Share

第 278 話

Auteur: 柏璇
「どうぞ、お先に」

二人がゆっくりと歩いてくる。

真理が床にひざまずいているのを見て、昭三が一瞬驚き、すぐに笑った。「真理さん?これはどういうことかな?」

真理は顔を上げることもできず、黙っていた。

詩織が冷ややかに言う。「彩乃に息子を助けてほしいってお願いしてるんですよ。さっきまで人を追い払ってたくせに、今になってまた頼みごと?世の中が自分たち家族を中心に回ってるとでも思ってるんでしょうね」

「そうか……」昭三は小さくため息をつく。「真理、君は人に頼むのが得意だったじゃないか。俺にお願いしてきたときなんか、あれこれ甘えてご機嫌取りまでしてただろう?そのときの調子で頼んでみたらどうだ」

真理の
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Latest chapter

  • 初恋を忘れられないあなたへ、継母なんてもうごめん   第 634 話

    シートベルトを締め終え、蒼司はそっと息を吐いた。若葉と陽翔は、後ずさりしながら遠ざかっていく真理の背中を見つめ、胸の奥に小さな寂しさを覚えていた。二人とも、同じ疑問を抱いていた。どうして……どうして、彼らのママは、結局みんな去っていってしまうのだろう。「……パパ?」陽翔が小さな声で呼んだ。けれど蒼司は答えなかった。運転席の男は、赤信号で車を止めたまま、声を殺して涙を流していた。それはズボンの上へと落ち、静かに。自分の心が今、どんな状態なのか、うまく言葉にできなかった。ただ一つ、はっきりしていることがある。もう戻れない、真理と、あの頃に戻ることはない。たとえ子どもたちのため

  • 初恋を忘れられないあなたへ、継母なんてもうごめん   第 633 話

    真理はそのあと、ふっと笑った。たぶん、最初から結末のない縁というものもあるのだろう。だから子どもたちの親子会が終わるのを待って、彼女は蒼司と二人の子を夕食に誘った。選んだのは少し高級なレストランで、半月分の給料を使う覚悟だった。食事の途中、若葉が違和感を覚えたように言った。「……どうかしたの?」真理は一瞬きょとんとする。――この子、意外と鋭いわねさすが、自分の娘だ。「一年以上、あなたたちの家にお世話になったでしょう。そろそろ普通のマンションに引っ越して、頭金を払って、落ち着こうと思ってるの。そうすれば、あちこち移らなくて済むから」そう言ってから、少し間を置き、続けた。「だから

  • 初恋を忘れられないあなたへ、継母なんてもうごめん   第 632 話

    真理はあごに手を当て、真剣な表情で言った。「ここね、よく聞いて、文法の問題だよ」二人の子どもはとても賢く、飲み込みも早い。真理はとても満足そうに言った。「うんうん、いいね。勉強の飲み込みはパパにそっくりだよ」「あなたも小さいころ、勉強はできたの?」陽翔が尋ねた。真理は答えた。「まあまあできた方かな」ここは嘘も誇張もしていない。実際、子どものころは本当に勉強がよくできた。真理はとても丁寧に、しかも根気よく教えていた。蒼司が帰ってきたとき、彼が目にしたのはまさにその光景だった。リビングのシャンデリアの下、真理は左右に二人の子どもを座らせ、子どもたちは真理の話す知識を聞いていた。

  • 初恋を忘れられないあなたへ、継母なんてもうごめん   第 631 話

    「ちゃんと貯めておいてね、こっそり使ったりしないで。私、いつか家を買うんだからね」この人生で別荘を買うことはもう無理だ。でも少し小さめの高級マンションならなんとかなるかもしれない。ただ、朝霧市のこの場所じゃ、そう簡単でもない。でも真理は焦っていなかった。退職して働かなくなる前に家を買えれば、それでいい。あとは穏やかに老後を過ごせばいい。あの二人の子どもたちのことも、真理は将来頼ろうなんてこれっぽっちも考えていなかった。同じ会社にいる蒼司は、真理のこの半年以上の変化に自然と気づいていた。しかし、何も言わなかった。そんな日々が一年半も続き、真理はついに倒れた。熱を出してしまった

  • 初恋を忘れられないあなたへ、継母なんてもうごめん   第 630 話

    胸がぎゅっと痛んで、突然地面から立ち上がると、彼のところに駆け寄り抱きついた。「あぁー」声を上げて泣きじゃくる。天を突くように、心を引き裂かれるように、泣き叫んだ。蒼司「……」若葉と陽翔「……」すると、二人の子どもはすぐに目を覆った。蒼司はため息をついた。「もう、いい」真理の泣き声はひときわ大きく、胸が痛くて、悲しくて、孤独だった。落ち葉は根に帰れず、親も頼れる人もいない。死んでも誰も気づかないだろう。「帰るぞ」蒼司は冷たい声で言った。「うん」二、三歩歩いたところで、真理は突然立ち止まり、両親の墓前に戻った。「お父さん、お母さん、行ってくるね。今は朝霧市にいて、あまり来ら

  • 初恋を忘れられないあなたへ、継母なんてもうごめん   第 629 話

    桜峰市に向かう道中、蒼司は流れていく街並みや都市の景色を見つめていた。ここは、彼が幼いころからずっと暮らしてきた場所。あまりにも多くの思い出が詰まっている。突然、真理が口を開いた。「彩乃さんとたくさん思い出があるんでしょ?ここに来て、つらくなったりしないの?」顔には、どこかからか面白がって見ているような表情が浮かんでいた。蒼司は心に特別な感情はなかったが、真理を無表情で見て答える。「君に関係ある?」そう言ったあと、独りごとのように小さく呟いた。「いや、関係あるな……」誰のせいでもない。責任は自分に一番重くのしかかっている。あのとき自分が……いや、もういい。すべては過去のこ

  • 初恋を忘れられないあなたへ、継母なんてもうごめん   第 43 話

    その一言で、水野グループの社員たちは固まった。「奥さん?」「そんなはずないだろ……」というざわめきが走っている。真理の顔には、たちまち気まずさが浮かんだ。ちょうどその時、プロジェクトチームと地元の要人たちが合流してきた。亮介との会食のためだ。福山社長が声をかけた。「亮介さんはもうお着きですか?」亮介は身を少し引き、「今来たところだよ。ちょうど蒼司さんに会ってね」と応じた。蒼司もそれなりに名は通っている。何しろ南の三県では、水野グループは医療分野の筆頭だ。面子は立つ。とはいえ今日は挨拶程度で、腰を据えて話す機会はなかった。蒼司は真っ先に福山社長と握手した。「福山社長」福

  • 初恋を忘れられないあなたへ、継母なんてもうごめん   第 40 話

    ここからが勝負だ。彩乃が耳打ちで和真に二言三言伝えると、和真はゆっくりとうなずき、彼女に歩調を合わせるような表情を見せた。左後方に座る蒼司の目には、それがひどく癇に障った。入札の場で即日結果が出ることはない。この会合は形式にすぎず、肝心なのは各社の実力だ。それを後日、総合的に量られる。一時間余りを堪えて座り通し、散会の合図に合わせて入札書を提出すると、蒼司は外へと歩を向けた。だが、その視線は終始、彩乃の姿を探していた。人混みの中、プロジェクト側の責任者・福山社長が彩乃となにやら言葉を交わし、双方の笑みは実に友好的に見えた。蒼司の胸に、強い危機感が走る。しかも、和真もその場にいる

  • 初恋を忘れられないあなたへ、継母なんてもうごめん   第 51 話

    彩乃はその慶真と名乗る人物とは面識がなかったが、装いをひと目見ておおよその役どころは察した。「寅年だけど、何か問題でも?」真理は目を丸くした。「まさか彩乃、あなたが寅年だったなんて?」そう言うなり、彼女は蒼司へ視線を移した。「蒼司、これは……」彩乃はとどまらず、踵を返して厨房へ向かった。まるで部外者のように用を済ませ、そのまま階段を上がっていった。ピンポーン!玄関に近かった真理が扉を開けた。「おばあちゃん?」車椅子に乗った由香が押されて入って来て、切迫した面持ちで尋ねた。「どうかしら、慶真先生?」この慶真先生は、由香の紹介で呼ばれたのだ。慶真が答えた。「ここは家の

  • 初恋を忘れられないあなたへ、継母なんてもうごめん   第 45 話

    彼の詰問は、耳にタコができるほど聞かされてきた。彩乃は静かに言った。「蒼司、私にあなたのためだけに生きろってこと?子どもの面倒を見て、あれこれ手伝って、それが私の役目なの?」蒼司は返した。「俺を助けているわけじゃない。自分の生活を守っているだけだろ。子どもたちは君をママって呼ぶじゃないか。真理を母さんと呼んだことは一度もない。俺だって君に不自由のない暮らしを与えている」どの口が言っているのだろう。彩乃の目は冷えた。「六年間育ててきたんだから、私をママと呼ぶのは当然よ。真理をそう呼ばないのは私の責任じゃない。結婚してから今日まで、あなたの恩恵なんて一銭も当てにしていない。それに、不

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status