼女がいるなら、こんなところに二人で来るわけがないじゃない。完全に狩りでしょ、イケメン
冷酷社長の逆襲：財閥の前妻は高嶺の花 第834話
その場の雰囲気が、急に微妙になり、少し緊張が走った。陽汰は目を大きく見開き、まるで自尊心を傷つけられたように、顔が赤くなった。しばらくして、やっと一言、「え？」と返した。「柳川先生、私の言ったこと聞き取れませんでした？もう、だいぶM国での生活長いですもんね。英語でもう一度説明し直しましょうか？」桜子は、鋭い眼差しを隠しながら、冷たく笑った。こんな笑顔を見せる女性は、滅多にいない。権力者のような威厳と、男のような豪胆さを持っていて、陽汰のような自由な魂すらも圧倒してしまった。「お前の言いたいことは、俺が隼人の病を治せなかったから、治療を拒否したってことか？」陽汰は歯を食いしばって、反論した。「他にどう解釈すればいいんですか？」桜子は肩をすくめて答える。「笑い話だな！」陽汰は机を叩いて、不満をぶつけた。「桜子さん、最近外国に行ってないから、俺がM国での評判が神の手より大きいことを知らないのか？俺は難治の病をいくつも解決してきたし、命を何度も救った。閻王だって俺を敬うくらいだと言ったじゃないか。俺の医術を否定するなんて、どうかしている！」桜子はただ静かに笑いながら、彼が怒る様子をじっと見ていた。突然、陽汰は何かに気づいたように、体を後ろに倒し、狡猾な狐のような目で彼女を見た。「ふっ、お前の挑発に乗りそうだったが、俺はそんな単純な男じゃないよ、桜子」「はぁ、最初は柳川先生がもっと大きな器の持ち主だと思っていたけれど、あなたは『財閥の病は治さない』と言っています。でも宮沢社長は国内でも有名な企業家で、彼が始めた慈善活動で多くの人々を助けてきたことを知っているでしょう？あなたが言うように、あなたの固執が果たして良いことなのですかか？」桜子は自分の言葉に少し驚いた。離婚してからこんなに長い時間が経ったのに、隼人をこんなにも滑らかに褒められるなんて、自分でも信じられなかった。でも、感情を抜きにして言えば、隼人は確かに優れた経営者だ。感情抜きで言えば、ほぼ完璧に近い。だからこそ、桜子は十三年間も彼に心を奪われ続けた。感謝や崇拝の気持ちを抱く女性は、その思いに囚われて抜け出せなくなる。桜子は隼人に対してその両方の気持ちを持っていたから、彼に対する思いを捨てられなかったのだ。「桜子、お前が何を言っても無駄
冷酷社長の逆襲：財閥の前妻は高嶺の花 第833話
樹は書斎に入って、机の前に座った。最初は微笑みを浮かべていたが、その表情は徐々に固まっていった。彼は首を後ろに傾け、ネクタイを引き裂くように外し、さらにいくつかのボタンを外してようやく少し呼吸が楽になった。その時、銀色の十字架が胸元からひとりでに飛び出し、冷たい光を放った。樹は目をゆっくりと閉じ、深く息を吸って乱れた心を静めようとした。その瞬間、頭に浮かんだのは陽汰の美しい顔ではなく、別の男だった。彼が忘れたと思っていたが、心の中で忘れられなかった男。彼の初恋。樹は視線を本棚に向け、二冊の本を手に取った。その時、「カチッ」という音と共に、隠し扉が開いた。中には精密な金庫があった。樹がその男の誕生日と自分の誕生日を入力すると、金庫の扉が開いた。中には数枚の写真、封印された資料、そして黒いベルベットのジュエリーボックスが入っていた。樹はジュエリーボックスを取り出し、開けると、中にはダイヤモンドの指輪が二つ。明らかにカップル用だ。彼はその指輪を左手の薬指に嵌め、古い写真を手に取った。写真の中で、陽光のように清らかな顔立ちの男が後ろから彼を抱きしめていた。その親密な仕草、甘い笑顔。見た者なら誰でも、二人の関係がすぐにわかる。恋人同士だ......その男の目は、陽汰に非常に似ていた。細長く、情熱的な目だ。昨晩、初めてその目を見た時、樹はどうしても引き込まれてしまった。心に埋め込まれていた甘くて苦い記憶が、昨日のことのように鮮明に蘇ってきた。樹は息を呑んで、目を赤くしながら写真を裏返した。そこには小さな字でこう書かれていた。樹、いつか世間が俺たちを許してくれる日が来ることを願っている。「でもお前はその日を待たずに、俺の元を去っていった」彼は目を閉じ、写真に軽くキスをした。死は怖くない。怖いのは、毎日が過去の思い出を呼び覚まし、物を見るたびにその人を思い出すことだ。桜子は自ら料理をして、陽汰に素晴らしい料理を振る舞った。久しぶりに料理をしても、腕が鈍ることはなかった。家のシェフですら、彼女の腕前に感心して、ぜひ教えてほしいと言っていた。一テーブルに並べられた精緻な料理を見て、陽汰はお腹が鳴り、唾を飲み込んだ。「まあ、ただの家庭料理だけど、柳川先生、嫌いじゃないでしょう？」
冷酷社長の逆襲：財閥の前妻は高嶺の花 第832話
「兄さん」陽汰は邪気に眉を上げ、突然身を寄せてきた。「『余計な殷勤は、裏に何かがある』って言葉、聞いたことある？」と、挑戦的に尋ねた。樹は目を上げ、澄んだ瞳が一瞬で陽汰の魂に触れた。二人の距離は非常に近い。樹は自分の眉毛が彼の鼻先に触れそうなほど近く感じた。心が一瞬震えた樹は、深く目を合わせながら言った。「何が言いたい？」「お前は桜子の命令で、わざと俺に取り入ろうとしているのか、それとも本当に俺の足の怪我を気にかけているのか？」陽汰の声は彼の顔立ちほど女性的ではなかったが、それでもその声には人を引き寄せる魅力があった。「お前は桜子が呼んだ客で、敏之さんの甥でもあるから、情理から言って、俺がこうするのは当然だ」樹は目を伏せ、冷静に答えた。「ふむ、さすが社長だな。言葉に隙がない」陽汰はその返答が気に入らなかったのか、顔を背けて答えた。「じゃあ、さよなら。今すぐ飛行機を手配して、一番早い便で帰るよ。送らなくていい」「まだ怒ってるのか？」樹は目を細めて、陽汰の隣に座った。「どう思う？」陽汰は冷たい口調で答えた。「じゃあ、どうすれば怒りはおさまる？」樹は少し考えた後、再度尋ねた。「お前のクソみたいな檎が来て、俺に謝って頭を下げれば、考えてやるよ！」陽汰は、あの風流だった自分が麻袋に詰められ、強制的にここに連れてこられたことを思い出し、顔が赤くなった！一体俺を何だと思ってるんだ？米袋みたいな扱いを！「他の方法は？」樹は微笑みながら尋ねた。「これで決まりだ！」陽汰はそう言って譲らなかった。「それでも、もし俺が言ったところで、あいつは従わないだろう。今ごろどこかに行ってしまった可能性が高い。行き先なんて分からないよ」樹は軽く笑いながら再度提案した。「他の方法を考え直せ。何でもいい」陽汰はふと思い付いて、にやりと笑った。「兄さん、何でもいいって言ったよな？それは簡単に言ってはいけない。できなかったら、恥をかくのは自分だぞ？」「お前が言ったなら、できるかどうかは俺の問題だ」樹は真剣に答えた。「今夜俺に、付き合ってくれるか？」陽汰は手を顎にあて、樹の横顔をじっと見つめた。「どう付き合えばいい？」樹は突然、主導権を握り、彼に近づいて、ウィンザー結びをゆっくりと解
冷酷社長の逆襲：財閥の前妻は高嶺の花 第831話
栩は目を大きく見開き、思わず弟に蹴りを入れたくなった。「ただ、あんなにかっこいい男を見たことがなかったから、ちょっと好奇心が湧いただけだよ！もし彼が化け物だったらどうする？」桜子は呆れて額に手をあてた。想像力が豊かすぎだよ、栩兄！檎は言った。「普通の男が他の男にこんなに興味を持つわけないだろ？」栩は言い返す。「それは俺が若いからだよ。年齢が上がっていくと、好奇心は薄れるんだ」兄弟たちは騒がしく話しながら、夜は過ぎていった。翌日。陽汰は時差ボケで、昼過ぎまで寝ていた。目を開けた瞬間、外からきちんとしたノックの音が聞こえた。最初はドアを開ける気はなかったが、外の人はしつこくノックを続け、ついに耐えきれずにドアを開けた。「何だよ！木魚でも叩いてるのか？うるさいな！」陽汰は寝ぼけ眼をこすりながら、ドアを開けると、そこにはスーツ姿の樹が立っていた。陽汰はその瞬間、動きが止まった。樹は冷静に、上から下へと目線を滑らせた。陽汰の美しい胸筋から腹筋、そして派手なボクサーパンツに目が止まった。その瞳が少し暗くなり、微かな波紋が広がった。「俺、かっこいいか？」陽汰はドア枠に寄りかかり、狐のような目を細めて欠伸をした。陽汰は元々奔放で自由な性格だ。パンツ一枚でも恥ずかしさなんて感じない。でも、樹のような自分の好みど真ん中のイケメンのスーツの禁欲的な男を前にすると、少し緊張して心臓がドキドキした。「そのパンツ、可愛いな」樹の声は低く、艶やかで魅力的だった。陽汰：「......」「陽汰さん、昨晩はよく眠れた？」樹は穏やかな笑みを浮かべて尋ねた。「まあね。誰も温めてくれなかったから、ちょっと寂しかったけど」陽汰は捕まったことに対する不満を、冗談交じりに吐き出した。「入ってもいい？」陽汰は唇をかみしめて、道を開けた。二人はリビングに移動し、陽汰はまるで自分の家のように、ソファにドンと座った。足を組み、黒い瞳で樹を見ながら言った。「朝から急いで来たって、何か用事でもあったのか、兄さん？」その時、陽汰はテーブルの上に医薬箱が置かれているのに気づいた。次の瞬間、樹はひざをついて、陽汰の足首を掴んだ。陽汰の顔が赤くなり、足を少し引っ込めた。「兄さん、いったい何をするんだ？」「足首の傷をちゃんと
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