LOGIN二次試験が終わった後、河野結人(こうの ゆいと)はストーリーを更新した。 画像には、【合格通知も君も、俺のものだ!】という一文が添えられていた。 一瞬でコメント欄がお祭り騒ぎになった。 【これが学年トップの人にしかできないロマンスってやつ?】 【これ以上ない、最高の告白だね】 卒業式の日、結人はクラス全員に結構な額のプレゼントを配った。だが、家が裕福ではない井上梨花(いのうえ りか)が急に、それを返したいと言い出した。 「ありがとう。でもこんな高価なものはもらえないわ。いくらお金がなくても、自分の力で頑張らないといけないって、言われてるから」 それを見て、いつもは口数の少ない結人が言った。 「じゃあ、こうしよう。俺と夏美が海外旅行に行く間、うちの犬の世話をしてくれないか。これはバイト代ってことで」 私、菊地夏美(きくち なつみ)は、また御曹司の気まぐれな同情心なんだろうなって、そう思ってた。 でも、その後の打ち上げで、それが全部、結人が仕組んだことだと知ってしまった。 「河野くん、気が利くじゃん。井上さんが受け取らないと思って、わざとみんなにも送ったんだろ」 「お前、分かってないな。困ってる子を助けてるんだよ。この前も井上さんがバイト先で客に絡まれてた時、河野くんが相手を病院送りにしたんだぜ」 ドアを開けようとした手が止まった。息もできないほど、体が震えていた。 そうだったんだ。結人が、私の一度きりの18歳の誕生日に来られなかったのは、事故に遭ったからじゃなかった。他の女のために、喧嘩してたなんて。 結人のクールな表情が、こわばった。彼は現金の束をいくつかテーブルに投げ捨てた。 「もうその話はやめろ。夏美に聞かれたら、またお嬢様が騒ぎ出すぞ」 誰かがぼそっとつぶやいた。「やっぱり井上さんだよな。優しくて、可愛くて、純粋で」 私は自嘲気味に笑うと、すぐに開き直って、学校で一番の不良からのバイクレースの誘いを受けた。 そういうことなら、結人、あなたのその優しい同情心、叶わせてあげるね。
View More学はきょとんとした後、すぐに満面の笑みを浮かべた。「うん、夏美の言う通りにするよ」その笑顔がなんだか不思議で、私はわざと肩をぶつけてみた。「もう、なにニヤニヤしてるの」その光景を見た結人は、ついに感情が爆発した。「夏美、じゃあ俺は?俺はどうすればいいんだ!」綿棒を持つ手が止まった。私はゆっくり顔を上げて、静かに答えた。「病院にいたあの日、あなたが私の味方になってくれなかった時、私はもう言ったはずだよ。結人、もうあなたなんていらないわ」その言葉はまるで雷のようで、結人は何度も首を横に振った。「いやだ、認めない、そんなの絶対に認めない……」「でも、あの時はあなたも頷いたじゃない?だからもう、私の家から出ていって」結人は絶望した顔で私の方に這ってこようとした。あんなに惨めな彼の姿は、初めて見た。「夏美、許してくれ、頼むから。梨花とは本当に何もないんだ」「もう、どうでもいいの」手当てを終え、救急箱を片付けると、私は自分から学の手を握った。「結人が出て行かないなら、私たちが行こう」学の瞳は、星が降ってきたかのようにきらめき、彼は何も言わず、すぐに私を連れ出した。バイクの後ろに乗って、夕日の中を駆け抜けた。耳元を通り過ぎていく風は、まるで青春そのものみたいだった。学の腰に回した腕に、無意識に力が入る。背中に体を預けると、彼のドキドキという心臓の音が、まるでドラムのように大きく聞こえた。「私のこと、ずっと前から好きだったでしょ」私の小さな声は、学の耳にはちゃんと届いていた。「うん。オリエンテーションで初めて会った時から、ずっと好きだった。でも、お前の隣にはもう河野がいたからね」学は3年間ずっと我慢してた。とっくに私の連絡先を知ってたのに、卒業の時にやっと勇気を出して、ダメ元であのバイクレースの誘いを送ったんだって。でも、信じられないことに、私がその誘いに乗ったんだ。バイクはあてもなく街を走り続けたけど、誰も「止まろう」とは言わなかった。スピードが速いせいなのかな。私の心臓も、どんどん速く脈打っていた。それからしばらく、学は毎日私をあちこちに連れ出してくれた。一緒に街を巡るうちに、私も少しずつ彼のことを知っていった。でも、祖父から聞いた話では、結人は毎日家の前で私を待っていて、熱中症で何度も
梨花は顔を覆ってゆっくりとしゃがみこみ、すすり泣きを続けた。私が祖父と車に乗ろうとしたとき、一台のバイクがやってきて、私のそばに止まった。「学、まだ帰ってなかったの?」学はヘルメットを脱いで、祖父の方へ手を差し出した。「菊地会長、こんにちは」祖父は一瞬驚いた顔をして、私と学の顔を交互に見た。「どういう知り合いなんじゃ?」その言葉を聞いて、私もぽかんとしてしまった。「おじいちゃん、学のこと知ってるの?」学は、驚いている私と祖父を静かに見てから、少し変わった自己紹介をした。「杉本学です。夏美とは隣のクラスで、杉本グループの後継ぎでもあります」杉本グループの跡取り?菊地グループと一番大きな取引をしている、あの杉本グループ?私は驚いて学を見つめた。しばらくしてやっと我に返り、「ま……まずは、うちに帰ろう」と言った。じっと動かないでいる学を見て、私は少し考えてから、彼のバイクの後ろに乗った。祖父はまた驚いた顔をしたが、最後はにこやかにうなずいてくれた。家に着いてから、私が東都海洋大学に進学すると話すと、二人はさらに信じられないという顔をした。「まさか……この前ラインでどこの大学にしたか聞いてきたのって、もしかしてこのことのため?」私はぱちぱちと瞬きをしたが、学と祖父がなぜそんなに驚いているのかよく分からなかった。「どうしたの?私が東都海洋大学に行っちゃだめなの?」祖父は私の真似をしてぱちりと瞬きをすると、すぐに豪快な笑い声をあげた。「いい、いい。お前たちももう大人だ。自分のことは自分で決めなさい」学は無意識に頭をかいて、少し照れているようだった。私は思わず学をからかった。「どうした?嫌なの?」「そんなわけないだろ!同じ大学に行けたら、どれだけ嬉しいか!でも俺の成績じゃ足りなさそうだったから、東都中央大学と同じ街にある東都海洋大学を選んだんだ」突然、まるで飼い主に忠誠を誓うもふもふの大型犬みたいになった学を見て、私の心になぜか温かいものがこみ上げてきた。「分かった、分かった。でも、すごいね。半年間頑張っただけで東都海洋大学に受かるなんて。東都中央大学の次くらいに難しい大学なのに」学が漆黒の瞳でまっすぐに私を見つめる。何か決心をしたようだった。「お前がいたからだ。お前とずっと一緒に
「このバカ者!」今度は、いつも穏やかな美穗まで厳しい顔になって立ち上がった。もどかしそうに結人を見て、「あなたは夏美ちゃんの成人式に来なかったでしょ。そのお詫びとして、私がこのドレスを贈ったのよ。夏美ちゃんとの婚約の時に着せるつもりだったのに、それを他の女にあげてしまうなんて!」結人は信じられないという顔で振り返り、そのドレスを見て、はっとした。これがあの日夏美が不機嫌だったわけだ。そういうことだったのか。でも、どうして何も言ってくれなかったんだ……その言葉を聞いて、梨花は慌てて一歩前に出ると、ドレスを脱ごうとする素振りを見せた。「すみません、結人はわざとじゃありませんから、彼に怒らないでください!」梨花は結人が止めてくれると思っていた。しかし、結人はうつむいたまま、呆然としているだけだった。美穗は鼻を鳴らし、優雅に腰を下ろした。「たかがドレス一枚よ。他の人が一度でも袖を通したものは、もう夏美ちゃんには相応しくないわ。彼女が気に入るなら、同じものをいくらでも買ってあげるから」梨花は気まずそうにドレスの裾を握りしめ、それでも諦めずに野菜をテーブルに置いた。「これ、私の祖父が作ったものなんです。オーガニックで、街の人たちもわざわざ村まで買いに来るんです」美穗はそれには目もくれず、夏美の祖父が持ってきたお茶を一口味わった。さすがは菊地家のもの、どれも一級品だ。美穗は湯呑みを置くと、意味深な口調で言った。「それは本当に良い野菜なのね。でも、あなたの無実を証明してくれたのは、結人だけじゃないはずよ。他のクラスメートにはお礼をしたのかしら?」「いえいえ、そんな……全部、結人のために持ってきたんです」梨花は必死に手を横に振った。結人が自分にとっていかに特別かをアピールしながらも、その視線は美穗が身につけている高価なジュエリーに思わず吸い寄せられていた。「結人、この方はあなたのお母さんなの?すごく気品のある方ね」結人は一歩後ろに下がり、梨花から距離を取った。「お前に知る資格はない」「え?」その一言で、梨花は現実に引き戻された。気まずそうに振り返り、「結人、それ、どういう意味?」と尋ねた。結人は答えず、ハンカチで手を包むようにして、梨花の手を取った。梨花の顔に、ぱっと喜びの色が浮かんだ。しかし、次の瞬間には、
私は鼻で笑い、彼に話をそらす隙を与えなかった。「それで、結人。証言が終わった後、一体どこで何をしていたの?」結人は、何とも言えない顔で私を見た。この先の会話がどんな結果を招くか察したのか、彼はとっさに私の手を掴もうとした。「梨花がショックを受けて、一人で家にいられないって言うから、それで……」それを聞いて、私よりも渉の方が声を荒げた。「だから何だ!はっきり言え!」結人は、緊張からか何度か息を荒げた。「それで……ホテルで3日間、一緒に過ごしたんだ」「何だって!」美穗も、もうじっと座ってはいられなかった。胸を押さえて、ショックのあまり気を失いそうになっている。結人は慌てて、私の方へ身を乗り出しながら付け加えた。「誤解だ!母さんたちが考えているようなことじゃない。俺以外にも、同級生がたくさんいたんだ!」私は結人が伸ばしてきた手を避けると、ひどくがっかりしながら再び尋ねた。「じゃあ、一度も二人きりになることはなかったの?」今度は、結人の瞳が揺れていた。彼は完全に黙り込んでしまった。私は深いため息をつき、スマホを取り出した。そして、梨花とのラインのやり取りを画面に出して、机の上に置いた。「やっぱり、私の勘違いじゃなかったみたいね。これを見て」美穗が、それをひったくるようにして画面を覗き込んだ。そのやり取りには写真も一枚あった。ソファで結人が眠っていて、梨花はベッドの上で肩と鎖骨をあらわにしていた。美穗は目の前が真っ暗になり、気を失いかけた。結人は椅子に崩れ落ちんばかりに座り込み、必死に私に説明しようとした。「夏美、違うんだ。お前が想像しているようなことじゃない。俺と梨花の間には、本当に何もなかったんだ」私は首を振った。もうその言い訳を聞きたくはなかった。「あなたが梨花とどうこうなるつもりがなくても、彼女の方があなたと何かありたいみたいだね。そんなに同情するなら、最後まで面倒を見てあげなさいよ。私たちの婚約は、これで破棄しよう」このやり取りを見て、河野家の人たちも、もはや修復は不可能だと悟ったようだ。彼らは、おずおずと尋ねた。「あのう、菊地会長、例の提携の話ですが……」「その件もなかったことにしょう」祖父は、私がこんなに辛い思いをしていたことを初めて知り、可哀想にと私の手を握りしめてくれ