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出会いも別れも、答えのない青春

出会いも別れも、答えのない青春

By:  おもちうさぎCompleted
Language: Japanese
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二次試験が終わった後、河野結人(こうの ゆいと)はストーリーを更新した。 画像には、【合格通知も君も、俺のものだ!】という一文が添えられていた。 一瞬でコメント欄がお祭り騒ぎになった。 【これが学年トップの人にしかできないロマンスってやつ?】 【これ以上ない、最高の告白だね】 卒業式の日、結人はクラス全員に結構な額のプレゼントを配った。だが、家が裕福ではない井上梨花(いのうえ りか)が急に、それを返したいと言い出した。 「ありがとう。でもこんな高価なものはもらえないわ。いくらお金がなくても、自分の力で頑張らないといけないって、言われてるから」 それを見て、いつもは口数の少ない結人が言った。 「じゃあ、こうしよう。俺と夏美が海外旅行に行く間、うちの犬の世話をしてくれないか。これはバイト代ってことで」 私、菊地夏美(きくち なつみ)は、また御曹司の気まぐれな同情心なんだろうなって、そう思ってた。 でも、その後の打ち上げで、それが全部、結人が仕組んだことだと知ってしまった。 「河野くん、気が利くじゃん。井上さんが受け取らないと思って、わざとみんなにも送ったんだろ」 「お前、分かってないな。困ってる子を助けてるんだよ。この前も井上さんがバイト先で客に絡まれてた時、河野くんが相手を病院送りにしたんだぜ」 ドアを開けようとした手が止まった。息もできないほど、体が震えていた。 そうだったんだ。結人が、私の一度きりの18歳の誕生日に来られなかったのは、事故に遭ったからじゃなかった。他の女のために、喧嘩してたなんて。 結人のクールな表情が、こわばった。彼は現金の束をいくつかテーブルに投げ捨てた。 「もうその話はやめろ。夏美に聞かれたら、またお嬢様が騒ぎ出すぞ」 誰かがぼそっとつぶやいた。「やっぱり井上さんだよな。優しくて、可愛くて、純粋で」 私は自嘲気味に笑うと、すぐに開き直って、学校で一番の不良からのバイクレースの誘いを受けた。 そういうことなら、結人、あなたのその優しい同情心、叶わせてあげるね。

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Chapter 1

第1話

二次試験が終わった後、河野結人(こうの ゆいと)はストーリーを更新した。

画像には、【合格通知も君も、俺のものだ!】という一文が添えられていた。

一瞬でコメント欄がお祭り騒ぎになった。

【これが学年トップの人にしかできないロマンスってやつ?】

【これ以上ない、最高の告白だね】

卒業式の日、結人はクラス全員に結構な額のプレゼントを配った。だが、家が裕福ではない井上梨花(いのうえ りか)が急に、それを返したいと言い出した。

「ありがとう。でもこんな高価なものはもらえないわ。いくらお金がなくても、自分の力で頑張らないといけないって、言われてるから」

それを見て、結人は珍しく口を開いた。

「じゃあさ、俺と夏美が海外旅行に行くから、その間うちの犬の世話をしてくれない?それをバイトってことにしよう」

私、菊地夏美(きくち なつみ)は、また御曹司の気まぐれな同情心なんだろうなって、そう思ってた。

でも、その後の打ち上げで、それが全部、結人が仕組んだことだと知ってしまった。

「河野くん、気が利くじゃん。井上さんが受け取らないと思って、わざとみんなにも送ったんだろ」

「お前、分かってないな。困ってる子を助けてるんだよ。この前も井上さんがバイト先で客に絡まれてた時、河野くんが相手を病院送りにしたんだぜ」

ドアを開けようとした手が止まった。息をするのも苦しいくらい、体が震えた。

そうだったんだ。結人が、私の一度きりの18歳の誕生日に来られなかったのは、事故に遭ったからじゃなかった。他の女のために、喧嘩してたなんて。

結人はクールな顔をさらにこわばらせて、お札の束をいくつか投げ出した。

「もうその話はやめろ。夏美に聞かれたら、またお嬢様が騒ぎ出すぞ」

誰かがぼそっと呟くのが聞こえた。「やっぱり井上さんだよな。優しくて、可愛くて、純粋だし」

私は自嘲気味に笑うと、すぐに開き直って、学校で一番の不良からのバイクレースの誘いを受けた。

もういい。

そういうことなら、結人、あなたのその優しい同情心、叶わせてあげるね。

……

「お、菊地さん、やっと来た!」

男子たちが結人に目配せしている。私に気づくと、退屈そうだった結人の顔に、ようやく笑みが浮かんだ。

「夏美、今日生理の日だろ。冷たいものは良くない」

結人は大事そうに抱えていたホットミルクティーを私の手にくれた。それを見て、胸の奥がキュッと痛くなった。

18年も一緒にいれば、私のことなら何でも覚えてくれている。

でも、結人が忘れていることが一つだけあった。それは、私が欲しいのは、他の誰にも分け与えられない、特別な愛情だっていうこと。

私は深呼吸をして、別れを切り出そうとした時、誰かの驚きの声に言葉を遮られた。

「うそ、あれって井上さん?いつもの、洗いざらしの制服で来るんだと思ってた」

「やばい、あんなに可愛かったんだ。菊地さんに負けないくらいじゃん」

クラスの男子たちはみんな目を丸くしている。でも隣にいる親友の横山光希(よこやま みつき)は、さっと顔色を変えた。

「夏美、なんで河野くん、あのドレスまで……」

私は光希の手をそっと押さえて、静かに首を振った。「もういいの、気にしないで」

どうせ結人が私のものを梨花にあげたのは、これが初めてじゃないし。

でも結人は知らない。あのドレスは彼とのペアルックで、彼の母親の河野美穗(こうの みほ)が私の成人のお祝いにプレゼントしてくれたものだってこと。

そして、私と結人が婚約する日に、二人でそれを着てほしいって言ってたんだ。

きっと彼女も思っていなかっただろう。私と結人の未来が、彼自身の手で他の誰かに渡されることになるなんて。

「夏美、どうせお前の服なんて一回着たら捨てるんだろ。だったら、いいことしてやれよ」

結人は梨花の方を見ようともせず、私のために葡萄の皮を剥くことに集中していた。

でも、海外から空輸されてきたというその高級な葡萄は、匂いを嗅ぐだけで、胸が苦しくなった。

いいこと、ね。結人はいつもそうだった。

私の許可もなく、私の服も、靴も、カバンも、おまけに新品の可愛い下着まで、全部あげちゃうんだ。

そのたびに、どうせまた買えるだろ、とか、ケチケチするなよ、とか言うの。

私が彼の言う「お嬢様」だから、梨花に何でも譲ってあげるのが、当たり前なんだって。

結人が皮を剥いた葡萄を口元に持ってきたけど、私は顔をそらして避けた。

彼は少し眉をひそめて、クールな顔で不思議そうに言った。「夏美、どうしたんだ?」

私は俯いたまま、できるだけ平静を装って言った。「なんでもない。私たち、別れよう」

でもその言葉は、カラオケで突然かかった大音量の音楽に消されてしまった。顔を上げた時には、もう梨花が私たちの前に立っていた。

「ありがとうね」

「え?」

周りがうるさくて、梨花は仕方なく結人の耳元に顔を寄せた。かがんだせいで、胸元が大きく開いたのが見えた。

私は無表情で立ち上がると、光希を引っ張ってタブレットの前に座り、あてもなく曲のリストをスクロールした。

「夏美、一体どうした?また誰かに何か言われた?まさか、あのドレスのこと?」
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第1話
二次試験が終わった後、河野結人(こうの ゆいと)はストーリーを更新した。画像には、【合格通知も君も、俺のものだ!】という一文が添えられていた。一瞬でコメント欄がお祭り騒ぎになった。【これが学年トップの人にしかできないロマンスってやつ?】【これ以上ない、最高の告白だね】卒業式の日、結人はクラス全員に結構な額のプレゼントを配った。だが、家が裕福ではない井上梨花(いのうえ りか)が急に、それを返したいと言い出した。「ありがとう。でもこんな高価なものはもらえないわ。いくらお金がなくても、自分の力で頑張らないといけないって、言われてるから」それを見て、結人は珍しく口を開いた。「じゃあさ、俺と夏美が海外旅行に行くから、その間うちの犬の世話をしてくれない?それをバイトってことにしよう」私、菊地夏美(きくち なつみ)は、また御曹司の気まぐれな同情心なんだろうなって、そう思ってた。でも、その後の打ち上げで、それが全部、結人が仕組んだことだと知ってしまった。「河野くん、気が利くじゃん。井上さんが受け取らないと思って、わざとみんなにも送ったんだろ」「お前、分かってないな。困ってる子を助けてるんだよ。この前も井上さんがバイト先で客に絡まれてた時、河野くんが相手を病院送りにしたんだぜ」ドアを開けようとした手が止まった。息をするのも苦しいくらい、体が震えた。そうだったんだ。結人が、私の一度きりの18歳の誕生日に来られなかったのは、事故に遭ったからじゃなかった。他の女のために、喧嘩してたなんて。結人はクールな顔をさらにこわばらせて、お札の束をいくつか投げ出した。「もうその話はやめろ。夏美に聞かれたら、またお嬢様が騒ぎ出すぞ」誰かがぼそっと呟くのが聞こえた。「やっぱり井上さんだよな。優しくて、可愛くて、純粋だし」私は自嘲気味に笑うと、すぐに開き直って、学校で一番の不良からのバイクレースの誘いを受けた。もういい。そういうことなら、結人、あなたのその優しい同情心、叶わせてあげるね。……「お、菊地さん、やっと来た!」男子たちが結人に目配せしている。私に気づくと、退屈そうだった結人の顔に、ようやく笑みが浮かんだ。「夏美、今日生理の日だろ。冷たいものは良くない」結人は大事そうに抱えていたホットミルクティーを私
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第2話
結人はカラオケのタブレットをだるそうに持っていて、私に話しかけているようだけど、その目は画面をさまよっている。私は鼻で笑って、バースデーソングを一番上に割り込み予約した。「これ、探してたんでしょ?」付き合いが長いから、結人が何を考えているかなんて、お見通しだ。結人はきょとんとして、信じられないという顔をした。いつもなら、私が梨花のことで嫉妬して、怒ってばかりだったから。結人はご褒美みたいに私のおでこにキスをして言った。「俺の夏美も、ようやく大人になったんだな」私はさりげなく額に触れて、彼の唇のぬくもりを完全にぬぐい去った。結人はまだ分かってない。私が大人になったんじゃなくて、気にしてないふりを頑張ってしてるだけだってことを。結人が画面に触れると、さっきまでガンガンに流れていた曲がぴたりと止まった。バースデーソングの軽快なメロディーが流れ出すと、梨花が嬉しそうに結人を見つめた。「今日は、梨花の18歳の誕生日だ。みんなで『ハッピーバースデー』を歌ってやろうぜ!」個室は一気に盛り上がった。中には、梨花の前で騎士みたいにお辞儀をする男子までいた。でも梨花の視線は、周りの人たちを通り越して、静かに結人だけを見つめていた。まるで、「ありがとう」と、二人だけの言葉を交わしているみたいに。「せっかくの18歳の誕生日なんだから、プレゼントがないと始まらないだろ」誰かがそう言うと、みんなポケットやカバンをごそごそと探り始めた。結人も周りを見回していたけど、最後に視線は私の手首で止まった。「夏美、そのブレスレット、もう何年も着けてるだろ。この機会にプレゼントしちゃいなよ。新しいのは、俺が買ってやるからさ」その言葉に、私は一瞬息を呑んだ。そして信じられない気持ちで、聞き返した。「結人、本気で言ってるの?」これは、結人が私に告白してくれた時にくれた、思い出のブレスレットだ。だから、他の目上の人からどんなに高価なブレスレットを貰っても、一度も外したことはなかったのに。それなのに今、結人は自らそれを人にあげろと言っている。「当たり前だろ。そんなデザイン、もうとっくに流行遅れだよ。お前には似合わない」そう言って、結人はどうでもいいことのように私の腕からそれを外そうとした。私は黙って、されるがままになった。み
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第3話
「夏美、一体何を怒ってるんだ。お前にとっては全然たいしたことじゃないだろ……」結人は私を責めるように言いながら顔を上げたが、私の冷たい視線に気づいて、思わず息をのんだ。18年間も自分にべったりだった夏美の目から、何かがすっかり消え失せている気がしたんだ。自分のことを、ただのクラスメイトのように見ていたんだ。「ええ、あなたの言う通りよ。私にとっては、いつでも手に入る、取るに足らないものよ」私は冷たくそう言うと、ちょうど着いたマイバッハに乗り込み、結人の前から姿を消した。……「夏美。今日は卒業の打ち上げじゃなかったのか?ずいぶん早かったじゃないか。結人くんは一緒じゃなかったの?」家に帰ると、祖父が玄関先で辺りを見回していた。私の後ろに結人の姿がないので、驚いたようだ。私は祖父の腕を支えながら、何も言わずに家の中へ入った。祖父はすぐに何かあったと気づいたようだった。「結人くんと喧嘩でもしたのか?」私は目を伏せて、長いこと黙っていたけど、やっとのことで無理に笑顔を作った。「おじいちゃん、私、結人とはもう別れたいの。東都中央大学に行くのもやめる」祖父は少し驚いた顔をしていたけど、何も言わずに、しわの寄った手でそっと私の腕を軽く叩いた。「そうか。夏美がやると決めたことなら、俺が面倒を見てやるから」その言葉に、私は目頭が熱くなった。祖父の胸でしばらく泣いた後、自分の部屋に戻った。そして、ちょうど眠りにつこうとしていた時、結人からメッセージが来た。【合格発表、楽しみだね!東都中央大、俺たち絶対一緒に行くんだよ】【じゃあ、お休み。明日の朝、すぐに迎えに行くから】一緒に行くのか、東都中央大学。私は乾いた笑みを浮かべた。涙が一筋、頬を伝った。結人、東都中央大学に憧れていたのは、昔からあなただけだよ。クラス分けだって、本当は嫌いだった理系を選んだのも、あなたがいるからだったのに。やっぱり、私の選択は間違っていたんだ。私は返信せず、スマホを置こうとした。その時、別の人からメッセージが届いた。他校の不良たちからも一目置かれている、あの杉本学(すぎもと まなぶ)からだった。でも、そんな彼が送ってきたのは、可愛い猫のイラストだった。【ヘルメットのデザイン、これでいけるか?】私は思わず笑ってしまい
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第4話
私はきっぱりと背を向け、聞こえてくる泣き声には聞こえないふりをした。子犬を落ち着かせてから、これからの進路のことを思い出した私は、何かに導かれるように学にメッセージを送った。【大学はどこ行くの?】返事はすぐにきた。【東都海洋大学だよ】私は【わかった】とだけ返信し、もし受かっても東都中央大学には行かず、すでに合格している東都海洋大学に進むことに決めた。祖父にそのことを伝えようと階下へ向かうと、結人が梨花と一緒にユリの花束を抱えて入ってくるところだった。こめかみがドクンと脈打ち、私は急いで階段を駆け下りた。「出ていけ!」私の言葉を聞いて、結人はついに堪忍袋の緒が切れたようだった。「夏美!どうしてそんな風になってしまったんだ!お前がさっき梨花にあんなひどいことを言っても、彼女は怒らなかった。それどころか、自分から謝りたいとまで言ったんだぞ!梨花が半年もためたお小遣いでこの花束を買ったって知ってるのか!それなのに出ていけだなんて!」その時の私は既にパニックになっていて、二人を外へ押し出そうとした。「結人、おじいちゃんがユリアレルギーだって知ってるくせに!わざと持ってきたのね!」私の言葉で、結人はようやく思い出したらしい。「ごめん、花屋でこれが一番安かったから、急いでて……」「出ていって!」私は声を枯らして叫んだけど、祖父が書斎から出てくるのを止めることはできなかった。一口吸い込んだだけで、祖父の顔は真っ赤に腫れ上がり、首を押さえて息ができなくなってしまった。「救急車呼んで!」救急処置室に着くと、私はいてもたってもいられずに廊下を行ったり来たりした。結人は私を見て、かける言葉もないようだった。梨花がしくしくと泣いているのを見ると、結人はたまらず彼女を抱き寄せた。「泣かないで。夏美のおじいさんは大したことないから」「大したことない?」私の目は血走り、まるで相手を食い殺さんばかりの勢いだった。「結人、おじいちゃんが私のたった一人の親族だって知ってるのに、ユリの花束で殺そうとしたのね!ユリが安いからって、梨花のくだらないプライドを守るために!おじいちゃんの命を奪う気だったんでしょ!」少しは申し訳なく思うかと期待していたのに、まさか結人があんなに落ち着き払っているなんて。
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第5話
「夏美、みんなに何かされたんでしょ?ごめんね、もっと早く来ればよかった」光希は泣きながら、あたふたと私の涙を拭ってくれた。だって、光希と友達になったこの12年間で、私が人前で泣いたことなんて数えるほどしかなかったから。ましてや、こんなに悔しそうに泣くなんて、初めてだった。学はずっと私の背中をさすって、慰めてくれた。「大丈夫、俺たちがいるから。怖くないよ」二人は一緒に廊下にいてくれた。どれくらい時間が経っただろう、ようやく救急処置室のドアが開いた。私は祖父のベッドに駆け寄った。彼が私を見て目を開けてくれたから、やっと心の底からほっとした。……一方で、病院の玄関を出たばかりの結人は、少し後悔し始めていた。特に、夏美の光のない瞳を思い出すと、なぜかぞっとした。まるで、このまま立ち去ってしまったら、もう二度と会えないような気がしたんだ。ちょうどその時、誰かがこう言った。「菊地さんがあんなふうに、みんなに置いていかれるなんて初めてだよな。なんだかちょっと可哀想に見えたよ。たった一人の親族なんだから、心配になるのも当たり前だろ」結人は思わず足を止めた。今すぐにでも引き返したい気持ちを抑えきれなかった。それを見た梨花は、とっさに彼の手を掴んだ。「夏美のところに戻ってあげて。全部、私が悪いの。治療費は必ず彼女に返すから」その言葉を聞いて、クラスのみんながまたざわつき始めた。「金持ちだからって、人に土下座させるなんて、ひどすぎるよな」「それに、井上さんをいじめるためだけに、河野くんに別れるって脅してたんだぞ。なのに、なんで菊地さんのこと庇うんだよ」結人の瞳が揺れた。心の中で葛藤が渦巻いていたけど、結局は歯を食いしばって、そのまま歩き続けた。さっき、夏美に「いらない」と言われたことを思い出すと、怒りがどんどん込み上げてきた。どんな理由があっても、別れをちらつかせて脅すなんて、許されることじゃない。だって、昔二人は約束したんだ。何があっても、別れ話を冗談で口にするのはやめようって。「夏美のどこが可哀想なんだ。俺が甘やかしたから、わがままになっただけだ。あんな性格、懲らしめてやらないと」その後、結人はわざとみんなを連れて打ち上げに行ったが、その間もずっとスマホばかり気にしていた。たくさんの人から
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第6話
私はヘルメットをかぶり、学の手を借りて、バイクの後ろにまたがった。バイクはすぐに爆音を立てた。まるで結人をあざ笑っているかのようだ。学はアクセルをふかし、私を乗せて走り去っていった。……私が料亭の個室に着いたときには、すでに両家の人たちが席に着いていた。私を見るなり、美穗は心配そうな顔をした。「あら、夏美ちゃん、ずいぶん痩せたみたいね。結人がちゃんと面倒見てくれてないのね」結人はちらっと私に視線を向けた。いつものように私が甘えて、彼の悪口を言うとでも思ったのだろう。でも、私はただ静かに微笑んだだけだった。「美穗さん、私はもう大人です。自分のことは自分でできますから。これからは、もう結人の手を煩わせることもありません」結人は驚いて目を大きく見開き、信じられないという顔で私を見たが、まだ強がっていた。「手を煩わせない?口ではなんとでも言えるよな。東都中央大学に行ったら、どうせまた俺をパシリに使うくせに」美穗が怒ったふりをして結人の背中を軽く叩くと、河野家の人たちはどっと笑った。でも、祖父だけは真剣な顔で私と目を合わせていた。もう、しないから。結人。東都中央大学には行かない。子供のころに決められた婚約も、もういらない。結人は私の反応をじっと見ていた。私が落ち着いているのを見て、心の中でますます首をかしげた。今までは、親族たちがこのことで私たちをからかっても、私はまったく恥ずかしがらなかった。むしろ、わざと結人に抱きついて、みんなの前で堂々と「ずっと一緒にいるよ」なんて言っていたのだ。なのに今は、ただ静かに座っているだけ。結人はもう一度、私のことを深く見つめた。一体どうしたんだ?まだ怒ってるのか?結人は少し考えると、カボチャのポタージュを一杯よそい、私の手元に置いてくれた。「お前のために頼んだんだ。熱いから気をつけて」私はお椀から立ち上る湯気を見ながら少し口を尖らせて、そっと向こうへ押しやった。「いいよ。ありがとう」「なんで?カボチャのポタージュが一番好きだったじゃないか。いつも俺によそってくれって言ってたのに」結人の心の中では不安がどんどん大きくなり、声も思わず大きくなった。でも、私はただ感情の無い視線で彼を見つめ返した。「理由なんてないよ。ただ、もう何も好きじゃな
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第7話
私は鼻で笑い、彼に話をそらす隙を与えなかった。「それで、結人。証言が終わった後、一体どこで何をしていたの?」結人は、何とも言えない顔で私を見た。この先の会話がどんな結果を招くか察したのか、彼はとっさに私の手を掴もうとした。「梨花がショックを受けて、一人で家にいられないって言うから、それで……」それを聞いて、私よりも渉の方が声を荒げた。「だから何だ!はっきり言え!」結人は、緊張からか何度か息を荒げた。「それで……ホテルで3日間、一緒に過ごしたんだ」「何だって!」美穗も、もうじっと座ってはいられなかった。胸を押さえて、ショックのあまり気を失いそうになっている。結人は慌てて、私の方へ身を乗り出しながら付け加えた。「誤解だ!母さんたちが考えているようなことじゃない。俺以外にも、同級生がたくさんいたんだ!」私は結人が伸ばしてきた手を避けると、ひどくがっかりしながら再び尋ねた。「じゃあ、一度も二人きりになることはなかったの?」今度は、結人の瞳が揺れていた。彼は完全に黙り込んでしまった。私は深いため息をつき、スマホを取り出した。そして、梨花とのラインのやり取りを画面に出して、机の上に置いた。「やっぱり、私の勘違いじゃなかったみたいね。これを見て」美穗が、それをひったくるようにして画面を覗き込んだ。そのやり取りには写真も一枚あった。ソファで結人が眠っていて、梨花はベッドの上で肩と鎖骨をあらわにしていた。美穗は目の前が真っ暗になり、気を失いかけた。結人は椅子に崩れ落ちんばかりに座り込み、必死に私に説明しようとした。「夏美、違うんだ。お前が想像しているようなことじゃない。俺と梨花の間には、本当に何もなかったんだ」私は首を振った。もうその言い訳を聞きたくはなかった。「あなたが梨花とどうこうなるつもりがなくても、彼女の方があなたと何かありたいみたいだね。そんなに同情するなら、最後まで面倒を見てあげなさいよ。私たちの婚約は、これで破棄しよう」このやり取りを見て、河野家の人たちも、もはや修復は不可能だと悟ったようだ。彼らは、おずおずと尋ねた。「あのう、菊地会長、例の提携の話ですが……」「その件もなかったことにしょう」祖父は、私がこんなに辛い思いをしていたことを初めて知り、可哀想にと私の手を握りしめてくれ
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第8話
「このバカ者!」今度は、いつも穏やかな美穗まで厳しい顔になって立ち上がった。もどかしそうに結人を見て、「あなたは夏美ちゃんの成人式に来なかったでしょ。そのお詫びとして、私がこのドレスを贈ったのよ。夏美ちゃんとの婚約の時に着せるつもりだったのに、それを他の女にあげてしまうなんて!」結人は信じられないという顔で振り返り、そのドレスを見て、はっとした。これがあの日夏美が不機嫌だったわけだ。そういうことだったのか。でも、どうして何も言ってくれなかったんだ……その言葉を聞いて、梨花は慌てて一歩前に出ると、ドレスを脱ごうとする素振りを見せた。「すみません、結人はわざとじゃありませんから、彼に怒らないでください!」梨花は結人が止めてくれると思っていた。しかし、結人はうつむいたまま、呆然としているだけだった。美穗は鼻を鳴らし、優雅に腰を下ろした。「たかがドレス一枚よ。他の人が一度でも袖を通したものは、もう夏美ちゃんには相応しくないわ。彼女が気に入るなら、同じものをいくらでも買ってあげるから」梨花は気まずそうにドレスの裾を握りしめ、それでも諦めずに野菜をテーブルに置いた。「これ、私の祖父が作ったものなんです。オーガニックで、街の人たちもわざわざ村まで買いに来るんです」美穗はそれには目もくれず、夏美の祖父が持ってきたお茶を一口味わった。さすがは菊地家のもの、どれも一級品だ。美穗は湯呑みを置くと、意味深な口調で言った。「それは本当に良い野菜なのね。でも、あなたの無実を証明してくれたのは、結人だけじゃないはずよ。他のクラスメートにはお礼をしたのかしら?」「いえいえ、そんな……全部、結人のために持ってきたんです」梨花は必死に手を横に振った。結人が自分にとっていかに特別かをアピールしながらも、その視線は美穗が身につけている高価なジュエリーに思わず吸い寄せられていた。「結人、この方はあなたのお母さんなの?すごく気品のある方ね」結人は一歩後ろに下がり、梨花から距離を取った。「お前に知る資格はない」「え?」その一言で、梨花は現実に引き戻された。気まずそうに振り返り、「結人、それ、どういう意味?」と尋ねた。結人は答えず、ハンカチで手を包むようにして、梨花の手を取った。梨花の顔に、ぱっと喜びの色が浮かんだ。しかし、次の瞬間には、
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第9話
梨花は顔を覆ってゆっくりとしゃがみこみ、すすり泣きを続けた。私が祖父と車に乗ろうとしたとき、一台のバイクがやってきて、私のそばに止まった。「学、まだ帰ってなかったの?」学はヘルメットを脱いで、祖父の方へ手を差し出した。「菊地会長、こんにちは」祖父は一瞬驚いた顔をして、私と学の顔を交互に見た。「どういう知り合いなんじゃ?」その言葉を聞いて、私もぽかんとしてしまった。「おじいちゃん、学のこと知ってるの?」学は、驚いている私と祖父を静かに見てから、少し変わった自己紹介をした。「杉本学です。夏美とは隣のクラスで、杉本グループの後継ぎでもあります」杉本グループの跡取り?菊地グループと一番大きな取引をしている、あの杉本グループ?私は驚いて学を見つめた。しばらくしてやっと我に返り、「ま……まずは、うちに帰ろう」と言った。じっと動かないでいる学を見て、私は少し考えてから、彼のバイクの後ろに乗った。祖父はまた驚いた顔をしたが、最後はにこやかにうなずいてくれた。家に着いてから、私が東都海洋大学に進学すると話すと、二人はさらに信じられないという顔をした。「まさか……この前ラインでどこの大学にしたか聞いてきたのって、もしかしてこのことのため?」私はぱちぱちと瞬きをしたが、学と祖父がなぜそんなに驚いているのかよく分からなかった。「どうしたの?私が東都海洋大学に行っちゃだめなの?」祖父は私の真似をしてぱちりと瞬きをすると、すぐに豪快な笑い声をあげた。「いい、いい。お前たちももう大人だ。自分のことは自分で決めなさい」学は無意識に頭をかいて、少し照れているようだった。私は思わず学をからかった。「どうした?嫌なの?」「そんなわけないだろ!同じ大学に行けたら、どれだけ嬉しいか!でも俺の成績じゃ足りなさそうだったから、東都中央大学と同じ街にある東都海洋大学を選んだんだ」突然、まるで飼い主に忠誠を誓うもふもふの大型犬みたいになった学を見て、私の心になぜか温かいものがこみ上げてきた。「分かった、分かった。でも、すごいね。半年間頑張っただけで東都海洋大学に受かるなんて。東都中央大学の次くらいに難しい大学なのに」学が漆黒の瞳でまっすぐに私を見つめる。何か決心をしたようだった。「お前がいたからだ。お前とずっと一緒に
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第10話
学はきょとんとした後、すぐに満面の笑みを浮かべた。「うん、夏美の言う通りにするよ」その笑顔がなんだか不思議で、私はわざと肩をぶつけてみた。「もう、なにニヤニヤしてるの」その光景を見た結人は、ついに感情が爆発した。「夏美、じゃあ俺は?俺はどうすればいいんだ!」綿棒を持つ手が止まった。私はゆっくり顔を上げて、静かに答えた。「病院にいたあの日、あなたが私の味方になってくれなかった時、私はもう言ったはずだよ。結人、もうあなたなんていらないわ」その言葉はまるで雷のようで、結人は何度も首を横に振った。「いやだ、認めない、そんなの絶対に認めない……」「でも、あの時はあなたも頷いたじゃない?だからもう、私の家から出ていって」結人は絶望した顔で私の方に這ってこようとした。あんなに惨めな彼の姿は、初めて見た。「夏美、許してくれ、頼むから。梨花とは本当に何もないんだ」「もう、どうでもいいの」手当てを終え、救急箱を片付けると、私は自分から学の手を握った。「結人が出て行かないなら、私たちが行こう」学の瞳は、星が降ってきたかのようにきらめき、彼は何も言わず、すぐに私を連れ出した。バイクの後ろに乗って、夕日の中を駆け抜けた。耳元を通り過ぎていく風は、まるで青春そのものみたいだった。学の腰に回した腕に、無意識に力が入る。背中に体を預けると、彼のドキドキという心臓の音が、まるでドラムのように大きく聞こえた。「私のこと、ずっと前から好きだったでしょ」私の小さな声は、学の耳にはちゃんと届いていた。「うん。オリエンテーションで初めて会った時から、ずっと好きだった。でも、お前の隣にはもう河野がいたからね」学は3年間ずっと我慢してた。とっくに私の連絡先を知ってたのに、卒業の時にやっと勇気を出して、ダメ元であのバイクレースの誘いを送ったんだって。でも、信じられないことに、私がその誘いに乗ったんだ。バイクはあてもなく街を走り続けたけど、誰も「止まろう」とは言わなかった。スピードが速いせいなのかな。私の心臓も、どんどん速く脈打っていた。それからしばらく、学は毎日私をあちこちに連れ出してくれた。一緒に街を巡るうちに、私も少しずつ彼のことを知っていった。でも、祖父から聞いた話では、結人は毎日家の前で私を待っていて、熱中症で何度も
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