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第3話

Author: おもちうさぎ
「夏美、一体何を怒ってるんだ。お前にとっては全然たいしたことじゃないだろ……」

結人は私を責めるように言いながら顔を上げたが、私の冷たい視線に気づいて、思わず息をのんだ。

18年間も自分にべったりだった夏美の目から、何かがすっかり消え失せている気がしたんだ。

自分のことを、ただのクラスメイトのように見ていたんだ。

「ええ、あなたの言う通りよ。私にとっては、いつでも手に入る、取るに足らないものよ」

私は冷たくそう言うと、ちょうど着いたマイバッハに乗り込み、結人の前から姿を消した。

……

「夏美。今日は卒業の打ち上げじゃなかったのか?ずいぶん早かったじゃないか。結人くんは一緒じゃなかったの?」

家に帰ると、祖父が玄関先で辺りを見回していた。私の後ろに結人の姿がないので、驚いたようだ。

私は祖父の腕を支えながら、何も言わずに家の中へ入った。祖父はすぐに何かあったと気づいたようだった。

「結人くんと喧嘩でもしたのか?」

私は目を伏せて、長いこと黙っていたけど、やっとのことで無理に笑顔を作った。「おじいちゃん、私、結人とはもう別れたいの。東都中央大学に行くのもやめる」

祖父は少し驚いた顔をしていたけど、何も言わずに、しわの寄った手でそっと私の腕を軽く叩いた。

「そうか。夏美がやると決めたことなら、俺が面倒を見てやるから」

その言葉に、私は目頭が熱くなった。祖父の胸でしばらく泣いた後、自分の部屋に戻った。そして、ちょうど眠りにつこうとしていた時、結人からメッセージが来た。

【合格発表、楽しみだね!東都中央大、俺たち絶対一緒に行くんだよ】

【じゃあ、お休み。明日の朝、すぐに迎えに行くから】

一緒に行くのか、東都中央大学。

私は乾いた笑みを浮かべた。涙が一筋、頬を伝った。

結人、東都中央大学に憧れていたのは、昔からあなただけだよ。

クラス分けだって、本当は嫌いだった理系を選んだのも、あなたがいるからだったのに。

やっぱり、私の選択は間違っていたんだ。

私は返信せず、スマホを置こうとした。その時、別の人からメッセージが届いた。

他校の不良たちからも一目置かれている、あの杉本学(すぎもと まなぶ)からだった。

でも、そんな彼が送ってきたのは、可愛い猫のイラストだった。

【ヘルメットのデザイン、これでいけるか?】

私は思わず笑ってしまい、【どれでもいいよ】と返信した。それきりスマホは鳴らなかった。

次の日の朝、私は結人が来る前に、自分から彼の家へ向かった。

私が拾って、結人に預けている子犬を引き取るために。

家に入ると、信じられない光景が目に飛び込んできた。結人が梨花と一緒に子犬と遊んでいて、しかも彼女は私の部屋着を着ていたのだ。

私が突然現れたのを見て、結人は珍しく慌てた様子で、すぐに言い訳を始めた。

「梨花の家は郊外なんだ。昨日はみんなで遅くまで遊んでたから、それで泊めただけで……」

「どうぞ、お構いなく」

私は興味なさそうに結人の言葉を遮り、子犬に手招きした。すると、すぐにしっぽを振って駆け寄ってきた。

ドッグフードや犬用のベッド、おもちゃも全部まとめて、私は持って帰ることにした。

「ああ、そうだわ」

家を出る前に、私はにっこり笑って、家政婦に言った。

「お手数ですが、私の私物は全部処分してくださいね。それか、あちらの女性にでも差し上げてください。人のものがお好きみたいなので」

私が玄関を出る前に、結人の怒りを帯びた声がした。

「夏美、謝れ!そのわがままな態度はやめろ!親から、人に対する礼儀を教わらなかったのか?」

私は鋭く睨み返した。すると結人は、自分の失言にやっと気づいた。

私の親は、ずっと前に事故で亡くなっている。今は祖父と二人暮らしだ。

結人は慌てて駆け寄って私を抱きしめようとしたけど、私は力いっぱい彼を突き飛ばした。

「どうして私が謝るの?あなたが私のものを梨花にあげるのはいいのに、私が譲るのは侮辱になるわけ?どういう理屈よ」

「お前っ!」

さっきまでの申し訳なさそうな気持ちは、どこかへ消えたみたいだ。結人が何か言い返す前に、梨花がか弱い仕草で彼の口元をそっと押さえた。

「もうやめて。全部、私のせいだから。昨日は私体調を崩したせいで、一晩中介抱させてしまって……疲れてるのに、そんなに怒ったら体に悪いわ」

そう言うと、梨花は涙目のまま私の方を見て、深くお辞儀をした。

「ごめんなさい、夏美。私みたいな貧しい人が、あなたにかなうはずないって分かっている。私、今すぐに出て行くから」

私は子犬を抱いたまま、あざ笑った。心にどうしようもない嫌悪感がこみ上げてくる。

このあざとい女に対してだけじゃない。見る目がなく、思い上がっている結人にも、うんざりだ。

「勘違いしないで。あなたはただ貧しいだけじゃない。あんたは生まれつき人のものばかり欲しがるドブネズミよ」
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